PDFで閲覧できます

日本トイレ協会
30
年の軌跡
2015 年 5 月 30 日
設立 30 周年記念総会
理想のトイレをめざして 30 年
日本トイレ協会会長
高橋志保彦
「『人が嫌う場所、けれど最も必要な場所』だったトイレを、30
年かけてよくここまで改善し、世界に誇れる施設にしてきたものだ」
というのが実感です。今やトイレを嫌な施設と思う人がいなくなり
つつあると思います。考えてみるとこれは凄いことです。「最近ト
イレが綺麗になったね」という声を街でよく聞きます。嬉しいこと
です。トイレこそ文化。経済力や軍事力が国の威信を表わすもので
はありません。トイレこそ民度・民力・民意を表わします。「人を
おもう心」そのものです。その国の経済力や宗教や習慣の違いで夫々のトイレがあって然る
べきで、それを尊重することが基本です。しかし綺麗で衛生的なトイレは絶対的な真理。不
快感の無いトイレづくりは「文明度」を表し、国民の「心・技・体」を表します。1985 年
前身のトイレットピアの会から日本トイレ協会が発足しました。あまりに汚い公衆トイレを
改善しようと始めた有志の集まりです。伊東市で行われた第 1 回トイレシンポジウムの熱
気は大変なものでした。綺麗に整備されユニークな名前の公衆トイレの前に、緋毛氈を敷い
た縁台で野点が行われました。この催しはトイレ改善の嚆矢でした。これを企画し日本トイ
レ協会を立ち上げる原動力、田中栄治さんには心から敬意を表します。初代会長西岡秀雄先
生の洒脱な語らいと優しい人柄、豊富な知識によって大いに会を発展しました。その功績は
非常に大きかったと思います。トイレ改善の運動は海外に波及し、各国でもトイレ協会が創
られ、国際会議も度々行われました。
上下水、電力というインフラの発達を背景にトイレメーカーは優れた製品を世に出し、日
本人の清潔志向も相俟って温水洗浄便座が生活必需品になりました。商業施設は集客効果を
生むトイレ整備を必須と考えることが常識化し、各種公共的機関のトイレが競って清潔な空
間、心地よい空間を整備するようになりました。施設整備に関わる設計者、技術者の能力と
努力の結晶ともいえましょう。所期の目的は達した感があります。これからは更なるトイレ
のUD,女性の活躍する社会でのトイレのあり方、福祉・健康・医療に関わるトイレ、資源
利用を考えるトイレ等、第二世代のトイレが始まるでしょう。会員の尽力を期待します。
平成27年5月30日
1
日本トイレ協会30年の軌跡
トイレットピアの会を報じる記事(85.5.8)
「トイレットピアの会」始まる
東京・新橋にビジネスマンや官僚、学者など多
様なメンバーが、社会問題やビジネスのタネを、
酒を酌み交わしながら語り合う場「都市小屋・サ
ロン集」がありました。このサロンの会合の一つ
にごみ問題を語る「ゴミニティ」がありました。
当時は観光地での空き缶等の散乱が社会的に大き
な問題となっていました。サロンの代表者でゴミ
ニティの世話人でもあった田中栄治氏(前地域交
流センター代表)が、観光地のポイ捨て対策を調
査研究するなかで、観光地のホスピタリティの象
徴ともいうべきトイレの存在が気になり、新たに
始めた会が「トイレットピア研究会」
(のちにトイ
レットピアの会と改称)です。田中氏のもとで環
境コンサルタントの仕事をしていた山本耕平(現
副会長)が事務局となり、公共トイレに関する情
報収集から活動を始めました。
トイレットピアの会のメンバーとして、西岡秀
雄氏(故人、初代日本トイレ協会会長、当時は慶
話を聞いたりする会を月 1 回程度開催してきまし
大名誉教授)、高橋志保彦(現会長)、小林純子(現
た。ユニークなトイレについての異業種研究会と
副会長)、坂本菜子(現副会長)、寅太郎(現理事)
してマスコミに取り上げられるようになり、参加
らのほか、鴨下一郎氏(当時は日比谷国際クリニ
者も増えてきましたが、単なる勉強会にとどめず、
ック院長、現衆議院議員)や伊奈輝三氏(当時は
3K(暗い、くさい、怖い)といわれた公共トイ
INAX 社長)らもいました。建築家、ランドスケ
レ改善のムーブメントを起こすために、日本トイ
ープデザイナー、環境コンサルタント、衛生機器
レ協会を設立することとなりました。
メーカーやビルクリーニング業界の社員、横浜市
1985 年 5 月 15 日に設立記念の会を開催、記念
などの地方自治体職員、霞ヶ関の官僚など多士
講演としてトイレの歴史研究で著名だった李家正
