市民ボランティアのサイエンスショー企画

大阪市立科学館研究報告 25, 185 - 192 (2015)
市民ボランティアのサイエンスショー企画
木村 友美 * , 斎藤 吉彦 **
概 要
大 阪 市 立 科 学 館 の市 民 ボランティアが笹 川 科 学 研 究 助 成 によりサイエンスショーを企 画 し、2 つのテ
ーマについて活 動 した。その内 容 と、市 民 ボランティアの意識の変化を報告する。
1.はじめに 
順調に事業が成長しているが、これらは学芸員が企画
近 年 、国 および自 治 体 の財 政 状 況 の悪 化 に伴 い、
した テーマで、 学 芸 員 の 実 演 指 導 に よる も の であ る 。
当 館 は予 算 ・人 員 の削 減 が続 き、年 々運 営 が困 難 な
学 芸 員 の指 導 は限 界 に近 いので、これ以 上 の事 業 の
状況になってきており、パフォーマンスの維 持 も限界に
発 展 を期 待 するのは困 難 である。市 民 ボランティアの
近い。しかしながら、今 以 上 の科 学 技 術 創 造 立 国に貢
主体的意識をさらに成長させることが課題である。
献 することが期 待 されている。この期 待 に応 えるひとつ
の方法が、市民参 画 型 科 学 館の実 現 である。
安上がりの人材として、安 直 にボランティアの活用が
語 られることがしばしばあるが、このような方 法 では、ボ
ランティアの成 長 を促 すの は難 しく、事 業 発 展 を期 待
そこで、市 民ボランティアが科 学 実 験 デモンストレー
ションの企 画 に携 わることで、主 体 的 意 識 の 向 上 を試
みた。内容は次のとおりである。
(1) 意識調査1
サイエンスショー企 画 を経 験 する前 の市 民 ボランテ
することはできない。事 業 が発 展 するためには、ボラン
ィアの意識をアンケート調査。
ティア自 身 が受 け身 ではなく、事 業 の主 体 となって活
(2) 実験アイテムの収集と定例会の開催
躍 することが必 須 であろう。当 館 ではサイエンスショー
がこのモデル事業になりうるものである。
①市 民ボランティアがインターネットや文献調査を
通じて実験アイテムを収集。
当館のサイエンスショー(約 30分 間の科 学 実 験のデ
② 毎 月 定 例 会 を 開 催 。 市 民 ボ ランティ アが 学 芸
モンストレーション)は日 に 3~4 回 実 施 され、年 間 見
員との議論を通して、自ら予 備実験を行いなが
学 者 は 8 万人と人 気 を博 している。これまで、学芸員
らサイエンスショー企画の作業をする場 とした。
が 3 カ月ごとに新 しいテーマを考 案し、実 演 してきたが、
平 成 20 年度からサイエンスショーを実 演する市民スタ
ッフの養 成を始め、現 在 では、市 民 ボランティアと学 芸
員 がサイエンスショーの実 演 を行 っている。また、サイ
エンスショーの合 間 に、エキストラ実 験ショーと称して市
民 ボランティアがサイエンスショーとは別 のテーマで実
演している。市民ボランティア 17 名の参 画 により、科学
実験のデモンストレーションは1日 7 回 実 施されることも
少 なくなくなっている。彼 らの中 には、全 国 から出 演 依
頼 を受 ける技 量 を持 つまでに成 長 したものも存 在 する。
(3) 見学・勉強会
大 阪 市 立 科 学 館 に 限 らず、広 く サイエンスショーを
知ることで思考の幅を広げ、動機を高める。
①オーストラリアの科学館 Questacon のワークショッ
プ(日本未来館 において実施)を視察 。
②科 学 の祭 典 (大 阪 大 会 、神 戸 大 会 、奈 良 大 会)
に出典 。
③サイエンスフェアリー(静 岡 科 学 館 る・く・るにおい
て実施)に参 加 。
