アルコール CVD 法を用いた 単層カーボンナノチューブ低温成長プロセス

アルコール CVD 法を用いた
単層カーボンナノチューブ低温成長プロセスの
開発とその成長機構の解明
種田
智
第 4 章 アルコールを用いた HFCVD 法による SWCNT 低温成長技術
はじめに
4.1
フィラメント材質による CNT 成長の変化
4.2
4.3
4.4
4.5
成長法の違いによる CNT 低温成長
各アルコール種に対する CNT 成長の依存性
アルコールの違いが C-HFCVD 法に与える影響
まとめ
4.6
参考文献
第4章
第4章
4.1
アルコールを用いた HFCVD 法による SWCNT 低温成長技術
はじめに
SWCNT は、
3 次元構造を有する電子デバイスのチャネル材料の有力な候補として、
非常に注目されている。しかし、現在のチャネル特性評価のための SWCNT デバイス
作製プロセスでは、3 次元構造デバイス作製は困難であり、ボトムアッププロセスを
デバイス作製プロセスに組み込む必要がある。第 1 章で述べたように、垂直型 SGFET
を作製する場合、電極金属上での SWCNT 成長が必要となる。しかしながら、現在の
CVD 法による SWCNT 成長は、ほとんどの場合 800ºC 以上の高温で行われている。
このような高温条件では、デバイス作製プロセス全体を見た場合、電極金属と CNT
成長の触媒金属がミキシングを起こし、その触媒能を失う、もしくはあらかじめ基板
修飾した構造がその熱により変化する事が十分に考えられ、その低温化は急務である。
そこで注目することは、SWCNT の低温成長技術である。現在の SWCNT の低温成
長技術は、原料の選定による低温化[4.1,2]と成長法による低温化[4.3,4]の 2 種類で、
大きく分類される。原料の選定による SWCNT の低温化は、従来広く用いられた炭化
水素よりも熱分解を容易に起こす、アルコールを用いる事で達成されつつあるが、欠
陥の少ない SWCNT 成長のためには 800ºC 程度の基板温度が必要である。また、成長
法による CNT 成長の低温化は、たとえば PECVD 法のような炭素原料が活性なプラズ
マ状態となったものを用いることで、MWCNT の低温成長が可能となっているが、プ
ラズマ中のイオン種による SWCNT のエッチングなどの影響により SWCNT の成長は
困難である。
そこで本研究では、PECVD 法と比較して基板へのダメージが少ないことが知られ
ている、HFCVD 法に着目した。現在までに、MWCNT の低温成長に HFCVD 法は使
われているが、SWCNT 低温成長という観点からの報告は、まだ少ない。しかし HFCVD
法を用いることで、炭化水素種を活性な状態にし、かつ SWCNT へのダメージを減ら
すことが可能と考えられ、SWCNT の低温成長化に可能性をもつ成長法である。
-48-
第4章
4.2
4.2.1
フィラメント材質による CNT 成長の変化
実験方法
p-Si(100)基板を化学洗浄した後、5 l/min の酸素雰囲気中、1000ºC、3 時間の熱酸化
により膜厚 100 nm の SiO2 層を、Co 拡散のバッファー層として作製した。その後、真
空チャンバ内(基底真空度: 2×10-5 Pa)に搬送した後に、試料表面に触媒として膜厚 0.5
nm の Co を蒸着(電子銃蒸着: 0.1 nm/min)した。Co を蒸着した試料を CNT 成長チャン
バ(基底真空度: <1×10-5 Pa)に搬送した後に、熱フィラメント CVD(hot-filament CVD:
HFCVD)による CNT 成長を行った。フィラメントとしては、W ワイヤまたは graphite
ロッドを用い、基板温度は 600ºC、700ºC、および 800ºC、W-または C-フィラメント
温度は 1500ºC、成長時間は 30 min であった。炭素供給源として C2H5OH を用い、キ
ャリアガスを用いずに C2H5OH を供給し、その成長時圧力は 110 Pa とした。
W-フィラメントは、W ワイヤ(純度: 99.9%、直径: 0.3 mm)を幅 15 mm の間で数回曲
げたものを、
C-フィラメントは graphite ロッド(純度: 99.5%、直径: 0.5 mm、長さ: 15 mm)
をそのまま用いた。これらのフィラメントを、ガス噴出口と基板の間で、基板から 30
mm 離れた位置に設置し CNT 成長を行った。
これらの試料について、SEM による試料表面観察、TEM およびラマン分光により
成長した物質の同定を行い、SWCNT の場合には直径分布や純度を見積もった。
4.2.2
HFCVD 法による成長物のフィラメント材料依存
炭化水素を炭素供給源とした場合に、通常フィラメントとして用いられる W ワイ
ヤ、そして新たなフィラメント材料候補として、C ロッドを用いた HFCVD 法による
CNT 成長を行い、その成長様式の違いを比較した。
図 4.1(a)は、フィラメントとして W ワイヤを用い、フィラメント温度 1500ºC、基板
温度 800ºC において、HFCVD 法で CNT の成長を行った試料表面の SEM 像である。
成長時間は 30 min、蒸着した Co 膜厚は 0.5 nm であった。CNT と考えられる構造体は
確認できず、非常に多くの他の堆積物が確認できる。図 4.1(a)で観察できる堆積物は、
10×10 nm2~50×50 nm2 と様々な大きさをもつことが確認でき、また注意深く観察する
ことにより、深さ方向に軸を持つ柱状の構造であることがわかった。
図 4.1(b)は図 4.1(a)の領域を、エネルギー分散型 X 線分光法(Energy Dispersive X-ray
-49-
第4章
(a)
100 nm
視野000_0000001
WMa SiKa
240
Intensity
y (arb. units)
(b)
210
Si
180
0
0.00
2
2.00
3.00
4
6
Energy (keV)
WO3[200]
4.00
5.00
keV
(c)
6.00
7.00
WLb
8
8.00
9.00
WLb2
WLl
CoKa
1.00
CoKb
WMr
30
0
W
WLa
CoLa
OKa
CKa
60
SiL2,3
90
W
WMz
C W W
O
120
CoLl
Counts
150
10
10.00
WO3{200}
0.38 nm
5 nm
図4.1
W-フィラメントを用いたHFCVD法における表面堆積物。
(a) 表面SEM像および(b) SEM観察領域におけるEDSスペク
トル、(c) 表面堆積物の高分解能TEM像。W-フィラメント
温度は1500ºC、基板温度は800ºC、成長時間は30 minであり
C2H5OHの成長時圧力は110 Pa。
-50-
第4章
Spectroscopy: EDS)による面分析を行うことで得た、X 線のエネルギースペクトルであ
る。Si、O、C、そして W に起因した強いピークが確認できる。ここで Co を触媒と
しアルコールを用いた CNT の成長プロセスを考えた場合、Si、O、Co、および C が
考えられる構成物質である。しかし、図 4.1(b)に示した EDS プロファイルでは、試料
表面の主な生成物に W が含まれている事が、明瞭にあらわれている。つまり、図 4.1(a)
において観察された堆積物は、W に起因したものと考えられる。図 4.1(c)に W-フィラ
メントを用いて CNT 成長プロセスを行った結果、試料表面に堆積した構造物の、高
分解能 TEM 像を示す。15 nm 程度の幅を持つ柱状構造が確認でき、d=0.38 nm の格子
縞が、明瞭に観察できる。図 4.1(b)に示した EDS プロファイルから、この構造体は W
に起因したものであると考えられ、また WO3 の(002)面の格子間隔が dWO3(002)=0.3838
nm であることから、この堆積物は WO3 であると推測できる。また、この高分解能
TEM 像から、WO3 は(002)方向に優先的に成長したナノロッドであると考えられる。
Li 等は空気中で酸化した W-フィラメントを用いることで、WO3 の融点 1473ºC よりも
低い、フィラメント温度が 1000ºC の場合であっても、Si 基板上に(002)方向に優先的
に成長した、WO3 ナノロッドを作製している[4.5]。今回の結果は、彼らの報告ともよ
い一致を示している。
次に、フィラメントの材料として graphite ロッドを用いた場合の結果を示す。図
4.2(a)に、W-フィラメントの替わりに C-フィラメントを用い、W-フィラメントを用い
た場合と同じ条件で CNT 成長を行った試料表面の SEM 像である。W-フィラメントを
用いた場合と違い、Co 微粒子と考えられる輝点と、細線状の構造物を確認できる。
図 4.2(b)に、この試料表面をラマン分光により観察し、得られたスペクトルを示す。
1590 cm-1 付近に大きな G-band、1350 cm-1 付近に小さな D-band、そして 100 cm-1~400
cm-1 の領域に多くの RBM ピークが観測され、典型的な SWCNT のラマンスペクトル
であることがわかる。すなわち、C-フィラメントを用いることで SWCNT の成長が可
能であることがわかる。これ以降、C-フィラメントを用いた HFCVD 法を C-HFCVD
法として進める。
図 4.3(a)~図 4.3(c)は、基板温度を 600ºC および 700ºC、そして先ほども示した 800ºC
において CNT 成長を行った試料表面の SEM 像である。いずれ場合においても、Co
微粒子と考えられる輝点、CNT と考えられる線状の構造物を確認できる。
-51-
第4章
(a)
100 nm
(b)
SWCNT diameter (nm)
2 1.5
15
1
励起光: 532 nm
Intensity (arb. u
units)
×7
Si
G/D=14
100
200
300
1300
1400
1500
1600
1700
Raman shift (cm-1)
図4 2
図4.2
C-フィラメントを用いたHFCVD法で成長した試料表面の観察。
C
フィラメントを用いたHFCVD法で成長した試料表面の観察
(a) 表面SEM像および(b) ラマンスペクトル。C-フィラメント温度
は1500ºC、基板温度は800ºC、成長時間は30 minでありC2H5OHの
成長時圧力は110 Pa。ラマン分光における励起光波長は532 nm。
-52-
第4章
(a)
100 nm
(b)
100 nm
(c)
100 nm
図4.3 C-HFCVD法において基板温度を変化させた試料表面の
SEM像。C-フィラメント温度は1500ºC、成長時間は30
minでありC2H5OHの成長時圧力は110 Pa。基板温度は
(a) 600ºC、(b) 700ºC、および(c) 800ºC。
-53-
第4章
図 4.4 はこれらの試料をラマン分光により観察し、得られたラマンスペクトルであ
る。いずれの基板温度においても 1590 cm-1 付近に強い G-band、1350 cm-1 付近に弱い
D-band、100 cm-1~400 cm-1 の領域に多くの RBM ピークが確認できる。つまり C-フィ
ラメントを用いることで、アルコール種を炭素供給源とした HFCVD 法においても、
SWCNT の成長が確認できた。しかし、後述する hot wall 型 CVD 法により成長した
SWCNT の成長量および他の研究グループから報告されているような熱 CVD 法によ
る CNT の成長量[4.6,7]と比較すると、同じ基板温度における SWCNT 成長量は少なく、
アルコールを活性な状態にし、効率よく SWCNT 成長をしているとはいえない。
ここで注目すべきことは、W-フィラメントを用いた場合には試料表面に Co 微粒子
が観察できなかったことに対して、C-フィラメントを用いた場合には Co 微粒子が試
料表面に確認できたことである。つまり、W-フィラメントを用いた場合には、触媒表
面が WO3 によって被覆されてしまい CNT 成長が進まなかったのに対して、C-フィラ
メントを用いた場合には、成長条件の最適化を図ることで、SWCNT 成長を促進でき
ると考えた。
4.2.3
フィラメント材料の違いによる反応の違い
炭化水素を炭素供給源として用いた HFCVD 法による CNT の成長においては、通
常熱フィラメントとしては W-フィラメントを用いる。CH4 や C2H4 などの炭化水素を
効率よく分解し、堆積物の成長を促進することが、CVD によるダイヤモンドおよび
CNT 成長において実証されているからである[4.8,9]。しかし、本章で行う実験のよう
に、炭素供給源としてアルコールを用いる場合、炭化水素を炭素供給源とした場合に
は起きなかった重大な問題が起こる。それはアルコール分子中に存在する酸素原子に
起因したフィラメントの酸化である。熱フィラメントは高温を維持する必要があり、
炭化水素の場合には 1300ºC 以上、原料の熱分解に十分な効果を発揮するためには
1500ºC 以上の温度が必要となる[4.10]。しかし WO3 の融点は 1473ºC と比較的低い。
Li 等の報告によると、フィラメント温度 950ºC~1000ºC においても WO3 ナノロッドの
形成が可能であるため[4.5]、CNT の成長中に高温に保っている W-フィラメントが酸
化した場合、タングステン酸化物の試料表面への堆積も十分に考えられる。
今回の実験の場合、W-フィラメントによって分解されたアルコール中の酸素に起因
-54-
第4章
SWCNT diameter (nm)
2 1.5
励起光: 532 nm
1
×4
Normalized in
ntensity
Si
Si
G/D=14
800ºC
Si
14
700ºC
6
100
200
300
1300
1400
1500
600ºC
1600
1700
Raman shift (cm-1)
図4.4 C-HFCVD法において基板温度を変化させた試料表面のラマン
スペクトル。C-フィラメント温度は1500ºC、成長時間は30 min
でありC2H5OHの成長時圧力は110 Pa。基板温度は600ºC、700ºC、
および800ºC ラ ン分光における励起光波長は532 nm。
および800ºC。ラマン分光における励起光波長は532
-55-
第4章
した分子またはイオン種など(例えば OH ラジカル)により、W-フィラメント表面が
CNT 成長プロセス中に酸化されたと考えられる。このとき、フィラメントは 1500ºC
という高温に保たれていたために、W-フィラメントから WO3 の蒸着という形で、非
常に多くのタングステン酸化物が試料表面に堆積し、試料表面にある Co 表面は完全
に被覆されてしまった。CNT 形成における触媒反応は Co 表面で起きるため、その表
面が完全に被覆されてしまった場合には、それ以上 CNT の成長が起きないと考えら
れる。つまり、炭素原料もしくは成長雰囲気によっては、HFCVD 法においてフィラ
メント材料の最適化が必要であるということがわかり、その代替材料として C-フィラ
メントは非常に有用であると考えられる。近年、スーパーグロース法と呼ばれる、微
量の H2O などの酸化剤を CNT 成長雰囲気に混入し、a-C を燃焼により除去すること
で高品質な SWCNT 成長を促進させる成長法が非常に注目されているが[4.11]、この
スーパーグロース法に低温成長技術の一つである HFCVD 法を組み合わせるような場
合にも、このようなフィラメント材料の最適化が必須と考えられる。
4.3
4.3.1
成長法の違いによる CNT 低温成長
実験方法
4.2 節と同様の手順で作製した 100 nm の SiO2 層上に蒸着した 0.5 nm の Co を触媒と
して、実験を行った。試料を石英製の hot wall 型 CVD 成長装置(基底真空度: <1×10-3 Pa)
または CNT 成長チャンバ(基底真空度: <1×10-5 Pa)に搬送した後に、hot wall 型 CVD、
cold wall 型 CVD、そして cold wall 型の C-HFCVD による CNT 成長を行った。まず、