済々が集まり、トイレ談義を交わしました。日本
文氏を招きました。トイレットピアの会は日本ト
の「トイレ革命」が始まる「夜明け前」でした。
イレ協会の活動として位置づけました。またこれ
までまとまった情報がまったくなかった公共トイ
日本トイレ協会の発足(1985)と全国トイ
レシンポジウムの開催
レの実態調査を実施し、全国の自治体から大きな
トイレットピアの会では、公共トイレについて
観光地としてトイレ改革に力を入れているという
の情報収集を行い、メンバーがあちこちで集めた
情報が寄せられ、「磯のかわや」「潮騒の手水処」
トイレの写真を見たり、各業界や専門分野からの
など公共トイレに名前をつけて、トイレの前には
反響がありました。その一つ、静岡県伊東市から
2
緋毛氈の腰掛けを置いくなど、斬新なアイデアに
て総合的に科学する」(日本トイレ協会編、地域
感心させられました。
交流センター刊)を発行、ハードカバー350 頁に
そこで翌 1986 年 1 月に伊東市で「社会とトイ
わたって様々な専門家がトイレについて書き下ろ
レを考える…公共トイレを中心として」をテーマ
した本は、これまで類のない画期的な本でした。
に「全国トイレシンポジウム」を開催したところ、
全国から約 300 人もの参加者がありました。文字
通り、このシンポジウムがきっかけとなり、ここ
から自治体が設置している公共トイレ改革のムー
ブメントが巻き起こりました。11 月 10 日(イイ
トイレ)を「トイレの日」とすること、公募によ
る「グッドトイレ 10」の選考が始まりました。
伊東市での第 1 回トイレシンポジウム
第 3 回は鳥取県倉吉市から誘致されて開催しま
した。倉吉市は国の「ゴールドプラン」に先駆け
て「長寿社会計画」を策定、高齢者福祉のパイオ
ニア的な取り組みを行っていました。そのひとつ
公共トイレの新しいコンセプトの提案とト
イレブームの広がり
がトイレです。高齢者が行動しやすいまちづくり
第 1 回トイレの日記念シンポジウムは同年 11
イレを整備しようとしていました。トイレは生活
月 10 日に東京都江戸川区で開催しました。テーマ
の基本だということで、テーマは「トイレ文化と
は「トイレアメニティを目指して」
。環境・まちづ
健康からのまちづくり」としました。小中学校で
くり政策のなかでアメニティ(快適環境)が注目
「トイレ教育」の実験授業行い、その成果を発表
され始めていた頃です。
「誰でも、どこでも、安心
してもらいました。
として、商店街や公園に高齢者にも使いやすいト
して、快適に排泄できる環境」をトイレのアメニ
折しも、JRが民営化したばかりで、民営化に
ティと定義し、トイレのバリアフリーという考え
よるサービス向上の象徴としてトイレ整備に取り
方が論じられるきっかけとなりました。
組み始めたばかりのJR東・西日本の協力により、
第 2 回は 1987 年 11 月に横浜市で開催しました。
社内でトイレ落語やトイレ談義を楽しむ「トイレ
横浜市はおそらく街の中の公共トイレに、車いす
交流列車」を東京から倉吉まで走らせました。
トイレを初めて設置した都市でした。しかも車い
1989 年の第 5 回シンポジウムは、公共施設等の
すトイレを誰でも利用できる「多目的トイレ」と
デザイン化を推進するアートポリスプロジェクト
して位置づけ、幼児用便器を設置するなど障がい
が始まった熊本市で開催、公共トイレのデザイン
者以外も利用できるようにしました。
に関心が集まりました。1990 年の第 6 回は、トイ
87 年 4 月には「トイレの研究-快適環境を求め
レットペーパー等の製紙業の集積地である愛媛県
3
第 1 回日仏トイレフォーラム
民営化後初めて東京から倉吉まで JR 東・西をまたいで
92 年には再びヨーロッパトイレ事情調査団を
走ったイベント列車「トイレ交流列車」
組織し、フランスのパスツール研究所でフランス
川之江市・伊予三島市(現四国中央市)で「トイ
トイレ協会とともに第 2 回日仏トイレフォーラム
レと紙と環境」をテーマに開催しました。
を開催しました。
この頃、日本はバブル景気に沸いていました。
93 年に神戸市との共催で「神戸国際トイレシン
自治体が公共トイレに着目し、観光誘致や話題づ
ポジウム」を開催し、アメリカ、フランス、中国、
くりに公共トイレにお金をかけ、それが全国のト
香港、台湾など多くの国々から関係者が集まり、
イレブームにつながりました。1988 年度に竹下内
