TMI 中国最新法令情報 ―(2015 年 1 月号)―

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TMI 中国最新法令情報
―(2015 年 1 月号)―
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皆様には、日頃より弊事務所へのご厚情を賜り誠にありがとうございます。
お客様の中国ビジネスのご参考までに、「TMI 中国最新法令情報」をお届けします。記事
の内容やテーマについてご要望やご質問がございましたら、ご遠慮なく弊事務所へご連絡下
さい。バックナンバーについては、弊事務所のウェブサイトに掲載させていただきますので、
併せてご利用下さい。(http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/china/index.html)
目次
一.中国最新法令
1. 中央法規
(1) 国家税務総局による工商営業許可証、組織機構コード証及び税務登記証「三証合一」
の改革に関する若干の意見
(2) 食品安全抜取検査管理弁法
(3) 消費者権益侵害行為処罰弁法
(4) 工業情報化部による中国(上海)自由貿易試験区におけるオンラインデータ処理・取
引処理業務(経営類電子商取引)の外資持分比率制限の撤廃に関する通告
二.連載
中国企業法実務/第七弾:労働法(第 4 回
労働契約の終了)
三.中国法務の現場より
1.15 日以内の短期出張でもビザが必要か
2.「外国投資法」意見募集稿―本格的な国民待遇へ向けて
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一.中国最新法令(2014 年 12 月中旬~2015 年 1 月中旬公布分)
1.中央法規
(1) 国家税務総局による工商営業許可証、組織機構コード証及び税務登記証「三証合一」
に関する改革の若干の意見 1
国家税務総局
2014 年 12 月 18 日公布
同日施行
① 背景
中国で有限責任会社(外商投資企業を含む。)又は株式会社を設立する場合、工商行政
管理局から「営業許可証」を取得した後に、会社所在地の質量監督検験検疫局から「組
織機構コード証」を取得し、税務局で「税務登記証」を取得する等の会社設立の付随的
な手続が必要とされている。営業許可証、組織機構コード証及び税務登記証の発行は、
それぞれ異なる官庁が管轄しており、各申請手続が煩雑で申請時の提出書類が重複する
うえ、各官庁の要求が矛盾する等の問題点が以前から指摘されている。この点に関し、
国務院は、行政による市場への過度な干渉を撤廃することを目的の一つとして、昨年 6
月 4 日に「市場公平競争の促進及び市場正常秩序の維持に関する若干の意見」2を公布し
た。同意見二(市場参入の緩和)、(四)では、行政手続の簡素化、手続に要する時間の
短縮を目指し、営業許可証、組織機構コード証及び税務登記証の「三証合一」登記制度
の導入検討を勧告していた
国家税務総局は、上記の国務院意見の徹底周知並びに営業許可証、組織機構コード証
及び税務登記証の「三証合一」の制度改革を推進するために、昨年末に「三証合一」の
改革意見を公布した。今後は、国家税務総局が、工商行政管理局及び質量監督検験検疫
局と連携して、国務院が推奨する「三証合一」の実現に向かった改革を行うことが予想
される。
「三証合一」が実現できれば、中国での会社設立手続が簡素化され、効率化され
るものと期待が寄せられている。
② 主な内容
意見の基本方針部分では、
「三証合一」改革の基本方針は、
「三証聯弁」
(三つの証書の
共同申請)を強力に推し進め、「一証三号」(一つの証書に三つの番号)を積極的に模索
し、最終的に「一証一号」
(一つの証書に一つの番号)による管理を実現するとされてい
る(第 1 条)。
意見では、
「三証聯弁」について、工商行政管理部門、質量監督検験検疫部門、国税部
門、地税部門が、営業許可証、組織機構コード証及び税務登記証に関する手続を共同で
行うために、一つの窓口で申請資料を受理した後に、各部門が各自の権限の範囲内で審
査、登記を行い、三つの証書を作成して受付窓口に集約し、受付窓口が一回で三つの証
書を申請者に発行すると定義している。また、
「一証三号」については、工商行政管理部
門、質量監督検験検疫部門、国税部門、地税部門が共同で営業許可証、組織機構コード
1
《国家税务总局关于推进工商营业执照、组织机构代码证和税务登记证“三证合一”改革的若干意见》(税总发
[2014]152 号)
2
《国务院关于促进市场公平竞争维护市场正常秩序的若干意见》(国发[2014]20 号)
2
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証及び税務登記証に番号を付し、申請者に三つの証書の番号を有する証書を発行すると
定義している(「三証聯弁」と「一証三号」の違いは、「三証聯弁」の場合は三つの証書
を発行することに対し、
「一証三号」の場合は受付窓口が申請者に一つの証書のみ発行す
ることにある。)。
(2) 食品安全抜取検査管理弁法3
国家食品薬品監督管理総局
2014 年 12 月 31 日公布
2015 年 2 月 1 日施行
① 背景
食品安全抜取検査業務を規範化し、食品安全監督管理を強化し、公衆の健康及び生命
の安全を保障することを目的として、昨年 9 月に「食品安全抜取検査管理弁法」
(以下「管
理弁法」という。)が国家食品薬品監督管理総局の局務会議で承認された。管理弁法は、
同年 12 月 31 日に総局第 11 号令で正式に公布され、今年 2 月 1 日から施行することにな
った。管理弁法は、7 章 53 条から構成され、食品安全抜取検査の原則(第 1 条から第 9
条)、計画(第 10 条から第 13 条)、抜取り(第 14 条から第 23 条)、検査(第 24 条から
第 38 条)、処理(第 39 条から第 44 条)、法的責任(第 45 条から第 49 条)等の内容につ
いて詳細に定めている。
② 主な内容
管理弁法は、食品の生産・経営者は、食品安全の一次的な責任者の義務を負い、法に
従い食品薬品監督管理部門が実施する食品安全抜取検査の業務に協力しなければならな
いとした上で(第 4 条)、抜取検査員が食品の生産・経営者の違法行為を発見した場合、