4.2 節では行わなかった H2/N2 混合ガス雰囲気(H2:N2=3:97、流量: 100 sccm)での 500ºC、
30 min の熱処理を行い、Co 表面を還元した。その後、CH3OH をアルコール種として
CNT 成長を行った。基板温度は 500ºC、600ºC、700ºC、および 800ºC とし、成長時間
は 30 min であった。C-HFCVD 法の場合、C-フィラメント温度は 1700ºC で行った。
また、成長中はキャリアガスを用いずにアルコール種を導入し、成長雰囲気は 200 Pa
を保って実験を行った。
成長した CNT 試料について、SEM により CNT の垂直成長平均長さを、TEM やラ
マン分光により SWCNT の直径分布や純度を見積もった。
-56-
第4章
4.3.2
各種成長法による CNT 成長
CVD 法は大きく分けて 2 種類存在し、装置全体をヒーターなどで高温にする hot
wall 型 CVD 法と、試料のみを高温にし、可能な限り表面反応のみで成長を行う cold
wall 型 CVD 法がある。さらに cold wall 型 CVD 法にはさらに多くの成長法に分類が
可能であり、前節で説明した W-フィラメントもしくは C-フィラメントを用いた
HFCVD 法も cold wall 型 CVD 法の一つである。
図 4.5(a)~図 4.5(d)に hot wall 型 CVD 法、図 4.6(a)~図 4.6(d)に cold wall 型 CVD 法、
そして図 4.7(a)~図 4.7(d)に cold wall 型の C-HFCVD 法により 500ºC、600ºC、700ºC、
および 800ºC で成長した CNT の、断面 SEM 像を示す。いずれの断面 SEM 像におい
ても、CNT の成長が確認できる。また、後述するラマン分光の結果から、これらの
CNT は SWCNT であることが確認できた。また、図 4.5 に示した hot wall 型 CVD 法
により成長した SWCNT は基板温度 700ºC から、図 4.7 に示した C-HFCVD 法により
成長した SWCNT は基板温度 600ºC から、基板表面に対して垂直に成長している。し
かし hot wall 型 CVD 法および C-HFCVD 法のいずれにおいても、基板温度 800ºC にな
ると SWCNT は再び基板にランダムな成長となった。また図 4.6 に示した cold wall 型
CVD 法により成長した SWCNT は、いずれの基板温度においても基板表面に対して
ランダムな方向に成長している事が確認できる。今回観察された SWCNT の基板に対
する垂直成長は、高密度に成長した SWCNT が他の SWCNT との相互作用により横方
向の成長を阻害され、基板垂直方向に優先的に成長するために生じる。この垂直成長
のメカニズムおよび断面 SEM 像から観察できる SWCNT 成長様式から、hot wall 型
CVD 法および C-HFCVD 法において、基板温度 800ºC の CNT 成長の際、基板にラン
ダムな CNT 成長であった理由は、SWCNT 密度が低いためであると考えられる。つま
り断面 SEM 観察から、hot wall 型および cold wall 型 C-HFCVD 法では、基板温度 700ºC
までにおいて基板温度が高くなるにつれて、まず SWCNT の密度が多くなり、その後
CNT の垂直成長長さが長くなっていく。しかし基板温度がさらに高温になった場合、
再び SWCNT 密度が少なくなったと考えられる。一方、cold wall 型 CVD 法では、い
ずれの基板温度に対しても、垂直成長するほどに CNT の密度が多くなることはなか
ったが、その成長量は基板温度 700ºC をピークとして、一度増えた後に減っていくと
いう傾向が観察できる。このことから cold wall 型 CVD 法においても基板温度に対す
-57-
第4章
(a)
500 nm
(b)
500 nm
(c)
500 nm
(d)
500 nm
図4.5
hot wall型CVD法において基板温度を変化させた試料の断面SEM像。
500ºCで一度Coの還元を行い、CH3OHの成長時圧力は200 Pa、成長時間
は30 min
min、基板温度は(a)
基板温度は(a) 500ºC
500 C、(b)
(b) 600ºC
600 C、(c)
(c) 700ºC
700 C、および(d)
および(d) 800
800ºC
C。
-58-
第4章
(a)
300 nm
(b)
300 nm
(c)
300 nm
(d)
300 nm
図4.6
cold wall型CVD法において基板温度を変化させた試料の断面SEM像。
500ºCで一度Coの還元を行い、CH3OHの成長時圧力は200 Pa、成長時間
は30 min、基板温度は(a) 500ºC、(b) 600ºC、(c) 700ºC、および(d) 800ºC。
-59-
第4章
(a)
3 µm
(b)
3 µm
(c)
3 µm
(d)
3 µm
図4.7
C-HFCVD法において基板温度を変化させた試料の断面SEM像。
500ºCで一度Coの還元を行い、CH3OHの成長時圧力は200 Pa、
成長時間は30 min、C-フィラメント温度は1700ºC、基板温度は
(a) 500ºC、(b) 600ºC、(c) 700ºC、および(d) 800ºC。
-60-
第4章
る SWCNT の長さおよび密度変化は、hot wall 型 CVD 法および C-HFCVD 法と同様の
傾向があると考えられる。
図 4.8、図 4.9、および図 4.10 に、それぞれ hot wall 型 CVD 法、cold wall 型 CVD 法、
および C-HFCVD 法によって成長した CNT を、ラマン分光によって観察したスペク
トルを示す。いずれの成長法においても、1590 cm-1 に強い G-band、1350 cm-1 に弱い
D-band、そして基板温度 600ºC 付近から 100 cm-1~400 cm-1 の領域に多くの RBM ピー
クが確認でき、SWCNT が成長していることがわかる。特に C-HFCVD 法では、RBM
ピークが基板温度 500ºC においても観察でき、SWCNT の成長が確認できるため、他
の成長法と比較して低温においても SWCNT の成長が可能な成長法であるといえる。
図 4.11(a)~図 4.11(c)に、基板温度 600ºC、700ºC、および 800ºC に設定した成長プロセ
スで、CH3OH を流入する直前、すなわち CNT 成長直前でプロセスを終了した試料表
面の SEM 像を示す。いずれの SEM 像においても、凝集した Co が粒状となっている
ことが確認できる。図 4.11(a)~図 4.11(c)より見積もった Co の平均粒径および数密度
を表 4.1 に示す。Co の平均粒径は基板温度 700ºC と 800ºC の間で大きく変化し、また
その数密度も減少していることがわかる。触媒金属の粒径が CNT の成長に強く関わ
ることはよく知られており、hot wall 型、cold wall 型、そして C-HFCVD 法のいずれ
の場合にも起きた基板温度 800ºC での SWCNT の成長量の減少は、この Co の平均粒
径の増大と強く関連していることがわかる。Sato 等は、この 800ºC における CNT 成
長量の減少を、触媒金属の凝集とともにアルコール起因の OH ラジカルによるエッチ
ングが原因であると言っている[4.12]。4.4 節において詳しく説明するが、アルコール
起因の SWCNT の燃焼の影響を観察した場合、cold wall 型 CVD 法において OH ラジ
カルによるエッチングは考えなくてよいとわかる。しかし、図 4.7(b)および図 4.7(c)
から、本質的には OH ラジカルを多く生成しない cold wall 型 CVD 法においても、CNT
成長量の減少がみられる。このことから、OH ラジカルによるエッチングによる影響
と比較し、触媒金属の凝集による CNT 成長の抑制が主な要因であると考えられる。
以上より、C-HFCVD 法を用いることで、hot wall 型および cold wall 型 CVD 法と比
較して低い基板温度においても SWCNT の成長、特に基板に対する垂直成長が可能で
あることがわかった。
-61-
第4章
SWCNT diameter (nm)
2 1.5
×3
励起光: 532 nm
1
Normalized inteensity
Si
G/D=17
800ºC
15
700ºC
2
600ºC
Si
Si
500ºC
Not grown SWCNT
100
200
300
1300
1400
1500
1600
1700
Raman shift (cm-1)
図4.8
hot wall型CVD法において基板温度を変化させた試料のラマンスペクトル。
500ºCで一度Coの還元を行い、CH3OHの成長時圧力は200 Pa、成長時間は30
min、基板温度は500ºC、600ºC、700ºC、および800ºC。励起光波長は532 nm。
-62-
第4章
SWCNT diameter (nm)
2 1.5
励起光: 532 nm
1
×4
Si
Normalized in
ntensity
Si
Si
Si
G/D=17
800ºC
800
C
17
700ºC
5
600ºC
Not grown
100
200
300
1300
1400
1500
500ºC
1600
1700
Raman shift (cm-1)
図4.9
cold wall型CVD法において基板温度を変化させた試料のラマンスペクトル。
500ºCで一度Coの還元を行い、CH3OHの成長時圧力は200 Pa、成長時間は30
min、基板温度は500ºC、600ºC、700ºC、および800ºC。励起光波長は532 nm。
-63-
第4章
SWCNT diameter (nm)
2 1.5
励起光: 532 nm
1
×5
Normalized in
ntensity
Si
G/D=14
800ºC
9
700ºC
13
600ºC
600
C
3
500ºC
Si
100
200
300
1300
1400
1500
1600
1700
Raman shift (cm-1)
図4.10
C-HFCVD法において基板温度を変化させた試料のラマンスペクトル。
500ºCで一度Coの還元を行い、CH3OHの成長時圧力は200 Pa、成長時
間は30 minで、C-フィラメント温度は1700ºC、基板温度は500ºC、
600ºC、700ºC、および800ºC。励起光波長は532 nm。
-64-
第4章
(a)
30 nm
(b)
30 nm
(c)
30 nm
図4.11
C-HFCVD法によるSWCNT成長直前の試料表面のSEM像。500ºCで一度
Coの還元を行い、C-フィラメント温度は1700ºC。基板温度は(a) 600ºC、
(b) 700ºC、および(c) 800ºC。
-65-
第4章
表 4.1
C-HFCVD 法による SWCNT 成長直前の触媒金属粒径および数密度。
フィラメント温度は 1700ºC。
Substrate temperature (ºC)
Mean diameter of Co particles (nm)
Density of Co Particles (cm-2)
600
4.0
1.3×1012
700
4.3
1.2×1012
800
6.5
4.1×1011
4.4
各アルコール種に対する CNT 成長の依存性
4.3 節において、C-HFCVD 法を用いることにより、SWCNT 成長の促進が可能であ
ることがわかった。本節においては、3 種類のアルコール種を用いた C-HFCVD 法に
よる SWCNT の成長を行い、SWCNT の成長様式の変化を観察した。今回の実験にお
いて、アルコール種の変化に対する SWCNT の成長の変化を顕著に表わすために、前
節においてもっとも成長量の多かった、基板温度 700ºC における SWCNT の成長状態
の比較を行った。
4.4.1
実験方法
4.2 節と同様の手順で熱酸化により作製した膜厚 100 nm の SiO2 層上に蒸着した膜
厚 0.5 nm の Co を触媒として、実験を行った。試料を CNT 成長チャンバ(基底真空度:
<1×10-5 Pa)に搬送した後に、C-HFCVD 法による CNT 成長を行った。まず、H2/N2 混
合ガス(H2:N2=3:97、流量: 100 sccm)雰囲気で 500ºC、30 min の熱処理で Co を還元した。
その後、CH3OH、C2H5OH、および 2-C3H7OH をアルコール種として、CNT 成長を行
った。基板温度は 700ºC、C-フィラメント温度は 1500ºC または 1700ºC、成長時間は 1
min から 75 min であった。また、成長中はキャリアガスを用いずにアルコール種を導
入し、成長雰囲気は 200 Pa を保って実験を行った。
成長した CNT 試料について、断面 SEM を用いて CNT の垂直成長平均長さを、TEM
やラマン分光により SWCNT の直径分布や純度を見積もった。
-66-
第4章
4.4.2
アルコール種の違いによる CNT 成長様式の変化
図 4.12(a)~図 4.12(e)は CH3OH をアルコール種として用い、SWCNT の成長を行った
試料の断面 SEM 像である。成長時間はそれぞれ 1 min、3 min、15 min、30 min、およ
び 75 min であり、フィラメント温度は 1700ºC である。いずれの場合においても、基
板に対して垂直に、CNT が成長している事がわかる。Maruyama 等は、アルコール CVD
法における SWCNT 成長の潜伏時間は非常に短く、15 sec においても十分に SWCNT
が成長していることを確認しており[4.7]、今回の結果はそれと一致している。後述す
る TEM 像およびラマンスペクトルから、これらの CNT は主に SWCNT であることが
確認できた。図 4.12(a)~図 4.12(e)から、SWCNT の一連の成長の様子は以下のように
なっている。まず成長時間 15 min までは SWCNT が時間に対して連続的に成長し、
その後、
触媒の失活によって SWCNT 成長が飽和した。ここで注目すべきこととして、
さらにその後、わずかではあるが SWCNT の長さが短くなっていくことが確認できる。
図 4.13(a)~図 4.13(d)は C2H5OH、図 4.14(a)~図 4.14(d)は 2-C3H7OH をそれぞれアルコ
ール種として用いて CNT の成長を行った試料の、断面 SEM 像である。成長時間は 3
min、15 min、30 min、および 75 min である。いずれのアルコール種および成長時間
に対しても、CH3OH の場合と同様に、基板に対して垂直に CNT が成長し、また SWCNT
成長の潜伏時間は非常に短いことが確認できる。後述する TEM 像およびラマンスペ
クトルの結果から、これらは主に、SWCNT が成長していることがわかった。ここで
C2H5OH や 2-C3H7OH をアルコール種とした一連の成長の場合、CH3OH をアルコール
種として用いた場合と違い、成長時間 75 min に至っても触媒失活が起きず、成長時
間に対して連続的に CNT が成長し、また負の成長も起きていないことがわかる。
図 4.15 は、図 4.12~図 4.14 の断面 SEM 像から見積もった SWCNT 平均長さを、成
長時間に対してプロットしたグラフである。また、グラフ中にはフィラメント温度
1500ºC の結果も同時にプロットをしている。図 4.15 から、いずれのアルコール種に
対しても、フィラメント温度が高くなるほど SWCNT の成長長さが長くなることがわ
かる。また、フィラメント温度を変えた場合においても、CH3OH を用いた場合は、
触媒失活による成長の飽和およびその後の負の成長が見られる。一方、C2H5OH およ
び 2-C3H7OH を用いた場合は、触媒失活および負の成長が起きず、成長時間に対して
ほぼ線形に SWCNT が成長する。
-67-
第4章
(a)
3 µm
(b)
3 µm