④月 僧 秀 哉 氏 を招き、サイエンスショー企 画 等 につ
いて意見交換。
 *
大 阪 市 立 科 学 館 デモンストレーター
 **
大阪市立科学館
(4) 意 識 調 査 2
サイエンスショー企 画 の 経 験 後 の 主 体 的 意 識 の 向
上をアンケート調査する。
木村 友美 , 斎藤 吉彦
2 章で本研究の結 果を、3 章 以 下 でその詳 細につい
て述べる。
3.意識調 査
3-1.事前調査
サイエンス ショー企 画 を 始 める 前 の 4 月 6 日 に 記 入
2.研究結 果
式 のアンケートを実 施 した。その結 果 、非 常 に向 上 心
2-1.同胞意識の強 化
の強 いことが読 み取 れ、また、自 身 でサイエンスショー
事 前 の意 識 調 査 では、学 芸 員 に依 存 している実 態
を 企 画 し よ う と する 意 識 も 見 ら れ た 。 集 計 は 次 の と お
を読 み取 ることができず、一 方 で、科 学 館 が 求 める理
り。
想像に近づこうとする向 上 心 の強 いことが明 らかになっ
(1)1年間、サイエンスショーの実演をしていただくので
た。こ の1 年 間 、 彼 らの 議 論 は 学 芸 員 レベ ルに 迫 るも
すが、どのような目標を持っていますか?
のとなっている。彼 らは 常 に 実 演 とそのための 試 行 錯
【技量向上・内容充実(14名)、社会貢献(1名)】
誤を行っているので、これだけでも意 識 の向 上 はあると
(2)あなたにとって、サイエンスショーのやりがいはどの
思 われる。しかし、サイエンスショー企 画 による協 同 作
ようなことでしょうか?
業で、「実験の見 せ方 などでみんなが苦 労 していること
【聴 衆 の反 応 が良 かった時(9名)、聴 衆 とのインタラク
が 分 かり、ボ ランティア同 士 で学 芸 員 に 相 談 するほど
ションや楽 しさなどの共 有 ( 4名 )、演 示 者 自 身 の新 た
でもない些 細 なことも含 め、気 軽 に相 談 できるようにな
な発 見(2名)、サイエンスショーの企画・実 行が出 来る
った」などと同朋意 識 を強 め、それによって深 い議論が
事 (1名 )、サイエンスショーの経 験 が科 学 の分 野 以 外
可能となっているのも事 実である。
で生きた時(1名)】
(3)現 在 、みなさんに実 施 していただけるサイエンスシ
2-2.2 つのテーマ
当 初 、著 者 のひとり(斎 藤 )が風 船 と磁 石 のサイエン
ョーは10種 類 のパッケージが用 意 されています。これ
らについてどのように感じていますか?
スショー企画を想 定 して支 出 計 画を立 てた。これは、ボ
【満 足 (10 名 ) 、さ らに 増 やしてほ しい( 5 名 ) 、道 具 の
ランティアが企 画 しやすいものとして立 案 したのであっ
改善(1名)】
た。ところが、本 年 5月 にオーストラリアの科 学 館 、クエ
(4)サイエンス ショー実 演 に おいて、学 芸 員 が 準 備 し
スタコンで、ボランティア自 身 がサイエンスショーをする
たことや指導を越えて、自分なりの工夫はありますか?
ことになり、想 定 し ていた風 船 と磁 石 ではなく、光 をテ
【いつも心 がけている(7名)、ときどき(1名)、めったに
ーマにすることになった。そして、屈 折 率 のサイエンス
ない(1名 )、今 のメニューを消 化 するだけで精 一 杯 ( 5
ショーがほぼ完 成 し、また、学 芸 員 が制 作 した偏 光 の
名)】
サ イ エ ン ス シ ョ ー を 改 良 し 英 語 版 「 Visible Invisible
(5)今 後 、挑 戦 してみたいサイエンスショー、あるいは
Wonders」を制 作 した。前 者 は、油 とガラスの屈 折 率 が
実験ネタなどがありますか?
