地域精神障害者施設でのEBP(Evidence-based practice)に基づく 家族

EBPに基づく家族心理教育による家族支援
<原
著>
地域精神障害者施設でのEBP(Evidence-based practice)に基づく
家族心理教育による家族支援
The family support by family psycho education based on EBP
in community mental disabled facilities
内山
繁樹1)
尚子 2)
塚田
Shigeki Uchiyama Naoko Tsukada
要
櫻庭
孝子 3)
Takako Sakuraba
旨
本研究は、精神に障害を持つ当事者(以下:当事者)の家族がFPE(Family Psycho Education)プログ
ラムに参加することによる、家族が経験するエンパワメントの変化を明らかにすることを目的に質的な方
法により研究を行った。対象は、地域で当事者を支える生活支援センターを継続的に利用している家族の
うち、全 7 回のFPEプログラムに参加され、研究への参加の同意が得られた 6 名とした。尚、本研究は、
研究者が所属する生物研究倫理委員会の承認を得て行った。結果、対象者の平均年齢は62.8歳で、当事者
の通院期間は平均16.4年、全員が当事者の親であり同居をしていた。得られた面接内容とプログラムでの
語りの質的分析の結果、
【悩み通した当事者との関わり】
【家族自身の心の変化を実感する】
【当事者と向
き合う重要性】など 8 カテゴリーと27サブカテゴリーが得られた。家族がFPEを受けることによるエンパ
ワメントの変化が明らかとなり、家族はこれまでできていたことに気づく機会ともなり、当事者の生きる
力を信じられる前向きな姿勢を得ていた。今後さらに当事者と共に暮らす家族のリカバリーに向けた家族
支援が重要である。
キーワード:EBP、家族心理教育、家族支援、エンパワメント、リカバリー
おこなう心理教育は、おこなわない場合と比べ再発率が有
Ⅰ.はじめに
意に低下するということがさまざまな文化圏でも示されて
重度の精神障害を抱えていても、入院や施設入所に頼ら
いる。精神医療や福祉分野で実施されている従来の心理教
ずに、地域で生活を続けたいとの思いは、当事者のみなら
育(Psycho-Education)は、統合失調症をはじめとする精神
ず家族にとっても本来持つ願いである。しかし、再発と入
疾患の再発防止に効果的な治療 の一つとして注目されてい
院の繰り返しの中で、家庭は混乱し、トラブルに見舞わ
るが、未だ家族への医療・福祉サービスやさまざまな支援
れ、周囲との軋轢も重なって、疲弊し絶望している家族は
とのつながりがない場合も多い。そのため家族は、当事者
少なくない。地域精神医療は、医療につながりにくい当事
との対応に日々苦慮し、人生のほとんどを費やして支えて
者や家族に対して、支援の手を提供するものでなければな
いる現状があり、リカバリー志向に基づいた心理教育は未
らない。
だ十分に展開されているとは言えない。
1)
5)
今日、我が国では、当事者と家族との同居率が約75% と
そして、精神症状が強く現れる急性期や入院時は、当事
高く、長時間共にする生活は家族がストレスと否定的な感
者も家族も混乱し、身体的疲労も高まり、精神科を受診し
情 を 表 出 し や す い た め 再 発 率 が 高 く な る ( Expressed
なければならないことに相当な精神的なショックを受けて
Emotion:以下、EE研究)
ことが研究により明らかに
いる場合がある。このような家族が苦境を経験している時
なっている。そのような感情表出の高い家族を対象として
期に心理教育を導入することは、家族の動機も高く、スト
2、3、4)
受付:2014年 9 月16日
受領:2015年 1 月16日
1)関東学院大学看護学部
2)戸塚西口りんどうクリニック
3)横浜市精神障害者生活支援センター西
Kanto Gakuin University Journal of Nursing Vol.2, No.1, pp.11-20, 2015 11
EBPに基づく家族心理教育による家族支援
6)
レスや困難の改善をもたらす効果 がある。しかし精神科病
ミュニケーションスキルなど対処技能を習得してもらい、
院での心理教育の実施は、スタッフも多くプログラムを組
そして心理的・社会的支援の増加が得られることを目的に
7)
みやすいなどの利点も認められるが、普及率は30% 程度で
している。
FPEは、家族が病気への理解を深め、適切な対処を知
ある。
一方、この時期の家族は、長い生活の中で、病気と障害
り、家族がエンパワメントされることで、当事者への接し
による混乱が社会の迷惑にならないように責任を持たさ
方が安定する。そのことにより病気の再発率・入院率が減
れ、自己の生活を犠牲にして懸命であったり、まったく健
少する再発予防
13)
12)
、薬物療法に対する積極的参加のエビデ
が明らかとなっており、臨床で一般化する必要性、
常な家族機能を求めたりと見えにくい障害を家族で扱いか
ンス
ねていることが多く、苦悩し、地域から孤立している。ま
方法論が求められている
た、家族は、何もしてやれなかったという自己無力感や役
た困難を受け止めることができるように支援されながら、
に立たないという自己否定の気持ちに陥っていることも多
困難を乗り越え、現実に立ち向かうことが出来る力量や解
い。従って、地域で生活を続ける家族に心理教育を行うこ
決できるという自己効力感や自己決定・自己選択について
とは、急性期や病院での実施に勝るとも劣らない価値があ
家族自身のエンパワメントの視点に着目した先行研究は少
8)
14、15)
。しかし、FPEにより自ら抱え
り、極めて重要な心理社会的治療法 の一つに推奨されてい
ない。家族のリカバリーを支援する際、家族それぞれのエ
る。
ンパワメントは重要であり、それらを明らかにすること
さらに、最近では、心理教育は単に病状や症状が安定出
は、臨床さらに地域生活においてのFPEの一般化の促進に
来るための知識教育だけでなく、リカバリーの視点が重要
役立つものと考えられる。また、問題や生活の困難を抱え
9)
と考えられている。リカバリー とは、障害を持つ人たち
ながらも、当事者・家族ともに自分らしい生活や人生を送
が、それぞれの自己実現や自分が求める生き方を主体的に
るリカバリーにつながるものと考える。
追及するプロセスとされる。米国における公的指針におい
よって本研究では、地域精神障害者施設において、精神
ても、精神保健サービスは本人主体で、リカバリーの促進
