くりこみ群による横磁場 Ising 模型の臨界指数の推定 -Supplemental material- 2015 年 7 月 30 日 概要 ポスター発表では紹介できなかった計算を載せておきます。 1 横磁場 Ising 模型に対する Symmetry-respecting Real-Space Renormalization Group の計算 1.1 Fernandez-Pacheco の手法 まず始めに、文献 [1–3] で議論されている実空間くりこみ群のレビューをする。考える模型は 1 次元横 磁場 Ising 模型であり、そのハミルトニアンは H = −J N ∑ z −Γ σiz σi+1 N ∑ σix (1) i=1 i=1 α α である。σiz , σix は Pauli 行列であり、J > 0, Γ > 0 で周期境界条件 σN +1 = σ1 (α = x, y, z) をとるも のとする。議論を簡単にするために z 方向の磁場は考えない*1 。 この模型についての実空間くりこみ群を考えよう。格子全体を隣り合う 2 つのスピンからなるブロッ クに分割する。さらに、ハミルトニアン H も次のように 2 つの部分に分割する。 ∑ H= I Hin + I∈blocks ∑ (I,I+1) Hrest (2) I∈blocks (I,I+1) I Hin はブロック I 内のスピンのみに作用する項からなる演算子であり、Hrest I に取り入れな は Hin I かった I と I + 1 番目のブロック間の相互作用を含む部分である。このとき、内部ハミルトニアン Hin の固有値、固有ベクトルをそれぞれ ϵn , |ϵIn ⟩ (n = 0, 1, 2, 3) として、ϵ0 ≤ ϵ1 ≤ ϵ2 ≤ ϵ3 の順になっている とする。すると、くりこまれたハミルトニアン H ′ は H ′ = P HP = ∑ ( ) ϵ0 |ϵI0 ⟩ ⟨ϵI0 | + ϵ0 |ϵI1 ⟩ ⟨ϵI1 | + I∈blocks ∑ (I,I+1) P Hrest P (3) I∈blocks (1) となる。ここで、P = ⊗I PI であり、PI は 2 つの状態 |ϵI0 ⟩ , |ϵI1 ⟩ で張られる部分 Hilbert 空間 HI への 射影演算子である。エネルギーの低い 2 つの固有状態 |ϵI0 ⟩ , |ϵI1 ⟩ がくりこんだ模型の新しいスピン状態 |↑(1) ⟩ , |↓(1) ⟩ に対応している。このとき、他の固有状態 |ϵI2 ⟩ , |ϵI3 ⟩ は落としてしまう。以上が量子スピン 系における実空間くりこみ群の方法である。 *1 [2] では縦磁場 hz がある場合も含めて議論をしている。 1 第 60 回 物性若手夏の学校 ポスターセッション Supplemental material 従来の実空間くりこみ群では内部ハミルトニアンとして I z x Hin = −Jσiz σi+1 − Γσix − Γσi+1 (4) を考えていた。しかし、この方法では臨界指数の正確な値を得ることはできなかった。Miyazaki と Nisihimori は Hin として (4) 式ではなく、 I z Hin = −Jσiz σi+1 − Γσix (5) を用いた。この場合、計算に必要な固有値・固有ベクトルは ϵ0 = ϵ1 = − √ J 2 + Γ2 (6) |ϵ0 ⟩ = a1 |↑↑⟩ + a−1 |↓↑⟩ (7) |ϵ1 ⟩ = a1 |↓↓⟩ + a−1 |↑↓⟩ √ ( ) 1 J ab = 1 + b√ 2 J 2 + Γ2 (8) (b = ±1) (9) となる。くりこみにより基底状態 |ϵ0 ⟩ , |ϵ1 ⟩ で張られる Hilbert 空間を考えることになるから、内部ハミ ルトニアンは定数 √ I PI Hin PI = − J 2 + Γ2 1I (10) I,I+1 となる。つぎに残りの P Hrest P を求める。 J PI (σiz ⊗ 1i+1 )PI = √ σIz J 2 + Γ2 z PI (1i ⊗ σi+1 )PI = σIz √ J2 x PI (σi ⊗ 1i+1 )PI = 1 − 2 1I J + Γ2 Γ x PI (1i ⊗ σi+1 )PI = √ σIx 2 2 J +Γ (11) (12) (13) (14) であるから、 J2 Γ2 I,I+1 z P Hrest P = −√ σIz σI+1 −√ σIx 2 2 2 2 J +Γ J +Γ (15) となる。よって、くりこまれたハミルトニアン H ′ は H=− ∑ ∑ N√ 2 z σIz σI+1 − Γ′ σIx J + Γ2 − J ′ 2 I (16) I となり、元のハミルトニアンには無かった新しい相互作用項は現れない。結合定数 J, Γ は次のように変 換されている。 J2 J′ = √ , J 2 + Γ2 Γ2 Γ′ = √ J 2 + Γ2 (17) ここで、kx ≡ Γ/J とすれば、(17) 式は kx′ = kx2 2 (18) 第 60 回 物性若手夏の学校 ポスターセッション Supplemental material となる。この式がくりこみ群変換による結合定数の変換を表している。非自明な固定点が存在し、kx = 1 である。スケーリング次元 yx は yx = 1 (19) ν = 1/yx = 1 (20) である。相関長の臨界指数 ν は となる。これは1次元横磁場 Ising 模型(2次元古典 Ising 模型)の臨界指数の値と厳密に一致している。 1.2 Kubica と Yoshida の議論 Kubica と Yoshida は以上の実空間くりこみ群を拡張して、Hin の基底状態が縮退し、Z2 対称性を反 映していれば、くりこみ群によって求められる臨界指数 ν が厳密な値になることを予想した [3]。実際に (5) 式で定義される Hin の場合には基底状態は縮退し I I [Hin , σxI ] = [Hin , σzI ] = 0 (21) が成立しているが、従来の (4) 式の Hin の場合には基底状態に縮退がなく、新しいスピン演算子と非可換 I [Hin , σzI ] ̸= 0 (22) である。一般に Hin の基底状態が縮退している場合には、新しい Pauli 演算子 σIz , σIx が定義でき、Hin の基底状態 |0⟩ , |1⟩ に対し σIz |0⟩ = + |0⟩, σIx |0⟩ = |1⟩, σIz |1⟩ = − |1⟩ (23) |1⟩ = |0⟩ (24) σIx が成り立つ。さらに、くりこんだハミルトニアン H ′ は常に強磁性相互作用項 σzI σzI+1 と横磁場項 σxI と 定数項だけで表すことができる。 H = −J ∑ z σiz σi+1 −Γ i ∑ σix −→ H ′ = −J ′ ∑ i I z σIz σI+1 − Γ′ ∑ σIx + const. (25) I すなわち、くりこみによって新しい相互作用項が現れず、ハミルトニアンは結合定数の値が変化するだ けである。新しい相互作用項が現れないことが、臨界指数 ν が厳密に求まることに対応しているはずで ある。このような場合に臨界指数 ν が厳密になることを解析的に示してはいないが、Kubica と Yoshida は実際に以上の条件を満たす様々な Hin について臨界指数 ν を数値計算して、10−7 の精度で厳密解に 一致することを確認している。 参考文献 [1] A. Fernandez-Pacheco, Phys. Rev. D 19, 3173 (1979). [2] R. Miyazaki, H. Nishimori, and G. Ortiz, Phys. Rev. E 83, 051103 (2011). [3] A. Kubica, and B. Yoshida, e-print arXiv:1402.0619. 3
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