ほぼ同 じことで起 こる現 象 (油 の中 でガラスが消 えるな
【現存のパッケージ以外になし(6名)、現存のパッケー
ど)を見せるもので、大 阪 市 立 科 学 館 の 25 年 の歴 史
ジ以外にあり(9名)】
の中 で初 めて導 入 するもので、3 月 に大 阪 市 立 科 学
(6)(5)で「ある」の場 合、それを実 際にするには、どの
館で実 施された実 験 大 会 で実 演 したものである。後 者
ような準備が必要でしょうか?
は、既存のサイエンスショーの改 良 であるが、偏 光の原
【具体策あり(4名)、自分では無理(2名)】
理 説 明 の新 しい方 法 や、大 型 偏 光 版 の使 用 などの改
良 が加 えられている。そして、英 語 用 に実 験 の流 れや
パネルの新 規 制 作 がなされ、実 際 に科 学 館 で試 演 を
3-2.振り返り調査
2月 に 1 年 間 の 活 動 を 振 り 返 る 記 述 式 の アンケート
繰 り返 し、オーストラリア公 演 用 にほぼ仕 上 がっている。
を実 施 した。企 画 したサイエンスショーを実 演 したのは
さらに、翌 年はドイツ博 物 館 での公 演 もほぼ決 まり、英
3月で、このアンケートはその実施直前のものである。
語からドイツ語への同 時 通 訳などが検 討さている。
(1)現 在 、サイエンスショーの実 演 に 関 してどのような
次 の感 想 はサイエンスショー企 画 がさらに動 機 を高
めるものとなったことを示 唆している。
「今まで個 別に考 えてきた実 験 がストーリーになって
目標を持っていますか?
【技 量 向 上 ・内 容 充 実 (7名 )、サイエンスショーを作 る
(1名)、社会貢献(1名)、仕事・私生活の向上(1名)】
いく過 程 に感 動 しました。おもしろい実 験 だけどショー
(2)サイエンス ショー実 演 に おいて、学 芸 員 が 準 備 し
にはならないだろうと思 っていた実 験 が、あれよあれよ
たことや指 導を越えて、自 分 なりの工 夫を今までよりす
という間 に、ショーの中 の 1 実 験 になっていくのが見 て
るようになりましたか?
いてうれしかったです。」
【心 がけるようになった (4名)・変 わらない(1名) ・し
なくなった ・もともと行っている(2名)】
市民ボランティアのサイエンスショー企画
(3) この一年間で、他 館(他 演 示 者)のサイエンスショ
感 想 :ショーを作 るためにやっているのです
ーや実験ネタを調べたり、見 に行ったりしましたか?
が、自分たちがびっくりしたり、ワクワクしていま
【見に行った(6名)】
す。いいのかな?でも、本 人 が驚 いたり、楽 し
(4)(3)で「あった」の場 合 見 学 などによって自 分 の
かったりするものをお客 様に見ていただくのだ
サイエンスショーはどのように変 わりましたか?また、見
から OK!ですよね。
学や調査 で学んだ実 験 (演 示 )に対 しての感 想があれ
12/27
クエスタコン相談会
ば、ここへどうぞ(一 言 で構いません)
1/10
今 まで作 成 してきた実 験 内 容 の確 認 。実 験
【参 考 になった(4名 )、演 示 について深 く考 えるように
大 会 出場のための相談 会 。次 回サイエンスシ
なった(5名 )、企 画 の難 しさを知 った(2名 )、サイエン
ョー「飛ばしてみよう」を議論
スショーの自 己 評 価 (3名 )、新 しいサイエンスショーの
2/1
実 験 大 会 出 場 のための準 備 。消 えるビーズ
手 法 を 考 案 した ( 1 名 ) 、企 画 の 協 同 察 業 の 楽 しさ ( 1
/油で消える実験など
名)】
感 想 :実 験 は楽 しいけれど、ショーにするとな
サイエンスショーに対 する考 えが深 化 しており、著 し
ると大変!あれもこれも見せたいけど、時 間は