生産若しくは経営する食品及び原料を合法的に入手していない場合、又は正当な理由な
く食品抜取検査を拒否した場合、管轄権を有する食品薬品監督管理部門に報告して処理
すると規定している(第 23 条)。
また、管理弁法によれば、以下の食品は食品安全抜取検査業務計画の重点とされる(第
13 条)。
(a) リスクが高く、汚染水準が上昇傾向を呈する食品
(b) 流通範囲が広く、消費量が多く、又は消費者クレームの多い食品
(c) リスク測定、監督検査、集中摘発、事案調査、事故調査、応急処置等の業務によ
り比較的大きな潜在的リスクがあることが明らかとなった食品
(d) 幼児、妊婦、老人等特定の人々の食用に供する主食又は補助食品
(e) 学校及び保育園・幼稚園機構の食堂並びに観光地の飲食サービス企業、配膳セン
ター、団体飲食配膳企業が経営に関わる食品
(f) 関係部門が公布する非食用違法添加物質を含有するおそれのある食品
(g) 国外で健康に危害を与え、かつ国内で危害が及ぶおそれのあることを証明できる
食品
(h) その他抜取検査業務の重点とすべき食品
さらに、管理弁法では、食品の生産・経営者による管理弁法違反時の法的責任を定め
ており、食品の生産・経営者が、抜取検査員が提示する食品安全監督抜取書類への署名
3
《食品安全抽样检验管理办法》(国家食品药品监督管理总局令第 11 号)
3
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又は押印を拒否した場合(第 45 条)、食品の生産・経営者が抜取検査対象サンプルの真
実性について書面異議申立を行う際に、虚偽の証明資料を提供した場合(第 46 条)、並
びに食品薬品監督管理部門が問題となる食品の在庫差押え、生産・販売及び使用の停止、
リコール等の措置を命じ、食品の生産・経営者がこれらの履行を拒否し、又は履行遅滞
した場合(第 47 条)は、食品薬品監督管理部門は情状により警告若しくは 3 万元以下の
過料に処し、又はこれらを併科すると規定している。
(3) 消費者権益侵害行為処罰弁法4
国家工商行政管理総局
2015 年 1 月 5 日公布
2015 年 3 月 15 日施行
① 背景
2013 年 10 月 25 日に、全国人民代表大会常務理事会第 5 回会議で「全国人民代表大会
常務委員会による『消費者権益保護法』の修正に関する決定」 5が承認され、昨年 3 月
15 日から、2013 年改正後の消費者権益保護法(以下「消費者保護法」という。)が施行
された。消費者保護法の第 7 章では、同法違反の罰則を定めている。また、今年 1 月 5
日に国家工商行政管理総局が公布した「消費者権益侵害行為処罰弁法」
(以下「処罰弁法」
という。)は、消費者保護法における経営者の義務をより具体化し、経営者による法定義
務の不履行について、相応の処罰措置及び行政処罰の原則とプロセスを明確に定めてい
る。昨年 3 月 15 日(中国の消費者権益保護日)に施行となった改正後の消費者保護法及
び今年の消費者権益保護日から施行する予定の処罰弁法は、共に経営者の法的義務及び
義務違反時の処罰の明確化、消費者保護の制度改善等の面で一般的に評価されている。
② 主な内容
ア
消費者の個人情報保護
消費者個人情報保護関連規定の導入は、2013 年改正版の消費者保護法で大きく評価
されたポイントであり、処罰弁法ではこの点を更に明確に定めている。具体的には、
経営者が消費者の個人情報を収集して使用する場合、適法性、正当性、必要性の原則
に従い、収集・使用する情報の目的、方法及び範囲を明示し、消費者の同意を得なけ
ればならない。また、経営者には、以下の行為をしてはならない(処罰弁法第 11 条第
1 項)。
(a) 消費者の同意を得ずに消費者の個人情報を収集し、使用する行為
(b) 収集した消費者の個人情報を他者に漏えい、販売又は違法に提供する行為
(c) 消費者の同意若しくは要求がなく、又は消費者が明確に拒否しているにもかかわ
らず、商業情報を送り付ける行為
「個人情報」の意義については、消費者保護法では明確に定義されていないが、処
罰弁法では、
「経営者が提供商品又はサービス活動の過程で収集した消費者の氏名、性
別、職業、生年月日、身分証明証の番号、住所、連絡先、収入及び財産状況、健康状
況、消費状況等、単独で又は他の情報と照合して消費者を識別できる情報」と定義し
ている(第 11 条第 2 項)。この定義は、工業情報化部が 2013 年に公布した「電信及び
4
5
《侵害消费者权益行为处罚办法》(国家工商行政管理总局令第 73 号)
《全国人民代表大会常务委员会关于修改<中华人民共和国消费者权益保护法>的决定》(主席令第 7 号)
4
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インターネットユーザー個人情報保護規定」 6の個人情報の定義 7よりも広範なもので
あると思われ、消費者保護の面のみならず、中国における個人情報保護の制度改善に
おいても重要な意義があると思われる。
イ
約款、通知、声明、店頭告示
また、処罰弁法では、経営者が約款、通知、声明、店頭告示等を使用して消費者に
商品又はサービスを提供する場合、明確な方法で消費者に重大な利害関係を有する内
容を消費者に注意喚起し、消費者の要求に応じて説明を行わなければならず、また以
下の内容を含む規定を設けてはならないとされている(第 12 条)。
(a) 経営者が提供する商品又はサービスに対して負担すべき修理、やり直し、交換、
返品、商品数量の補充、商品又はサービス代金の返金、損害賠償等の責任を免除
し、又は一部免除する規定
(b) 消費者による修理、交換、返品、損害賠償及び違約金又はその他合理的賠償権利
の要求を排除し、又は制限する規定
(c) 消費者による法に従ったクレーム、告発又は訴訟提起の権利を排除し、又は制限
する規定
(d) 自ら提供し、又は指定する経営者が提供する商品又はサービスの購入又は使用に
ついて消費者に強要し、又は手口を変えて強要し、不合理な条件を受け入れない
消費者に対して関連する商品又はサービスの提供を拒否し、又は代金を引き上げ
る規定
(e) 経営者が契約を任意に変更又は解除でき、消費者による法に従った契約変更又は
解除の権利を制限する規定
(f) 経営者が一方的な解釈権又は最終解釈権を有する旨の規定