(c)
3 µm
図4.12 CH3OHをアルコール種としたC-HFCVD法により成長した
SWCNTの断面SEM像。500ºCで一度Coの還元を行い、CH3OHの
成長時圧力は200 Paで、C-フィラメント温度は1700ºC、基板温度
は700ºC、成長時間は(a) 1 min、(b) 3 min、および(c) 15 min。
-68-
第4章
(d)
3 µm
(e)
3 µm
図4.12
CH3OHをアルコール種としたC-HFCVD法により成長した
SWCNTの断面SEM像 500ºCで一度Coの還元を行い CH3OH
SWCNTの断面SEM像。500ºCで一度Coの還元を行い、CH
の成長時圧力は200 Paで、C-フィラメント温度は1700ºC、基板
温度は700ºC、成長時間は(d) 30 minおよび(e) 75 min。
-69-
第4章
(a)
5 µm
(b)
5 µm
(c)
5 µm
(d)
5 µm
図4.13 C2H5OHをアルコール種としたC-HFCVD法により成長したSWCNTの断面
SEM像。500ºCで一度Coの還元を行い、C2H5OHの成長時圧力は200 Paで、
C-フィラメント温度は1700ºC、基板温度は700ºC、成長時間は(a) 3 min、
(b) 15 min、(c) 30 min、および(d) 75 min。
-70-
第4章
(a)
1 µm
(b)
1 µm
(c)
1 µm
(d)
1 µm
図4.14
2-C3H7OHをアルコール種としたC-HFCVD法により成長したSWCNTの
断面
断面SEM像。500ºCで一度Coの還元を行い、2-C
像
度
還 を行
成長時圧力
3H7OHの成長時圧力は
200 Paで、C-フィラメント温度は1700ºC、基板温度は700ºC、成長時間
は(a) 3 min、(b) 15 min、(c) 30 min、および(d) 75 min。
-71-
第4章
C-フィラメント温度1500ºC
C-フィラメント温度1700ºC
: CH3OH
: C2H5OH
: CH3OH
: C2H5OH
: 2-C3H7OH
: 2-C3H7OH
25
CNT length (µm))
20
15
10
5
0
0
10
20
30
40
50
60
70
Growth time (min)
図4.15
各アルコール種を原料としたC-HFCVD法により成長した
SWCNTの成長時間に対する成長長さの関係。基板温度は
成長時間 対す 成長長さ 関係 基板温度
700ºCで、フィラメント温度は1500ºCおよび1700ºC。
-72-
80
第4章
図 4.15 から、アルコール種の分子量が小さいもの、つまり CH3OH がもっとも初期
成長速度が速く、ついで C2H5OH そして 2-C3H7OH となっていることがわかる。また、
C2H5OH および 2-C3H7OH の場合、成長時間に対してほぼ線形に成長していることが
確認でき、触媒の寿命が今回の成長時間領域と比較して、非常に長いことが考えられ
る。それと比較して、CH3OH を用いた場合には、15 min 程度の成長時間で触媒は失
活してしまった。ここで C2H5OH をアルコール種として用いた場合、CH3OH での飽
和長さ以上に成長していること、およびフィラメント温度の変化に対して CH3OH の
飽和長さがわずかではあるが変化していることが、図 4.15 から確認できる。
ここで CNT 成長の飽和は、以下のことが要因と考えられる。まず触媒金属表面の
酸化もしくは a-C の付着により pure な触媒金属表面露出面積が減少し、触媒表面にお
ける炭化水素種との反応が抑制された場合が考えられる。また、触媒金属が CNT 先
端ではなく SiO2 層上に残って成長するような根本成長の場合には、CNT 膜中を炭化
水素種が拡散する必要があるが、今回のように十分に長くなった場合には、炭化水素
種の CNT 間の拡散が抑制された場合も考えられる。これらの可能性のうち、今回の
結果では、pure な触媒金属の表面露出面積の減少が CNT 成長の飽和の原因であると
示唆している。それは、飽和現象にアルコール種依存性があるからである。
図 4.16、図 4.17、および図 4.18 は、フィラメント温度 1700ºC でそれぞれ CH3OH、
C2H5OH、および 2-C3H7OH を用いて CNT を成長した試料をラマン分光により測定し
て得たラマンスペクトルである。いずれのアルコール種および成長時間に対しても
1590 cm-1 に強い G-band、1350 cm-1 に弱い D-band、そして 100 cm-1~400 cm-1 の領域に
多くの RBM ピークが確認でき、今回高密度に垂直成長した CNT は、主に SWCNT
であることがわかる。図 4.16~図 4.18 中に、このラマンスペクトルから求めた G/D を
それぞれ示した。
図 4.19(a)および図 4.19(b)は、図 4.16~図 4.18 において観測された RBM ピークの内、
SWCNT 直径 1.1 nm のものに対する 1.5 nm のものの面積強度比、および G/D の成長
時間依存を示すグラフである。また、図 4.19 中には、今回示さなかった C-フィラメ
ント温度 1500ºC の結果も、同時にプロットしてある。まず G/D について見ると、図
4.19(b)から、いずれのアルコール種を用いた場合においても、成長時間の変化に対し
て G/D の大きな変化は見られなかった。しかし、CH3OH を用いて成長した SWCNT
-73-
第4章
SWCNT diameter (nm)
2 1.5
1
0.75
励起光: 532 nm
Normalized
d intensity
×10
100
200
300
400
1300
G/D=9
75 min
9
30 min
10
15 min
9
3 min
1400
1500
1600
1700
Raman shift (cm-1)
図4.16
CH3OHをアルコール種としたC-HFCVD法により成長したSWCNTの
ラマンスペクトル。500ºCで一度Coの還元を行い、CH3OHの成長時
圧力は200 Paで、C-フィラメント温度は1700ºC、基板温度は700ºC、
成長時間は1 min、3 min、15 min、30 min、および75 min。
-74-
第4章
SWCNT diameter (nm)
2 1.5
1
0.75
励起光: 532 nm
Normalized in
ntensity
×10
75 min
G/D=16
18
100
200
300
400
1300
30 min
19
15 min
18
3 min
1400
1500
1600
1700
Raman shift (cm-1)
図4.17
C2H5OHをアルコール種としたC-HFCVD法により成長したSWCNTの
ラマンスペクトル。500ºCで一度Coの還元を行い、C2H5OHの成長時
圧力は200 Paで、C-フィラメント温度は1700ºC、基板温度は700ºC、
P で C フィラメント温度は1700ºC 基板温度は700ºC
成長時間は3 min、15 min、30 min、および75 min。
-75-
第4章
SWCNT diameter (nm)
2 1.5
1
0.75
励起光: 532 nm
Normalizzed intensity
×10
G/D=16
30 min
17
15 min
14
100
200
300
400
1300
1400
3 min
1500
1600
1700
Raman shift (cm-1)
図4.18 2-C3H7OHをアルコール種としたC-HFCVD法により成長したSWCNT
のラマンスペクトル。500ºCで一度Coの還元を行い、2-C3H7OHの成長
時圧力は200 Paで、C-フィラメント温度は1700ºC、基板温度は700ºC、
成長時間は3 min、15 min、および30 min。
-76-
第4章
C-フィラメント温度1500ºC
In
ntensity ratio of RB
BM
(1.1 nm/1.5 nm)
(a)
C-フィラメント温度1700ºC
: CH3OH
: C2H5OH
: CH3OH
: C2H5OH
: 2-C3H7OH
: 2-C3H7OH
1
0.75
0.5
0.25
0
0
10
20
30
70
80
70
80
Growth time (min)
(b)
G/D
20
15
10
5
0
10
20
30
Growth time (min)
図4.19
各アルコール種を原料としたC-HFCVD法により成長したSWCNTの
成長時間に対する(a) RBM面積強度比(1.1 nm/1.5 nm)および(b) G/D。
基板温度は700ºCで、フィラメント温度は1500ºCおよび1700ºC。
-77-
第4章
の G/D の値は、C2H5OH および 2-C3H7OH を用いて成長した SWCNT の値と比較して
小さいため、CH3OH から成長した SWCNT は、C2H5OH や 2-C3H7OH から成長した
SWCNT と比較して、graphite 構造に欠陥が多いことまたは SWCNT 側面において a-C
付着が多いことを示唆している。次に図 4.19(a)の RBM ピークの面積強度比に着目す
ると、C2H5OH や 2-C3H7OH をアルコール種として用いた場合には、フィラメント温
度 1500ºC および 1700ºC のいずれの場合にも、CNT 成長時間の変化に対して、面積強
度比に大きな変化は見られない。この結果は、C2H5OH や 2-C3H7OH 雰囲気において、
どの直径の SWCNT も安定に存在していることを示唆している。しかし、CH3OH を
アルコール種として用いた場合には、フィラメント温度 1500ºC および 1700ºC のいず
れの場合においても、CNT 成長時間の増大と共に、面積強度比が小さくなっていくこ
とがわかる。この結果は、より小さな直径をもつ SWCNT が優先的に燃焼もしくはエ
ッチングされて消失していること、または非常に多くの欠陥が導入されていることを
意味する。つまり CH3OH を用いる成長で、特にフィラメントなどによりガス種が活
性化されたような場合の雰囲気では、SWCNT は比較的不安定になり、欠陥の導入や
燃焼などの反応が起きると考えられる。
図 4.20、図 4.21、および図 4.22 は、それぞれ CH3OH、C2H5OH、そして 2-C3H7OH
を用い、基板温度 700ºC、成長時間 75 min、そしてフィラメント温度を 1700ºC にした
条件のもとに実験を行い、基板に対して垂直に成長した CNT の TEM 像である。この
TEM 観察試料を作製するにあたっては、基板に対して垂直に成長した CNT に、TEM
観察用マイクログリッドを直接こすりつけるという作業を行っただけである。図
4.20~図 4.22 の TEM 像から、いずれのアルコール種に対しても、主に SWCNT が成長
していることがわかる。またいずれのアルコール種においても、精製工程を行ってい
ないにもかかわらず、その表面には a-C などの副生成物がほとんど付着していないこ
ともわかる。ラマン分光の結果から、CH3OH において他のアルコール種と比較して
欠陥が多いことが予想されたが、今回の TEM 観察においてとくに目立った欠陥は見
られなかった。このことから、導入された欠陥は点欠陥的なものが主であるために、
さらに高分解な TEM 観察およびフーリエ変換などを用いないと観察できないもので
あると考えられる。つまり本研究の CNT の成長では、特に C2H5OH や 2-C3H7OH を
用いることで、高品質な SWCNT の成長を達成していることがわかった。図 4.20~図
-78-
第4章
(a)
50 nm
(b)
1.9 nm
5 nm
図4 20
図4.20
CH3OHを原料としたC-HFCVD法によりC-フィラメント温度1700
OHを原料としたC HFCVD法によりC フィラメント温度1700ºC
C、
基板温度700ºC、75 minで成長したCNTの(a) 広域および(b) 高分解能
TEM像。電子線の加速電圧は120 kV。
-79-
第4章
(a)
50 nm
(b)
0.95 nm
1.0 nm
5 nm
図4.21
C2H5OHを原料としたC-HFCVD法によりC-フィラメント温度1700ºC、
基板温度700ºC、75 minで成長したCNTの(a) 広域および(b) 高分解能
TEM像。電子線の加速電圧は120
像 電 線 加速電
kV。
-80-
第4章
( )
(a)
50 nm
(b)
0.91 nm
5 nm
図4.22
2-C3H7OHを原料としたC-HFCVD法によりC-フィラメント温度1700ºC、
基板温度700ºC、75 minで成長したCNTの(a) 広域および(b) 高分解能
TEM像。電子線の加速電圧は120 kV。
-81-
第4章
4.22 の TEM 像から見積もった SWCNT の直径分布を図 4.23(a)~図 4.23(c)に示す。
CH3OH、C2H5OH、および 2-C3H7OH を用いた場合の SWCNT の平均直径はそれぞれ
2.6 nm、2.3 nm、および 2.3 nm であった。図 4.23 から、CH3OH をアルコール種とし
て用いた場合小さな直径の SWCNT も存在しているが、C2H5OH や 2-C3H7OH を用い
た場合と比較して、その分布は SWCNT 直径のより大きな方にまで、ほぼ一定で広が
っている。ラマン分光から得られた結果では、CH3OH を用いた CNT 成長の場合、成
長時間 75 min において他のアルコール種と比較し、大きな直径の SWCNT がより安
定に存在することを示唆していたが、成長時間が同じ試料における TEM 観察による
結果は、それと一致するものとなっている。また成長時間が短くなると、この直径分
布の差は小さくなると考えられる。
4.5
アルコールの違いが C-HFCVD 法に与える影響
本実験において、図 4.12 の SEM 像および図 4.15 のグラフにおいて CH3OH をアル
コール種として用いた場合に起きた、負の成長について考える。このような負の成長
速度は、アルコール CVD 法の場合、残留酸素の除去が不十分な時によく観察された
[4.7]。しかし今回の場合、1×10-5 Pa 以下という基底真空度の点から、装置内残留酸素
を十分に除去した状態で実験を行っているため、他の原因が考えられる。ここで、CNT
成長中におけるフィラメントの ON/OFF が、CNT 成長様式に与える影響を調べた。
このとき、図 4.15 において負の成長が顕著に表れた、フィラメント温度 1700ºC、ア
ルコール種に CH3OH を用いた場合で比較を行った。図 4.24 は、C-HFCVD 法により
成長時間 75 min まで CNT 成長を行った場合、および成長時間 15 min まで C-HFCVD
法で成長したのち、C-フィラメントの通電のみを停止することにより、連続して cold
wall 型 CVD 法によって CNT を成長した場合の、SWCNT 成長長さの成長時間依存性
をプロットしたグラフである。C-HFCVD 法において成長時間 15 min 以降減少してい
く SWCNT の成長長さが、cold wall 型 CVD 法においてはほとんど変化がないことが
わかる。もし、装置内部の残留酸素が原因で負の成長速度が観測されるならば、同じ
基板温度にしているために、残留酸素による燃焼速度も同じになるはずである。つま
り、この負の成長速度は残留酸素による SWCNT の燃焼とは考えられない。ここで、
C-フィラメントによるアルコールの熱分解を考慮すると、4.3 節の C-HFCVD 法と cold
-82-
第4章
Counts (arb. unitts)
(a)
0.6
1.0
1.4
1.8
2.2
2.6
3.0
3.4
3.8
4.2
3.4
3.8
4.2
3.4
3.8
4.2
SWCNT diameter (nm)
Counts (arb.. units)
(b)
0.6
1.0
1.4
1.8
2.2
2.6
3.0
SWCNT diameter (nm)
Counts (arb. units)