世界初のトイレの国際会議を開催しました。
閣が行った「ふるさと創生事業」で自治体の規模
日本トイレ協会は 97 年の中国への返還を前に
に関係なく交付税の不交付団体に1億円配布され
観光立国である香港の公共トイレ改革に取り組む
ました。このお金で公共トイレをつくった自治体
香港市政局(アーバンカウンシル)の求めに応じ
も少なくありませんでした。
て現地入りし、議会の参考人として出席して助言
これを契機として、それまでは3Kの代名詞で
を行いました。94 年 5 月には香港市政局が開催し
あった公共トイレが一気にレベルアップし、その
た「アジア太平洋地域公共トイレセミナー」に参
後は建物にお金をかけたトイレではなく、トイレ
加、翌 95 年にも香港で「国際公共トイレシンポジ
アメニティに配慮したトイレ整備に向かうように
ウム」が開催され参加、発表しました。
なりました。
また神戸での国際会議は台湾との交流のきっか
けとなり、現在も台湾トイレ協会とは密接な協力
国際交流始まる
関係があります。
日本トイレ協会と日本のトイレ改革の報道を見
96 年の富山県(第 12 回)、99 年の北九州(第
て、ソウルオリンピックを間近に控えた韓国やフ
15 回)でのシンポジウムも国際会議として開催し、
ランスのテレビ局、イギリスBBC、香港のメデ
富山ではインドの取り組みや北九州ではベトナム、
ィアなど外国のメディアでも報道されるようにな
シンガポールなどの取り組みが報告されました。
りました。89 年にはフランス・ドイツを中心とし
北九州のシンポジウムの中で、参加者によって「世
てトイレツァーを実施し、フランスではベルサイ
界トイレ協会」
(World Toilet Organization)の設
ユの離宮トリアノン宮殿を会場に、日仏トイレフ
立が合意されました。これを受けて 01 年に「第 1
ォーラムを開催しました。これをきっかけにフラ
回世界トイレサミット」がシンガポールで開催さ
ンストイレ協会が設立されました。
れ、WTO が発足しました。
4
2005 年の愛知万博では、企画展示「トイレ探検
て「西岡賞」が授与されました。フランス・ドコ
館」を行い、世界中にトイレがない人が 24 億人い
ー社(Decaux 社)のオートマチックトイレ、スト
ることをアピールし、30 万人以上が来場しました。 ックホルム市が開発したユニット型トイレ、オー
国際的にもトイレの重要性が唱えられるように
ストリーのトイレ博物館館長のフリッツ・リスカ
なり、2013 年にユニセフが 11 月 19 日を「世界ト
氏、フランスの歴史家で「トイレの文化史」の著
イレの日」(World Toilet Day)と定めました。
者ロジェ・アンリ・ゲラン氏、梁定邦氏などに賞
を贈呈しました。
グッドトイレ10
日本トイレ協会の活動で忘れてならないのが、
「グッドトイレ 10」の表彰です。当初はトイレッ
トピアの会で「日本の公共トイレベスト 10」を選
ぼうということになり、メンバーが1年がかりで
100 近くの事例を足で集めて、その中から「公共
トイレ 10 グッドイグザンプルズ(10 good
examples)
」を選びました。これが第 1 回のグッ
ドトイレ 10 です。ユーモアのつもりで始めました
が、日本トイレ協会の設立とともに全国から公募
することとし、予想に反して毎年 100 以上の作品
が集まるようになりました。毎年の全国トイレシ
ンポジウムの参加者とともに選考するようにし、
公共トイレ革命に大きな影響を及ぼしました。
グッドトイレ 10 入選作品の写真と図面を掲載した本
グッドトイレ 10 の入選プレート(ステンレス
製)
グッドトイレ 10 はトイレブームが下火となっ
「西岡賞」の絵皿
て作品の応募数が減少したためいったん中止し、
西岡先生のユーモラスな銘が入っている
その後 09 年からは商業施設などにも対象を広げ、
NEWTON NOTICED NOT GRAVITY IN THE FALL OF
メンテナンスやソフトの取組みを重視して「グッ
EXCREMENT
ドトイレ選奨」として再開しました。
(“ニュートンはおのれのクソには気がつかず”)
また神戸国際トイレシンポジウムにおいて、西
岡秀雄会長の発意で海外のユニークな事例に対し
5
メンテナンス研究会
を実現していくために、特に公共トイレは重要な
トイレの3Kにはハードの改善だけでなく、日
課題であることを訴えてきました。
