労働基準法

入門講義編
第 2 章
労働基準法
1 労働基準法とは
2 総則
3 労働契約
4 賃金
5 労働時間等
6 年少者・妊産婦
7 就業規則等
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第 2 章
1
労働基準法
労働基準法とは
労働基準法は、労働条件の最低基準を定めた、いわゆる労働者保護
法として昭和22年に制定され、労働契約、賃金、労働時間、休憩、休
日、年次有給休暇、年少者、妊産婦等、就業規則等に関して、使用者
が守らなければならない事項を定めています。
したがって、使用者が好き勝手に労働条件を決定することはできま
せん。すべて労働基準法に定められた基準以上で労働条件は決定され
なければなりません。また、たとえ労働基準法で定められている労働
条件の基準はクリアしていても、その基準は最低のものであるから、
この基準を理由に労働条件を低下させてはならないことはもとより、
その向上を図るように努めなければならないとされています。
過去問を見てみよう!
労働基準法は労働条件の最低基準を定めたものであり、この最低基
準が標準とならないように、同法は、この最低基準を理由として労働
条件を低下させることを禁止し、その向上を図るように努めることを
労働関係の当事者に義務づけている。
[H25-5B]
解答 〇
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第 2 章
労働基準法
2
総則
Link ▶ 必修テキスト 第1章 単元1
第2章 労働基準法
1
基本理念
労働基準法は、労働条件の最低の基準を設けることによって、使用
者にその基準を守ることを強制し、労働者を保護することを目的とし
ています。また、労働条件については、労働者と使用者が対等の立場
において決定すべきものとしています。
2
適用事業
労働基準法は、ほとんどすべての「事業(事業場)
」に適用されま
す。ここでいう「事業(事業場)
」は「会社」と同じではありません。
「事業」は、「場所単位の作業体」を意味する言葉ですので、例えば、
Aという会社の本店が東京都にあり、その支店が千葉県にあるような
場合は、その本店と支店は、別々の事業として労働基準法が適用され
ることになります。
ただし、ほとんどすべての事業に適用されるといっても、次に掲げ
るものについては、労働基準法を適用しないことになっています。
・同居の親族のみを使用する事業
・家事使用人
など
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3
労働者と使用者の定義
労働基準法において、「労働者」とは、使用者の指揮命令を受けて
労働を提供し、その対価(対償)として、賃金を支払われる者をいい
ます。「使用者」とは、事業主や法人の代表者、取締役などの経営担
当者に限らず、人事部長、総務課長など、その事業の労働者に関する
事項について、事業主のために行為をするすべての者をいいます。
過去問を見てみよう!
労働基準法に定める「使用者」とは、事業主又は事業の経営担当者
その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為
をする管理監督者以上の者をいう。
[H24-4D]
解答 ×
「使用者」とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働
者に関する事項について、事業主のために行為をする「すべての者」
をいいます。
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第 2 章
3
労働基準法
労働契約
Link ▶ 必修テキスト 第1章 単元2
第2章 労働基準法
1
労働契約
「労働契約」とは、労働者が使用者に労働を提供し、使用者がそれ
に対して賃金を支払うことを約束するものをいいます。
なお、労働基準法は労働条件の最低基準を定めたものですので、そ
の基準に達しない労働条件を定めた労働契約がある場合は、その達し
ない部分については無効となり、無効となった部分については、労働
基準法で定める基準まで引き上げることになります。
過去問を見てみよう!
労働基準法で定める基準に違反する労働条件を定める労働契約の部
分は、労働基準法で定める基準より労働者に有利なものも含めて、無
効となる。
[H21-2A]
解答 ×
労働基準法で定める基準を上回る労働条件(労働者に有利な労働条
件)を定めた部分は無効とはなりません。
2
契約期間
労働契約では、一般の正社員のように、特に契約期間を定めない場
合もありますが、契約社員やアルバイト等のように、「3箇月間働い
てもらう」などと、契約期間を定める場合があります。
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労働契約の期間を定める場合は、原則として3年以内の期間で定め
なければなりません。これは、使用者による労働者の人身拘束の弊害
を排除するために設けられている規制ですが、高度の専門的知識等を
必要とする業務に就く者や60歳以上の者については、このような弊
害が生じる余地も比較的少ないので、労働契約の期間を最長で5年間
とすることができます。
過去問を見てみよう!
