道具の手触り - WordPress.com

これが Motion Pro の T6 COMBO
LEVER。実に軽量。優れたトレイル
ツールである
これは現在の KTM のオプション
"POWER PARTS" にラインナッ
プされているものだが、オリジナ
ルは Motion Pro 製だ
1989 年式の KTM250EGS に車載工具としてついて
きたもの。無骨だが実に実用的なものだ
Parc
Ferme
道具の手触り
Text & Photo : Hisashi HARUKI
最近はほとんど見ることがなくなったけれど、
ポンプを携帯しなければならない、という欠点が
ロでもラリーでもいつもムースを使っていたので
まだごく少数、チューブをフロントフェンダーの
あるが、これも吟味したものを準備すればどうと
用がなくて使わずにしまいこんでいたのだった。
上に積んだり、ウエストバッグにぶら下げて走っ
いうことはない。第一、パンクなどめったにする
オレンジにアルマイト加工されているので気がつ
ているライダーがいる。ISDE の話だ。ムースが
ものではないしね。チューブはフロント用のもの
かなかったが、これはまぎれも無く Motion Pro
普及し、どんなライダーにも入手しやすくなった
を 1 本持っていれば良いというのは、読者のみな
の製品である。トレイルの文化を知りつくした
ため、パンクということも聞かなくなっているが
さんには釈迦に説法というものだろう。フロント
Motion Pro の製品を、エンデューロマシンとい
…。十数年前まで、まだまだムースは一般的では
用のチューブは応急的にはリアにも使用可能で、
うものを知り尽くした KTM が正式に採用すると
なく、品質も安定していなかったため、ワールド
大抵はそのままずっと走っても問題は起きない
いうのは、実にすっきりと腑に落ちるものがある。
トロフィチームのライダーやファクトリーチーム
( 道路ではよくないと思うけどね )。さらに携帯性
さすがですね、と…。
のライダー以外は、チューブを選択するライダー
を優先するならば、ヘビーチューブではなく、軽
ふと思い出して旧い工具箱を探してみると、ず
が多かった。チューブのほうがクッションがいい
いライトチューブをスペアにするのが良いと思う。
いぶん以前に KTM を購入した時についてきた携
し、扱いも簡単だったのだ。当時のムースはとい
先日、カリフォルニアのトレイルを走る際、うっ
帯用のツールが出てきた。写真のように無骨な鉄
うと、今のように細く、適度に柔らかいというも
かり工具を持っていくのを忘れてしまったため、
製 だ が、24mm、19mm、17mm、13mm の
のではなく、太くて堅くて、なかなかタイヤに入
最低限のものを現地のショップで購入した。タイ
レンチがひとつにまとまっていて、実に使いやす
らなかった。場合によっては慣らしも必要だった
ヤレバーは、KTM の前後ホイールのアクスルナッ
いものだった。現在の KTM のアクスルは 27mm
りと、デリケートなものだったのだ。
トに合う 27mm のメガネレンチが一体になった
になっているから使い物にならないのが残念だ。
エンデューロの場合は、もしチューブがパンク
"Motion Pro" の T-6 COMBO LEVER というも
ぼくは、当時の KTM を 1985 年式、1989 年
しても、次のタイムチェックまで、5 分や 10 分
のを選んだ。7075 T-6 という軽くて頑丈なアル
式と乗り継いでいるが、これがどちらについてき
の余裕があるのが普通なので、手際よく修理すれ
ミ合金を素材としたもので、これはタイヤレバー
たものかわからない。KTM の純正部品だったの
ばペナルティなしで試合を続けることができる。
としても 27mm のレンチとしても優れたものだ
か ? あるいはそうではなくて、当時の輸入元で
スペシャルテストの中でパンクしたらどうするか
と思う。このシリーズは 22、24、27、32mm
あったトシ・ニシヤマが、独自に車載工具として
というと、なんとかそのままテストを走りきって、
の 4 種に加えて、12/13mm 兼用のものがライ
採用していたものかもしれない。KTM のもので
リエゾンに入ってから落ち着いてチューブを交換
ンナップされているので、多くのエンデューロマ
あったにしろ、西山さんのものであったにしろ、
すれば良い。テストでパンク…トップ争いをして
シンに適合するはずだ。タイヤレバーは最低 2 本
シックスデイズエンデューロで培われた思想、ノ
いるチーム、ライダーには致命的なロスになって
必要なのだから、適当なものを 2 種選ぶのが良い
ウハウが反映されたツール、選択であることに違
しまうから今ではやはりチューブを選択すること
だろう。
いは無い。即ち、ウエストバッグに入れた最低限
などありえないけれど。
の工具とスペアパーツだけで、どんなトラブルに
も対応し、ライダー自身の力で走り続けるという
このレバーを使いながら「どこかで見たことが
ことだ。その頃、ぼくたちはこの小さな工具の手
国内イベントだったら、今でもチューブを使用