常的な清掃や修繕などの維持管理が重要です。そ
このような問題意識から、97 年に小滝一正横浜
こで 92 年に坂本菜子理事を中心にメンテナンス
国立大学教授(当時)を中心に「ノーマライゼー
研究会が発足し、メンテナンス技術の向上とトイ
ショントイレ研究会」が発足しました。
レ清掃に対する社会的な認識や地位向上に向けて、
取り組んできました。
95 年 2 月に「公共トイレ管理技術講座」を開催
し、公共トイレの維持管理計画の策定やトイレの
汚れについての科学的な解説、効率的・効果的な
清掃の手法など、日本で初めてトイレのメンテナ
ンスについて総合的な講座を行いました。
メンテ研では、97 年に「トイレメンテナンスマ
ニュアル」を刊行、これまでの活動成果をふまえ
て、日本で初めてのトイレ清掃をマニュアル化し
た本として高い評価を得ています。
ノーマライズ研究会の現地見学会
「身障者トイレ」
(当時はそう呼ばれていた)は
公園や街の中の公共トイレにはほとんど設置され
ておらず、設置されていてもカギがかけられてい
て自由に使える状態になかったりしていました。
このような状況をふまえ、ノーマ研ではトイレ
のみにとどまらず、周辺環境も含めたバリアフリ
ー社会の実現に向けて知見を高め、社会に提案し
ていくための活動を進めてきました。
様々な研究分野へのアプローチ
トイレはあらゆる人に関係する問題で、トイレ
を改善すべき分野はきわめて多様です。
ノーマライゼーション研究会
子どもの健康やいじめの問題から「学校のトイ
車いす利用者にとって、トイレは行動を制約す
レ」がテーマとなり、96 年に「学校トイレ研究会」
る大きな要因ですが、トイレで行動が制約される
が発足し、97 年 8 月には文科省の後援を得て「学
人は他にも大勢います。乳幼児を連れたお母さん
校トイレフォーラム-学校トイレの整備と子ども
にとっては、おむつを替える場所や幼児のトイレ
の健康」を開催しました。
のことを考えて行動せざるを得ません。高齢で足
14 年の第 30 回シンポジウムは、
「こんなに大事
の不自由な人にとっては、和式の便器では用を足
な学校トイレ」をテーマに、早くから小中学校の
すことができません。われわれは障がいを持つ人
トイレ改善に取り組んできた世田谷区で開催しま
やトイレを利用する上で不自由を感じる人を「ト
した。
イレ弱者」と名付けて、バリアフリーの社会環境
6
そのときどきの社会的ニーズを受けて、専門家を
集めた研究会を設置してきました.
阪神淡路大震災とトイレボランティア
95 年 1 月 17 日の阪神淡路大震災では、有志
による「トイレボランティア隊」を結成し、現地
でトイレ清掃や避難所のトイレ実態調査などの支
援活動を行いました。この成果は災害トイレフォ
ーラムの開催や「阪神大震災トイレパニック-神
戸市環境局・ボランティアの奮戦記」
(96 年、日
第 30 回全国トイレシンポジウム
経大阪PR)の刊行を通して社会にアピールし、
高齢化社会の到来で「病院のトイレ」も議論さ
災害時のトイレ問題の研究や避難所のトイレ対策
れ、98 年の第 14 回トイレシンポジウム(旭川市)
などにつながりました。
は「医療とトイレ」をテーマとしました。
トイレボランティアの出陣
自然公園の環境汚染が進み昔は飲めた沢の水が
大腸菌に汚染されているという驚くべき事実から
「山のトイレ」が問題となり、98 年に「山のトイ
レ研究会」が発足。河川や河川敷が市民の意向の
場として広く利用されるようになると「河川のト
イレ」が課題となり、99 年に「河川トイレ研究会」
が発足しました。09 年の第 25 回トイレシンポジ
ウム(松戸市)は、川の駅とトイレのジョイント
フォーラムとし「まちトイレ、川トイレ、防災ト
イレ」をテーマとしました。
山のトイレについては 96 年の第 12 回シンポジ
ウム(富山)で「環境とトイレ」をテーマに山岳
観光地のトイレ整備の取組を視察しました。98 年
には山梨県で「第 1 回山岳トイレシンポジウム」
を開催、その後、松本市や富山県など山岳観光地
を抱える自治体と連携して山のトイレ問題を訴え
てきました。山のトイレについては 03 年に NPO
法人山の ECHO(上幸雄理事長)が設立され、活
動を引き継いでいます。
また「道の駅」は、高速道路だけでなく一般道
でもドライバー向けにトイレが必要ではないかと
いう議論から生まれたものです。
現在は、メンテナンス研究会とノーマライゼー
