講義資料

財政学Ⅱ
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第2回
社会保障(1)社会保障の原理
2015年10月9日(金)
担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)
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社会保障の原理(1)
 社会保障:国民の生活を保障する財政の機能。大きく現物給付と現金給付からなる(スライド3)。
 現物給付:対人社会サービスを提供する。
 例:医療、介護、保育、職業訓練、障害者福祉、保健衛生
 現金給付:現金を提供する。
 現金給付はさらに、社会保険、社会手当、公的扶助からなる(スライド3)。
 社会保険:保険者が被保険者から社会保険料を徴収してプールしておき、被保険者のリスクが現実化した際にそこ
から給付金を支払う。
 保険者:保険制度を運営する主体
 被保険者:保険制度に加入する者
 例:公的年金、健康保険、介護保険
 民間企業も保険を運営するが、社会保険には強制性がある点が異なる。
 パターナリズムに基づく。
 社会手当:特定のカテゴリーを基準として給付対象者を特定し、必要な現金給付を行う。
 例:児童手当、特別障害者手当
 公的扶助:人々が最低生活を維持できなくなった際に、現金給付を行って救済する。
 生活保護
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社会保障の原理(2)
社会保障の体系
現物給付
社会保障
社会保険
現金給付
社会手当
公的扶助
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社会保障の原理(3)
 社会保障を実施する「三つの政府」
 中央政府:地方政府と社会保障基金が社会保障を実施できるよう、財源を保障する。
 地方政府:現物給付を行う。
 社会保障基金:現金給付を行う。
 各国による多様な社会保障制度のあり方を、エスピン=アンデルセンの「福祉レジーム」論により類型化
(スライド5)。
 「脱商品化」と「脱家族化」の二つの軸に基づく。
 脱商品化:高ければ、社会保障制度によって生活が保障される度合いが高い。
 脱家族化:高ければ、女性の就業率が高く、家族形態が多様化している。
 福祉レジームの四類型
 「社会民主主義」レジーム:社会保障給付が充実して脱商品化が進んでおり、女性の就業率が高く脱家族化が進んでいる。
 「保守主義」レジーム:社会保障給付が充実して脱商品化が進んでいるが、脱家族化の度合いは相対的に低い。
 「自由主義」レジーム:社会保障給付の水準が相対的に低く、脱商品化は進んでいないが、家事労働の市場化という形で脱家
族化が進んでいる。
 「家族主義」レジーム:社会保障給付の水準が相対的に低く、脱商品化が進んでいない上、女性の就業率が低く、脱家族化も
進んでいない。
社会保障の原理(4)
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「福祉レジーム」の多様性
脱家族化・高
社会民主主義
(北欧)
家族主義
(南欧・日本)
保守主義
(ドイツ・フランス)
出所:池上岳彦編『現代財政を学ぶ』225頁。
脱家族化・低
脱商品化・高
脱商品化・低
自由主義
(アメリカ・イギリス・カナダ)
社会保障の財源
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 社会保険料
 被保険者は社会保険料を保険者に支払うことによって、受給権を手に入れる。
 個別報償性原理に基づく。
 社会保険の主たる財源。
 しかし実際には、公費が財源の一部として投入されることがある。
 公費(国庫負担)
 基本的に租税から構成されるが、公債発行によって調達された資金も財源となる。
 社会保険料とは異なり、一般報償性原理に基づく。
 国民が負担する社会保険料の対GDP比を社会保障負担率、租税と社会保険料の合計額の対GDP比を国民負
担率と呼ぶ。
 租税負担率とあわせて、各国の福祉の充実度を測る指標となっている。
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世界における社会保障の歴史
 社会保障の萌芽は、1601年にイギリスで制定された、世界初の公的扶助制度であるエリザベス救貧法。
 当時は失業、疾病、貧困等は基本的に個人の責任とされ、こうした状況から人々を救うために、最低限の救済を国王
の恩恵により例外的に実施しようとするもの。
 19世紀になると資本主義経済が発展し、景気の変動によって労働者の大量失業が発生するようになり、労働
運動や社会主義運動が激化したため、これに対応するために社会保険制度が導入される。
 1883年のドイツで、世界初の社会保険制度である疾病保険がビスマルクによって導入される。
 1911年のイギリスで、世界初の失業保険が導入される。
 1919年にドイツのワイマール憲法で「人間に値する」生存を保障する社会権(生存権)が規定される。
 1942年のイギリスで、包括的な社会保障体系を提言したベヴァリッジ報告が提出される。
 「ゆりかごから墓場まで」の言葉で有名。
 1944年のILO(国際労働機関)第26回総会におけるフィラデルフィア宣言で、社会保障の国際的基準が定義
される。
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日本における社会保障の歴史
 日本の社会保障制度の萌芽は、1874(明治7)年の救恤規則。後に1929(昭和4)年の救護法に発展。
 戦前の社会保障制度として、1938年に国民健康保険が、1942年に労働者年金保険が導入される。
 戦後は日本国憲法第25条で生存権が規定されたこともあり、1946年に生活保護法が、1947年に労働者災害
補償法、失業保険法、児童福祉法が、1949年に身体障害者福祉法が制定される。
 1959年に国民健康保険法が全面改正されるとともに国民年金法が制定され、1961年までに全国民に医療保
険と公的年金制度を適用する仕組みが整う(国民皆保険・皆年金)。
 1973年に老人医療費の無料化、公的年金における給付水準大幅引き上げ、物価スライド制の導入が実施さ
れる(福祉元年)。
 2000(平成12)年に介護保険制度が導入される。