使用者は、満60歳以上の労働者との間に、5年以内の契約期間の
労働契約を締結することができる。
[H25-6B]
解答 〇
3
労働条件の明示
使用者は、労働者と労働契約を締結するにあたって、重要な労働条
件については、労働者にきちんと明示しなければなりません。なお、
この明示事項には、必ず明示しなければならない絶対的明示事項と、
会社に定めがある場合には明示しなければならない相対的明示事項が
あります。
絶対的明示事項とその明示方法については、次の通りです。
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絶対的明示事項
明示方法
労働契約の期間に関する事項
期間の定めのある労働契約を更新する場合の
基準に関する事項※
就業場所及び従事すべき業務に関する事項
書面の交付
第2章 労働基準法
始業及び終業時刻、所定労働時間を超える労働
の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を
2組以上に分けて就業させる場合における就
業時転換に関する事項
賃金(臨時の賃金等を除きます。)の決定、計
算及び支払の方法、賃金の締切及び支払の時期
に関する事項
昇給に関する事項
書面の交付による明示でな
くてよい(口頭でも可)
退職に関する事項
書面の交付
※労働契約の期間満了後に当該労働契約を更新することがある場合に限ります。
4
退職時の証明
労働者が退職するにあたって、次の事項についての証明書を請求し
た場合は、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければなりません。な
お、この証明書は、労働者の次の就職を有利にするために交付するも
のですから、たとえ①∼⑤の事項であっても、労働者が請求していな
い事項まで記入してはいけません。
請求があった場合に証明書を交付しなければならない事項
①
使用期間
②
業務の種類
③
その事業における地位
④
賃金
⑤
退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)
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過去問を見てみよう!
使用者は、労働者が退職の場合において、使用期間、業務の種類、
その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場
合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合に
おいては、遅滞なくこれを交付しなければならない。
[H15-2D]
解答 〇
5
金品の返還
使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、遺族又は本人か
ら請求があった場合には、賃金支払日前であっても、7日以内に賃金
を支払うとともに、社内預金や所持品など労働者の権利に属する金品
を返還しなければなりません。ただし、退職金については、所定の支
払日に支払えば足ります。
6
解雇制限
「解雇」とは、労働契約を使用者側から一方的に解除することをい
いますが、使用者の思うままに解雇されてしまうと、労働者の生活が
困難となってしまうおそれがあります。
そこで、労働者の生活が脅かされることになるのが明白な状況下で
の解雇には、労働者保護の観点から、制限が加えられています。
⑴ 解雇制限期間
次の期間については、使用者は労働者を解雇することができません。
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労働者を解雇することができない期間(解雇制限期間)
①
労働者が仕事でケガをしたり病気になって、その療養のために休業して
いる期間及びその後30日間
②
女性労働者が産前産後の休業をしている期間及びその後30日間
⑵ 解雇制限の解除
第2章 労働基準法
次のような特殊的な場合であれば、解雇制限期間中であっても、労
働者を解雇することができます。
解雇制限期間中であっても解雇できる場合
①
仕事でケガをしたり病気になって、その療養のために3年以上休業して
いる労働者に1,200日分の日当(「平均賃金」といいます。
)を支払った
(
「打切補償」といいます。)場合
②
事業場が火災により焼失するなどのやむを得ない事由により事業の継続
が不可能となった場合であって、かつ、その事由について労働基準監督
署長の認定を受けた場合
7
解雇予告
⑴ 解雇予告と解雇予告手当
使用者は、労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前に
「解雇予告」といいます。
)をするか、又は30日分以上の
その予告(
「解雇予告手当」といいます。)を
日当(平均賃金)に相当する手当(
支払わなければなりません。また、解雇予告と解雇予告手当の支払の
手続は併用することができますので、仮に10日分の日当(平均賃金)
を支払うのであれば、20日前に予告することで足ります。
⑵ 解雇予告の除外
次の場合には、解雇予告等の手続を取らずに解雇することができま
す。
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解雇予告等の手続を取らずに解雇できる場合
①
事業場が火災により焼失するなどのやむを得ない事由により事業の継続
が不可能となった場合であって、かつ、その事由について労働基準監督
署長の認定を受けた場合
②
労働者が会社の金品を盗んだなどの労働者の責に帰すべき事由に基いて
解雇する場合であって、かつ、その事由について労働基準監督署長の認
定を受けた場合
過去問を見てみよう!
天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能とな
った場合においても、使用者は、労働基準法第20条所定の予告手当
を支払うことなく、労働者を即時に解雇しようとする場合には、行政
官庁の認定を受けなければならない。
[H23-3E]
解答 〇
⑶ 解雇予告の適用除外
次表の左欄に掲げた臨時的労働者についても、解雇予告等の手続を
取らずに解雇することができます。ただし、次表の右欄に記した期間
を超えて使用した場合は、これらの労働者であっても解雇予告等の手
続を取らなければ解雇できなくなります。
解雇予告の適用除外者
日日雇い入れられる者
2箇月以内の期間を定めて使用され
る者
季節的業務に4箇月以内の期間を定
めて使用される者
試の使用期間中の者
解雇予告が必要となる場合
1箇月を超えて引き続き使用される
に至った場合
所定の期間を超えて引き続き使用さ
れるに至った場合
14日を超えて引き続き使用されるに
至った場合
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