ション研究会が定期的に活動を続けていますが、
7
災害とトイレ
トイレ文化の普及
災害時のトイレ対策は、トイレの諸問題の中で
も非常に重要な問題で、トイレ協会では設立当初
2008 年から 2013 年まで、トイレの文化を深く
から機会あるごとに情報発信してきました。06 年
知る「街角トイレアカデミー」を開催してきまし
には災害時に備えた情報・品物の交換のできる「災
た(全 17 回)。その後、トイレ文化研究会と名を
害トイレ情報ネットワーク」を構築しました(現
変え、知的好奇心からトイレの歴史や文化を学ぶ
在は日本トイレ研究所が実施)
。
機会を設けています。
1997 年第 13 回シンポジウムの会場となった気
2009 年 12 月から 10 年 1 月にはジュンク堂池
仙沼市は、津波を想定して港に避難施設を兼ねた
袋本店で「トイレブックフェア」を開催し、入手
公共トイレをつくっていました。このトイレはグ
可能なトイレに関する本を集めたフェアとして注
ッドトイレ 10 に選ばれましたが、3.11 の大津波
目されました。
2013 年度には 30 周年記念事業として「トイレ
で被災してしまいました。
東日本大震災では、日本トイレ協会のメンバー
学大事典」の編纂に着手し、トイレに関する歴史、
がそれぞれ被災地で活動を行っています。2011 年
文化、法律、制度、技術などあらゆる分野を網羅
11 月に開催した第 27 回シンポジウム(横浜市)
した類例のない事典がまもなく完成する予定です。
では、
「市民の命と暮らし-災害とトイレ」をテー
日本トイレ協会の組織再編と再出発
マとしました。
日本トイレ協会の活動のテーマはきわめて広く、
また多年にわたる実績から、専門的な調査研究を
求められることが少なくありません。事務局をボ
ランティアで担うことはとうてい難しくなりまし
た。諸般の事情から、2009 年にトイレを通じた社
会的事業を目指すNPO法人「日本トイレ研究所」
が独立し、有給スタッフが食べていける体制とし
てスタートしました。日本トイレ協会はボランテ
ィアスタッフを中心に、これまでの活動をベース
としながら、トイレ文化の創出を目指す活動を進
めていくこととなりました。
日本トイレ協会は 85 年の設立以来、日本のトイ
レ革命の火付け役となり、また実質的に推進役と
して社会に貢献してきました。
2020 年の東京オリンピック・パラリンピックは、
津波で被災した
気仙沼港のトイ
日本のトイレが世界に注目される機会となること
レ
は間違いないでしょう。日本トイレ協会は「トイ
レでおもてなし」をめざして、引き続き社会の期
待に応える活動を展開していく所存です。
(文責
8
理事・山本耕平)
ノーマライゼーション研究会の活動
多様なニーズを反映したトイレへの模索
ノーマライゼーション研究会会長
川内美彦
(東洋大学・教授)
ノーマライゼーション研究会は、1997 年に小滝一正横浜国立大学教授(当時)を会長に
発足しました。当時の公共トイレは日本トイレ協会が 1985 年に発足してから約 10 年を経、
まだまだ4K というマイナスイメージが強い一方で、商業施設は集客性、各企業や自治体は
イメージアップを目標として、快適さを生み出すための様々な取り組みが実施され始めてい
ました。改善においては、多様な利用者ニーズをどう
反映するかという点と、メンテナンスを考えてのトイ
レのあり方が問われていました。
しかしながら、身障者トイレ(当時はそう呼ばれて
いた)のあり方に関しては、まだ深化されていない状
況でした。当時身障者トイレは一般トイレとは少し離
れて設置され、あってもなかなか認知されず物置同然
になった状態をよく見かけました。そういった現実に
研究会の様子
対して、トイレのみにとどまらず周辺環境も含めたレベルアップのため、トイレの様々な利
用者ニーズや、建築的環境の現状や課題、その背景である社会的環境や仕組みまで知り、社
会的貢献を視野に入れて活動する場が必要とされていました。
毎回多彩な講師をお招きし、参加者は会員外も多く、幅広く多様な出会いができるのがこ
の会の特徴で、様々なニーズを持った方々のトイレ利用の現実や、それを超えての議論や知
見が広まり深化していきました。(初代副会長小林純子記)
ノーマライゼーション研究会は 2011 年から川内が引き継ぐこととなり、現在に至ってい
ます。小滝会長の時期を第一期とするならば、第一期に 31 回、その後の川内が会長となっ
