<第 12 号>平成 27 年 4 月 15 日 湘南養護学校 支援連携部 相談支援係 ―教師編ー 相談支援係の活動の紹介 相談支援係では、毎週金曜日の午後にメンバーが集まって児童生徒の情報を交換したり、ケース検討 や児童生徒の様子を観察したりしています。今年度もこの相談支援つうしんを通して、校内の実践や支 援教育に関する情報、文献の紹介などを行っていきます。校内にあるたくさんの優れた取り組みを皆さ んで存分に共有しながら、一緒に学びあえたらと考えています。よろしくお願いします。 校内の風景から~PECS の実践~ 本校では、PECS(絵カード交換式コミュニケーションシステム、通称ペクスと読みます)を用いたコ ミュニケーションの発信を伸ばす取り組みが多く導入されています。今回は、昨年度の小学部 2 年生の 取り組みをご紹介します。 A 君は言葉の発信は単語レベルで、語彙も数えるほどの児童です。普段は言葉を使ってやり取りする ことはほとんど見られません。そこで、1 年生のころから PECS を導入し、カードで意思を表出するこ とから始めました。A 君の場合、すぐに自発的に目の前に準備されたカードで意思を表出することがで きるようになったので(フェイズⅠ) 、フェイズⅡの段階に移行しカードが目の前になくても自分で取っ てきて要求を伝えられるよう指導しました。2 年生では、さらなるレベルアップを図って給食の場面も 活用して発信する力を伸ばしていきました。以下に、その経過について記述します。 ① 最初は好きなものを人の分まで食べようとしていた A 君 大食漢の A 君にとって、食事*は要求が強く出やすい場面です。そこで、 この気持ちを上手く利用して適切な意思表出スキルの獲得を図りました。 *食べ物は生得的な強化子で、特別に学習させる必要なく使いやすいという利点があります。 ② まずは、食べたいものの絵カードを教員に渡せるようになりました。 欲しいメニューにマッチングしたカードを間違えることなく確実に選べ るようになりました(フェイズⅢ)。やはり、本人にとって重要な状況を設 定すると、動機づけは高くカードの弁別をすぐにできるようになりました。 ③ 教員の注目を引くために肩をトントンと叩けるようにしました。 自閉症の子どもで他者意識の低い子どもの場合、他者を通して思いを叶えることが大切です。なぜな ら、自分の要求を大人が叶えてくれることを期待するという機会は、脳の社会性を司る機能を向上させ るという研究報告があります(「自閉症スペクトラムの子どもへの感覚・運動アプローチ 入門 p.145」 職員室前 ロッカー所蔵) 。この学年では、そのことを踏まえた上で給食指導の場面を余すことなく活用して社会的コ ミュニケーションの力を伸ばす指導がされていました。 言われたことはよく理解していても、適切に発信できない子どもがいます。かんし ゃくを起こすことが多い子どもも、ペクスで自分の意思を表出できるようになること で心理的な安定をもたらすことができます。情緒面の課題をコミュニケーションの視 点から捉えてみると、手立ての窓口が広がります。 ④ 文カードを使って、意思を表出する。 何 で す か? 「(先生の肩をトントン) ○○せんせい ごはん を ください」と複数枚の カードを自分で貼って意思を表出できるようになりました。 絵カードを渡されたら、必ず褒めて一 緒に文カードを確認した後に要求に 応えます。※助詞のをは、文カードに最 初から貼ってあります。 文カード(ベルクロでカードを貼ります) ⑤ 最終的には、文カードに貼った絵カードを声を出して読みながら意思を表出するようになりました。 PECS を使うと言葉を発しなくなるのではないかと心配される保護者がいます。PECS を活用する自 閉症の方で話し言葉がない人がいるのは確かですが、PECS を用いることによって話さなくなるという 因果関係を示す証拠はありません。むしろ、PECS は話し言葉への橋渡しをする機能を持つことが指摘 されています (「自閉症児と絵カードでコミュニケーション PECS と AAC」p.130-133 職員室前のロッカー所蔵)。 A君も PECS がなければ単語レベルの発信ですが、PECS を用いれば 3 語文の発信ができます。 その後、A君は「○○せんせい ごはん と おかず を ください」と目的語を 2 つ使えるよう指導中の ところで 2 年生を終えました。ちなみに、彼の面白いところは、給食前に教室でその日のメニューを確 認して、自分がおかわりしたいもののカードを予め選んで自分で食堂にもっていくところです。そのた め、カードを持っていくのを忘れてしまった時は、当然おかわりができなくなってしまうのです。 ~強化子の話~ こ うし 強化子(好子とも言います)には、いくつかの種類があります。食べ物は食餌性(しょくじせい)強 化子といって大きな力を発揮しますが、いつもそればかりに頼ることはできません。かといって、褒め られることの意味がまだ十分に分からない子どもにとっては、褒められるといった社会的強化子の力は とても弱いです、そこで、社会的強化子を食餌性強化子に組み合わせることで、社会的強化子の効果を 上げていきます。A君の例で言えば、要求されたものを与える直前に、 「よくできたね!」などと褒めるよ うにします。要求→おかわりから、要求→褒める→おかわりのように賞賛を間に挟むことで「賞賛=お かわりと同じで嬉しい」という学習が成立します。この順番を間違って先に要求に応えてしまうと、食 べておいしいという経験が先行し、褒められて嬉しいという学習が成立しにくくなります。下の表をも とに、児童生徒に提示する強化子の種類やレベル、組み合わせを確認してみてください。 分類 一次性強化子 二次性強化子 1. カテゴリー 食餌性強化子 食べ物、飲み物 2. 感覚性強化子 視覚、聴覚、触覚、嗅覚、筋運動感覚 3. 具体物(物的)強化子 シール、賞状 4. A)特権強化子 キャプテンの称号、宿題の免除 B)活動性強化子 遊び、特別なイベント 5. 般性強化子 トークン、ポイント、お金、他の強化子との連合 6. 社会的強化子 笑顔、言葉かけ、賞賛 「はじめての応用行動分析 例 ポール A アルバート他 二瓶社 強化子は、外発的動機づけ の手段としてより高次のも のと組み合わせます。徐々 に「頑張るぞ!」という内発 的動機づけにつなげること を見通して活用します。 2004」より抜粋
© Copyright 2024 ExpyDoc