い成 長 が見 られる。この成 長 は、事 前 調 査 で明 らかに
なったように、彼 らにはもともと非 常 に強 い向 上 心 があ
15 分です。収まらないよ~。
3/1
ったからと思われる。一 方 、アンケートの記 述 には「どん
な実 験 が 面 白 いのか 、デモストズのみんなで考 えるの
実 験 大 会 出 場 のための準 備 。サイエンスショ
ーの流れ確認。
3/14
はとても楽 しかった。老 若 男 女 ,価 値 観 の 違 う人 が 集
実 験 大 会 出 場 のための準 備 。流 れの確 認
や、実験道具の準備など最終調整を行った。
まると、いろんなアイデアが出 てきたと思 う」など、学 芸
員 が準 備 したサイエンスショー企 画 との因 果 関 係 を読
5.ボランティア企画のサイエンスショー
み取 れる 感 想 があり 、成 長 の機 会 を 提 供 したことも事
5-1.「わっ、消えた!わっ、見えた!」(屈折率 )
実であろう。
上 記 定 例 会 で検 討 を行 った実 験 項 目 を踏 まえ、科
学実験大会(3月 21 日に実施)で以下の項目につい
4.定 例 会
て実験を行った。
原 則 、毎 月 定 例 会 を実 施 し、サイエンスショーの企
画を推進した。詳 細は次のとおり。
①水とプランツボールの屈折 率
プランツボールとは植 物 栽 培 用 高 分 子 吸 水 球 のこ
4/6
サイエンスショー企 画 のキックオフ
とで、アクアボールなどの名 前 で100円 ショップで売 ら
5/10
Quesitacon の報 告 、発 電 とサラダオイルを使
れている。直径10~15mm ほどの既に吸水した柔らか
った屈折 率 のデモ実 験
なゼリー状の球体で、消臭ビーズとしても販売されてい
発 電 とサラダオイルを使 った屈 折 率 のデモ実
る。
6/1
験
7/5
このプランツボールは水に入れると図2のように、まる
サラダオイルとレーザー光 線 を使 った屈 折 率
で入 って いないか のように 消 え てしまう 。これは 、水 の
のデモ実 験
屈 折 率 とプランツボールの屈 折 率 がほぼ同 じであるた
め、光 の屈 折 が起 こらず、消 えたように見 えることが原
因である。
図1.定 例 会の様 子
10/5
光 の全 反 射 による実 験 (ペットボトルやビニー
ル袋内の絵が水に沈 めると消える)
11/1
発 電 の実 験 等 の話 題 。デモストデーの相 談
会
12/6
大水槽で予 備 実 験「消えるガラス」
油の中 で消 えるのは、耐 熱 ガラスが良 いこと。
底 が 分 厚 く なっ ている も の は 見 えや すい。丸
い容器の中に入れた方が消 えやすい。
図2.消えるプランツボール
プランツボールとビー玉 2個 が入っている(左)ところに、
水を加えるとビー玉のみ確認できる(右)。
木村 友美 , 斎藤 吉彦
大 会では水の中 にビー玉 とプランツボールを入れて
おいたものを用 意 し、あみじゃくしに受 けとると、ビー玉
だけが出てくると思いきや、あみじゃくしに大 量 のプラン
ツボールがあふれ出てくるという演 示 方 法 で行った。
③砂糖水とプランツボールの屈折率
光の性質「直進」・「反射」「屈折 」について説明を行
った後 、①、②の実 験 は 屈 折 率 の違 いにより起 こる現
また、説 明 の際 には、図 3のように米 とぎシェーカー
象 であることを説 明 した。①の発 展 系 の実 験として、プ
を用 いて行 った。 米 とぎシェ ーカーは 、簡 単 に 水 を 分
ランツボールを砂糖 水 に加 え観察を行った。水に砂 糖
離 ・混 合 することができるため、非 常 に有 用 であった。
溶かすことで屈 折 率 が変 化 し、ボールと屈 折 率が異 な
なおこれ らの 演 示 方 法 は「 女 性 サイエンス パフォーマ