てからの第二期に 12 回、計 43 回の研究会を開催してきています。当初からの多様なニー
ズの反映という活動目標は不変ですが、アクセシビリティに関する法整備が進んできている
中で、今後は法に反映されていないニーズへの対応についての模索、隠されたニーズの反映、
法や制度の修正といった諸課題を継続的に考えていきたいと思っています。(現会長川内美
彦記)
9
メンテナンス研究会の活動
快適なトイレの基本はメンテナンス
メンテナンス研究会代表 坂本菜子
事務局長 内田康治
「トイレを快適に保つ最大のポイントはメンテナンス」という考え方
から、日本トイレ協会の一研究会として「メンテナンス研究会」は 1992
年に発足しました。当研究会は、トイレメンテナンス会社や専門家、
ビル管理会社、衛生陶器・設備機器メーカー、設計者等の会員で構成されます。机上論だけ
はなく、会員の体験や知識を通じて、トイレを「作る人」「持つ人」「メンテナンスする人」
の三者が集結する絶好の場となり、調査・研究・情報交換等を行っています。
1.定例会/講座は 160 回を経過し、多くの知識と成果をHPに掲載しております。近
年では「グットトイレ選奨応募作品から学ぶ」と題してメンテナンスを考え、また現場見学
や工場見学も行っています。
2.研究成果は7冊の研究報告書も
纏められ「尿石について」「トイレメンテナンスマニュアル」「トイ
レのソフトスケール・尿石」は国内外を問わずトイレの維持管理の
向上に寄与してきました。
3.社会貢献は「都市における災害と
トイレについて」毎年講演を行っております。過去には「日本公共
トイレメンテナンス感謝基金」を会員有志で創設し、日頃「縁の下
の力持ち的存在」であるメンテナンスワーカーの方々に対する、さ
さやかな感謝と支援のための活動等も行いました。
4.全国トイ
研究報告 No.6
レシンポジウムには発足当初から参加し、会員の発表も行ってきま
した。国際的には台湾トイレ協会との交流を深め、メンテナンス技術指導にも力を注できま
した。
発足以来 23 年を迎える当研究会は、時代とともにテーマもトイレの在り方も変わる中、
会が継続できたのは発足当初からの熱心な会員と、その時代に集う人々の輪が常に広がって
いること、また若い人々のパワーが発揮されていることが大きな力となってきました。トイ
レを快適に保ちたい!トイレ談義の大好きな人々の集まりであることは間違いありません。
「尿石」「ソフトスケール」といったトイレの問題物をいち早く発見・命名し、存在の周
知や発生メカニズム等を発信してまいりました。今後も現場の経験と最新技術の学びを通し
て、その時代その環境に適したトイレの維持管理や快適性を研究してまいりたいと思います。
10
トイレ文化研究会の活動
トイレの歴史と文化を学ぶ
トイレ文化研究会世話人
木内雄二
トイレ文化研究会は、日本トイレ協会の中でその歴史は浅く、その前進である街角トイ
レアカデミーが 2008 年 3 月に第1回が行われ、全 17 回開催されました。延べ約 300 名の
出席者を得てトイレの文化・技術・話題に触れる講演会・見学会が実施されました。
2008 年当時、平田会長(現名誉会長)がほとんどその企画立案、開催に至るまでをお一
人で行っていました。現在のトイレ文化研究会は、2014 年 3 月に高橋新会長のもと第1回
が行われ、2015 年 5 月で第5回が行われました。
名称は変われども開催内容は、引き継いでおり、さ
らに進化させ会員の研究発表、専門家の招聘、大学・
企業・研究会との連携も図り多様な内容にすべく企画
立案しています。出席者は、20 名/回と少数精鋭の
出席者となっていますが、中身の濃いマニアックな質
問で大幅に開催時間を過ぎることもしばしばです。
今後も会員の親睦や要望を取り入れ実施していく所
存ですので、是非ご参加くださいますようお願い申し
第5回トイレ文化研究会(大田区立郷土博物館)
上げます。
歴代会長
代
就任期間
氏名
記事
初代
1985~2007
西岡 秀雄
慶応義塾大学名誉教授(考古学者、人文地理学者)
2代
2008~2012
平田 純一
TOTO 株式会社 顧問
3代
2013~
高橋 志保彦
神奈川大学名誉教授・建築家
11
年
年
表
トイレシンポジウム
その他の活動
1984 年(昭 59) 「トイレットピアの会」スタート
1985 年(昭 60) 5 月 15 日
日本トイレ協会発足
会長は西岡秀雄氏