(c)
0.6
1.0
1.4
1.8
2.2
2.6
3.0
SWCNT diameter (nm)
図
図4.23
各アルコール種を原料としたC-HFCVD法によりC-フィラメント温
各
種を原料と た
法により
ラ
ト温
度1700ºC、基板温度700ºC、75 minで成長したSWCNTの直径分布。
アルコール種は(a) CH3OH、(b) C2H5OH、および(c) 2-C3H7OH。
-83-
第4章
25
Initial growth rate: 1.67 µm/min
Catalyst lifetime: 6.7 min
Burning rate: -0.07 µm/min
CNT len
ngth (µm)
20
15
Turn off C filament after 15 min
10
Successively turn on
5
H(t)=1.67×6.7{1-exp(-t/6.7)}-0.07t
0
0
10
Filament
20
30
40
50
60
Growth time (min)
Turn off after
15 min
70
80
Successively
y
turn on
CH3OH
図4.24 CH3OHを原料としたC-HFCVD法により基板温度700ºCで成長
したSWCNTの成長時間に対する成長長さの関係。フィラメン
トを1700ºCに保ち続けた場合および成長時間15 minでフィラ
メントへの通電を停止した場合。
-84-
第4章
wall 型 CVD 法では、SWCNT の成長量が大きく違ったことから、C-HFCVD 法におい
てはアルコールを効率よく熱分解していると考えられる。つまりこの熱分解により、
活性な炭化水素種と同時に、たとえば OH ラジカルなどの酸化種も効率よく生成して
いる可能性がある。このような活性な酸化種は、C-フィラメントによって生成され、
SWCNT と燃焼反応を起こして負の成長をもたらす。cold wall 型 CVD 法に切り替え
た場合は、触媒失活のために触媒表面の反応が十分でないために、C-HFCVD 法と比
較して活性な酸化種が存在せず、また酸化種のエネルギーも低いために SWCNT との
燃焼反応を起こさないと考えられる。
次に、このような現象が CH3OH において顕著に現れ、他の C2H5OH や 2-C3H7OH
では現れなかった理由について考える。表 4.2 に各アルコール種の標準生成エンタル
ピーを示す。分子量の小さな CH3OH の絶対値が最も小さく、分子量が大きくなるに
従ってその絶対値が大きくなっていることがわかる。
表 4.2
各アルコール種における標準生成エンタルピー。
Alcohol molecule
Standard heat of enthalpy (kJ/mol)
CH3OH (g)
-201.0
C2H5OH (g)
-235.0
2-C3H7OH (g)
-272.7
C(s)+2H2(g)+1/2O2(g)→CH3OH(g)+ΔH
(4.1)
の関係式から考えると、CH3OH が今回用いたアルコール種のなかで、もっとも不安
定であると考えることができる。すなわち、C-フィラメントによりもっとも熱分解さ
れやすいものが CH3OH であり、C-フィラメントにより活性な炭化水素種や酸化種が
多く生成されると考えられる。この活性な炭化水素種や酸化種の分圧の差が、CNT
の成長に影響を与え、CH3OH においてのみ負の成長速度が見られたと考えられる。
以上の考察に基づき、従来用いられる CNT 成長の関係式[4.13]に、燃焼の項を追加し
た関係式を考える。
-85-
第4章
H(t)=βτ0{1-exp(-t/τ0)}-αλt
(4.2)
ここで H(t)は CNT 成長長さ、t は成長時間、β は SWCNT の初期成長速度、τ0 は触媒
寿命であり βτ0 で飽和長さを表す。また、λ は燃焼速度、α は活性化係数として αλ は
正味の燃焼速度を表す。ここで第 2 項が今回新たに追加した項であり、α を用いるこ
とで cold wall 型 CVD 法と C-HFCVD 法の燃焼速度の違いを表している。
この関係式を用いて、C-HFCVD 法によって成長する SWCNT の長さを、図 4.24 中
に示す。このグラフおよび近似曲線は、CH3OH をアルコール種として用い、フィラ
メント温度 1700ºC、基板温度 700ºC の結果を用いた。(4.2)式と実験結果がよい近似を
示していることがわかる。つまり C-HFCVD 法における負の成長が観察された場合に
おいても、(4.2)式を用いることで初期成長速度、触媒寿命、および正味の燃焼速度を
求めることができる。以上の値を用いることにより、第 5 章において SWCNT 成長の
活性化エネルギー導出が可能となり、SWCNT 成長機構の解明につながった。
図 4.25 に、C-HFCVD 法におけるアルコール種による違いを、CH3OH および C2H5OH
の成長様式の違いを例としてまとめた。前述したように、標準生成エンタルピーの違
いが C-フィラメントによる熱分解効率の差になり、活性な炭化水素種もしくは酸化種
の生成量に違いが現れ、その結果活性なガス種によって決定する SWCNT 初期成長速
度および燃焼速度に、違いが現れると考えられる。
4.6
まとめ
SWCNT の低温成長に向けて、HFCVD 法を行う際に、アルコール種を炭素原料と
して用いた場合、フィラメントの酸化ということを考えると、W ワイヤではなく
graphite ロッドをフィラメントとして用いた C-HFCVD 法は、非常に有効な方法であ
るとわかった。C-HFCVD 法によって SWCNT 成長を行う際、アルコール種の違いに
より、SWCNT の初期成長速度や触媒寿命、成長した SWCNT の直径やその品質に違
いが現れ、それは標準生成エンタルピーに基づいたアルコール種の安定性により、説
明できることがわかった。また、cold wall 型 CVD 法および C-HFCVD 法を比較する
ことで、活性な酸化種が SWCNT の成長に影響を与え、特に直径の大きな SWCNT と
比較し、直径の小さな SWCNT の燃焼またはエッチングによるダメージが大きいこと
がわかった。これは、小さな直径の SWCNT 成長の抑制につながる。また C-HFCVD
-86-
図4.25
Growth length
vs
Growth time
Fitted curve
Neet burning rate: αλ
Caatalyst lifetime: τ0
Iniitial growth rate: β
Sttandard heat of
en
nthalpy (kJ/mol)
-87-
Growth time
G
Net growth length
h
Low
Long
Low
-235.0
C2H5OH
Burrning
Growth time
Net growth llength
CN
NT growth
H(t)=β
βτ0{1-exp(-t/τ0)}-α
αλt
CNT growth
Bu
urning
High
Short
High
-201.0
CH3OH
第4章
Growth length
Growth length
CH3OHとC2H5OHの間の成長様式違いと標準生成エンタルピー。
第4章
法のような、活性なガス種を用いる低温成長技術と SWCNT の高品質化のための酸化
種添加技術を融合すると、活性な酸化種による SWCNT の燃焼が生じ、従来の近似曲
線による初期成長速度や触媒寿命を求めることが、困難となる。しかし、燃焼効果に
対する補正項を追加することにより、初期成長速度および触媒寿命を精度よく見積も
ることに成功した。
SWCNT 成長の際には、成長速度と成長した SWCNT の直径および品質の間にはト
レードオフの関係が存在し、この事を考慮に入れたアルコール種選定が必要となる。
今回の場合、C2H5OH が C-HFCVD 法による SWCNT 成長において最適なアルコール
種であると考えられる。
-88-
第4章
参考文献
[4.1] S. Maruyama, R. Kojima, Y. Miyauchi, S. Chiashi, and M. Kohno: Chem. Phys. Lett.
360 (2002) 229.
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[4.12] H. Sato, K. Hata, K. Hiasa, and Y. Saito: J. Vac. Sci. Technol. B 25 (2007) 579.
[4.13] D. N. Futaba, K. Hata, T. Yamada, K. Mizuno, M. Yumura, and S. Iijima: Phys. Rev.
Lett. 95 (2005) 056104.
-89-
アルコールCVD法を用いた単層カーボンナノチューブ低温成長プロセスの開発とその成長機構の解明
種田
智
博士論文
アルコール CVD 法を用いた
単層カーボンナノチューブ低温成長プロセスの
開発とその成長機構の解明
名古屋大学大学院工学研究科
結晶材料工学専攻
種田
智
目次
第1章
序論
1.1
本研究の背景
1
1.2
本研究の目的および本論文の構成
7
10
参考文献
第2章
2.1
CNT 成長技術と分析手法
CNT 成長法
12
2.1.1
熱 CVD 法
12
2.1.2
HFCVD 法
12
2.2
基板洗浄法
13
2.3
ラマン分光法
15
2.3.1
SWCNT 品質評価
15
2.3.2
SWCNT 直径評価
15
2.4
X 線による結晶配向性評価
17
2.5
CNT 構造および結晶構造評価
19
20
参考文献
第3章
エピタキシャル Ag 層上での CNT 成長
3.1 はじめに
22
3.2
CNT 成長におけるバッファー層の必要条件
23
3.3
実験手法
27
3.4
エピタキシャル Ag 層の作製
28
3.5
エピタキシャル Ag 層上での Co の分散
31
3.6
エピタキシャル Ag 層上での SWCNT 成長
37
3.7
CNT 成長プロセス中のエピタキシャル Ag バッファー層の安定性
42
-i-
3.8
45
まとめ
46
参考文献
第4章
アルコールを用いた HFCVD 法による SWCNT 低温成長技術
4.1
はじめに
48
4.2
フィラメント材質による CNT 成長の変化
49
4.2.1
実験方法
49
4.2.2
HFCVD 法による成長物のフィラメント材料依存
49
4.2.3
フィラメント材料の違いによる反応の違い
54
4.3
4.4
成長法の違いによる CNT 低温成長
56
4.3.1
実験方法
56
4.3.2
各種成長法による CNT 成長
57
各アルコール種に対する CNT 成長の依存性
66
4.4.1
実験方法
66
4.4.2
アルコール種の違いによる CNT 成長様式の変化
67
4.5
アルコールの違いが C-HFCVD 法に与える影響
82
4.6
まとめ
86
89
参考文献
第5章
HFCVD 法における SWCNT の成長機構
5.1
はじめに
90
5.2
熱 CVD 法および PECVD 法による MWCNT 成長の律速過程
90
5.3
実験方法
92
5.4
CNT 成長およびその成長様式評価
93
-ii-
5.4.1
CH3OH 基板温度 675ºC
93
5.4.2
CH3OH 基板温度 600ºC
93
5.4.3
C2H5OH 基板温度 675ºC
93
5.4.4
2-C3H7OH 基板温度 675ºC
102
5.4.5
C2H5OH, 2-C3H7OH 基板温度 600ºC
102
5.4.6
各条件における CNT 構造評価
102
5.5
C-HFCVD 法による CNT 成長機構
109
5.6
まとめ
119
120
参考文献
第6章
総括
6.1
本研究の要約
121
6.2
今後の課題
123
125
参考文献
謝辞
研究業績
-iii-
第 1 章 序論
1.1
1.2
本研究の背景
本研究の目的および本論文の構成
参考文献
第1章
第1章
1.1
序論
本研究の背景
ナノテクノロジーの代表的な材料グループとして、フラーレンやカーボンナノチュ
ーブ(Carbon Nanotube: CNT)に代表される「ナノカーボン」が挙げられる。ナノカーボ
ンは、ナノレベルでの構造や組織、形態が制御、設計され、従来にない高度な性能ま
たは革新的な機能を発現する炭素体[1.1]と定義されており、材料分野や電気分野など
様々な分野で、そのナノスケールの構造を利用した応用が期待されている。その中で
CNT は、電気分野応用の面において他のナノカーボン材料と比較して非常に多くの研
究がなされている。トランジスタのソースおよびドレインから正孔および電子を同時
注入するような発光デバイス[1.2]、直径に対する長さの比であるアスペクト比が高い
こ と か ら フ ラ ッ ト パ ネ ル デ ィ ス プ レ イ の 冷 陰 極 源 [1.3,4] 、 そ し て 集 積 回 路 (IC:
Integrated Circuits)の配線[1.5,6]やチャネル[1.7]など非常に幅広い応用が現在考えられ
ている。
19 世紀末に金属-半導体接触によって発現する特性を利用し、電流の整流作用に使
わ れ る よ う に な っ て か ら [1.8] 、 近 年 に お け る バ イ ポ ー ラ ト ラ ン ジ ス タ [1.9] や
MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)[1.10]と、電子デバイスはそ
の構造が多様化していった。ここで現在主流となっている MOSFET を見ると、その
構造は 2 次元的なプレーナー構造になっており、性能向上のために行われる MOSFET
の微細化は、トップダウンプロセスによる各構成物の成長およびエッチング加工によ
って行われてきた。
近年、このようなプレーナー構造とは別に、ゲート電極からの電界により効率よく
半導体のポテンシャルを変調することが可能であり、従来構造と比較して低電圧駆動
が可能となることから、3 次元構造デバイスが注目されている。この 3 次元構造デバ
イスは、ゲート電極をチャネルの上下に配置するダブルゲート型 FET や、チャネルを
3 方向から包む様なフィン型 FET、そして 3 次元構造でもっとも典型的なものである
チャネルを全方向からゲート電極で包むサラウンド·ゲート型 FET(Surround-Gate FET:
SGFET)が現在考案されている。その基本構造を図 1.1(a)に示す。ここで、SGFET の
高性能化のために必要なことは以下に示す通りである。
-1-
第1章
(a)
ゲート絶縁膜
チャネル
ソース/ドレイン電極
ゲート電極
(b)
上部ソース/ドレイン電極
サラウンドゲート電極
高誘電率ゲート絶縁膜
トランジスタ·リテイナー ((SiO2)
下部ソース/ドレイン電極
1次元半導体チャネル
図1.1
(a) SGFETの基本構造および(b) 垂直構造SGFETTを用いた縦型電子デバイス。
-2-
第1章
(1) 高移動度かつバンドギャップの制御されたチャネル材料
(2) 全方向からチャネルを覆う高誘電率絶縁膜およびゲート電極
(3) 低抵抗なソース/ドレイン電極
しかし SGFET のような 1 次元チャネルを実現するためには、従来構造作製に用い
られるようなエッチングなどのトップダウンプロセスでは、その加工が困難である。
そこで自己整合的に微細構造の作製が可能な、ボトムアッププロセスによる 1 次元チ
ャネル成長が注目されている。Si に代表される IV 族半導体ナノワイヤ[1.11]や GaAs
に代表される III-V 族もしくは II-VI 族の化合物半導体ナノワイヤ[1.12]、そして
CNT[1.13-15]は、このボトムアッププロセスによって成長する代表的なチャネル材料
である。
上述したようなナノワイヤもしくはナノチューブ成長は、触媒金属を介した気相液相-固相(Vapor-Liquid-Solid: VLS)成長であり[1.16,17]、レーザーアブレーション法も
しくは化学気相堆積(Chemical Vapor Deposition: CVD)法で成長した場合には、触媒金