あるな」と思ったのだが、家に帰ってみると、あっ
触りひとつから、
憧れのシックスデイズエンデュー
しているライダーが多いだろう。選手権で年間ラ
た。KTM の POWER PARTS で、27mm と
ロに思いを馳せることができたものだ。Motion
ンキングの上位を狙うならともかく、普通はそれ
11/13mm のタイプが 2 本セットになったもの
Pro の優れた製品に接し、そんなことを思い出し
でいいと思う。スペアチューブとタイヤレバー、
がある。購入したはいいが、KTM ではエンデュー
た。
ISDE MEXICO 2010
タイムチェック前のわずかな時間に消耗した
クラッチプレートを交換する USA ワールドト
ロフィチームのカート・キャッセリ
Parc
Ferme
続、道具 = ツールのこと
Text & Photo : Hisashi HARUKI
前回、旧式 KTM のハンドツールのことを掲載
が当時からこうしたハンドツールをエンデューロ
きるようになっていて、個人競技であるというこ
した後、この仕事の上での先輩である松本充治さ
マシン = ゲレンデシュポルトに欠かせない重要な
とは一見しただけではわからなくなってきている。
ん か ら ご 連 絡 を い た だ い た。 曰 く、KTM は
一部として考え、製品に反映させていたというこ
以前は、6 日間を通じて、携行している工具、つ
1985 年式の当時には、すでにホイールアクスル
とを象徴するものであることに違いはない。モー
まりウエストバッグに詰めたハンドツールしか使
ナットのサイズは 27mm ではなかったか。実は
ターサイクルとは、乗り手によってメインテイン
用することができないルールだった。それが次第
手元に同様の KTM のツールがあるのだが、それ
(= 維持 ) されながら走り続けるものであるという
に変化してきたのには、さまざまな理由があるの
はハルキ君が書いている「24/19/17/13mm」
考え方。そのことを抜きにして作られたモーター
だろうし、
必然的なことだったとは思う。モーター
ではなく「27/22/19/13mm」です。とのこと。
サイクルには、どうしても薄っぺらな印象しか持
サイクルというものを取り巻く環境、社会がモー
確かにそう言われてみると、27mm だったよう
てないものだ。
ターサイクルに求める機能が変化してきたという
な気がする。いや確かにそうだった。松本さんも
松本さんによれば「ホンダの XR レンチや、か
ことがもっとも大きいのだと思う。しかし、それ
1985 年 式 と、 ほ ぼ 同 型 の 1986 年 式 の
つての BMW-GS= スラッシュ、エアヘッドの頃、
と同時に失われたものもあるはずだ。次第にエン
KTM125GS からの KTM ユーザーだし、たぶん
タンク下のメーンフレームのなかのデッドスペー
デューロは、他の「レーシング」との差異を小さ
間違いないだろう。
では、
この24/19/17/13mm
スに内蔵されていた手動式のエアポンプ」も、ゲ
くしてきたし、その流れは続いている。
のレンチはなんだったんだろうか。その後松本さ
レンデシュポルト的な存在を示すものではなかっ
もちろん、現在のエンデューロ、シックスデイ
んは所用の折、東京の大田区にあるショップ、モ
たかと紹介してくれた。こうした優れたツールの
ズエンデューロが簡単な競技になっているという
ンドモトを訪問、当時からの KTM に詳しい店主
持つ意味を、ごく単純化して表現するならば、モー
ことを言っているのではない。モーターサイクル
の市川健二さんにこの件を聞いてくれた。その市
ターサイクルと乗り手による「走り続けようとす
の基本的な機能を維持することが容易になった分
川さんも 1985 年式がどうだったか、確かな記
る意志」そのものということができるかもしれな
だけ、その質、内容はより高く求められることに
憶は無いという。ただ、市川さんもぼくが持って
い。
なるし、そこには別の難しさも生まれてくる。そ
いるものと同じ、24mm のほうのレンチを持っ
れが競争 = コンペティションというものだからだ。
ているとのことだったので、もしかするとさらに
ただし、そこにはエンデューロならではのものが
旧式になると 24mm になるのかもしれない。ま
シックスデイズエンデューロも、現在はパドッ
欠かせない。エンデューロとは何なのか。そのこ
た、確かにこれらのレンチは当時の KTM が純正
クのようなワーキングエリアで、一人では持ち運
とについては常に注意深くいるべきではないかと
の携帯用工具としていたものだということも教え
びができないような大きな工具箱、タイヤチェン
思う。それは、この小さなツールひとつからでも
てくれたそうだ。
ジャー ( ビードブレーカー )、たくさんのタイヤレ
教わることがでるきように思った次第である。
24mm と 27mm というサイズの違いに若干
バーを使い、作業は限定されてはいるものの、い
の謎が残されてはいるが、いずれにしても、KTM
ろいろと第三者のアシスタンスを受けることがで