「グッドトイレ 10」開始(以後 16 回開催)
1986 年(昭 61) 第 1 回
静岡県伊東市
・「トイレの日」(11 月 10 日)制定
社会とトイレを考える…公共トイレを中心
として
第2回
・第 1 回国際トイレフォーラム(東京都港区)
■参考:六本木のアークヒルズに「XSITE」が開設され、世界
のトイレを展示するなど、第三空間としてイメージアップが始
まった。
東京都江戸川区
トイレアメニティを目指して
1987 年(昭 62)
第3回
神奈川県横浜市
・書籍「トイレの研究」発刊
トイレからのまちづくり
1988 年(昭 63) 第 4 回
・「全国自治体の公衆トイレ実施調査」を実施
・第2回国際トイレフォーラム(横浜市)
鳥取県
トイレ文化と健康からのまちづくり
1989 年(平元) 第 5 回
熊本県熊本市
・第 1 回ヨーロッパ公共トイレ事情調査団
21 世紀へ向けてトイレ文化を考える
・第 1 回日仏トイレフォーラム(仏トリアノン宮殿)
・書籍「世界の公共トイレ事情」発刊
・フランストイレ協会発足
・「89 デザインイヤーフォーラム」(名古屋市)で日本
トイレ協会の活動が『デザインイヤー奨励賞』受賞
1990 年(平 2)
第6回
愛媛県川之江市・伊予三島市
・「西岡賞」制定
トイレと紙と環境
1991 年(平 3)
第7回
石川県金沢市・山中町・吉野谷村
・香港トイレ事情調査団
旅と自然とトイレ(交通とトイレ自然公園、 ・観光地トイレ調査
1992 年(平 4)
災害とトイレメンテナンス)
(静岡県)
第8回
・第 2 回ヨーロッパトイレ事情調査団
東京都北区
トイレの進化とこれからの課題
・第 2 回日仏トイレフォーラム(仏パスツール研究所)
・「メンテナンス研究会」発足
1993 年(平 5)
第9回
群馬県高崎市
・書籍「日本のいいトイレ」発刊
トイレの視点で地域ネットワークを考える
・神戸国際トイレシンポジウム(神戸市)
・「見て・触れて・語り合おうトイレ展」(神戸市)
1994 年(平 6)
第 10 回
三重県志摩郡 5 町
・アジア・太平洋地域公共トイレセミナー(香港)
美しい水環境とトイレづくり
1995 年(平 7)
第 11 回
長崎県小浜町
・阪神淡路大震災にてトイレボランティア
自然と人間にやさしいトイレづくり
・阪神淡路大震災にともなう「トイレに関する支援のた
めの調査報告書」発行
・95 公共トイレ国際シンポジウム(香港)
・公共トイレ管理講座(東京都)
・トイレの日・トイレクリーンキャンペーン
・公共トイレ連携研究会(5 回)
1996 年(平 8)
第 12 回
富山県〈国際シンポ〉
・仮設トイレ・移動トイレ使用展示会(茨城県)
環境とトイレ
・トイレフォーラム IN 長野(長野市)
12
・山のグッドトイレコンクール実施
・書籍「阪神淡路大震災トイレパニック」発刊
・事務局体制が整う
・山のトイレ研究会(2回)
・富士山トイレ実態調査
1997 年(平 9)
第 13 回
宮城県気仙沼市
・学校トイレフォーラム(東京)
福祉・トイレ・環境で地域をつなぐ
・書籍「ハートビルマニュアルトイレ編」発行
・ハートトイレフォーラム(東京)
・「ノーマライゼーショントイレ研究会」発足
・「トイレメンテナンスマニュアル」発刊(メンテ研)
・「学校トイレ研究会」(福島県三春町)
1998 年(平 10) 第 14 回
北海道旭川市
・長野オリンピックトイレフォーラム
寒冷地・医療とトイレ
・第 1 回全国山岳トイレシンポジウム(山梨県)
・書籍「山岳トイレ整備ガイド」発行
・学校トイレ文化フォーラム(神戸市)
・学校トイレ出前教室
・WHO 発行「初等学校の環境と保険衛生」翻訳出版
1999 年(平 11) 第 15 回
福岡県北九州市〈国際シンポ〉
21 世紀のトイレと人間環境
・国際トイレ機器展(北九州市)
・河川公園・トイレ研究会(木曽三川公園)
・ポケットティッシュを考える会
・博覧会トイレ研究会(木曽三川公園)
・[参考]台湾トイレ協会発足
・[参考]韓国化粧室文化協議会発足
・アジア太平洋トイレネットワーク世話人国会議
・自然公園便所調査(東京都)
2000 年(平 12) 第 16 回
山口県松江市
・健全な水循環とトイレシンポジウム(東京都)
開かれた観光地づくりとトイレ整備
・「次世代トイレ研究会」開催
・第 1 回日韓トイレフォーラム(韓国・水原市)
・[参考]シンガポールトイレ協会発足
・アジア太平洋トイレネットワーク世話人国会議