に障害を持つ当事者の家族がFPEに参加することにより、
に焦点を当てるべきであり、支援の目標は症状の改善だけ
家族のエンパワメントがどのように変化したのかを明らか
ではなく、有意義で生産的な人生の回復を目指すべきであ
にすることを目的とし、地域における家族支援のあり方に
るとしている。イギリスにおいては、当事者の家族を対象
ついて検討する。
とした訪問支援
10、11)
が行われており、わが国においても家
族への支援が重要視されるようになってきている。日本に
Ⅱ.方
法
おけるこれまでの家族の位置づけは、当事者を支える支援
者という考えが主であったが、家族自身も困難を経験して
いる当事者である。その家族を主体とした支援は、家族自
身も自らが望むその人らしい人生を送るリカバリーにつな
がる重要な視点であると考えられる。
1.研究デザイン
FPE介入による質的記述的研究
2.対象者
A市内の精神障害者地域生活支援センターに登録し、継
家族心理教育(Family Psycho Education:以下FPE)プログ
続的に利用している家族のうち、施設長の紹介と推薦を受
ラムは、代表的な科学的根拠に基づく実践(Evidence-based
けた10名にFPEプログラムを実施した。対象者は、統合失
practice:以下EBP)プログラム(表1)の一つであり、精神
調症の当事者と同居しており、全 7 回のFPEプログラムに参
障害を持つ人を支援する家族、援助者、友人などと協働し
加され、本研究への参加の同意を得られた 6 名とした。
ていくための技術を習得するプログラムである。精神障害
3.実施頻度と回数
についての正しい知識と情報を伝え、問題解決技能やコ
2013年7月~2014年 1 月であり、1 ヶ月に 1 回、継続して参
表 1.EBP(Evidence-based Practice)ツールキットプロジェクト
1. Assertive Community Treatment
ACT
包括型地域生活支援プログラム
2. Family PsychoEducation
FPE
家族心理教育
3. Illness Management and Revcovery
IMR
疾病自己管理とリカバリー
4. Integrated Dual Disorders Treatment
IDDT
統合的重複障害治療
5. Individual Placement and Support
12 関東学院大学看護学雑誌 Vol.2, No.1, pp.11-20, 2015
IPS
支援付き雇用
EBPに基づく家族心理教育による家族支援
加しやすい土曜日の午後に2時間程度のセッションを6回行
ためにも家族も趣味を再開できること等の内容をグループ
い、全プログラム終了1ヶ月後にフォローアップを 1 回行っ
での共有の視点に留意しながらセッションを進めた。後半
た。場所は、センター内のデイケア室にてクローズドセッ
の対処法のグループセッションでは、家族の困りごとを解
ションとした。これは、家族同士が共有する各々の体験が
決していくセッションであり、対象者の語りや対話の流れ
他者に聞かれる心配をしなくてもよいこと、参加者が固定
を整理しやすくするためにホワイトボードに板書し、グ
されることによりグループ凝集性が高まること、テキスト
ループの相互作用の促進に留意してセッションを進めた。
の内容には学習を進める順序性があり、継続的な参加を促
このプログラムは、アメリカ連邦政府EBP実施・普及ツー
せるためである。
ルキットシリーズ3-Ⅰ・3-Ⅱ
4.プログラムセッションの進め方
ネットワークの標準版家族心理教育
プログラムは、アイスブレイキングを目的とした「私の
いいとこ探し」から始め、堅い雰囲気が和らいだところ
で、テキストを用いて30分程度の知識教育セッションと90
分程度の問題解決技法を応用した対処法のグループセッ
ション(表 2 )を行う。知識教育セッションでの対処技能の
16)
および日本心理教育家族教室
17、18)
に準じて行った。
またテキストは「改訂版じょうずな対処・今日から明日へ
19)
病気・くすり・くらし」
を使用した。
グループセッションの具体的な進め方は構造化されてお
り、次の通りである。
1)ホワイトボードを囲んで参加家族とスタッフが座り、
教育は極めて重要である。批判が高くならないよう病気を
「グループのルール」と「グループのすすめ方」(表 3 、表
理解し感情的にならない対応、巻き込まれない方向で自立
4 )を毎回共有する。2)アイスブレイキングのための
できるよう当事者の役割を代行しない、接触時間を減らす
ウォーミングアップ。3)家族から日常生活の中で困ってい
表 2.心理教育プログラムの概要とグループセッションのテーマ
セッション
テーマ
知識教育セッション(30分)
グループセッションのテーマ(90分)
第1回
統合失調症の理解
第2回
急性期をどのように乗り越えるか 急性期の症状・状態と主に薬物療法
「社会とのつながりを持てるための親なき後」
第3回
回復に向けた病気のプロセス
統合失調症の再発防止,リハビリテーション
「薬の変更による体重が増えない食事・生活の工夫」
第4回
病気と折り合いをつけながらの
生活の実現
家族の接し方やコミュニケーション,ストレス
対処,様々な感情表出
「自分でお金の管理ができる様になって欲しい」
第5回
ご家族が元気を保つために
家族自身の心の疲れ,疲れない工夫,相手
を思いやる工夫とリカバリー
「いろいろと心配や不安が強くなってしまう」
第6回
利用できる支援サービス
主に横浜市で利用できる生活を支える社会
資源・サービス
「将来に対する不安や見通しが立たない」
第7回
1ヶ月後フォローアップ
ご家族の困り事
ご家族自身のカバリー
「医療者に相談してもしっかりと対処してもらえない」
統合失調症の疫学,病因,症状,経過
表 3.グループのルール
「料理を一緒に食べて分かち合うには」
表 4.グループの進め方
1
毎日の生活で,自分ができるようになりたいこと,工夫したいことを
相談しましょう。
1
グループのルールを読みましょう。
2
心配や不安などの気持ちの混乱等は当然の反応で決して欠点で
はありません。お互いの気持ちを認めあい,助け合いましょう。
2
「よかったこと」を言いましょう。ご家族自身がよかったこと うれし
かったこと,報告したいことなどを話しましょう。
3
ご自身がやれていること、工夫していることに注目して、前向きに
考えてみましょう。
3
相談したいことを出しましょう。 ・今日この場で相談したいこと ・相
談したことがどのようになれたらいいですか?