属が成長の核となるため、触媒金属の位置を制御することにより成長位置の制御が可
能[1.18]である。そこで、CVD 法のようなボトムアッププロセスをそのまま電子デバ
イス作製プロセスに組み込むことは、1 次元チャネル成長後のナノサイズ加工を省く
ことが可能であるため、SGFET プロセスを考える際に非常に注目されている。実際
Ng 等は、Au を触媒とした CVD 法によって p+-SiC 電極上に成長した ZnO の垂直成長
構造をそのまま用いることにより、ZnO ナノワイヤをチャネルとした垂直構造 SGFET
を作製し、そのトランジスタ特性を測定している[1.19]。図 1.1(b)に、その構造を図示
する。
本研究では、CNT に注目する。CNT には大きく分類して多層 CNT(Multi-Walled CNT:
MWCNT)および単層 CNT(Single-Walled CNT)の 2 種類が存在する。これらの中で、
SWCNT は以下に示す特徴を持つため電子デバイス、特に 1 次元構造電子デバイスの
チャネル材料の有力な候補である。
(1) 自己整合的な 1 次元成長
(2) 1 nm 程度の直径かつ 1 μm 以上の長さの非常に高いアスペクト比
(3) graphite 構造に起因した化学的に非常に安定な表面
(4) その直径やカイラリティによってユニークに決定される電子物性
-3-
第1章
ここで(4)の特徴について簡単に説明する。図 1.2 に六方格子の基本ベクトル a1、a2
を用いて、SWCNT の構造を表すことのできるカイラルベクトルを以下のように定義
する。
Ch=na1+ma2
(1.1)
ここで、a1 および a2 の係数はカイラル指数(n,m)とも表現し、この指数のみで SWCNT
の物性を表すことができる。図 1.2 中にあるカイラルベクトルは、SWCNT の円周を
表すものであり、SWCNT の構造を端的に表している。このカイラルベクトルの終点
によって、図 1.2 中に示す通りに金属的または半導体的性質が決まり、また半導体的
性質の場合のエネルギーバンドギャップ Eg は以下のように表すことができる。
Eg=2γ0aC-C/d∝1/d
(1.2)
γ0 はバンド計算における重なり積分の値でありおよそ 2.9 eV、aC-C は最近接 C 原子間
距離でおよそ 0.144 nm、そして d は SWCNT 直径(nm)となり、SWCNT のバンドギャ
ップがその直径 d に反比例することがわかる。このような構造によりユニークに変化
する電子物性は、現在のところ CNT のみに発現する特徴であり、その特徴の予測以
来[1.20-22]、特に SWCNT の電子デバイス応用が注目されている。CNT をチャネル材
料とする場合、重要となることを以下に示す。
半導体的性質を有する SWCNT をチャネルとして用いたトランジスタとしては、
SWCNT とソース/ドレイン電極材料との仕事関数差を用いるショットキー-ソース ド
レイン FET(Schottky-Source Drain FET: SSDFET)が提案されている[1.7]。しかしその伝
導特性は、p-チャネル伝導が安定である一方、n-チャネル伝導の実現は困難であった
[1.23]。近年 Nosho 等は SSDFET の特性に着目し、Ca のような仕事関数の非常に小さ
な材料をソース/ドレイン電極として用いることで、安定な n-チャネル伝導を得るこ
とに成功している[1.24]。このことからわかるように、CNT 電界効果トランジスタ
(CNT Field-Effect Transistor: CNTFET)は電極材料選定が、その特性を決定付ける重要な
要因である。
CNT の成長は、炭化水素系の反応を用いるために、副生成物はアモルファスカーボ
ン(amorphous Carbon: a-C)などが主である。この a-C などの表面汚染物は、CNT の電
子デバイス応用を考える際、特性悪化の原因の一つとなることが知られている。その
ため、CNT 成長時において a-C が CNT 側壁に付着してしまうと、その側壁からの除
-4-
第1章
aC-C
CC
a2
a1
カイラルベクトル
(5,1)
: 金属的になるカイラリティ
: 半導体的になるカイラリティ
図1.2
SWCNTのカイラリティと電気的特性の関係。
-5-
第1章
去が必要となる。また、CNT 表面に付着した a-C が、次段の graphite 側壁成長につな
がり、半導体的性質が顕著に現れる SWCNT 成長を阻害する働きも示す。このように、
特に電子デバイス応用に向けた SWCNT の成長では、a-C の除去が必須となる。近年
Maruyama 等は、アルコールを原料とした CNT 成長で a-C の成長が抑制され、優先的
に SWCNT が成長することを見出した[1.25]。これは、アルコール分子中に含まれる
OH 基に起因した酸化種が、CNT 成長中にその側壁に付着した a-C などの副生成物を
燃焼するためである。a-C が CNT よりも燃焼しやすいために CNT の燃焼を抑えるこ
とが可能であることから、このような酸化種導入の方法は非常に理にかなったもので
ある。また、SWCNT 成長が可能な触媒金属粒径の許容サイズもアルコールを用いる
ことで広くなる。通常 CH4 や C2H4 などの炭化水素を用いた熱 CVD 法では、触媒金属
粒径がそのまま CNT の直径を決定することが多いため、様々な直径が可能な MWCNT
成長と比較して安定に存在しうる直径が限られる SWCNT の成長は、小さな粒径の触
媒金属でしか達成できない。しかし、アルコールを炭素供給源として用いた場合には、
優先的な SWCNT 成長が可能であるために、触媒金属粒径選択の幅を広くすることが
可能であり SWCNT 成長のプロセスマージンを広くすることができる。
一方、この方法を成長速度および成長量という観点からさらにブラッシュアップし
たものに、スーパーグロース法というものがある[1.26]。C2H2 を炭素原料として用い
つつ、その成長雰囲気に ppm オーダーでの水を添加するという成長法である。この方
法では水が酸化種となり、炭化水素種と比較して非常に少ない水の量でありながら
SWCNT の選択成長をしつつ、従来法に比べて SWCNT 成長長さを飛躍的に伸ばすこ
とが可能である。しかし注意すべきなのは、高速成長に起因して、SWCNT の直径が
3 nm 程度とアルコール CVD 法によって成長可能な 1 nm 程度の直径と比較して大き
くなってしまうことである。式(1.2)に示したように直径がバンドギャップに反比例す
るため、スーパーグロース法では Eg=0.3 eV と小さな Eg の SWCNT が成長してしまう
ことがわかる。このように、成長雰囲気中に酸化種を導入することは a-C の少ない高
品質な SWCNT 成長につながるために、現在注目されている成長法である。
SWCNT に限らず、図 1.1(b)のような垂直構造 SGFET の作製には、チャネル材料の
低温成長がプロセスマージンという点で非常に重要となる。高温での成長でさまざま
に修飾された基板構造が、熱反応により破壊される可能性が高いからである。また、
-6-
第1章
1 次元チャネルはソース/ドレイン電極上に形成する必要があるが、触媒金属と電極金
属が高温時にミキシングしてしまう可能性が高いため[1.6]、成長温度は可能な限り低
いことが望ましい。ここで CNT の CVD 成長における低温成長の代表的な方法に、プ
ラズマ CVD (Plasma-Enhanced CVD: PECVD)法がある。PECVD 法による CNT 成長に
おいては、炭化水素をプラズマ状態にして活性にし、触媒金属との反応性を高めるこ
とが可能となる[1.27]。しかし近年まで、PECVD 法による SWCNT の低温成長達成の
報告はなかった。プラズマ状態になりイオン化した炭化水素種による、MWCNT と比
較して不安定な SWCNT の優先的なエッチングまたは触媒金属のエッチングが起きて
しまうためである。しかし近年、リモートプラズマもしくは大気圧非平衡プラズマを
用いることで、SWCNT の低温成長が報告された[1.28-30]。イオン化した炭化水素種
と比較して寿命が長いラジカルのみを触媒金属に到達できるようにしたため、イオン
種と比較してダメージの少ないラジカルが成長に寄与し、先ほど述べた PECVD 法の
問題点である SWCNT や触媒のエッチングを抑制できたと考えられている。このよう
に、活性な反応種の制御は SWCNT の低温成長技術において非常に重要となる。
1.2
本研究の目的および本論文の構成
SWCNT の電子デバイス応用を考えた場合、その最大の問題点に SWCNT 成長温度
が考えられる。その理由のひとつに、1.1 節において述べたような SGFET への SWCNT
応用に向けた課題である、電極金属上での SWCNT 成長が SWCNT の構造的な特徴を
最大限に利用したデバイス構造作製のための、重要な成長プロセスであると考えられ
るためである。また、デバイス作製の全工程を考えた際には、上述した金属電極構造
維持のように、CNT 成長以前の構造を維持する必要がある。以上のようなデバイス作
製プロセスとの親和性を考えた場合、可能な限り CNT 成長温度を低くし、さらに CNT
成長時の a-C のような副生成物を可能な限り取り除くことで、デバイス作製プロセス
との間に高い親和性を保つことができる。
アルコールを原料とすることにより、他の炭化水素種と比較して SWCNT の低温成
長が可能であると言われている[1.25]が、SWCNT の基板上での高密度成長を行う際に
は 800ºC が必要となる[1.31,32]。ここで低温成長技術の代表的なものである PECVD
法は、上述したようなイオン化した炭化水素種の影響により SWCNT の成長が困難で
-7-
第1章
あることがわかっている。このような活性なガス種によるダメージを抑えつつ低温成
長が可能な技術の一つに熱フィラメント CVD(Hot-Filament CVD)法があるが、SWCNT
成長に対する報告は、まだほとんどない[1.33]。
また、特に垂直構造 SGFET のような金属電極との間に微小接触面積が実現するよ
うな場合、金属電極表面の構造揺らぎがトランジスタ特性の揺らぎにつながると考え
られる。なぜなら SSDFET の特性を決定するチャネルとソース/ドレイン電極間の仕
事関数差は、電極表面の仕事関数揺らぎで容易に変化する可能性があるためである
[1.34]。Okada 等が計算するように最表面の原子配列により CNTFET のトランジスタ
特性が決定するとした場合[1.35]、ソース/ドレイン電極との接触面積が微小な垂直構
造 SGFET は、その原子配列の揺らぎを顕著に現れる可能性が高い。
そこで本論文では、CNT の電子デバイス応用を目指した SWCNT 低温成長、および
金属電極の仕事関数揺らぎに起因する FET 特性の揺らぎ抑制に着目した。SWCNT の
低温成長では、特に現在 PECVD 法による SWCNT の高密度かつ低温成長の限界であ
る 600ºC 以下の SWCNT の高密度成長を目標に、HFCVD 法による SWCNT 成長を試
みた。また、金属電極の仕事関数揺らぎを抑制するために、従来 CNTFET 特性測定に
用いられるような多結晶金属ではなく、単結晶金属上で SWCNT を成長することによ
ってその仕事関数揺らぎを抑制することを目的に、アルコール CVD 法による SWCNT
低温成長を試みた。
まず、第 2 章において本研究の解釈に必要な、各測定法における測定原理および成
長装置の構造について示す。
第 3 章において、基板および触媒エンジニアリングという観点から、触媒金属と電
極金属との間の、および基板である Si と電極金属との間の 2 元状態図を基に、その
高温時の触媒失活の抑制可能な組み合わせを見出し、その条件の下で、ソース/ドレイ
ン電極となりうる金属上でのアルコールを原料とした SWCNT 成長を試み、CNTFET
作製プロセスに適する電極金属選定の指針を打ち出した。また、さらにその金属上で
の SWCNT の高密度成長を試み、バッファー層による SWCNT 成長の制御技術の確立
を目指した。
第 4 章において、気相エンジニアリングという観点から、SWCNT の低温成長技術
の確立を目指し、高品質な SWCNT 成長が可能なアルコール CVD 法と、PECVD 法と
-8-
第1章
比較し SWCNT もしくは触媒金属へのダメージの低減が可能な HFCVD 法を組み合わ
せた CNT 成長を試みた。
第 5 章では、第 4 章において用いた HFCVD 法の成長機構解明を目指し、PECVD
法や熱 CVD 法における活性化エネルギーを比較することで、SWCNT 成長様式の差
異を考察し、HFCVD 法による SWCNT 成長における C adatom の挙動解明を目指した。
最後に第 6 章において本研究で得られた結果をまとめ、本論文を総括した後に、今
後の展望について議論する。
-9-
第1章
参考文献
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[1.22] R. Saito, M. Fujita, G. Dresselhaus, and M. S. Dresselhaus: Phys. Rev. B 46 (1992)
-10-
第1章
1804.
[1.23] R. Martel, T. Schmidt, H. R. Shea, T. Hertel, and P. Avouris: Appl. Phys. Lett. 73
(1998) 2447.
[1.24] Y. Nosho, Y. Ohno, S. Kishimoto, and T. Mizutani: Appl. Phys. Lett. 86 (2005) 073105.
[1.25] S. Maruyama, R. Kojima, Y. Miyauchi, S. Chiashi, and M. Kohno: Chem. Phys. Lett.
360 (2002) 229.
[1.26] K. Hata, D. N. Futaba, K. Mizuno, T. Namai, M. Yumura, and S. Iijima: Science 306
(2004) 1362.
[1.27] H. Murakami, M. Hirakawa, C. Tanaka, and H. Yamakawa: Appl. Phys. Lett. 76 (2000)
1776.
[1.28] T. Kato, G. H. Jeong, T. Hirata, R. Hatakeyama, and K. Tohji: Jpn. J. Appl. Phys. 43
(2004) L1278.
[1.29] G. Zhong, M. Tachiki, H. Umezawa, T. Fujisaki, H. Kawarada, and I. Ohdomari: Chem.
Vap. Deposition 10 (2004) 125.
[1.30] T. Nozaki, K. Ohnishi, K. Okazaki, and U. Kortshangen: Carbon 45 (2007) 364.
[1.31] Y. Murakami, S. Chiashi, Y. Miyauchi, M. Hu, M. Ogura, T. Okubo, and S. Maruyama:
Chem. Phys. Lett. 385 (2004) 298.
[1.32] S. Maruyama, E. Einarsson, Y. Murakami, and T. Edamura: Chem. Phys. Lett. 403
(2005) 320.
[1.33] T. Okazaki and H. Shinohara: Chem. Phys. Lett. 376 (2003) 606.
[1.34] A. W. Dweydari and C. H. B. Mee: Phys. Status Solidi A 27 (1975) 223.
[1.35] S. Okada and A. Oshiyama: Phys. Rev. Lett. 95 (2005) 206804.