るため、図5(右)のように溶液中では見えてしまう。
ー養成講座」の視 察 研 修 の成 果 でもある。
図5.砂糖水とプランツボール
プランツボールに水を加えたもの(左)と砂糖水を
加えたもの(右)
図3.米とぎシェーカーを使った演 示 方 法
水あり(左)と水を分 離 した状 態(右)
この砂 糖 水 の濃 度は濃いほど、プランツボールの存
在が際 立って見やすくなった。実験 大 会では、演 示 時
②油と耐熱ガラスの屈 折 率
①と同様の実験 を油 と耐 熱 ガラス製 品 を用 いて行っ
た。ビーカーにサラダ油 を入 れ、そこに耐 熱 ガラス製品
間が限られていることもあり、濃い砂 糖 水をすぐに用 意
することが難 しかったので、市 販 のガムシロップを使 用
した。
を入れていくと、図 4のようにガラスがサラダ油 に溶けた
なお、この演 示を行うとボール内に砂 糖 水が浸 水す
かのように見 える。これも、サラダ油 の屈 折 率 と耐 熱 ガ
るため、長い時間経つとボールの存在が分 かりにくくな
ラスの屈折率がほぼ同 じであることによる。
ってしまう。そのため演 示 の 直 前 に 操 作 を 行 う 必 要 が
ある。またこの実 験 で使 用 した吸 水 性 ポリマーは再 利
用が難しいことが分かった。
④水と空気の屈折率
日 常 生 活 でもこの屈 折 率 の違 いに 起 因 する現 象 は
多 々ある。例 えば、水 を張 ったお椀 の中 に入 れたもの
が浮 き上 がって見 える、箸 を水 が入 ったお椀 に入 れる
と折 れ曲 がって見 える、水 深 が 浅 く見 えるなど の 現 象
である。これは、水 と空 気 の屈 折 率 が異 なることによ
る。
この現 象 の確 認 を実 験 大 会 内 でも行 った。5色 のビ
図4.サラダ油と耐 熱 ガラス
ニールテープをバケツ内面に横縞になるように貼った。
水 を入 れる前 には図 6(左 ) で示 すように赤 ・黄 色 しか
またガラス製 品 といって製 品 ごとに屈 折 率 に差 があ
るようで、サラダ油 に入 れても見 えてしまうものもあった。
見えていない。
しかしながら水 をバケツの口 摺 り切 りいっぱいまで注
その中 で耐 熱 ガラス製 品 が最 も油 に溶 けたように見 え
ぎ込むと、図6(右)に示すように黄色の下にも張り付け
た。また ガラスも 厚 みがある と見 えやす くなっ ていたた
てあるピンクや緑、そこに張 ってあった白色まで確認す
め、薄 いガラス製 品 のほうが良 いように感 じた。この演
ることができる。また、写 真のように、一つ一つのビニー
示 を行 う際 には、ガラス製 品 の選 択 も考 慮 すべきであ
ルテープの幅も狭くなっていることも確認できた。
ることが分かった。
この現 象 について、図 7を使 用 し、説 明 を行 った。水
市民ボランティアのサイエンスショー企画
がない場合には、バケツ底 付 近 に張ったテープは目に
のカメラで映していたため、最初から何 色があるかが分
届かないため見ることができない。しかし、水を入れると、
かってしまっていたためとの意 見 もあり、見 せ方 につい
水 面で屈 折 が起こるため、バケツ底 付 近 に張 ったテー
て再 考 した 上 で、観 客 の 反 応 の 確 認 を 行 う 必 要 性 が
プも浮 き上 がったように見 え、テープ間 の幅 も狭 まって
あると思われた。
見える。
⑤レーザーポインターを用いた屈折・全 反 射 現象の確
認
④で説 明 した内 容 を現 象 としてとらえるために、水 の
入った水 槽 にレーザー光を図 8のように水 面 で光 が折
れ曲がっているように見えるのを確認した。
図6.光の屈 折 による浮き上 がり効 果
水 を入 れる前 (左 )と水 をバケツの口 まで入 れた後
(右)