(g) その他消費者にとって不公平、不合理な規定
(4) 工業情報化部による中国(上海)自由貿易試験区におけるオンラインデータ処理及び
取引処理業務(経営類電子商取引)の外資持分比率制限の撤廃に関する通告8
工業情報化部
2015 年 1 月 13 日公布
同日施行
① 背景
「中華人民共和国電信条例」第 8 条第 1 項によると、電信業務は、基礎電信業務及び
付加価値電信業務に分類されており、その具体的区分は、
「電信業務分類目録」に列挙さ
れている。現時点では、中国当局が公布した「電信業務分類目録(2003 年改定)」9が電
信業務の区分に関する最新の目録である。同目録では、基礎電信業務を第一類基礎電信
6
《电信和互联网用户个人信息保护规定》(工业和信息化部令第 24 号)
「ユーザー個人情報」の定義について、同規定第 4 条では「電信業務経営者及びインターネット情報サービ
ス提供者がサービスを提供する過程において収集したユーザーの氏名、出生年月日、身分証明書の番号、住
所、電話番号、アカウント名、パスワード等、単独で又はその他の情報と結合することによってユーザーを
識別できる情報、及びユーザーがサービスを利用した時間、場所等の情報」と定めている。
8
《工业和信息化部关于在中国(上海)自由贸易试验区放开在线数据处理与交易处理业务(经营类电子商务)
外资股权比例限制的通告》(工业和信息化部)
9
「情報産業部による『電信業務分類目録』の調整に関する通知(2003)」(旧情報産業部が 2003 年 2 月 21
日に公布、2003 年 4 月 1 日に施行開始)
7
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業務及び第二類基礎電信業務 10に、付加価値電信業務を第一類付加価値電信業務及び第
二類付加価値電信業務 11に分類している。
従来、外国投資者が中国国内の電信業務に投資する場合、
「外商投資電信企業管理規定
(2008 年改定)」12の関連規定に従わなければならなかった。そして、同管理規定 6 条に
よれば、基礎電信業務(但し、ポケットベル業務を除く。)を行う外商投資電信企業の外
国側投資者の企業における出資比率は、最終的に 49%を超えてはならず(1 項)、付加価
値電信業務及び基礎電信業務におけるポケットベル業務を行う外商投資電信企業の外国
側投資者の企業における出資比率は、最終的に 50%を超えてはならないとされていた(2
項)。
もっとも、2013 年 9 月に中国(上海)自由貿易試験区 13(以下「自貿区」という。)が
設置され、その後自貿区内で一連の電信業務関連法規定 14の公布、施行により、付加価
値電信業務の 8 種類のうち、一部の業務に関して自貿区内の外商投資電信企業の投資比
率が 50%を超過することが認められるようになった。そして、本通告の公布により、自
貿区で登記された外商独資企業が従事できる付加価値電信業務は、a. オンラインデータ
処理及び取引処理業務、b. 国内マルチ通信サービス業務、c. 保存・伝送類業務、d. コ
ールセンター業務、e. インターネット接続サービス業務(業務範囲は自貿区内限定)の
5 種類へと拡大した。
10
同目録における「A. 基礎電信業務」の分類は、以下のとおりである。
第一類基礎電信業務
第二類基礎電信業務
(1)固定通信業務
(1)クラスター通信業務
(2)セルラー移動通信業務
(2)ポケットベル業務
(3)第一類衛星通信業務
(3)第二類衛星通信業務
(4)第一類データ通信業務
(4)第二類データ通信業務
(5)インターネット接続業務
(6)国内通信施設サービス業務
(7)ネットワーク委託業務
11
同目録における「B. 付加価値電信業務」の分類は、以下のとおりである。
第一類付加価値電信業務
第二類付加価値電信業務
(1)オンラインデータ処理及び取引処理業務
(1)保存・伝送類業務
(2)国内マルチ通信サービス業務
(2)コールセンター業務
(3)国内インターネット VPN 業務
(3)インターネット接続サービス業務
(4)インターネットデータセンター業務
(4)情報サービス業務
12
「外商投資電信企業管理規定(2008 年改定)」(国務院令第 534 号、2008 年 9 月 10 日改正・施行)
既存の上海市外高橋保税区、上海外高橋保税物流園区、上海洋山港保税港区、上海浦東空港総合保税区の
4 つの保税区(税関特別監督管理区域)を対象として設置された。
14
「国務院による『中国(上海)自由貿易試験区内で行政法規及び国務院文書規定の行政審査又は参入特別
管理措置を暫定的に調整する目録』に関する決定」
(2013 年 12 月 21 日、国発[2013]51 号)、「工業及び情報
化部、上海市人民政府による『中国(上海)自由貿易試験区における付加価値電信業務の更なる開放』に関
する意見」
(2014 年 1 月 6 日)、「中国(上海)自由貿易試験区における外商投資付加価値電信業務の経営試
行管理弁法」及び同政策解読(2014 年 4 月 15 日)
13
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「電信業務分類目録(2003 年改定)」によれば、
「オンラインデータ処理及び取引処理
業務」とは、各種通信網に接続するデータ及び取引・事務処理の応用プラットフォーム
を利用し、通信網を通じてユーザーにオンラインデータ処理及び取引・事務処理を提供
する業務のことをいい、取引処理業務、電子データ交換業務及びインターネット・電子
設備データ処理業務を含む。また、同目録は、取引処理業務には、各種銀行業務の処理、
株式売買、チケット売買、オークション商品の売買、料金支払等の業務を含むとし、
「電
子データ交換業務(EDI)」については、貿易又はその他行政上の事務に関する情報及び
データを、統一したフォーマットで事務処理データに形成し、通信網を通じて関係する
ユーザーのコンピューター間で交換及び自動処理を行い、貿易又はその他行政業務を完
成させる業務であると定義している。今回の規制緩和により、自貿区で登記された外商
独資企業がこれまでは中外合弁の企業形態でなければ従事できなかったネット販売プラ
ットフォームビジネス等の業種に独資で参入できるようになった。このような段階的な