-11-
第 2 章 CNT 成長技術と分析手法
2.1
CNT 成長法
2.2
基板洗浄法
2.3
2.4
2.5
ラマン分光法
X 線による結晶配向性評価
CNT 構造および結晶構造評価
参考文献
第2章
第2章
2.1
CNT 成長技術と分析手法
CNT 成長法
本研究では、CVD 法による CNT 成長を行った。CNT の CVD 成長は、気相成長炭
素繊維(Vapor Growth Carbon Fiber: VGCF)の成長[2.1]と、原料ガスや触媒金属、そして
その成長条件などの面で非常に類似している。そのため CNT 成長のためには、VGCF
および CNT の両成長法に用いられる触媒金属の直径制御もしくは成長雰囲気の制御
が重要となる。本研究では、CVD 成長の重要な要素である炭素供給源として、アル
コール種を用いた。アルコール種を用いる事の利点は、アルコール中に含まれる OH
基に起因した酸化種が、VGCF や MWCNT の成長に起因する a-C を選択的に除去し、
その結果として欠陥や副生成物の少ない高品質な SWCNT の選択成長が可能となる事
である[2.2-3]。CVD による CNT 成長に用いられる触媒金属としては遷移金属、特に
Fe、Ni、および Co が広く用いられる。特に、Co はアルコール種を用いた場合の CNT
成長に、Fe は炭化水素種を用いた場合の CNT 成長において、CNT 成長量の観点から
良いとされる[2.4]。
以下に、触媒金属を用いた CNT の CVD 成長法のうち、本研究に関わりの深い 2 種
類の成長法を紹介する。
2.1.1
熱 CVD 法
成長雰囲気および基板を同時に加熱し、原料ガスの熱分解および触媒との反応を行
う方法であり、CNT の CVD 法でもっとも一般的な方法である。炭素供給源としては
炭化水素[2.5-7]やアルコール[2.2-3]を用いる。
成長した CNT の基板面内均一性に優れ、
容易に CNT の大量成長が可能となる。また、選択パラメータの種類が原料、成長雰
囲気、基板温度、そして触媒金属と多く、多様な CNT 成長が可能な方法である。し
かし以下に挙げる HFCVD 法と比較して、低温成長という面では難しい。
2.1.2
HFCVD 法
HFCVD 法は、低温成長が可能な成長法の 1 つとして、様々な分野で注目されてい
る[2.8]。CNT の成長においても、炭化水素を効率よく分解することを期待して、タン
-12-
第2章
グステンをフィラメントとした HFCVD 法による MWCNT の成長が行われている[2.9]。
本実験においては、フィラメントとして、タングステン(純度: 99.9%、直径: 0.3 mm、
フィラメント形状時の長さ: 15 mm)およびタングステンの代替材料として graphite ロ
ッド(純度: 99.5%、直径: 0.5 mm、長さ: 15 mm)を用いた[2.10]。以下、graphite ロッド
を用いた HFCVD 法を C-HFCVD 法とする。
図 2.1 に本研究で用いた HFCVD 成長装置を示す。この装置では、油回転ポンプ
(Rotary pump: RP、排気量: 100 l/sec)および油拡散ポンプ(Diffusion Pump: DP、排気量:
600 l/sec)を用いることにより、チャンバ内の残留ガスを十分に取り除き、到達真空度
1×10-5 Pa 以下を実現できる。また、チャンバ内へのガス導入にバリアブルリークバル
ブを用いることで、チャンバ内の圧力を精密制御することが可能である。フィラメン
トおよび基板加熱には通電加熱法を用いており、そのための電流導入端子が 2 ヵ所設
置され、それぞれ 30 A まで電流を流すことができる。試料形状は 5 mm×10 mm であ
り、フィラメントと試料基板の距離は 30 mm である。フィラメントに印加する電圧
値および流す電流値は、C-フィラメント温度 1700ºC の場合 15 V、11 A であった。本
研究において基板およびフィラメント温度は、パイロメーターによって測定しており、
特に基板温度測定時には、基板裏面を測定した。
2.2
基板洗浄法
Si 基板を用いたエピタキシャル成長などにおいては、清浄な基板表面が必須となる。
本研究で行った基板洗浄法である化学洗浄法の、各工程およびその意味を表 2.1 に示
す。特に Ag のエピタキシャル成長を行った実験においては、RHEED で水素終端
Si(111) 1×1 パターン[2.11]を観測することで、Si 清浄表面の実現を確認できた。
-13-
第2章
アルコール
バリアブルリークバルブ
フィラメント
試料
フィラメント温度
制御用電源
30 mm
DP
RP
図2.1
HFCVD装置図。
-14-
基板温度
制御用電源
第2章
表 2.1
Si 基板洗浄方法における各工程の役割。
1.
HCl:HNO3=3:1
boil
10 min
重金属系汚染物の除去
2.
超純水
overflow
10 min
表面付着物の除去
3.
H2SO4:H2O2=3:1
boil
10 min
有機系汚染物の除去
4.
超純水
overflow
10 min
表面付着物の除去
5.
HCl:H2O2:H2O=1:1:6
boil
10 min
酸化膜の形成
6.
超純水
overflow
10 min
表面付着物の除去
7.
HF:H2O=1:50
boil
1 min
酸化膜の除去
8.
超純水
overflow
5 sec
水素終端表面の形成
2.3
ラマン分光法
SWCNT の品質及び直径分布評価に、日本分光製のレーザーラマン分光光度計
NRS-1000 型を用いた。励起光の波長は 532 nm である。図 2.2 は SWCNT/SiO2 試料の
典型的なラマンスペクトルである。スペクトル中の G-band および D-band は CNT に、
ラジアルブリージングモード(Radial Breathing Mode: RBM)は SWCNT に特有なピーク
である[2.12]。以下に、SWCNT の品質及び直径分布の評価方法を示す。
2.3.1
SWCNT 品質評価
1590 cm-1 付近にあらわれる G-band は、結晶質の graphite の存在を示しており、CNT
や graphite に対して現れる。また、1560 cm-1 付近の G-band のブランチは、円筒構造
をもつ SWCNT の直径による周期性を反映したゾーン·フォールディング効果による
ピークである[2.13]。1350 cm-1 付近に現れる D-band は graphite 構造の欠陥に起因する
ため、副生成物である a-C や欠陥を多く持った SWCNT や MWCNT の存在を示してい
る[2.14]。この G-band および D-band の面積強度比(G/D)を求めることで、定性的に
SWCNT の品質を見積もることが可能となる。
2.3.2
SWCNT 直径評価
100 cm-1~400 cm-1 に現れる RBM は、SWCNT に特有なピークであり、その直径のみ
-15-
第2章
励起光: 532 nm
G-band
Intensitty (arb. units)
Si
G/D=11
G-bandのブランチ
ブラ チ
RBM
Si
Si
0
500
D-band
1000
1500
D’-band
D
band
2000
Raman shift (cm-1)
図2.2
SiO2上のSWCNTのラマンスペクトル。励起波長は532 nm。
-16-
第2章
に依存し CNT のカイラリティには依存しないことが知られている。また RBM ピーク
と SWCNT 直径との関係については、実験や理論計算結果からいくつかの提案がなさ
れている[2.15-19]。本研究においては、以下の関係式を用いてラマンスペクトルから
SWCNT 直径を評価した。
ν=248/d
(2.1)
ここで、ν はラマンシフト(cm-1)、d は SWCNT 直径(nm)である。ここで、SWCNT の
ラマンスペクトルは、共鳴ラマン散乱であることに注意する必要がある。つまり励起
光であるレーザー波長が変化した場合、現れる RBM ピークが変化することを考慮す
る必要がある。この特徴については、Kataura plot を用いてピーク位置を予測すること
が必要である[2.20]。この plot と使用したエネルギー波長のレーザーを比較すること
により、どの直径の SWCNT が共鳴ラマン散乱を起こすか読み取ることができる。
2.4
X 線による結晶配向性評価
Si 及び Co の拡散 buffer 層として用いた Ag の結晶性および配向性評価に、X 線回
折(X-Ray Diffraction: XRD)を用いた。X 線回折に用いた装置は RIGAKU 製 RINT2100
である。結晶に X 線を入射すると、結晶の格子面により X 線は回折されるが、特に
ブラッグ条件(2dsinθ=λ)を満たした場合に、強い回折 X 線が観測される。ここで結晶
面に対する X 線の入射角を θ、X 線の波長を λ(Å)、格子面間隔を d(Å)とした。
図 2.3(a)および図 2.3(b)に、Si(111)基板を用いた場合の 2θ 測定および θ-2θ 測定の回
折条件を示す。図中の回折 X 線を表す矢印先端に逆格子点が重なった場合のみ、測定
される XRD プロファイルに回折ピークとして現れる。単結晶試料を測定する場合、
図 2.3 から、まず θ-2θ 測定では基板表面に平行な面方位を持つ結晶面のみが、そして
2θ 測定では入射 X 線の固定角により決定される面方位をもつ結晶面のみが回折パタ
ーンとして現れることがわかる。
薄膜が基板上にエピタキシャル成長した場合、基板と薄膜の結晶面に相関性ができ、
基板と薄膜、それぞれの特定の結晶面は平行となってブラッグ条件を満たすため、条
件を満たす X 線の入射および反射は制限される。しかし基板上の多結晶薄膜の場合、
基板の結晶面と多結晶薄膜の結晶面には相関性は見られず、入射 X 線からの角度 2θ
のみで薄膜の構造を考えられる。
-17-
第2章
: 逆格子点
: 消滅則で消える逆格子点
(a)
[111]方向
回折X線
2θ
固定角
入射X線
2θ’
[110]方向
1/λ
[111]方向
(b)
回折X線
2θ’
θ’
2θ
θ
入射X線
図2.3
1/λ
[110]方向
逆空間におけるX線回折法の測定の様子。Si(111)基板に対する(a) 2θ法による
測定、(b) θ-2θ法による測定。入射X線波長は0.1541838 nm。
-18-
第2章
2.5
CNT 構造および結晶構造評価
本研究において基板上に成長した CNT の電子顕微鏡観察には、走査電子顕微鏡
(Scanning Electron Microscope: SEM、日立製 S-5200 および日本電子製 JSM-6301F)およ
び透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope: TEM、日本電子製 JEM-2010F)を用
いた。
-19-
第2章
参考文献
[2.1] R. T. K. Baker, M. A. Barber, P. S. Harris, F. S. Feates, and R. J. Waite: J. Catalys. 26
(1972) 51.
[2.2] S. Maruyama, R. Kojima, Y. Miyauchi, S. Chiashi, and M. Kohno: Chem. Phys. Lett.
360 (2002) 229.
[2.3] Y. Murakami, Y. Miyauchi, S. Chiashi, S. Maruyama, and M. Kohno: Chem. Phys. Lett.
374 (2003) 53.
[2.4] K. Mizuno, K. Hata, T. Saito, S. Ohshima, M. Yumura, and S. Iijima: J. Phys. Chem. B
109 (2005) 2632.
[2.5] P. Nikolaev, M. J. Bronikowski, R. K. Bradley, F. Rohmund, D. T. Colbert, K. A. Smith,
and R. E. Smalley: Chem. Phys. Lett. 313 (1999) 91.
[2.6] H. M. Cheng, F. Li, X. Sun, S. D. M. Brown, M. A. Pimenta, A. Marucci, G.
Dresselhaus, and M. S. Dresselhaus: Chem. Phys. Lett. 289 (1998) 602.
[2.7] S. Tang, Z. Zhong, Z. Xiong, L. Sun, L. Liu, J. Lin, Z. X. Shen, and K. L. Tan: Chem.
Phys. Lett. 350 (2001) 19.
[2.8] J. C. Angus and C. C. Hayman: Science 241 (1988) 913.
[2.9] M. Nihei, M. Horibe, A. Kawabata, and Y. Awano: Jpn. J. Appl. Phys. 43 (2004) 1856.
[2.10] S. Chaisitsak, A. Yamada, and M. Konagai: Diam. Relat. Mater. 13 (2004) 438.
[2.11] T. Wadayama, K. Takeuchi, K. Mukai, T. Tanabe, and A. Hatta: J. Vac. Sci. Technol. A
20 (2002) 299.
[2.12] A. M. Rao, E. Richter, S. Bandow, B. Chase, P. C. Eklund, K. A. Williams, S. Fang, K.
R. Subbaswamy, M. Menon, A. Thess, R. E. Smalley, G. Dresselhaus, and M. S.
Dresselhaus: Science 275 (1997) 187.
[2.13] M. S. Dresselhaus and P. C. Eklund: Adv. Phys. 49 (2000) 705.
[2.14] R. Saito, A. Grueneis, L. G. Cancado, M. A. Pimenta, A. Jorio, G. Dresselhaus M. S.
Dresselhaus ,and A. G. Souza Filho: Mol. Cryst. Liq. Cryst. 387 (2002) 287.
[2.15] A. Jorio, J. H. Hafner, C. M. Lieber, M. Hunter, T. McClure, G. Dresselhaus and M. S.
Dresselhaus: Phys. Rev. Lett. 86 (2001) 1118.
[2.16] R. Saito, G. Dresselhaus, and M. S. Dresselhaus: Phys. Rev. B 61 (2000) 2981.
-20-
第2章
[2.17] S. Bandow, S. Asaka, Y. Saito, A. M. Rao, L. Grigorian, E. Richter, and P. C. Eklund:
Phys. Rev. Lett. 80 (1998) 3779.
[2.18] L. Alvarez, A. Righi, T. Guillard, S. Rols, E. Anglaret, D. Laplaze, and J-L. Sauvajol:
Chem. Phys. Lett. 136 (2000) 186.
[2.19] S. M. Bachilo, M. S. Strano, C. Kittrell, R. H. Hauge, R. E. Smalley, and R. B.
Weisman: Science 298 (2002) 2361.
[2.20] H. Kataura, Y. Kumazawa, Y. Maniwa, I. Umezu, S. Suzuki, Y. Ohtsuka, and Y. Achiba:
Synth. Metals 103 (1999) 2555.