・他の参加者からどんなことが聞けるとよいですか?
4
実現できそうな,小さくて具体的な目標を見つけましょう。
4
どの話題から進めるか,みんなで決めましょう。
5
自分に合ったよい対応方法を、見つけていきましょう。
5
話題についてみんなで取り組んでいきましょう。みんなの体験を比
べながら状況の整理,話し合ってもらいたいことを伝える,お互いに
経験や思ったことを出し合う。
6
時間は90分です。みんなが話せるように、ポイントを短くまとめて発
言しましょう。
6
自分なりの評価をしましょう。
7
みなさん一人ひとりの話をしっかり聞きましょう
7
グループの感想を言っておわりにしましょう。
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EBPに基づく家族心理教育による家族支援
ることなどを出してもらい、その日のセッションで取り上
り、強要されるものではないこと、研究に不参加あるいは
げる困りごとを 1 つ選ぶ。4)選ばれた困りごとについて、
途中辞退の場合でも不利益はないこと、同意を撤回できる
現状・できていること・困っていること・相談内容の明確
こと、病気に関することやプライバシーに関する情報は堅
化を参加者全員の話し合いで行い、解決のためのアイディ
く守られることを約束した。さらに、実施中に過去の経験
アを出し合う(ブレーンストーミング)
。5)相談者が自分
や発言や発表等によりつらい状況になることが予想される
にとって参考になったアイディアを選択する。6)参加者全
場合はいつでも途中辞退が可能であり、施設長に相談でき
員が一人ひとり感想を述べシェアリングを行う。
実践者は、日本心理教育家族教室ネットワーク標準版家
族心理教育研修会修了証取得者」の研究者である看護師2名
ることの説明を行い、対象者が十分に考える時間が作れる
ように配慮し、第 2 回FPE開催時のプログラム実施前に同意
書の提出をもって本人の同意とした。
と精神保健福祉士 1 名である。グループの中での役割は、グ
ループを構造化すること、あたたかく話しやすい雰囲気を
尚、本研究は、研究者が所属する生物研究倫理委員会の
承認番号(2013年 7 月23日、2013-01)を得て行った。
作り出すことなどである。さらにリーダーは話し合いの焦
点を絞ること、コ・リーダーは対象者である家族の語りを
Ⅲ.結
果
ホワイトボードに板書し記録することなどである。また、
当事者や家族は自身のことについての専門家であるという
1)対象の背景
対象者は 6 名で、男性 2 名・女性 4 名であった。平均年齢
理念に基づいて、家族も専門家も共に問題に取り組み、解
決に向かう姿勢の共有が特徴である。
は62.8歳であった。当事者の通院期間は、1 年未満の通院は
5.データの収集と分析方法
なく、1 ~ 5 年が 1 名、6 ~10年が2名、11~20年が 2 名、21
1)データ収集
年以上が 1 名で、平均16.4年あった。また入院経験は、4 名
6 回目のセッション終了後から 1 カ月以内にインタビュー
に入院経験があり、6 名全員が当事者の親であり同居をして
ガイドに基づき、対象者に半構造化インタビューを実施し
いた。
た。インタビューは、対象者の負担にならない来所できる
2)家族のエンパワメントの変化
日程を設定し、緊張せずに、プライバシーの保持ができる
データの分析結果FPEプログラム中のグループセッショ
個室にて50分から75分程度行った。また対象者の同意を得
ンにおける対象者の語りの記録内容とインタビュー内容を
た上でICレコーダーに録音し逐語録を作成した。なお、イ
分析した結果、
【悩み通した当事者との関わり】
、
【家族自身
ンタビューガイドの主な質問項目は、1)生活や当事者との
の心の変化を実感する】
、
【当事者と向き合う重要性】
、
【当事
関わりの変化、2)病気や障害に対する考えや思いの変化、
者の生きる力を信じる】
、
【病気の経験を家族自身の力に変
3)問題解決技法を応用した対処法のグループセッションで
える】
、
【地域生活支援センターの存在】
、
【続く将来への揺れ
感じたこと、考えたこと、4)家族のリカバリーについて等
る思い】
、
【当事者と家族自身の未来】の 8 カテゴリーと27サ
である。さらに、毎回のプログラム後半に行う問題解決技
ブカテゴリーが抽出された(表 5 )
。
以下、文章中はカテゴリーを【
法のグループセッションでの対象者の語りを対話の流れに
そって板書した記録をデータとした。
<
>、語りの内容を「
2)分析方法
【悩み通した当事者との関わり】
】
、サブカテゴリーを
」で示した。
分析は、質的記述的に行い、得られた逐語録と毎回の問
このカテゴリーは、当事者の症状や生活のつらさなどに
題解決技法グループセッションでの対象者の語りの記録か
日々関わる中での家族のつらさや悩みなど、これまでの経
らFPEに参加することにより、家族のエンパワメントの変
験について語られたもので、3 つのサブカテゴリーから構成
化についての意味内容を表す部分を抽出し、類似する内容
される。
を集めサブカテゴリーとして名称をつけた。さらにサブカ
(B氏)
」
、
「相談できる場、
「出せる場が今までなかった。
テゴリ一間の意味内容の類似したものを集めカテゴリー化
つながるところってわからないし、全くない(A氏)
」と、
した。なお、データ分析の際には、これまでEBPに基づく
相談できない、気がねなく話せない<話せる場のないつら
FPEに精通する研究者と質的研究の専門家によりスーパー
さ>が語られた。同時に、
「他の人に言われると気にしてし
バイズを受け、分析過程と結果の信頼性と妥当性の確保に
まうし、いろんな人がいるから状況もわからないし話せな
い(E氏)」、
「ずっと抱えちゃって不安になるし、だんだん
、
「 どこにも相談に行けなかったり自
悲観しちゃう(D氏)」
分の胸の内を近所や身内にも出せなかったりするのはきつ
いこと(B氏)
」と、<胸の内を全ては出せないつらさ>を