図8.レーザーポインターによる光の屈折の確認
次 に、水 の上 に、サラダ油 を積 層 した水 槽 を用 意 し、
サラダ 油 層 に レ ーザー光 を 差 し 入 れ 、図 9の よう に 全
反射現象が起こることを確認した。
図9.レーザーポインターによる全反射の確認
⑥光ファイバーと全反射
光の全反射の現象が使われている身近な例として、
光ファイバーがある。最 後 に LED 灯と光ファイバーを
使った光の花束で会場を彩り終演とした。
図7.光の屈折 による浮き上 がり効 果の説 明図
この実験は会 場 内 の位 置 によって見 え方 が変わって
しまうのではないかと懸 念 していたが、実 際 は、客 席 と
ステージとの角 度 は位 置 にかかわらず、ほぼ 20 度 前
後 であったため、本 会 場 では客 席 内 の 着 席 位 置 によ
図 10.使用した光の花束(左)と会場の様子(右)
る差 異はあまりなかった。この実 験 はシンプルではある
が、屈 折 という現 象 が非 常 に分 かりやすくデモンストレ
ーター同士の検討 時 にはとても好 評 であった。しかし、
実 際 の演 示 時 には、思 ったほどの反 応 を得 ることがで
きなかった。これは、本 大 会 では常 時 天 井 に備 え付 け
⑦その他
実 験 大 会 内 では 上 記 ①~⑥の項 目 を 実 施 したが、
制 限時間内の問題で割愛した演示項目もある。
その一つが、図 11 に示す光の全反射を用いた実験
である。
木村 友美 , 斎藤 吉彦
図 11のように、絵 を描 いた 紙 を チャック付 き袋 に 入
れ、水 槽 中 に沈 める。すると、ビニール表 面 で全 反 射
が起 こるため、紙 に書 いた 絵 を見 ることができない。こ
れは、見る角度を変 えることで、紙 の絵 が見 せたり見え
なくしたりすることができる。
ただしこの実 験 は、見 る角 度 によるためサイエンスシ
ョー会場で行うには、ひと工 夫が必 要 であろう。
図 13.検討の様子(左)と今回新たに作成した偏光ス
テンドクラス(右)
6.勉強会
9月 21日 に全 国 で活 躍 する月 僧 秀 哉 氏 (福 井 県 坂
井 市 立 三 国 中 学 校 )を 招 へいし、サイエンス ショーの
作成時や演示をするときに考えていることなどについて
ご指導いただいた。具体的 には、音のサイエンスショー
図 11.使用する道 具(左・中 )と全 反 射 の様 子(右)
の実 験 アイテムおよびその構 成 について意 見 交 換 し、
次のように強い刺激を受けた。
5-2.Visible Invisible Wonders(「見 える見 えないの
・
不思議」の英語版)
ショーをしているとなんとなく楽しくやれたらいいか
な?お客 さんが楽 しんでくれたらもういいか…とい
以 下 のような日 程 で、Questacon での公 演 に向 け、
う気 持 ちにもなる中で、伝えたいことや理 想 をしっ
準備・試演等を行った。
かりと 持 ち、それに 向 かっ て邁 進 され ている 姿 に
(1)Questacon とスカイプ会 議
感銘を受けました(木村)。
公演 内 容 等について打 ち合 わせを行 った(11月 24
・
人を惹きつける力とは、彼のような人を言うのかな
日に実施)。
と思 いました。実 験 道 具 ひとつひとつ工 夫 されて
(2)試 演
いて、でも簡単に出来てわかりやすいものが多く、
館 内 エキストラ実 験 ショー枠 で実 演 を行 った(11月 29
すごいと思いました(益)。
日 、11月 30日 、12月 14日 、1月 11日 に実 施 )。エキ
・
・ショーをするときの心 がけやお客 様を引き付ける
ストラ実 験 ショー枠 内 で正 式 に英 語 版 の実 験 ショーを
コツ、また、ショーを作 る手 掛 かりなど大 変 勉 強 に
行ったのは、これが初である。
