【別紙1】 博士(保健学)学位論文要旨 RT-PCR法 に よ る 食 中 毒 事 例 か ら の ノ ロ ウ イ ル ス 検 出 と 遺伝子解析による感染経路の解明 Detection of Norovirus by RT-PCR from Food -borne Disease and Determination of Transmission Route by Genetic Anal ysi s 2012年 指導教員 桑原 林 祥浩 志直 HAYASHI, Yukinao 女子栄養大学 教授 ノ ロ ウ イ ル ス (Norovirus:NoV)は , 最 も 重 要 な 食 中 毒 病 因 物 質 の 一 つ で あ り , 1972年 に 標 準 株 で あ る Norwalk virus が 米 国 オ ハ イ オ 州 の 小学校における非細菌性胃腸炎集団発生から検出されたのが最初の 報告例である。以後,世界各地から非細菌性胃腸炎の原因ウイルス 報告が続き,電子顕微鏡によるウイルス粒子の形態観察,免疫電子 顕微鏡法による抗原性の比較から検出ウイルスは,ノーウォーク様 ウ イ ル ス あ る い は 小 型 球 形 ウ イ ル ス (Small round structured virus : SRSV)と 呼 ば れ て い た 。 わ が 国 で も , 冬 季 に 多 発 す る 非 細 菌 性 食 中 毒 か ら SRSVが 高 率 に 検 出 さ れ る よ う に な り ,1997年 に 旧 厚 生 省 は 食 中 毒 病 因 物 質 に SRSVを 加 え た 。ま た ,カ リ シ ウ イ ル ス 科 の 分 類 変 更 に 伴 い 厚 生 労 働 省 は , 2003年 に 食 中 毒 病 因 物 質 名 を SRSVか ら NoV に 変 更 し た 。 厚 生 労 働 省 食 中 毒 統 計 に よ る と , 2000年 以 降 国 内 で は 毎 年 300事 例 前 後 の NoV 食 中 毒 が 発 生 し , 病 因 物 質 別 事 件 数 で は カ ン ピ ロ バ ク タ ー に 次 い で 二 番 目 で あ る こ と が 多 い 。 し か し , NoV食 中 毒 患 者 数 は 年 間 10,000人 を 越 え る こ と が 多 く , 2001年 以 降 は 病 因 物 質 別 患 者 数 で No Vに 起 因 す る 患 者 数 が 最 も 多 く な っ て い る 。 電 子 顕 微 鏡 を 用 い た NoV 検 出 法 は 形 態 観 察 に よ り 判 断 す る た め , 検 査 に 熟 練 を 要 し た 。 1970~ 80年 代 は 酵 素 抗 体 法 , 免 疫 粘 着 血 球 凝 集 法 , ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト 法 な ど 電 子 顕 微 鏡 を 用 い な い 様 々 な NoV 検査法が開発された。しかし,いずれの方法もヒト由来の抗原およ び抗体を試薬として用いた検査法のため,試薬の特異性は不安定で 使 用 で き る 試 薬 量 は 有 限 で あ っ た 。 1990年 に Norwalk virus の ク ロ ー ニ ン グ が 行 わ れ 全 塩 基 配 列 が 明 ら か に な る と ,逆 転 写 P CR法 (Reverse transcription-pol ymerase chain reaction:RT -PCR)が 検 査 に 用 い ら れ る よ う に な り , NoV 検 索 は 全 て の 検 査 室 で 行 わ れ る よ う に な っ た 。 NoV は 遺 伝 子 群 (Genogroup :G) Iか ら IV(GI〜 GIV) ま で に 分 類 さ れ , ヒ ト か ら 検 出 さ れ る NoV は GI,II,IVで あ る が ,GIIが 圧 倒 的 に 多 い 。 そ れ ぞ れ の 遺 伝 子 群 は 遺 伝 子 型 に 細 分 化 さ れ , 30 以 上 の 遺 伝 子 型 が 知られている。 Norwalk virus の ク ロ ー ニ ン グ か ら 得 ら れ た 塩 基 配 列 情 報 に 基 づ い た 初 期 の R T-PC R 法 は , NoV 遺 伝 子 の 多 様 性 か ら 検 出 率 が 低 か っ た 。 Norwalk virus と 同 一 遺 伝 子 群 の NoVは 検 出 す る が , 異 な っ た 遺 伝 子 群 に は 対 応 で き て い な か っ た 。 ま た 近 年 , NoV食 中 毒 の 発 生 状 況 が 変 化 し て い る 。 2000年 前 後 ま で NoV食 中 毒 の 推 定 原 因 食 品 は , カ キ をはじめとするシジミ・ハマグリ・アサリ等の二枚貝を主体として い た が , 最 近 は No Vを 排 泄 す る 調 理 従 事 者 に よ っ て 汚 染 さ れ た 食 品 を原因とすることが多い。 このような背景から本研究では,より効果的なプライマー設定に よ る RT-PCR法 を 用 い た NoV検 査 法 を 開 発 し , NoV 食 中 毒 の 原 因 解 明と遺伝子解析による感染経路の究明を行った。また,調理従事者 に よ る 食 中 毒 拡 大 防 止 対 策 で 実 施 さ れ て い る NoV陽 性 調 理 従 事 者 の 陰性確認試験から,調理従事者のウイルス排泄状況を明らかにしよ うとした。 本研究において新たに設定したプライマーは多様な遺伝子型の NoV を 幅 広 く 検 出 し ,そ の 高 い 有 用 性 か ら 現 在 ,厚 生 労 働 省 が 提 示 す る NoV 検 査 法 の 標 準 プ ラ イ マ ー と し て 記 載 さ れ て い る 。ま た ,近 年 増 加 し て い る 調 理 従 事 者 に よ っ て 汚 染 さ れ た 食 品 に 起 因 す る NoV 食 中 毒 事 件 ,吐 瀉 物 を 契 機 と す る NoV 集 団 発 生 に つ い て ,検 出 ウ イ ルスの遺伝子解析により食中毒事件の原因解明および集団発生の感 染 経 路 を 解 明 す る こ と が 出 来 た 。2007年 8月 に 薬 事・食 品 衛 生 審 議 会 食品衛生分科会食中毒部会は「ノロウイルス食中毒対策(提言)」 を 取 り ま と め , こ の 中 で 食 中 毒 判 断 根 拠 の 明 確 化 に 検 出 さ れ た NoV の遺伝子型調査を求めている。本研究における遺伝子解析手法は, この提言を先取りするものであり,食中毒病因物質の検索に加えて NoV 食 中 毒 の 原 因 解 明 に 科 学 的 根 拠 を 提 供 す る こ と が で き た 。さ ら に , 調 理 従 事 者 の NV陰 性 確 認 検 査 か ら 得 ら れ た 知 見 は , NoV に よ る胃腸炎集団発生防止対策に陰性確認試験は重要であり,試験には 核酸増幅検査が必要であることを明確にした。
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