(略)いつも頭か
常に抱えていた。「ずっとひきこもって、
ら離れなくて本当に泣きたかった。自分が何とかしようと
思ったけど、自分の子どもだけどやっぱり子ども自身のこ
努めた。
6.倫理的配慮
当施設利用者の統合失調症の当事者と同居している家族
に、施設長よりFPEへの参加の呼びかけを行い、初回セッ
ションのFPE開催時に協力者へ説明文書と口頭にて本研究
の趣旨、目的、プログラム内容、方法、倫理的配慮、評価
調査について説明を行った。研究への参加は自由意志であ
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EBPに基づく家族心理教育による家族支援
とだから何ともならなくて、何しても悩むしかなくて(C
」
、
「落ち着かなかったり暴れたり、しゃべりっぱなしで
氏)
私のほうがまいってしまった(A氏)
」と、相談できる場も
同士で共有し対処を見つけ、家族自身ができていたことに
の心からの意見が出せて自由になれる感じ。
(中略)お互い
に出し合って絆が強くなるし元気になる、楽しかったです
」と、<話し合うことで自由になる>ことが語ら
ね(D氏)
れた。同時に、
「こんな見方もあるんだって心がすごく楽に
、
「何でも話して大丈夫というか、一生懸命
なった(C氏)」
聞いてくれるから、話せるようになったね。気持ちが楽で
」と、<心が楽になる>体験をし、
「話したり、
すよ(D氏)
話聞いてるうちに絡んだ糸がだんだん解けて糸口がつかめ
」と、<共に考えて
てきたら面白いし希望が持てる(D氏)
気づく体験をする中で感じた心の変化を語ったもので、6 つ
希望が持てる>ように変わってきたことが語られた。さら
なく、親自身がつらさを抱えながら、<常に悩む当事者と
の関わり>を続けてきたことが語られた。
【心の変化を実感する】
このカテゴリーは、プログラムを重ねる中で新たな知識
を得る体験、これまでの経験を語り困りごとなどを参加者
」
、
に、
「 お互いに出し合って絆が強くなると思った(C氏)
のサブカテゴリーから構成される。
「自分たちの頑張ってることあるよねって気づくよね(C
「帰りも話しながら帰ったり、
(参加者と)仲良くなりまし
氏)」、「( 子どもに対して)大変だよねっていう言い方学ん
で、実践してる。同じことでも繰り返すことって大事だ
」
、
「言葉かけも大事だ
し、結構やってたんだなって(D氏)
なと思って意識してやっている(B氏)
」と、これまでの工
た(D氏)
」と、<家族同士のつながり>が深まったことが
語られた。そして、
「自分や子どもとこれまで関わりのある
人は意味があるし、みんないい人だと思える。本当にあり
、
「これまでいろんな人に助けられたことっ
がたい(A氏)」
てあるなって、話してるうちに気づいたし感謝できたんで
すよね(D氏)」と、これまで関わってきた<周囲への感謝
夫や気づいたことを意識して続けている<頑張っている自
分に気づく>体験をしていた。
「みんな一生懸命だから自分
表 5.家族のエンパワメントの変化
カテゴリ
サブカテゴリ
話せる場のないつらさ
悩み通した当事者との関わり
常に悩む当事者との関わり
胸の内を全ては出せないつらさ
頑張っている自分に気づく
話しあうことで自由になる
家族自身の心の変化を実感する
心が楽になる
共に考えて希望が持てる
家族同士のつながり
周囲への感謝
そのままを受け止め、認める
当事者と向き合う重要性
1人の人として当事者と接する大切さ
素直に思いを伝える重要性
子に対しての反省の思い
当事者自身の持つ力を信じる
当事者の生きる力を信じる
問題を解決するのは本人
当事者の変化を実感する
当事者の成長に感じる喜び
病気の経験を家族自身の力に変える
病気になることで得たもの
病気になったからこそ気づく家族自身の持つ力
地域生活支援センターの存在
家族それぞれの心模様
続く将来への揺れる思い
見えない将来の生活
今も続く症状と揺れる思い
親なきあとの不安
大切にしたい家族自身の夢や希望
当事者と家族自身の未来
当事者とともに歩む悔いのない人生
積み重ねてほしい自信
当事者の生きる希望を支える
Kanto Gakuin University Journal of Nursing Vol.2, No.1, pp.11-20, 2015 15
EBPに基づく家族心理教育による家族支援
>を持てたことが語られた。
【当事者と向き合う重要性】
このカテゴリーは、改めて感じる当事者への思いや、プ
ログラムの中で変化した当事者と関わる際の思いや考え
方、行動などについて語られたもので、4 つのサブカテゴ
リーから構成される。
「 お金を何とか管理できるようにこちらが何とかしな
きゃと思ってたけど、本人を認めて本人の判断に任すのも
」
、
「
(当事者自身は)そうい
いいと思うようになれた(D氏)
う特性なのだから、それをわかってあげればやっていける
」と、<そのままを受け止め、認める>ことの大切
(C氏)
さが語られた。また、
「子供は大変だけど、もう大人だから
自分の力があるんだから自分たちでやって行かなくちゃ、
、
「 あなたも勉強してるんだから
自信を持つために(C氏)」
お母さんたちも勉強するよっていう思いでいる(B氏)」
「 音楽まで聴くようになって、何だか普通になっちゃっ
て、喜怒哀楽が自然に表現できるようになってきた。前は
」と、<当事
本当に感情がうまくだせなかったから(A氏)
者の変化を実感する>体験が語られた。さらに、
「強みが持
ててるだけじゃなくて発揮することもできてる(B氏)」、
「 自分でこうと決めたら、最後までしっかりとやり通そう
とする思いとか気持ち、力が出てきたことがうれしい。す
」と、<当事者の成長に
ごく成長したんだなと思う(A氏)
感じる喜び>を実感していた。
【病気の経験を家族自身の力に変える】
このカテゴリーは、精神疾患の発病から症状や障害に
よって当事者のみでなく、家族自身もつらさや苦労を抱え
ての生活を振り返り、プログラムにおいて語る中でつらさ
や苦労だけでなく、その経験から得たものや力になってい