なりました(林)。
図 12.試演の様 子(左)と使 用 した道 具(右)
(3)原理実験の考 案、試 演
偏 光 の 原 理 説 明 に つ いて 検 討 を 行 っ た( 1 2 月 1 6
図 14.勉強会の様子
7.科学の祭典 出典
①大阪大会
日に実施)。
(4)大型偏光板 による演 示 開 発
今 回 、大 型 偏 光 板 を新 たに購 入 し、偏 光 ステンドグ
ラスの更 新 及 び配 布 用 偏 光 板 の補 充 を行 った( 2月 8
8月23、24日にハービス HALL にて行われた大阪
大会に「作って鳴らそう!おもしろ楽器 !!」という工作教
室 で出 展 した 。音 が 鳴 る 仕 組 みの 演 示 実 験 とそ の 仕
組みを利用した工作品ストロンボーンを作成した。
日 以 降 順 次 実 施)。
以下は出展者の感想である。
・
ストロンボーンは簡単に作れてとても楽しんでいた
だけたのではないでしょうか。案 外 子どもたちのほ
うが上手な印象を受けました。(益)
・
ストローから音が出たときの子どもたちの笑顔はサ
イコーです。(林)
市民ボランティアのサイエンスショー企画
以下は出展者の感想である。
・
この大会には毎年 出展していたが、今回はサイエ
ンスショーを作るためという大きな目 標 を持ってい
たため、他団 体さんが出 展されている演 示等も見
せ方が構 想 の仕 方 等 も含 めしっかりと拝 見 するこ
とができました。(木村)
図 15.大 阪 大 会の様 子
8.視察研 修
8-1 .Questacon (オー ストラリア の科 学 館 ) のワーク
②神戸大会
ショップ
9月 6、7日 にバンドー神 戸 青 少 年 科 学 館 にて行 わ
4月27日 に日 本 科 学 未 来 館 で Questacon によるワ
れた神 戸 大 会 で「世 界 一 かんたんブーメラン」というス
ークショップが開かれたため、視察を行った。大 阪 の演
テージ演 示 で出展 した。エキストラ実 験 ショーでも演 示
示方法とは全く異なるものに強い刺激を受けた。
をしている項 目 だが、ブーメランが返 ってくる原 理 につ
いて実験を通じて理 解してもらうものである。
以下は出張者の感想である。
・
以下は出展者の感 想 である。
・
・
クエスタコンのショーは、大阪 市 立 科学館のショー
と 違 っ て、お客 さん ( 複 数 人 )を 舞 台 に 集 めて 参
ブーメランの演 示 で、たくさんの人 に見ていただい
加 させて遊 びながら楽 しんでもらう形 式 でした。ス
て楽しかったと言ってもらえました。(益)
タッフも大げさなジェスチャで盛り上げていました。
いつもやっている「ブーメラン」のショーですが、場
所が変わると大 変!(林)
(西原)
・
初 め て 海 外 の 方 の 演 示 を 拝 見 いた しま した 。 言
葉の壁・年齢の壁を乗り越える工夫が随所に施さ
れているだけでなく日 本 の子 どもたちとの距 離 の
縮 め方 を、回 を経 るごとに会 得 していくその対 応
力のすごさに圧倒されました。(木村)
・
現 象を見せるということではなく、体 験することをメ
インとしているようで参加型のサイエンスショーでし
た。何 かをすると何 かが起 こる?なんでだろう?と
いうような問 いかけで参 加 させるショーはとても新
図 16.神 戸 大 会の様 子
鮮 で した 。 不 思 議 だ ね? ち ょっ と やっ てみ る ?と
見 学 している人 達 を、子 供 、大 人 と関 係 なく巻 き
③奈良大会
込んでいき、最 終 的 には、見 学 している人 がみん
11月 22日に奈 良 教 育 大 学 にて行 われた奈 良大 会
な取り込まれていく様 子は、大阪 市 立 科学 館とは、
で「キラキラ光るミョウバンの結 晶 を作 ろう」というブース