市場開放と規制緩和に鑑みれば、中国の付加価値電信分野の全面的な開放も遠い未来の
話ではないと思われる。
② 主な内容
工業情報化部は、自貿区で試験的に「オンラインデータ処理及び取引処理業務(経営
類電子商取引)」に関する外資持分比率の制限を撤廃し、同種類の付加価値電信業務に投
資する外国資本の持分比率を 100%に引き上げることを認める。
(莊凌云・中国弁護士、中城由貴・弁護士)
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二.連載 中国企業法実務
第七弾:労働法(第 4 回/全 6 回)
第1回
2014 年 10 月号
労働契約
第2回
2014 年 11 月号
労働時間、休日・休暇
第3回
2014 年 12 月号
賃金、社会保険・福利
第4回
2015 年 1 月号
労働契約の終了
第5回
2015 年 2 月号
労務派遣
第6回
2015 年 3 月号
その他の問題
第4回
労働契約の終了
1.概要
本連載の第 4 回では、中国における労働契約の終了について紹介する。近年、経済成長
の減速や、人件費の増加等の影響で、会社のリストラや外資企業の現地法人の解散・清算
等により、現地の従業員との労働関係を終了するケースが多くある。労働契約の終了には
(a)契約期間の満了、(b)解雇、(c)合意解除という方法があるが、実際に会社が従業員との
労働契約を終了する際には、合意解除の内容や解雇の条件、手続等の面で様々な法律問題
が発生する。特に、経済的補償金の支給を伴う場合には、その算出方法等が問題となるこ
とが多い。
そこで、今回は、労働契約の期間について説明した上で、労働契約の合意解除及び解雇
制度並びに経済的補償金の支給及び算定方法に関して述べたい。
2.雇用期間と試用期間
(1) 試用期間の概念及び関連規定
試用期間とは、採用時に従業員としての適性を完全に見抜くことが困難であることに
鑑み、一定期間を設け、従業員と会社の相互理解を深め、当該期間中の勤務態度を観察・
評価する等して、最終的に従業員として雇用するかどうかを判断するための期間である。
労働法においては、6 か月を超えない範囲で試用期間を約定することが認められてい
る 15。また、試用期間中に使用者が一方的に労働契約を解除するには、いわゆる本採用
時とほぼ同一の要件を充足する必要がある上、試用期間において労働契約を解除する場
合、労働者に対してその理由を説明しなければならない 16。
(2) 雇用関係の差異
試用期間の雇用関係をいわゆる本採用後の雇用関係(試用期間経過後の雇用関係)と
比較した場合の差異は次のとおりである。
(a) 使用者は採用条件に適合しないことが証明できれば、
「試用期間中の解雇」が可能
15
16
労働法第 21 条
労働契約法第 21 条
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である。但し、解雇理由の説明が必要である 17。
(b) 労働者は理由の如何を問わず 3 日前に予告して労働契約を解除できる18。
(c) 試用期間中、使用者は労働者の賃金を本採用時の 80%を下限に減額できる。但し、
使用者所在地の最低賃金基準を下回ってはならない19。
(d) 試用期間の長さには制限がある20。
(e) 試用期間は雇い入れる時の 1 回のみしか設定できない21。
なお、試用期間も労働契約期間の一部であり 22、労働関係の法令が適用され、解除の
方法等も法定の要件及び手続に従うべきこと、社会保険料・住宅積立金の納付が必要で
あることに注意すべきである。
3.期間満了
(1) 労働契約の期間満了に際して必要な手続23
① 使用者
使用者は、労働契約の期間満了により労働契約を終了する場合、労働契約の終了に関
する証明を発行し、かつ、15 日以内に、労働者のために档案24及び社会保険関係の移転
手続を行わなければならない。また、使用者は、終了した労働契約書を、少なくとも 2
年間は調査に備えて保管する。
なお、使用者が労働契約法の関係規定に従い労働者に対して経済的補償金を支払わな
ければならない場合、業務の引継ぎが完了した時にこれを支払う。
② 労働者
労働者は、労働契約の期間満了により労働契約を終了する場合、双方の約定に従い、
業務の引継ぎを行わなければならない。
(2) 期間満了後による労働契約終了の例外25
法令の定めにより、労働契約の期間が満了しても労働契約が終了しない場合もある。
すなわち、一定の例外的な場合を除き、労働者の療養期間、妊娠期間、出産期間及び授
乳期間内に労働契約期間が満了した場合、使用者は、労働契約を終了させてはならず、
労働契約の期間は、療養期間、妊娠期間、出産期間及び授乳期間の満了時まで自動的に
延長されることになる。
また、従業員が業務上の事由によって後遺障害を負った場合には、その障害の程度に
応じて、労働災害保険に関する規定に従い処理される。
17
労働契約法第 21 条、第 39 条第 1 号
労働契約法第 37 条(本採用後は、労働者からの契約解除には 30 日前の通知が必要。)
19
労働契約法第 20 条
20
労働契約法第 19 条第 1 項、第 3 項(労働契約期間が 3 か月以上 1 年未満の場合には 1 か月まで、労働契約
期間が 1 年以上 3 年未満の場合には 2 か月まで、労働契約期間が 3 年以上又は期間の定めのない場合には、6
か月まで、それぞれ試用期間の設定が認められる。)
21
労働契約法第 19 条第 2 項
22
労働契約法第 19 条第 4 項
23
労働契約法第 50 条。これらは、労働契約解除の場合にも適用される。
24
所属する職場、機関又は団体の人事部門が保管する個人の身上調書、行状記録をいう。
25
労働契約法第 45 条
18
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(3) 労働契約の期間満了後も勤務を継続した場合
従業員が、労働契約の期間満了後も継続して勤務し、使用者も何の異議を示さなかっ
た場合、双方が元の条件で労働契約を継続して履行しているものとみなされる 26。
4.合意解除と解雇
(1) 合意解除
合意解除とは、労働契約法で規定されている労働契約の解除方法の一つであり 27、解
除理由の如何を問わず、使用者と労働者双方の合意に基づいて実施できる契約解除方法