ることや気づきが語られたもので、2 つのサブカテゴリーか
と、< 1 人の人として当事者と接する大切さ>を感じてい
ら構成される。
た。さらに、1 人の人として接するため、
「 普通だったらま
「 病気になったのはつらいことだけど、家族皆でいろい
」
、
「 子どもとハグ
ろ考えさせてもらっていると思う(C氏)
するなんて、この病気になってから。できるようになって
よかったと思う。(中略)すっごく(これまで)悩んだけ
ど、本人も親自身もレジリエンスが大事ってわかってよ
」と、<病気になることで
かった。一番好きな言葉(B氏)
得たもの>があることが語られた。さらに、
「家族の中がま
とまってきて(中略)
、何かがあるからお互いのことを気に
しながら過ごせるんじゃないかな、1 つのハードルを神様が
、
「自分の感情が先行しがちなと
くれたのかなって(B氏)」
ころがあるけど、
(病気になって)お互いのことよく見てる
し、家族の仲がまとまってきた。仲いいですよ(D氏)」
いっちゃうのに嫌な声が聞こえてきてる中で普通にやって
いられるっていうのはすごいよって、強い人だと思うよと
伝える。素直に率直に思いを言葉で伝えられうようになっ
」
、
「 素直に応援してるからねと言えるようになっ
た(B氏)
」と、<素直に思いを伝える重要性>を認識し実
た(C氏)
践していた。同時に、
「子どもに関わってきた私自身も足り
なかった部分もあると思う(B氏)
」
、
「主治医とか薬のこと
に関して、
(当事者を)一人きりにしちゃったんじゃないか
な、そこまで関わらなかったなと、1 つ反省すること(A
」と、<子に対して反省の思い>を持っていることが語
氏)
られた。
【当事者の生きる力を信じる】
このカテゴリーは、それぞれが語り合う中で気づいた当
事者自身の持つ力やできているプラスの部分について語っ
たもので、4 つのサブカテゴリーから構成される。
「 子どももみんなの力を借りてできるんだっていうのを
教えてもらった。自分でできる力を持ってるから信じてあ
、
「病気になってから(好きな)ピアノ
げなくちゃ(C氏)」
を心が入ってないように弾いてたんだけど、1 フレーズだけ
ど、ああ音楽だわと思って聴けた、本人が弾けたのが、本
」と、<当事者自身の
当はやればできるんだなって(B氏)
持つ力を信じる>ことが語られた。そして、
「悩んでいろい
ろ相談してやっと気づいたけど、子どもの問題は子どもが
」
、
「私がし
解決するしかない。親は見守るしかない(C氏)
たのは支援してくれるところにつなげただけ。本人が自分
で支援を得ないと(A氏)
」と、<問題を解決するのは本人
と、<病気になったからこそ気づく家族自身の持つ力>を
感じていることが語られた。
【地域生活支援センターの存在】
このカテゴリーは、当事者も家族も通える場、安心でき
る場があることの重要性が語られたもので、
「支援センター
があることは大きい。
(思いを)出せる場があることがとて
も大事。安心に繋がるんですよね(D氏)」、「 本人もここ
(支援センター)に来て、仲間とか、スタッフの人に相談
できるようになったみたい。
(支援センターでの)夕食会に
参加すると一緒にいなくても何となく様子もわかるし。
(中
略)ここに来れるっていう、場があるって大事(C氏)」
と、全ての対象者から【地域生活支援センターの存在】の
大きさが語られた。
【続く将来への揺れる思い】
このカテゴリーは、当事者と家族自身の変化を感じなが
>と考えながらも、家族として常に見守り当事者を支えて
らも、これから続く生活や将来への思いが語られたもの
いることが語られた。このように見守り、当事者を支える
で、4 つのサブカテゴリーから構成される。
中で、
「10年近くひきこもりで関係妄想がひどくて、世界で
一番嫌われ者って言って人と関わることができなかったの
に、本人も(心理教育に参加して)外に出て仲間ができ
て、本当に夢のよう。すごい成長したなと思う(C氏)」、
16 関東学院大学看護学雑誌 Vol.2, No.1, pp.11-20, 2015
プログラムにおいて語る中で、
「こうやって同じような体
験を聞いて、ああそうだなと思うこともあるけど、症状も
経過も状況も違うし家族によって考え方も違うし、それぞ
」と、<家族それぞれの
れ心模様はどうしても違う(E氏)
EBPに基づく家族心理教育による家族支援
心模様>があることが語られた。お互いに少しずつ違う心
模様を感じながらも、
「最近少しずつ変化はあるけど、あま
りにもこれまでが長いから、これからどうなって行くかわ
」と、<見
からない、将来の不安はどうしてもある(E氏)
えない将来の生活>をどの家族も案じていた。そして、
「今
も具合が悪くなることがある。ずっと症状もかかえてる。
、
もちろんいいこともあるしまた壁にぶつかるかも(B氏)」
「 いい時もあるけど、やっぱり状態も変わらないことも多
くて、悩んでもすぐに解決するものでもないことを思わな
」と、<今も続く症状と揺れる思い
くちゃいけない(D氏)
>を抱えていた。同時に、
「自分に何かあった時のことが心
配(E氏)」、
「自分が(身体の)病気になってから、親なき
後のこととか、どうなっていくかわからない面もある(A
」と、<親なき後の不安>を常に感じていることが語ら
氏)
」
、
「
(本人が)私を必
緒に悔いのない人生を送りたい(C氏)
要としていることは受け止めてあげたい。いろいろあって
」と、<当事者ととも
も感動をもらったりするから(B氏)
に歩む悔いのない人生>を願っていることが語られた。そ
して、
「失敗してもいいから積み重ねて自信が持てればまた
先へ進めると思う(C氏)」
、
「 心込められるっていうか、本
人も楽しんで好きな音楽ピアノが弾けてっていう。私自身
はこれでいいんだって少しでも自信を持てたり。そういう
」と、当事者
の積み重ねていけたらいいなって思う(B氏)
と家族自身の<積み重ねる自信>を期待することが語られ
た。家族自身を大事にしながらも、