-21-
第 3 章 エピタキシャル Ag 層上での CNT 成長
はじめに
3.1
CNT 成長におけるバッファー層の必要条件
3.2
実験手法
3.3
3.4
3.5
3.6
3.7
エピタキシャル Ag 層の作製
エピタキシャル Ag 層上での Co の分散
エピタキシャル Ag 層上での SWCNT 成長
CNT 成長プロセス中のエピタキシャル Ag バッファー層の安定性
まとめ
3.8
参考文献
第3章
第3章
3.1
エピタキシャル Ag 層上での CNT 成長
はじめに
第 1 章で述べたように、電極金属上での SWCNT 成長は、CNTFET 作製プロセス確
立のために必須である。金属上での SWCNT 成長を行う際、SWCNT 成長の触媒金属
と基板金属との間の反応は、触媒金属の触媒能を失う可能性を持つため、可能な限り
抑える必要がある。しかし CNTFET 作製プロセスへ SWCNT 成長をそのまま組み込む
ために、ボトムアッププロセスによる自己整合的な金属電極上での SWCNT 成長技術
は重要となるが、CNT 成長の触媒金属となる Co 等は他の金属や Si と容易に反応し、
その触媒能を失う[3.1]。触媒能を維持しつつ金属上で CNT 成長を行うためには、CNT
成長温度に到達しても 2 相分離の関係を金属と触媒金属との間で保つ必要がある。
また、半導体的 SWCNT をチャネルに適用した際には、SSDFET によるキャリア伝
導特性のため、SWCNT とソース/ドレイン電極間のショットキー障壁高さは CNTFET
の閾値やキャリア等のデバイス特性を決定する重要な値となる。このことは、従来で
は困難であった n-チャネル CNTFET の実現が、Nosho 等の電極金属の選定によって実
現した[3.2,3]ことからもわかる。また Okada 等は電極の原子配列により CNTFET の特
性が変化することを予想した[3.4]。ショットキー障壁高さは、本質的には異種材料間
の仕事関数差で決まる。この仕事関数は、物質の最表面または界面の原子配列、つま
りは結晶面方位により決定されることが知られている[3.5-7]。しかし、この仕事関数
の結晶面方位依存が従来の電子デバイスで問題になることはなかった。従来の電子デ
バイスでは、ゲート電極など仕事関数が重要な要素となる部分は、多結晶の材料が使
われているが、その結晶粒の大きさと比較して電極面積が非常に大きく、各結晶粒の
面方位の違いに依存する仕事関数の値は平均化されて観察されるためである。
ここで、CNT と電極とのコンタクトを考える。このコンタクト部の接触面積は、従
来材料を用いた電子デバイスと比較すると、CNT の直径が数 nm 程度であることから
非常に小さい。つまり従来デバイスの場合には、広い接触電極面積のために平均化す
ることができた結晶面方位の違いによる仕事関数のゆらぎが、CNT デバイスの場合に
は、デバイスの電気的特性揺らぎとして顕著に現れることが十分に考えられる。この
問題の解決には、均一な仕事関数を持つ、つまり表面に単一の結晶面を出す事が可能
-22-
第3章
な単結晶金属を電極として用いる必要があり、電子デバイス作製を考慮するとエピタ
キシャル成長による単結晶電極金属の構造制御が、極めて有望な手法の一つとなる。
エピタキシャル成長による金属の構造制御、およびその金属上での自己整合的な
SWCNT 成長にむけ、Co/Ag/Si 基板という構造は非常に有効である。Ag は、Si(111)
基板および Si(100)基板上でエピタキシャル成長することは、よく知られている[3.8]。
また図 3.1(a)および 3.1(b)に、Ag-Si および Co-Ag の 2 元状態図を示す[3.9]が、CNT
の成長温度である 800ºC においても、Ag-Si および Co-Ag との間で 2 相分離の関係が
維持されていることがわかる。このことは、Ag が Co のシリサイド化による触媒能の
消失を防ぐバッファー層の候補として、Ag を用いることが可能なことも示している。
つまり Si 基板上のエピタキシャル Ag 電極の作製およびその電極上での SWCNT 成長
が可能であるならば、CNTFET 作製プロセスに適した電極金属選択の 1 つの指針とし
て、2 相分離の関係による触媒金属との低反応性の必要性を挙げることになる。また
エピタキシャル Ag 電極の適用は、将来考えられる CNT デバイスの特性揺らぎ抑制の
ための有力な候補となりうる。そこで本章では、Si(111)基板上のエピタキシャル Ag
層の作製、およびその後の SWCNT 成長を試みた。
3.2
CNT 成長におけるバッファー層の必要条件
まず、CNT 成長に向けたバッファー層として必要な条件を考える。
触媒金属の条件を考えるため CNT の成長様式に着目すると、SWCNT および
MWCNT の成長が、Au を触媒とした Si ナノロッドの成長[3.10,11]に代表される触媒
金属を成長の核とした VLS 成長の可能性が高いということは、以前から知られてい
る[3.12]。つまり、液相として一度触媒金属内に溶け込んだ C 原子が、触媒金属中で
過飽和を起こし、その後触媒金属表面に析出するという成長メカニズムのモデルが、
現在の熱 CVD 法における CNT 成長の有力な説である[3.13]。ここで重要なことは、
過飽和による C 原子の析出である。つまり、より効率よく C 原子を触媒金属から析
出させることができれば、それだけ CNT の成長を促進できるということである。現
在、触媒金属からの CNT 成長のメカニズムは完全には理解されておらず、分散した
触媒金属粒子からの 100%の成長は実現していない[3.14]が、触媒金属のサイズが CNT
の成長において、CNT の直径や成長効率の面で強く影響を与えるということは、よく
-23-
第3章
Temperaturee (ºC)
(a)
1400
1200
1000
835ºC
800
0
Si
20 40 60 80 100
Ag
Weight percent Ag (wt.%)
Temperatture (ºC)
(b)
1600
1400
1200
1000
800
600
0
Ag
図3.1
967ºC
20
40
60
80
100
Co
Weight
g percent
p
Co ((wt.%))
(a) Ag-Si系および(b) Ag-Co系における2元状態図。
-24-
第3章
知られている。
また、触媒金属形状と CNT の構造を注意深く観察した場合、触媒金属粒子表面の
曲率半径が小さい、もしくは一部に負の曲率半径をもつような位置を起点として、
CNT が成長することが確認されている[3.15]。また本研究においても、触媒金属の曲
率半径が大きく変化した位置を起点として CNT が成長していることを確認している。
その現象を表した TEM 像を、図 3.2 に示す。図 3.2 中の矢印の位置から、C 構造体が
触媒金属表面から離れている構造が確認できる。触媒金属表面に C 原子が析出し CNT
として成長する過程については 2 つのモデルが提唱されており、根本成長モデルでは
C ネットワークで構成されたキャップを、先端成長モデルでは触媒金属を CNT の先
端として成長していく。いずれのモデルにおいても、graphite 構造が触媒金属を覆う
ことなく突き出していくドライビングフォースが必要である。ここで、触媒金属の曲
率半径が小さいなど、触媒金属表面を graphite 構造が覆う際にそのシートに大きなス
トレスが印加されるような場合、このストレスを緩和するために graphene sheet が触
媒金属から離れようとすることが考えられる。このようなストレス緩和による CNT
成長は、根本成長および先端成長のいずれの成長モデルにおいても、妥当な考え方だ
と思われる。
以上の点を考慮に入れ、CNT 成長に適した触媒金属担持基板を考える。まず、CNT
成長直前に触媒金属が、その曲率半径が小さくなるような微粒子になることが必要で
ある。3 次元核形成による微粒子成長が起きる条件としては、以下の通りである。
σA>σAB-σB
(3.1)
ここで、図 3.3 に示すような基板および微粒子を考え、σA および σB は微粒子および
基板の表面エネルギー、σAB は基板と微粒子の界面エネルギーである。この関係式が
成り立って 3 次元島状成長する場合、基板と微粒子の間には図 3.3 に示すように接触
角を θ として、ヤングの式として広く知られている以下の関係式が成り立つ。
σAcosθ+σAB=σB
(3.2)
これら(3.1)および(3.2)式から同じ触媒金属を用いた場合、表面エネルギーσB の小さな
基板を用いることで、触媒金属が wetting layer を形成することなく、また θ=90º に近
い形状で基板表面に触媒金属微粒子の形成が期待でき、小さな曲率半径の触媒金属微
粒子の形成も可能となる。触媒金属担持基板として様々な酸化物表面が用いられてい
-25-
第3章
10 nm
図3.2 Co 膜厚20 nm、hot wall型CVDで成長温度800ºC、成長時間30 min、
CH3OHを原料にCNTを成長させたときの触媒金属の高分解能TEM像。
電子線の加速電圧は200 kV。
σA
微粒子
基板
図3.3
θ
σAB
σB
基板上の微粒子の成長における表面·界面エネルギー。
-26-
第3章
るが[3.16-18]、いずれの場合にもその表面エネルギーは小さく、安定であると考えら
れるため、この条件は十分に満たしている。また 3.1 節で、エピタキシャル Ag 層の
利点は、触媒金属との間に CNT 成長温度に至るまで 2 相分離の関係を保っていると
したが、Ag の表面エネルギーが CNT の触媒金属となる Fe、Ni、および Co と比較し
て小さいことが知られているため[3.19]、この点においても Ag が CNT 成長のバッフ
ァー層として有用であると考えられる。
最後に CNT 成長を考える場合、3.1 節で述べたように CNT の成長に必要な、高温
における試料の熱的安定性も無視できない。まず、触媒金属微粒子とバッファー層と
の反応を抑え、触媒金属の触媒能を維持する必要がある。また、多数の触媒金属微粒
子が表面に存在する場合は、それぞれの表面泳動による衝突を抑える必要がある。微
粒子同士が衝突することにより、一つの大きな粒子になってしまうためである。この
場合、表面における触媒粒子の拡散や触媒金属粒子の核発生を考慮する必要がある。
3.3
実験手法
化学洗浄した p-Si(111)基板(比抵抗: 0.01~0.02 Ω·cm)を UHV チャンバに導入し、膜
厚 30 nm の Ag を蒸着した(電子銃蒸着: 1 nm/min)。その後、石英製の電気炉に搬送し、
N2 雰囲気中(N2 流量: 5 l/min)で 800ºC、1 hour の熱処理を行い Si(111)基板上にエピタキ
シャル Ag 層を作製した。その後、再び UHV チャンバ内に試料を搬送して膜厚 0.5 nm
または 2 nm の Co を蒸着した(電子銃蒸着: 0.1 nm/min)。最後に、電気炉に試料を再び
搬送し、N2 雰囲気中(N2 流量: 5 l/min)で 800ºC、15 min の熱処理を行い、Co 粒子を凝
集させることでエピタキシャル Ag 層上に分散し、以上を CNT 成長前の準備とした。
CNT の成長は、石英製の電気炉内で行った。まず、N2 雰囲気中(N2 流量: 5 l/min)で
室温から 500ºC まで昇温し、H2 雰囲気(H2 流量: 2 l/min)で 500ºC、30 min の熱処理を行
い、Co の還元を行った。その後、再び N2 雰囲気中(N2 流量: 5 l/min)で 800ºC まで昇温
した後、CH3OH を導入し(キャリアガス: N2、流量: 5 l/min)、基板温度 800ºC で CNT
成長を行った。CNT 成長時間は 30 min であった。
比較用の試料として、バッファー層として広く用いられる SiO2 層を用い、エピタ
キシャル Ag 層を用いた時と同様の、触媒準備および CNT 成長条件で実験を行った。
SiO2 層を用いた場合における各工程を、以下に簡単に示す。化学洗浄を行った Si(111)
-27-
第3章
基板を O2 雰囲気(O2 流量: 5l/min)で 1000ºC、2 hour の熱酸化することより膜厚 100 nm
の SiO2 層を Si(111)基板上に形成した後、UHV チャンバ内での Co 蒸着、石英製電気
炉での Co の分散、および CNT 成長を行った。
Si(111)基板上のエピタキシャル Ag 層の確認には、反射高速電子回折(Reflection High
Energy Electron Diffraction: RHEED)、XRD、および TEM を用い、CNT 成長の確認に
はラマン分光、SEM、および TEM を用いた。
3.4
エピタキシャル Ag 層の作製
図 3.4(a)に Si(111)基板上に超高真空中で Ag を 30 nm 蒸着した直後の、図 3.4(b)に同
試料を、その後 N2 雰囲気で 800ºC、1 hour の熱処理した後の試料表面の RHEED パタ
ーンを示す。図 3.4(a)の蒸着直後の試料表面の RHEED パターンでは多結晶に起因し
たリング状のパターンが、図 3.4(b)では単結晶に起因したストリーク状のパターンが
観察できる。また水素終端 Si(111)表面の 1×1 パターン[3.20]と比較することで、図 3.4(a)
は多結晶 Ag に、図 3.4(b)は Ag(111)表面に起因した RHEED パターンであることが確
認できた。以上の結果は、800ºC の熱処理によって Si(111)基板上にエピタキシャル
Ag 層が固相成長したことを示唆している。
次に、Ag 蒸着後に N2 雰囲気中での熱処理を行った試料の、XRD プロファイルを
示す。図 3.5(a)は θ-2θ 測定、図 3.5(b)は 2θ 測定により得られた、XRD プロファイル
である。本測定においては、X 線を単色光化していないため、CuKα 線(λ=0.1541838 nm)
および CuKβ 線(λ=0.1392218 nm)による、同じ結晶面に起因する 2 つの回折ピークが
現れることが考えられる。ここで、図 3.5(a)の θ-2θ 測定において、Si 基板に起因する
Si(111)回折ピークは本質的に非常に強く現れるため、強度の小さい CuKβ 線からの回
折ピークであっても観察される。また、同じ理由で 2θ=28.442º の位置に、非常に強い
CuKα 線による Si(111)の回折ピークが現れるため、今回、2θ=28.442º の位置を含む領
域(27º<2θ<29º)は除いて測定を行っている。図 3.5(b)に着目すると、第 2 章で説明した
ように、多結晶の場合には多くのピークが観察される測定法である、2θ 測定の XRD
プロファイルからは、回折ピークは観察されなかった。また、図 3.5(a)に示した θ-2θ
測定の XRD プロファイルにおいては、2θ=25.660º および 2θ=38.280º の位置にそれぞ
れ CuKβ 線による Si(111)回折ピークおよび CuKα 線による Ag(111)に起因する回折ピ
-28-
第3章
(a)
(00)
(01)
(11)
(b)
図3.4 (a) 水素終端Si(111)基板上にAgを30 nm蒸着した直後の試料表面
および(b) N2雰囲気中、800ºC、1
雰囲気中 800ºC 1 hourの熱処理後の試料表面[112]
入射のRHEEDパターン。電子線の加速電圧は25 kV。
-29-
第3章
Intensity ((arb. units)
(a)
Ag(111)
Si(111)
Si(111)
20
25
30
35
40
45
50
55
40
45
50
55
2θ (º)
Intensity (arb. u
units)
(b)
20
25
30
35
2θ (º)
図3.5 N2雰囲気、800ºC、1 hourの熱処理後の試料の (a) θ-2θ測定