である。解除の申し出は使用者、労働者のいずれから行うことも可能であるが、使用者
から申し出た場合には経済的補償金の支給が必要である(使用者から申し出た場合、労
働者の合意を得るために、法定基準より多めに支払うことがある。後記5.において詳
述する。) 28。
合意解除の特徴としては、①いかなる理由でも可能であること、②いつでも、直ちに
解除可能なこと、③使用者と労働者の合意に基づくことから、解雇に比して後に紛争に
発展する確率が低いこと、が挙げられる。
なお、将来の紛争を防止するという観点から、合意解除に際しては、その内容を明記
した書面を作成し、当事者の署名を残すことが重要である。
(2) 解雇
解雇とは、使用者の一方的な意思表示による労働契約の解除であり、解雇事由につい
ては労働契約法及び労働契約法実施条例等で規定されており 29、法定事由以外の事由に
基づく解雇は認められない。
例えば、
「態度が横柄」、
「上司の言動に批判的」という事由については、これらを直接
的な解雇事由として規定している法令がないため、それを理由とする解雇は認められな
いのが原則である。但し、
「態度が横柄」、
「上司の言動に批判的」の程度が著しく、その
結果「使用者の内部規定に著しく違反した場合」 30等の法定解雇事由に該当する場合に
は解雇することができる。しかし、実務上、「使用者の内部規定に著しく違反した場合」
を含めて、法定の解雇事由は包括的な要件となっており、実務上もこれらの要件に該当
するか否かの判断基準は必ずしも明確ではない。そのため、実務上は、使用者の就業規
則において、
「内部規則に著しく違反した場合」に該当する具体的なケースを例示列挙す
ることにより、解雇権の行使に関する法的安定性を確保すべきである。
(3) 不当解雇
使用者が法律、法規、労働契約の規定に違反し、正当な理由がなく一方的に労働契約
26
「労働紛争事件の審理における法律適用上の若干の問題に関する解釈」
(2001 年 4 月 16 日公布、同日施行)
第 16 条
27
労働契約法第 36 条:使用者と労働者は、協議により合意した場合、労働契約を解除することができる。
28
労働契約法第 46 条第 2 号
29
労働契約法第 36 条、第 39 条ないし第 41 条、労働契約法実施条例第 19 条
30
労働契約法第 39 条第 2 号
10
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を解除する不当解雇に関しては、労働契約法第 87 条では、「使用者は、本法の規定に違
反して労働契約を解除し、又は終了した場合、労働者に対して本法第 47 条に規定する経
済的補償金の基準の 2 倍に相当する賠償金を支払わなければならない。」とされている。
5.経済的補償金
(1) 経済的補償金の支給が必要となる場合
以下のいずれかに該当する場合、使用者は、労働者に対して経済的補償金を支払わな
ければならない31。
(a) 使用者が労働契約法第 38 条に定められた事由(労働者による予告を要しない解除
権が発生する事由) 32に該当し、労働者が労働契約を解除する場合
(b) 使用者が労働者に対して労働契約の解除を申し出て、かつ、労働者と協議により
合意して労働契約を解除する場合
(c) 労働契約法第 40 条に定められた事由(使用者による予告を要する解除権が発生す
る事由) 33に該当する事象が発生し、使用者が労働契約を解除する場合
(d) 使用者が労働契約法第 41 条第 1 項の規定34に従い労働契約を解除する場合
(e) 使用者が労働契約に約定する条件を維持し、又は引き上げて労働契約を更新する
場合において労働者が更新に同意しないときを除き、労働契約期間の満了により
期間の定めのある労働契約を終了する場合
31
労働契約法第 46 条
使用者が以下の事由のいすれか一に該当する場合、労働者は、労働契約を解除することができる。
(a) 労働契約の約定どおりに労働保護又は労働条件を提供しない場合
(b) 労働報酬を遅滞なく全額支払わない場合
(c) 法により労働者のために社会保険料を納付しない場合
(d) 使用者の内部規定が法律、法規の規定に違反し、労働者の権益を損なった場合
(e) 労働契約法第 26 条第 1 項に規定する事由により労働契約が無効となった場合
(f) 法律、行政法規に規定する労働者が労働契約を解除することができるその他の事由
また、使用者が暴力、脅迫若しくは不法に人身の自由を制限する手段を用いて労働者に労働を強要した場合
又は使用者の規則に違反した指揮若しくは危険な作業の強要により労働者の身体の安全が脅かされた場合、
労働者は、直ちに労働契約を解除することができ、使用者への事前通知は要しない。
33
以下の事由のいずれか一に該当する場合、使用者は、30 日前までに書面により労働者本人に通知し、又は
労働者に 1 か月分の賃金を別途支払った後、労働契約を解除することができる(労働契約法第 40 条)。
(a) 労働者が罹患し、又は業務外の理由により負傷した場合において、所定の療養期間の満了後に、元の業
務に従事することができず、かつ、使用者が別途手配した業務にも従事することができない場合
(b) 労働者が業務に堪えることができず、訓練又は職務の調整後も、業務になお堪えることができない場合
(c) 労働契約の締結時に根拠とした客観的状況に重大な変化が生じたことにより、労働契約を履行すること
ができなくなり、使用者と労働者が協議を経ても、労働契約の内容の変更について合意に達することができ
ない場合
34
以下の事由のいずれか一に該当する場合において、削減を要する人員が 20 人以上であるとき又は 20 人に
満たないが企業の従業員総数の 10%以上であるときは、使用者は、30 日前までに工会又は全従業員に対して
状況を説明し、工会又は全従業員の意見を聴取した後に、人員削減案を労働行政部門に報告して、人員を削
減することができる。
(a) 企業破産法の規定に従い会社再生を行う場合
(b) 生産経営に重大な困難が発生した場合
(c) 企業の生産転換、重大な技術革新又は経営方法の調整により、労働契約を変更した後に、なお人員削減
が必要な場合
(d) その他労働契約の締結時に根拠とした客観的経済状況に重大な変化が生じたことにより、労働契約を履
行することができなくなった場合
32