「好きなことをさせてや
れた。
りたい、夢を持てるってことがすごいことだから、本人の
生きる上での夢を大事にしたい(A氏)」、「 幸せになりた
いって思ってるから、やっぱり幸せになってほしいよね。
」と、<当事者の
これまでみたいに支えてやりたい(D氏)
【当事者と家族自身の未来】
生きる希望を支える>気持ちを持ち続けていることが語ら
このカテゴリーは、揺れる思いを持ちながらもプログラ
れた。
ムを継続する中で今後への夢や希望、願いを持てたことを
Ⅳ.考
語ったもので、4 つのサブカテゴリーから構成される。
察
「 自分の時間、自分のことをもうちょっと大切にした
いって思えるようになった(B氏)
」
、
「新しいことを始めよ
うとかと思う(C氏)」、「 常に子どものことじゃなくて、
老々介護になっちゃうけど、お父さんと手つないで散歩す
」と、<大切にしたい家族自身の夢
るのもいいかな(A氏)
(本人に)愚痴ったりもで
や希望>が語られた。同時に、
「
きるようになった。最近は支えられてる。(本人を)支え
るっているのではなく、支えあう関係になって、本人と一
1.精神に障害を持つ当事者と共に生きる家族のエンパワメ
ントと支援のあり方
ここでは、結果において述べたカテゴリの関連から導き
出されたFPEによる家族のリカバリーの構造図(図 1 )をも
とに、家族のエンパワメントとその支援について述べる。
今回のプログラムに参加された家族は、これまで<話せる
場のないつらさ>をずっと抱え、長期間にわたり【悩み通
家族のリカバリー
当事者の生きる力
を信じる
病気の経験を
家族自身の力に変える
当事者と家族自身の未来
当事者と向き合う重要性
家族自身の心の変化を実感する
悩み通した当事者との関わり
続く将来への
揺れる思い
地域生活支援センターの存在
図 1.FPE による家族のリカバリーの構造図
Kanto Gakuin University Journal of Nursing Vol.2, No.1, pp.11-20, 2015 17
EBPに基づく家族心理教育による家族支援
した当事者との関わり】を経験していた。FPEを複合家族
であり、当事者とその家族が地域で支援を得られるために
で行うことのメリットは、
「みんな同じような悩みを抱えて
は、生活の場に根差した地域の施設におけるFPEアプロー
いる。つらいのは、苦しい思いをしているのは自分たちだ
チも大きな効果が期待できると考える。
けではない」という孤立感や不安感を緩和できる効果であ
2.家族のリカバリーに向けての支援のあり方
20)
とされている。今回、地域におけるFPE プログラムの
当事者とその家族は、通常、精神疾患に対して異なる認
実施においても、回数を重ねるごとに<頑張っている自分
識を持っている。一般に当事者は、自らの精神疾患を軽く
に気づく>経験をし、<話し合うことで自由になる>こと
捉える傾向があるのに対し、家族は負担感や強い不安を感
から、<心が楽になる>ことや<共に考えて希望が持てる
じながらも改善を強く期待し続けていることが多い
>ことを実感するなど、【家族自身の心の変化を実感す
年代以降、日本でも家族の感情表出のありようが再発に影
る】経験をしていることから、孤立感や不安感の緩和につ
響を及ぼすことがEE研究で知られるようになり、家族は当
ながったと考えられる。そして、安心して経験を話せる体
事者や治療者の協力者と位置づけられるようになった。こ
験をすることで<そのままを受け止め、認める>ことの大
うしたことから、病気に関する情報提供や当事者との接し
切さなど、【当事者と向き合う重要性】を改めて実感でき
方を学ぶことなどが病院や保健所の家族教室で行われるよ
たことは、家族のエンパワメントにつながったと考えられ
うになっている。しかし、本人の精神疾患が重症である場
る。
合、家族が高齢などのため期待された役割を果たせない場
る
24)
。90
家族のエンパワメントは、これまで家族自身と当事者本
合など、家族の負担が過大になってくる。そのため混乱や
人ができていたことに気づく機会ともなり【当事者の生き
トラブルに対処できにくくなり、周囲とのつながりも失
る力を信じる】前向きな視点を持てたものと思われる。具
い、疲弊と絶望に陥っている家族は少なくない。さらに精
体的には、<問題を解決するのは本人>と考え、<当事者
神保健福祉の領域では、”今なお精神障害者は家族が面倒
自身の持つ力を信じる>こと、<当事者の成長に感じる喜
を見るべき”という意識が根強くあり、家族が当事者の生
び>を大事にして家族として常に見守る姿勢を持ってい
活を支え続けている。さらに、保護者制度によっても家族
る。このような家族の行動は、当事者の自主性や自信を促
は、保護者としての実施困難な任務が課せられてきた。
すことにつながると考える。家族のこれまでの経験から当
2014年 4 月 1 日以降、保護者制度は廃止されたものの家族が
事者を信じる前向きな気持ちを持つことで、障害と共に生
支援を引き受けざるを得ない仕組みになっており、強制的
きる生活に【続く将来への揺れる思い】がありながらも、
に支援を担わされる場合には、家族同士の関係が悪化して
これまでの【病気の経験を家族自身の力に変える】ことと
しまうことも少なくない。そのため日常生活に大きな影響
なり、レジリエンス
21)
を得られたものと考えられる。
【当事
が出ていることも多く、今以上の役割を期待するのは現実
者の生きる力を信じる】こと、
【続く将来への揺れる思い】
、
的ではないことも多い。特に,対象者と同居している家族
【病気の経験を家族自身の力に変える】ことは、生活の中
は、大きなストレスを抱え、支援の担い手としての余力が
で関連し合いながら家族自身のストレングスを強めていっ
少ないことが推測される。こうした家族に対する支援は、
たもの思われる。そして、家族自身が自身のストレングス
情報提供や接し方の技術の伝授にとどまらず、家族が本来
に気づいたからこそ【当事者と家族自身の未来】として夢