真 逆なサイエンスショーの見 せ方で興味 深かった
出 展 を行 った。本 実 験 は、本 年 度 のジュニア科 学 クラ
です。(藤本)
ブでも実施した内 容 だが、モールにミョウバン結晶を析
出 させる実 験 を通 じて、結 晶 のでき方 について理 解 し
てもらうものである。
図 18.実験ショーの様子
8-2.女性サイエンスパフォーマー養成講座
図 17.奈 良 大 会の様 子
10月 17日 ~19日 に静 岡 科 学 館 る・く・るで開 かれ
た女 性 サイエンスパフォーマー養 成 講 座 へ参 加 した。
本 養 成 講 座 は女 性 スタッフを対 象とした研 修 で、概 ね
木村 友美 , 斎藤 吉彦
2年に1回程度開 かれている。
ョー作成企画にもチャレンジしていきたい。
参 加 レ ポ ート が ス タッ フ 間 で 回 覧 さ れ 、 そ の 中 に は
「対象年齢にあったサイエンスショーって何 ?『こんなこ
とが喜ばれる』って演 示 者 がかってに思 ってしまってい
謝辞
る危険はないか!!!』子どもには、子 ども向 けのわか
これ らの 活 動 はすべて科 学 デモンストレ ーターの 活
りやすいキャラクターや子 ども向 けの平 易 な言 葉 遣 い
動によるものです。すべての科 学 デモンストレーターの
が好まれる、という思 い込 みがあるのではないか。」など、
皆様にお礼申し上げます。
ハイイレベルな議 論 がなされており、獲 得 したものが共
有されており、非常 に有 益であったことが分かる。
以下は参加者の感 想 である。
・
見せ方 の工 夫 が大 切 だと改 めて知 りました。特に
手 の ひらに 消 臭 ビー ズが た くさ ん 出 てき た と き の
女 の 子 の表 情 が 素 晴 らしか ったです。あと、喋 っ
てばかりもだめ、見 せるだけでもだめやとも思 いま
した。(益)
・
久 保 さんから次 から次 へと、楽 しく不 思 議 で「どう
して?」っと考 える物 が出 てきて、頭 をひねりなが
ら「あっ!そうか!」大 阪 の子 どもたちにも見 せて
あげたいな!(林)
図 18.ワークショップの様 子
9.まとめ
主 な予 算 執 行 がテーマ設 定 後 となる研 究 計 画 であ
ったため、ボランティア個 人 個 人 が自 由 に調 査 する作
業 が 少 なかった。そのため、「最 初 のテーマ設 定 で自
分 の興 味 外 のテーマになってしまった人 にとっては参
加 動 機 が 薄 れ てしまった」 などと 、テー マ設 定 後 の 作
業が強 制 的 な印 象 を与 えたようで、参 加 者 が限 られた。
しかし、本 研 究 においてサイエンス シ ョー 企 画 の 基 盤
ができたので、ボランティア個 人 個 人 による調 査とテー
マ設定後の作業が同 時 進 行 可 能となっている。
しかしながら、ボランティアという立 場 上 、サイエンス
ショー作 成 に 費 や すことの できる 時 間 は 限 られている
中 で実 験 ショーまで作 り上 げていくのは難 しく、参 加 者
本人らの非常に積 極 的 な意 思 によって、2 つのサイエ
ンスショーの 作 成 を 行 うこと ができた。だがその 分 、参
加 者 らの 負 担 も 大 きく なっ ている 部 分 も 否 めない。本
年度は、2 つのサイエンスショーの作 成を行ったが、もう
少し時間をかけて進めていく必 要もあるように感じた。
今 回、本 調 査を行 うことでもともと高 かった意 識 及び
技 術 がさらに向 上 していることは明 らかである。今 後 は
先に述べたような問 題 点 を解 決 しながら、サイエンスシ
本 研 究 は、公 益 財 団 法 人 日 本 科 学 協 会 の笹 川 科
学 研 究 助 成 によって実 施 したものです。 この 場 を借 り
て篤く御礼申し上げます。