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(f) 使用者が法により破産を宣告及び使用者が営業許可証を取り消され、閉鎖を命じ
られ、取り消され、又は使用者が早期解散を決定したことにより労働契約が終了
する場合
(g) 法律、行政法規に規定するその他の事由
(2) 経済的補償金の算出方法
① 労働契約法に基づく算出方法
経済的補償金の算出方法に関しては、労働契約法第 47 条により、以下のルールが定め
られている。なお、労働契約法施行前から存続する労働契約を労働契約法の施行後に解
除し、又は終了する場合の特則は後述②のとおりである。
(a) 労働者の当該単位における勤務年数に基づき、満 1 年ごとに賃金の 1 か月分を基
準として、労働者に対して支払う。
(b) 当該単位における勤務期間が 6 か月以上 1 年未満の場合は、1 年として計算する。
(c) 当該単位における勤務期間が 6 か月に満たない場合は、労働者に対して賃金の半
月分に相当する経済的補償金を支払う。
(d) 労働者の月間賃金 35が、使用者が所在する直轄市、区を設ける市レベルの人民政府
が公表した当該地区における前年度の従業員月間平均賃金の 3 倍を上回る場合、
労働者に対する経済的補償金の支払基準は、従業員月間平均賃金の 3 倍に相当す
る額とする。労働者に対する経済的補償金の支払対象年数は、最高で 12 年を超え
ない。
上記に基づき、勤務期間が 1 年未満の場合、上記の基準に従って半月分又は 1 か月分
の賃金に相当する経済的補償金を支給すればよい。他方、勤務期間が 1 年を超え、かつ
1 年に満たない端数がある場合、この端数は別途計算される点に留意する必要がある。
例えば以下のように計算することとなる(2008 年以降に勤務を開始した場合)。
(a) 勤務期間が 1 年 3 か月の場合
勤務期間 1 年+3 か月=賃金 1 か月分+半月分=賃金 1.5 か月分
(b) 勤務期間が 2 年 10 か月の場合
勤務期間 2 年+10 か月=賃金 2 か月分+1 か月分=賃金 3 か月分
② 労働契約法施行前からの労働契約が同法施行後に終了する場合の特則
労働契約法の施行前 36から存続する労働契約を労働契約法の施行後に解除し、又は終
了する場合において、労働契約法第 46 条の規定に従い経済的補償金を支払わなければな
らないときは、経済的補償金の支払対象年数は、労働契約法の施行日から起算する。労
働契約法の施行前については、当時の関係規定(労働法第 28 条及び労働契約の違反及び
解除に関する補償弁法)に従い使用者が労働者に対して経済的補償金を支払わなければ
ならない場合、当該規定に従い実施する37。すなわち、2007 年 12 月 31 日までの労働期
35
36
37
労働者の労働契約解除又は終了前 12 か月の平均賃金を指す。
労働契約法の施行日は 2008 年 1 月 1 日である。
労働契約法第 97 条第 3 項
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間については、2008 年 1 月 1 日以降の労働期間とは区別して経済的補償金を算出するこ
ととなる。
具体的には、以下の基準に従って経済的補償金が支給される。
表1
労働契約法施行前の労働期間に係る経済的補償金の算出方法
契約の終了原因
支給基準
上限
労働契約当事者の合意により使
1 年を満たすごとに賃金 1 か月分
12 か月分
用者が契約を解除する場合
1 年未満の場合は賃金 1 か月分
労働者が仕事に耐えることがで
1 年を満たすごとに賃金 1 か月分
12 か月分
1 年を満たすごとに賃金 1 か月分
―
1 年を満たすごとに賃金 1 か月分
―
きない等の理由により使用者が
契約を解除する場合
客観的状況の変化により労働契
約の履行が不可能となり、使用者
が労働契約を解除する場合
使用者が破産に瀕して人員削減
を行う場合等
③ 算出基準のまとめ
上記の経済的補償金算出基準に従い、経済的補償金の算出基準をまとめると、表 2 の
とおりになる38。
表2
経済的補償金算出基準のまとめ
契約期間
2008 年 1 月 1 日以降
2007 年 12 月 31 日以前39
勤続年数
支払基準
1 年を満たすごとに
賃金 1 か月分
6 か月以上 1 年未満
賃金 1 か月分
6 か月未満
賃金半月分
1 年を満たすごとに
賃金 1 か月分
賃金 1 か月分
1 年未満
(但し、労働者との合意により使用
者が契約解除する場合に限る。)
[応用編]
平和的に労働契約を終了されるのは、使用者にとっても従業員にとっても望ましいこと
である。従業員は、使用者から従業員自身の正当な利益を守るため、また、使用者は、従
38
ここでいう「賃金」とは、当該従業員の賃金をいう。この 1 か月分の賃金は、基本給・各種手当・賞与・
残業手当・その他給与性のある収入等が含まれ、その労働者の契約解除前 12 か月間の平均月間給与額に従っ
て計算される。但し、勤務期間が 6 か月未満の場合、半月分の賃金を支払い、6 か月以上 1 年未満の場合、1
か月分の賃金を支払う。
39
労働契約の違反及び解除に関する経済補償弁法第 5 条及び第 7 条ないし第 9 条
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業員の無理な要求を全て鵜呑みにしないよう、労働契約を終了に関する国家レベルの法令
と各地方のローカルルールの内容を正確に把握することが重要である。
解雇について、前述のとおり、使用者の就業規則において、解雇事由を具体的に規定し、
解雇を巡る労働者との紛争を事前に防止することが重要である。
さらに、経済補償金に関しては、2008 年より前から勤務していた労働者に経済補償金
を支払う際に、その算出方法を 2008 年以前と以降を分けて正確に計算する必要がある点
には、特に注意が必要である。現地企業が、法令の知識が十分でない労働者に対して経済
補償金を支給せず、又は減額して支給するケースが発生しているが、この場合、労働行政
部門が期限を定めて経済的補償金を支払うよう命じ、期限を過ぎてもこれらを支払わない
場合は、支払うべき金額の 50%以上 100%以下の基準で労働者に対して賠償金を追加して
支払うよう使用者に命じることになるため 40、労働者の知識不足に付け入るような対応は