の生活を取り戻すことの実現にこそ向けられるべきであ
や希望、願いを考えることができたと言える。そこには、
る。それは、当事者において「リカバリー」がゴールにな
<当事者の生きる希望を支える>という思いと同時に<大
る様に、家族にも夢や希望があり、それぞれの自己実現や
切にしたい親自身の夢や希望>も家族の未来として語ら
自らが求める生き方を主体的に追及できるよう家族のリカ
22)
となっている。近年では、精神に
バリーを支援できる機会になければならない。本研究での
障害を持つ当事者と共に生きる家族は、支援者としてのみ
FPEにおいて、<大切にしたい家族自身の夢や希望>が語
でなく、家族自身が当事者であるとして、支援を考える重
られ【当事者と家族自身の未来】を考えることができたこ
れ、家族のリカバリー
要性
23)
が言われており、当事者としての家族支援を考える
際に家族のリカバリーの視点をもつことは重要である。
とからも、家族のリカバリーを支援する機会を提供できた
ものと考えられる。
そこで重要となるのは、単に支援者として関わるのでは
心理教育の効果は、高EEを示すような行動が軽減する。
なく、専門職と家族が互いに協働しながら病気や障害に対
この点では、病院でも地域でも変わりはない。しかし、こ
処する姿勢をとってこそ、家族の力が引き出されるとさ
れ以外にも地域で心理教育を実施する際には他の効果も期
れ、それぞれの立場から、家族も支援者もそれぞれが専門
待できる。例えば、家族会の強化、地域交流の促進、地域
家として一緒に取り組むことが重要となる。同時により安
のスタッフの精神障害についての理解の促進、地域のニー
心したなじみのある環境でのFPEプログラムの実施は、そ
ズを掘り起こす場所になることなどである。ただ経過でも
の効果を引き出すために地域に根差した【地域生活支援セ
わかるように、心理教育単独で可能なことは限りがあるの
ンターの存在】は大きいと考えられる。希望や夢を持てる
で、それまでの地域での取り組みや特徴を生かして初めて
等の家族の変化は、関わる専門職にも変化をもたらすもの
その効果があると考える。
18 関東学院大学看護学雑誌 Vol.2, No.1, pp.11-20, 2015
EBPに基づく家族心理教育による家族支援
3.家族の安心につながる家族支援の実現に向けての今後の
借りて、深謝いたします。
課題
当事者と共に家族もさまざまな困難を抱えていることは
引用文献
容易に想像することができる中、家族がエンパワメントさ
れ、家族自身のリカバリーのためには、生活の中で安心が
1) 特定非営利活動法人全国精神保健福祉会連合会,平成21
得られることが重要と考えられる。本研究においても、語
年度家族支援に関する調査研究プロジェクト検討委員
ることができる、安心できる場や環境の重要性が語られて
会(2010)
.平成21年度厚生労働省障害者保健福祉推進
いた。しかし、精神症状の不安定さや障害の特性から、多
事業 障害者自立支援調査研究プロジェクト精神障害者
くの当事者が福祉サービスにつながらず、家に引きこもっ
の自立した地域生活を推進し家族が安心して生活でき
て生活している状況を改善するための社会的な支援が不足
るようにするための効果的な家族支援等の在り方に関
する中で、支援者としての役割を担い続けてきた家族に対
する調査研究,特定非営利活動法人全国精神保健福祉
する社会的な支援は皆無にひとしい状況
25 )
である。さら
会連合会(みんなねっと)
,30-49.
に、精神保健・医療・福祉の専門家が、家族の支援力を期
2) Yamaguchi,H.Takahashi,A.Takano,A,et al(2006).Direct
待する傾向もあいかわらず見受けられる。家族会の全国組
effects of short-term psychoeducational intervention for
織である「全国精神障害者家族会連合会」による相談の中
relatives of patients with schizophrenia in Japan. Psychiatry
では、家族だけではどうにもならず、やっとの思いで第三
Clin.Neurose,60,590-597.
者に相談するに至った家族や「家族がうろたえてはいけな
3) Ball R.A., Moore E. & Kuipers, L. (1992) .Expressed
い」と悩むことすら抑え「家族が元気でいないと」と気持
Emotion in community care staff. A comparison of patient
ちを奮い立たせている
26)
家族の姿がある。また、多くの家
族が「親なき後」の当事者の生活に切実な問題を抱えてい
outcome in a nine monthfollow-up of two hostels. Social
Psychiatry and Psychiatric Epidemiology, 27, 35-39.
るにも関わらず、相談支援さえないことも事実である。家
4) 伊藤順一郎,大島巌,岡田純一(1994)
.家族の感情表
族が”支援者”として終わりのない役割を引き受けてい
出(EE)と分裂病患者の再発との関連〜日本における
る、もしくは引き受けざるを得ないからこそ出てくる苦悩
ではないだろうか。
追試研究の結果,精神医学,36(10),1023-1032.
5) アメリカ連邦保健省薬物依存精神保健サービス部,日本
これまでの精神障害者の家族を対象とした全国調査で
精神障害者リハビリテーション学会 監修(2009)
.ア
は、当事者の生活実態やニーズを問うものが多く、家族自
メリカ連邦政府EBP実施・普及ツールキットシリーズ3-
身の生活実態が社会に知られる機会はほとんどなかった。
27)
家族の提言 として、訪問型や24時間・365日の相談支援体
制の実現、本人の希望にそった個別支援体制の確立、家族
Ⅰ本編,3-Ⅱワークブック編 FPE・家族心理教育プロ
グラム,日本精神障害者リハビリテーション学会,916,7-10.