(松江市)
2001 年(平 13) 第 17 回
埼玉県さいたま市
・書籍「エコロジカルサニステーション」発行
公共トイレの整備はどこまで必要か
・公共トイレ管理技術講座(東京都)
・日本財団トイレフォーラム(東京都)
・北九州博覧祭使用展示会(北九州市)
・ワールドトイレサミット 01(シンガポール)
・書籍「トイレのなぞ 48」発刊
・台湾トイレ清浄講習会(台湾・台北市)
(メンテナンス研究会)
・[参考]ロシアトイレ協会発足
・[参考]フィリピントイレ協会発足
2002 年(平 14) 第 18 回
京都府京都市
・「エコトイレ研究会」開始
21 世紀にトイレは何を目指すのか(資源化) ・学校トイレ実践フォーラム(神戸・名古屋等 4 都市)
・富士山トイレ性能評価調査(静岡県)
・ワールドトイレサミット 02(韓国・ソウル)
13
2003 年(平 15) 第 19 回
岐阜県高山市
・「トイレ・水循環国際シンポジウム」(京都市)
トイレが創る住みよいまちシンポジウム
・次世代トイレ展示会(京都市)
・公衆トイレのあり方調査(東京都千代田区)
・ワールドトイレサミット 03(台湾)
2004 年(平 16) 第 20 回
東京都千代田区
・公衆トイレ美化実践フォーラム(富山県魚津市)
人間中心の都市再生を目指して
・ワールドトイレサミット 04(中国・北京)
・富士山トイレ整備調査業務(静岡県)
2005 年(平 17) 第 21 回
神奈川県小田原市
・災害・海のトイレフォーラム(宮城県気仙沼市)
活力ある商業・観光都市を目指して
・愛知万博に出展&報告書作成
・災害・学校のトイレフォーラム(神奈川県横浜市)
・「途上国のトイレ環境改善支援事例集」(第 1 集)
2006 年(平 18) 第 22 回
岩手県遠野市
・災害トイレ情報ネットワーク構築
〈第1回トイレパワー全国大会〉
・「ap bank fes`06」トイレナビ実施
`環境共生型トイレモデル都市’を実現する
・地球環境とトイレシンポジウム(埼玉県秩父市)
・災害・都市衛生とトイレフォーラム(静岡県浜松市)
・「途上国のトイレ環境改善支援事例集」(第 2 集)
2007 年(平 19) 第 23 回
東京都港区
・途上国のトイレ・環境改善のためのワークショップ
〈第2回トイレパワー全国大会〉
・東京防災トイレフォーラム
環境配慮型・有料トイレ・広告トイレの整
・「途上国のトイレ環境改善支援事例集」(第3集)
備を考える
2008 年(平 20) 第 24 回
長野県伊那市
・新事務局体制で活動。
「桜の里」で里山、山岳、避難時のトイレを
考える
・街角トイレアカデミー開始
2009 年(平 21) 第 25 回 千葉県松戸市
〈川の駅・トイレ/ジョイントフォーラム
2009〉トイレがまちにやってきた
―まちトイレ・川トイレ・防災トイレ―
2010 年(平 22) 第 26 回
平田純一氏が会長に就任
・公式ホームページ(改訂版)開設
・トイレブックフェア開催(池袋)
・「グッドトイレ選奨」開始
神奈川県鎌倉市
〈観光とトイレ/鎌倉トイレフォーラム
2010〉誰でも使えるニコニコトイレ
2011 年(平 23) 第 27 回
神奈川県横浜市
・「河川用移動トイレの開発に係る技術の研究」を実施
〈横浜国際トイレフォーラム 2011〉
市民の命と暮らし/災害とトイレ
2012 年(平 24) 第 28 回
東京都渋谷区
社会環境の変化とトイレ /人々・街・医療・
危機管理
2013 年(平 25) 第 29 回
東京都新宿区
高橋志保彦氏が会長に就任
都市とトイレ/地域・教育・医療・防災
・事務局移転(世田谷区→文京区)
・ユニセフ「世界トイレの日」(11 月 19 日)制定
2014 年(平 26) 第 30 回
東京都世田谷区
・「トイレ?行っトイレ!」展に協力(主催:日本科学
学校とトイレ/こんなに大事な学校のトイレ
未来館)
-現状・課題・対策-
創立 30 周年記念
2015 年(平 27)
〈2015 年 5 月末時点/代表的な実例や関係事柄のみを抜粋して掲載
※詳細は各種年表および各年度の総会資料を参照〉
作成:白倉正子(理事)
14
2015 年 5 月 30 日発行
日本トイレ協会
〒112-0003
東京都文京区春日 1-5-3 春日タウンホーム 1F-A
TEL&FAX 03-5844-6123
http://www.toilet-kyoukai.jp
15