行うべきでない。
また、労働仲裁・裁判においては、使用者が主観的に就業規則違反と判断して解雇をし
た場合でも、就業規則の制定過程に瑕疵があったり、違反事実が証拠上明らかでなかった
りする等の理由により、解雇が違法と判断されることもある。そのため、就業規則(内部
規定)の制定については、本稿 2014 年 10 月号をご参考に、適切な内容を適切な手続で定
めて従業員に周知徹底を図るとともに、規則違反による解雇を行う場合には、規則に定め
られて手続を履践するとともに、書面にて関係する証拠を確保しておくことが、実務上重
要になる。
(崔俊・中国弁護士、中城由貴・弁護士)
三. 中国法務の現場より
1.15 日以内の短期出張でもビザが必要か
本年 1 月 1 日に「『短期業務完成のための外国人入国に関する処理手続(試行)』を公
布する通知」(人社部〔2014〕78 号。以下「78 号通知」という。)が施行されて以来、ビ
ザの要否をめぐる質問を多く受けるようになった。なかでも、「日本の親会社から中国国
内の支社・子会社・駐在員事務所に出張する場合、1 月 1 日以降もノービザで構わないか」
という質問を多く頂いたため、この場を借りて解説したい。
従来、公安部出入境管理局の通知(公境検〔2003〕1176号)に基づき、日本人が「観光、
商用、親族知人訪問或いは通過の目的」で中国に入国する場合、滞在日数が入国日から15
日間を超えない場合はビザが免除されてきた。ところが、78号通知において、「『中国国
内の支社・子会社・駐在員事務所に派遣され短期業務を完成させる』業務については、90
日以内であればMビザ(商用ビザ)、90日を超える滞在であればZビザ(就労ビザ)の取得
が必要」である旨が明記されたことから、15日以内の子会社等への出張においてビザが必
要かどうか悩んでおられる日系企業が多いようである。
40
労働契約法第 85 条
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78号通知には「短期業務を完成させる」の具体的定義が規定されておらず、15日以内の
ビザ免除期間の適用についても特に説明がされていないため、同通知から一義的な解釈を
引き出すことは難しい。各種報道や弁護士の発表したコメントにおいても見解が分かれて
いるようである。
この点、日本の中国大使館のウェブサイトによれば、現在でも「一般旅券を所持する日
本国民が、中国へ観光、商用、親族知人訪問或いは通過の目的で入国する場合、滞在日数
が15日以内であればビザが免除される。」旨が明記されている41。さらに、当職が日本の中
国大使館領事部に電話し、日本企業の中国子会社の総経理について、出張の際にビザが必
要かどうか尋ねてみたところ、即座に「日本人の場合、15日以内であれば、従来通りノー
ビザでOKです。」との回答が返ってきた。
ところが、北京市の人力資源社会保障
局のホットラインに電話で同じ質問をし
たところ、担当者は「1 月 1 日以降、78
号通知の施行によって、15 日以内の短期
出張であっても M ビザ(商用ビザ)の発
給が必須である。」と断言した。念のた
め、時間を空けて同局の他の担当者にも
(M ビザの例)
質問してみたところ、当該担当者は即座
に回答できなかったが、その上司に確認
した上で「日本人の15日以内の短期出張であっても、ノービザ入国は許されず、Mビザ(商
用ビザ)が必要である。」との回答があった。
以上のように、現時点においては、ビザ関連の担当部門間においても見解の一致が見ら
れないようだが、少なくとも北京市人力資源社会保障局においてノービザ入国が許されな
いと認識している担当者が複数いることには注意が必要であろう。
個人的には、子会社の総経理等が、年1回程度、わずか数日滞在する場合にビザを取得し
ていなかったとしても、ペナルティを受けるリスクは低いと考える。しかし、たとえ15日
以内であっても、頻繁にノービザの短期出張を繰り返している場合には、実質的な就業と
みなされ、将来、正式に居留許可を申請した場合に拒絶されるおそれがある。
このため、子会社の総経理等が中国への出張を繰り返す場合は、たとえ15日以内であっ
ても、Mビザを取得することをお勧めしたい 42(一定期間以内に多数回の出入国を認めるマ
ルチMビザが便利である)。本件について今後、適用基準が発表されるなど、当局の公式
見解が判明した場合は、追って当ニュースレターで最新情報を提供させて頂く予定である。
(野中信孝・弁護士)
41
日本語:http://www.china-embassy.or.jp/jpn/lsfu/hzqzyw/t938315.htm
中国語:http://www.china-embassy.or.jp/chn/lsfws/lsb/qz/t884935.htm
42
なお、78 号通知に規定された「中国国内の提携先のためにある種の技術、科学研究、管理、指導などの業
務を完成させる」、「映像撮影(広告映像、ドキュメンタリーを含む)」等の「短期業務任務の完成を目的」
とする業務を伴う場合は、Z ビザが必要となる。
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2.「外国投資法」意見募集稿―本格的な国民待遇へ向けて
1 月 19 日付で、商務部より、「中華人民共和国外国投資法(草案意見募集稿)」が発表
され43、2 月 17 日を締切としたパブコメに付された。
これは、外商投資企業の基本法である中外合弁経営企業法、外資企業法、中外合作経営
企業法のいわゆる三資企業法を廃止するものであり、外国企業の現地法人の実務を根本か
ら変更する、重要な法律の草案である。
同日付で公表された公式説明 44によれば、本草案は、①外国投資の基本法として組織形
式を問わない統一的管理をすること、②個別の審査認可制度を廃止し、外資参入の国民待
遇とネガティブリストによる管理を導入すること、③国家安全審査等の制度を整備するこ
と、④事前規制から事後チェックへの移行という 4 つの基本原則に基づく。
以下、現地法人の実務の観点から、留意が必要なポイントを挙げる。
(1) 会社法の全面的適用
三資企業法では、会社の設立・変更等の手続はもとより、企業統治についても会社法
とは異なる特別の規制がなされてきた。特に、中外合弁企業においては、株主会を置か