に対して適切な情報提供がされることなど 7 つの提言がされ
6) 心理教育実施・普及ガイドライン・ツールキット研究会
ている。これらを通して、家族の置かれている状況と家族
大島巌・福井里江編集(2011)
.心理社会的介入プログ
が支援を受けるための根拠を明確にし、これまで懸命に努力
ラム実施・普及ガイドラインに基づく 心理教育の立ち
してきた家族の実態に基づいた家族支援システムの構築
28)
が急務と考えられる。家族支援システムは一施設や団体の
活動では限界があり、政策としての支援体制の確立も今後
重要と考える。このような家族支援サービスの実現のた
上げ方・進め方ツールキットⅠ[本編] ,域精神保健福
祉機構(コンボ)
, 2-11.
7) 福井里江(2011)
.家族心理教育による家族支援.精神
障害とリハビリテーション.15(2)
,167-171.
め、政策としての支援体制確立の根拠となりうる研究を積
8) 前掲6)
,8.
み重ねていく必要性がある。
9 ) カ タ ナ ・ ブ ラ ウン , パト リ シ ア ・ デ ィ ー ガ ン , メア
リー・エレン・コープランド他(2012)
.リカバリー―
希望をもたらすエンパワーメントモデル, 金剛出版, 13-
Ⅴ.おわりに
33.
今回の研究により地域におけるFPE実践の充実、家族の
リカバリーを引き出す地域における家族支援の重要性が示
10) 佐藤純(2014)
.英国の精神保健福祉分野における介護
者支援の概要, みんなねっと,85,7‐13.
唆された。しかし、本研究は1施設における実践であり、対
11) 全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)
(2014)
.グ
象者も少ないため結果の一般化には限界がある。今後、実
レイン・ファッデン.ファミリーワーク(英国訪問家
践とその結果の積み重ねが必要と考える。
族支援)について.みんなねっと,85,14-21.
本研究は、平成25年度公益財団法人 阪本精神疾患研究財
団 医学研究助成(研究代表者 塚田尚子)の支援により実
施いたしました。関係者の方々におかれましてはこの場を
12) 出後藤雅博,伊藤順一郎編(2008)
.現代のエスプリ489
「統合失調症の家族心理教育」
,至文堂.
13) Murray-Swank AB et al(2004)
.Family psychoeducation
Kanto Gakuin University Journal of Nursing Vol.2, No.1, pp.11-20, 2015 19
EBPに基づく家族心理教育による家族支援
as an evidence-based practice. CNS Spectr, 9(12), 905-12.
14) Pitschel-Walz et a1 ( 2001 ). The Effect of Family
Interventions
on
Relapse
and
Rehospitalization
能性,星和書店,43-56.
21) 藤田博一,下寺信次(2012)
.認知・行動療法と家族療
in
法の併用と治療効果.臨床精神医学, 41(8)
, 1017-1022.
Schizophienia-A Metaanalysis. Schizophrenia Bulletin, 27
22) 大島巌(2010).なぜ家族支援か「援助者としての家
(1)
, 73-92.
族」支援から「生活者としての家族」支援,そして家
15) Dixon L et al(2000)
.Update on Family Psychoeducation
族のリカバリー支援へ 精神科臨床サービス, 星和書店,
for Schizophrenia. Schizophrenia Bulletin, 26(1)
, 5-20.
10(3), 278-283.
16) 前掲5),13-90.
23) 前掲22), 1017-1022.
17) 伊藤順一郎監修,心理教育実施・普及ガイドライン・
24) 白石弘巳(2010)
.統合失調症からの回復を支える-心
ツールキット研究会 大島巌・福井里江編集(2009)
.
理教育・地域生活支援・パートナーシップ,星和書
心理社会的介入プログラム実施・普及ガイドラインに
基づく 心理教育の立ち上げ方・進め方ツールキットⅡ
店,79-86.
25) 後藤雅博(2012)
.家族心理教育から地域精神保健福祉
[研修テキスト編] ,域精神保健福祉機構(コンボ)
.
まで システム・家族・コミュニティを診る,金剛出
18) 前掲6), 1-135.
版,166-174.
19) 伊藤順一郎監修(2012)
.改訂版じょうずな対処・今日
から明日へ
病気・くすり・くらし,域精神保健福祉
機構(コンボ)
.
26) 前掲1) , 30-49.
27) 前掲27) ,300-310.
28) 西尾雅明(2007)
.地域生活支援における心理教育の可
20) 西尾雅明(2007)
.地域生活支援における心理教育の可
能性,星和書店,43-56.
Abstract
The family support by family psycho education based on EBP
in community mental disabled facilities
Shigeki Uchiyama
1)
Naoko Tsukada
2)
Takako Sakuraba
3)
Kanto Gakuin University School of Nursing
2)
Totsuka nishiguchi Rindo Clinic
3)
Yokohama life support center Nishi for peple with mental disorders
1)
The aim of this study was to use qualitative methods to reveal the change in the feeling of
empowerment in families of individuals with mental illness (“patients” below) through participation
in FPE (Family Psycho Education) programs. Subjects of the study were drawn from families who
make regular use of regional assisted living centers supporting patients. Of those family members
who participated in all seven FPE programs, six agreed to participate. Note that this study was
conducted with the approval of the biological research ethics committee of which the investigators
are members. The study found that the average age of the subjects was 62.8 years, the average
length of treatment for the patients was 16.4 years, and all subjects were parents of the patients and
lived with them at home. Through qualitative analysis of interviews as well as verbal comments
during FPE programs, eight categories and 27 subcategories were identified, including [engaging
with patient after difficult times], [realizing changes in the minds of family members], and [the
importance of confronting the patient]. This study has revealed the families’ change in empowerment
through FPE, brought awareness to the families’ efforts, and given them a positive attitude towards
the patients’ quality of life. Going forward, it will be important to further support the recovery of
families of those who live with mental illness.
Key Words:Evidence-Based Practices, Family Psycho Education, Family support
Empowerment, Recovery
20 関東学院大学看護学雑誌 Vol.2, No.1, pp.11-20, 2015