ず、各出資者が任命派遣する董事からなる董事会を最高意思決定機関としており、かつ、
定款変更、解散、増資・減資、合併・分割等の重大事項については、董事会の全会一致
事項とされ 45、会社法における資本多数決制度が制限されていた。
また、総経理・副総経理が他の会社の総経理・副総経理を兼任することの禁止 46という
ような独特の規制があり、1つの外国企業が中国各地に多数の独資会社や合弁会社を有す
る昨今においては、制度の硬直性が問題となっていた。
そこで、今後は、独資、合弁、内資の区別を問わず、会社法に基づく統一的な企業統
治体制を取ることができるようになり、特に多数の現地法人を有する企業にとっては、
朗報といえる。
そして、ネガティブリスト対象となる企業を除いては、原則として、経営期限や経営
範囲についても制限がなくなり、当事者が定款で自由に決定することができることにな
るので47、フレキシブルかつ迅速な経営が可能になる。
(2) 過渡期の対応
外国投資法が成立・発効した場合、既存の三資企業については、3年間の猶予期間が与
えられ、その間に会社法に基づき(組織形式によっては、組合企業法、個人独資企業法
に基づき)企業の組織形式と組織機構を変更することが必要になる 48。変更手続を行わず
に、自動的に変更されるわけではないため、注意が必要である。特に合弁企業において
は、企業運営の方法が大きく変わり、合弁相手方との交渉により合弁契約の内容を変更
することになるので、余裕をもって準備すべきである。
43
44
45
46
47
48
http://tfs.mofcom.gov.cn/article/as/201501/20150100871010.shtml
http://images.mofcom.gov.cn/tfs/201501/20150119165527079.docx
中外合弁経営企業法実施条例第 33 条
中外合弁経営企業法実施条例第 37 条第 4 項
草案第 156 条参照
草案第 157 条
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(3) 自主的管理強化の必要性
従来は、細かな定款変更をするにも、その都度、原則として商務部門における審査認
可が必要であるので、現地法人の各種事項の変更のためには、強制的に手続を行う必要
があった。今後は、事前規制から事後チェック制への移行に伴い、変更事項の事後報告49
と定期報告 50を行えば済むので、手続の負担は軽くなる一方、審査認可を経ずに、各種変
更を行うことができてしまうため、報告を忘れる可能性がある。事後チェック制の特徴
は、罰則を以て、報告を強制するものであるため51、うっかり報告を忘れて処罰を受ける
ことのないよう、自主的管理の強化が必要となる。
(4) 外資規制における実質主義導入の方向性
従来は、出資者が外国の主体であれば外商投資企業、中国国内の主体であれば内資企
業というように、形式的な分類・管理がなされていた。
これに対して、草案では、「外国投資者」の定義に、中国国籍を有しない自然人、他
の国や地区の法律により設立された企業等に加え、それらにコントロールされる国内企
業も外国投資者とみなすと規定し 52、「外国投資」の定義には、外国投資者が直接又は間
接に国内企業を設立し、国内企業の権益を取得すること等に加え、契約・信託等の方式
により国内企業をコントロールし、又は国内企業の権益を保有することも含むとした53。
他方、外国の法律により設立された企業がネガティブリストにより制限された範囲にお
いて投資する場合でも、当該外国の企業を中国投資者がコントロールする場合には、中
国投資者の投資とみなすとされた 54。
このように、形式ではなく、実質的に、誰がコントロールするかにより、外資規制の
対象となるかを決めようというのが草案の思想である。
そのため、この草案の思想によれば、これまで外資規制がある業種(電信業務等)に
おいて、形式的に内資企業に当該事業のライセンスを取らせて経営させるとともに、当
該内資企業及びその株主である中国人を契約で拘束して、実質的に外国投資者が当該事
業をコントロールし、外国投資者が別途設立した独資会社を通じて、その利益を吸い上
げるといういわゆるVIE55スキームについては、これまでは、形式主義により、規制業種
における外資規制を免れてきたものが、実質主義により、外資規制を受けることになる
恐れがある。この点、草案では、第158条で、特に「契約コントールの処理」という条項
を設けているが、その条文については、具体的な案を定めず、公式説明において一節を
割いて、複数の意見例を挙げて、どのような処理をするべきかを検討するとしている。
草案の思想と、公式説明で挙げられている例によれば、中国企業が、海外で上場する
手段として、VIEスキームを組んでいるような場合には、実質主義では外国投資に当たら
ないとして、従前どおり、外資規制を回避して事業を行うことができるのに対し、中国
49
50
51
52
53
54
55
草案第 89 条
草案第 92 条
草案第 147 条
草案第 11 条
草案第 15 条
草案第 45 条
Variable Interest Entities の略
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資本の入っていない外国企業が、外資規制を回避しつつ実質的に独資で規制業種の経営
をするためにVIEスキームを使うような場合には、実質主義により外国投資に当たるとし
て、外資規制を受けることになる可能性がある。
以上、外国投資法の草案には、重要な変更と重大な論点が含まれており、寄せられた意
見と今後の法案審議の過程で、草案の内容に修正が加えられる可能性が大いにあり、現段
階では、各論に対する確定的な判断はできないが、これまでの外国企業による中国投資の
在り方に大きな変更をもたらすことは確実であるため、注意して「外国投資法」の制定を
見守る必要がある。
(山根基宏・弁護士)
TMI 中国最新法令情報―2015 年 1 月号―
発
行:TMI 総合法律事務所
監
修:何連明・外国法事務弁護士
編集主幹:山根基宏、中城由貴・弁護士
発 行 日:2015 年 1 月 31 日
18
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