および(b) 2θ測定のXRDプロファイル。
-30-
第3章
ークが強く現れている。以上の結果から、Ag(111)//Si(111)の関係を保って、Si(111)基
板上に Ag がエピタキシャル成長していることが示唆される。
図 3.6(a)は同試料の高分解能断面 TEM 像、図 3.6(b)は平面透過電子回折(Transmission
Electron Diffraction: TED)パターンである。これらの TEM 及び TED 観察では、200kV
で加速した電子線を用いており、その入射方向は図 3.6(a)では[110]方向、図 3.6(b)で
は[111]方向である。図 3.6(a)の TEM 像より、Si(111)基板と Ag 層の界面は平坦であ
ることがわかる。またこの TEM 像において、d=0.31 nm および d=0.24 nm の格子縞
が観察できる。Si および Ag の(111)面格子間隔は、それぞれ dSi(111)=0.3136 nm および
dAg(111)=0.2359 nm であるため、この格子縞は Si{111}および Ag{111}に起因したもの
であると考えられる。このことから Ag(111)//Si(111)の関係でエピタキシャル成長し
ていることがわかる。また、このエピタキシャル関係は、先に述べた XRD の結果と
よく一致している。次に、図 3.6(b)に同試料の平面 TED パターンでは、図 3.6(b)中に
示したような Si{110}に起因した回折スポット、Ag{110}に起因した回折および多重
回折スポットが、それぞれ観察できる。このような多重回折スポットは、格子不整
合が大きいが、エピタキシャル成長をするような系において観察され[3.21]、この平
面 TED パターンから Si(111)基板上に Ag が、Ag(111)//Si(111)および Ag[110]//Si[110]
の関係を保ってエピタキシャル成長していることがわかる。
以上、図 3.4 の RHEED パターン、図 3.5 の XRD プロファイル、および図 3.6 の TEM
像および TED パターンから、Si(111)基板上におけるエピタキシャル Ag 層の成長が確
認 で き た 。Nason 等の報告によると、 Ag は Si(111) 基板上に Ag(111)//Si(111)、
Ag[110]//Si[110]または Ag(111)//Si(111)、Ag[110]//Si[114]の関係でエピタキシャル成長
する[3.8]。今回の結果はその報告のうち、Ag(111)//Si(111)および Ag[110]//Si[110]の報
告結果と、よく一致したものであるといえる。
3.5
エピタキシャル Ag 層上での Co の分散
3.3 節で作製したエピタキシャル Ag 層上に、膜厚 0.5 nm または 2 nm の Co を蒸着
し、その後 N2 雰囲気中で 800ºC、15 min の熱処理を行い、Co 粒子の分散を行った。
図 3.7(a)および 3.7(b)に、エピタキシャル Ag 層上にそれぞれ膜厚 0.5 nm および 2 nm
の Co を蒸着し、N2 雰囲気中で 800ºC の熱処理をした後の試料表面の SEM 像を、そ
-31-
第3章
(a)
Ag
0.24 nm
Ag{111}
Si{111}
0.31 nm
Si
3 nm
(b)
Ag(220)
Si(220)
図3.6 N2雰囲気、800ºC、1 hourの熱処理後の試料の (a) [110]入
射高分解能TEM像および(b) [111]入射平面TEDパターン。
電子線の加速電圧は200 kV。
-32-
第3章
(b)
(a)
50 nm
50 nm
(d)
(c)
50 nm
図3.7
50 nm
エピタキシャルAg層上およびSiO2上にCoを蒸着した後にN2雰囲
気、800ºC、15 minの熱処理後の試料表面のSEM像。それぞれエ
ピタキシャルAg層上にCoを膜厚(a) 0.5 nm蒸着および(b) 2 nm蒸着、
SiO2層上にCoを膜厚(c) 0.5 nm蒸着および(d) 2 nm蒸着。
-33-
第3章
れぞれ示す。また、Co 粒子の分散の様子を比較するために、SiO2 層上に膜厚 0.5 nm
または 2 nm の Co を蒸着した後に 800ºC の熱処理をした後の試料表面の SEM 像を、
図 3.7(c)および図 3.7(d)にそれぞれ示す。図 3.7(a)~図 3.7(d)のいずれの SEM 像におい
ても、粒径がおよそ 3 nm~10 nm 程度の凝集物が多数観察でき、Co 粒子が様々な粒
径をもって成長していることが確認できる。図 3.8(a)~図 3.8(d)は、図 3.7(a)~図 3.7(d)
の SEM 像からそれぞれ見積もった粒径分布のヒストグラムである。また、表 3.1 に
この SEM 像から見積もった Co 粒子の、平均粒径および数密度を示す。
表 3.1
エピタキシャル Ag 層上および SiO2 層上での Co 分散の様子。
Co の蒸着膜厚は、それぞれ 0.5 nm および 2 nm。
Buffer layer
Mean diameter of Co
Density of Co particles
particles (nm)
(cm-2)
0.5
4.5
1.1×1012
2
7.1
5.8×1011
0.5
6.3
4.4×1011
2
8.8
4.2×1011
Thickness of Co (nm)
Epitaxial Ag layer
SiO2 layer
図 3.8 のヒストグラムで、エピタキシャル Ag 層上と SiO2 層上の Co 粒子の分散を比
較すると、Co の粒径分布の仕方に違いが見える。まず、Co 蒸着膜厚が 0.5 nm の場合
に着目すると、SiO2 層上の Co の平均粒径 6.3 nm に対して、エピタキシャル Ag 層上
の Co の平均粒径は 4.5 nm と非常に小さく、またヒストグラムから SiO2 層上と比較し
て、エピタキシャル Ag 層上ではその粒径のばらつきが小さいことが確認できる。ま
た、表 3.1 より、エピタキシャル Ag 層上および SiO2 層上の Co 粒子の数密度は、そ
れぞれ 1.1×1012 cm-2 および 4.4×1011 cm-2 であり、エピタキシャル Ag 層上では SiO2 層
上と比較し、Co 粒子の数密度が多いことがわかる。さらに、Co 蒸着膜厚が 2 nm の
場合には、図 3.8(b)および図 3.8(d)のヒストグラムでは、Co 蒸着膜厚 0.5 nm の場合と
比較して大きな差は見られないが、この図 3.8 および表 3.1 から、エピタキシャル Ag
層上では SiO2 層上と比較して Co 粒子の平均粒径はわずかに小さいことが確認できる。
-34-
第3章
(a)
counts (arb. units)
counts (arb. units)
(b)
2
4
6
10
8
diameter (nm)
4
6
10
8
diameter (nm)
2
4
6
10
8
diameter (nm)
(d)
counts (arb. u
units)
counts (arb. u
units)
(c)
2
図3.8
2
4
6
10
8
diameter (nm)
エピタキシャルAg層上およびSiO2上にCoを蒸着した後にN2雰囲気、
800ºC、15 minの熱処理後の試料表面のCo粒径分布のヒストグラム。そ
れぞれエピタキシャルAg層上にCoを膜厚(a) 0.5 nm蒸着、(b) 2 nm蒸着、
SiO2層上にCoを膜厚(c) 0.5
0 5 nm蒸着、(d)
nm蒸着 (d) 2 nm蒸着。
nm蒸着
-35-
第3章
以上の観察結果は、エピタキシャル Ag 層上では SiO2 層上に比べて Co 粒子の粒径
を小さく、またその数密度を多くできることを示している。このことは、エピタキシ
ャル Ag 層上と SiO2 層上での、核発生のメカニズムおよび核発生サイトの違いが原因
と、考えられる。Hu 等は、TiO2(110)面での金属の成長様式の違いを例として、酸化
膜上での遷移金属の成長様式の違いを遷移金属と酸化膜との酸素原子を介した相互
作用と遷移金属原子同士の相互作用とし、これらの相互作用を遷移金属の酸化物生成
熱と昇華熱の大きさの違いであると説明した[3.22]。Kakehi 等はこの議論を元に、SiO2
層上での遷移金属の凝集の仕方の違いを決定するのは、SiO2 層上での拡散長の違いで
あり、その拡散長は、遷移金属と酸化膜との相互作用を決定する遷移金属酸化物生成
熱の違いで予想できるとした[3.23]。一方、Fruchart 等は、Au(111)面上での Co の場合、
Au(111)面のステップのキンク上で Co が凝集して粒子となることを見出し、その周期
が 10 nm 程度の非常に高密度な Co 粒子を、Au(111)面上に分散させている[3.24]。つ
まり、Kakehi 等は遷移金属酸化物生成熱に起因した SiO2 層上の Co の拡散長が、
Fruchart 等はキンクに起因した Au 上の Co の核発生サイトが、Co の凝集において重
要なファクターであるとしている。SiO2 層上とエピタキシャル Ag 層上での Co 凝集
のメカニズムの違いを簡単に説明はできないが、ここで Au と Ag が同じ族として分
類できるため同じ核発生メカニズムをもつと考えるとし、今回の結果から、エピタキ
シャル Ag 層上では、SiO2 層上と比較してキンクに起因した核形成サイトが多いと推
測され、Co 蒸着膜厚が 0.5 nm と十分に薄い場合には、Co 粒子の分散に違いが現れた
と考えられる。
しかし、Co の蒸着膜厚が 2 nm と十分に厚くなると、Co 粒子の平均粒径およびそ
の数密度に、大きな差は見られなかった。この理由として、熱処理時に起きる Co 粒
子の表面泳動の際に、蒸着膜厚が厚い場合には初期の Co 粒子の平均粒径も大きくな
るために、Co 粒子同士の衝突による粒同士の合体が頻繁に起こり、核形成のメカニ
ズムの違いが Co 粒子の分散に与える影響を顕著に観察できなくなったと考えられる。
様々なバッファー層表面上での触媒金属の核発生メカニズムは、その後の CNT 成
長に大きく関わるため、今後さらに核発生のメカニズムを解明する必要がある。
-36-
第3章
3.6
エピタキシャル Ag 層上での SWCNT 成長
次に、エピタキシャル Ag 層上および SiO2 層上で分散した Co を触媒として用い、
CH3OH を炭素供給源としたアルコール CVD 法により、CNT の成長を行った。
図 3.9(a)および図 3.9(b)は、エピタキシャル Ag 層上に Co を 0.5 nm および 2 nm 蒸
着した試料を用いて CNT 成長を行った後の試料表面の、図 3.9(c)および図 3.9(d)は、
SiO2 層上に Co を 0.5 nm および 2 nm 蒸着した試料を用いて CNT 成長を行った後の試
料表面の SEM 像を、それぞれ示している。いずれの SEM 像においても、CNT と考
えられる、細線状の構造物が確認できる。以降に示すラマン分光法および TEM 観察
の結果から、これらの構造体が主に SWCNT であることがわかった。図 3.9(a)および
図 3.9(c)に示した Co 蒸着膜厚 0.5 nm の場合、SiO2 層上と比較してエピタキシャル Ag
層上では、高密度に SWCNT が存在し、また基板に対して垂直に成長していることが
確認できる。SEM 像から見積もった CNT 膜の膜厚は、およそ 870 nm であった。表
3.1 から、SiO2 層上の Co の平均粒径 6.3 nm と比較し、エピタキシャル Ag 層上では
Co の平均粒径は 4.5 nm と非常に小さくまたその数密度も多いことから、この CNT 成
長の差は触媒金属の分散の違いが大きく関わっていると考えられる。
次に、図 3.9(b)および図 3.9(d)に示した Co 蒸着膜厚 2 nm の場合は、Co 蒸着膜厚 0.5
nm の場合ほど、バッファー層の違いによる成長の違いは見られなかった。しかし、
エピタキシャル Ag 層上では、CNT と考えられる構造物が SiO2 層上と比較して、多く
みられることがわかる。表 3.1 から SiO2 層上の Co の平均粒径 8.8 nm、エピタキシャ
ル Ag 層上の Co の平均粒径 7.1 nm と、わずかではあるがエピタキシャル Ag 層上で
Co の微粒化が確認できるため、この CNT 成長の違いも触媒金属粒子の分散の違いに
起因していると考えられる。また、Co 粒子の形状を注意深く観察すると、SiO2 層上
と比較してエピタキシャル Ag 層上では、球状に近い形をとっていると考えられる。
つまり、同程度の平均粒径であっても、その表面積の増加により、気相アルコールと
の反応が活発となり、CNT 成長の増加につながったと考えられる。
以上から、エピタキシャル Ag 層上では SiO2 層上と比較し Co 粒子の分散の違いに
より、CNT の成長がより促進されることがわかった。Co/Cr/Al のような多層触媒金属
による触媒金属の凝集抑制により、CNT 成長の活性化エネルギーを下げることができ
るという報告もある[3.25]。このことは、触媒金属の凝集を抑えることによって、CNT
-37-
第3章
(a)
(c)
1 µm
((b))
1 µm
((d))
1 µm
1 µm
図3.9 CH3OHを原料として、800ºC、30 minでCNT成長を行った試料表面のSEM像。
それぞれエピタキシャルAg層上にCoを膜厚(a) 0.5 nm蒸着および(b) 2 nm蒸着、
SiO2層上にCoを膜厚(c) 0.5 nm蒸着および(d) 2 nm蒸着。
-38-
第3章
低温成長が可能であるということを示唆している。今回の場合は、低温成長という観
点から実験を行っていないが、CNT 成長温度を SiO2 層上と比較してエピタキシャル
Ag 上では低くすることが可能であると考えられる。
次に、CNT 成長直後の試料表面をラマン分光法により観察することで、SEM によ
り観察された構造体の評価を行った。様々な試料のラマンスペクトルを、図 3.10 に示
す。いずれの条件の場合でも、1350 cm-1 近傍に強い G-band、1590 cm-1 近傍に弱い
D-band、そして 100 cm-1~400 cm-1 の領域に多くの RBM が観察できる。これらのピー
クから、図 3.9 の SEM 像において観察できた構造体の多くは、エピタキシャル Ag 層
上および SiO2 層上のいずれの場合でも、SWCNT であると考えられる。また、RBM
のピーク位置から、d=248/ω の関係式により求めた SWCNT の直径を、図 3.10 のスペ
クトルの上の軸に示す。SiO2 層上と比較して、エピタキシャル Ag 層上では SWCNT
の直径は、より大きなものが成長していることが考えられる。また、G-band および
D-band の面積強度より見積もった G/D を、同時に図 3.10 中に示す。この G/D の値は、
Co 蒸着膜厚 0.5 nm および 2 nm のいずれの場合にも、SiO2 層上と比較してエピタキシ
ャル Ag 層上では、小さな値を示している。このことは、エピタキシャル Ag 層上で
成長した SWCNT は、SiO2 層上と比較して欠陥が多いこと、または CNT 成長におけ
る副生成物である a-C が、SiO2 層上に比べてエピタキシャル Ag 層上では多いことを
示唆している。ここで、エピタキシャル Ag 層上の SWCNT に、SiO2 層上と比較して
欠陥が多い理由を考察する。SWCNT 表面の graphite 構造は安定な構造であるが、CNT
成長に用いた触媒金属による、もしくは SWCNT 欠陥による燃焼の活性化エネルギー
の低下が報告されている[3.26]。エピタキシャル Ag 層上の場合、SiO2 層上と比較して
SWCNT 燃焼の触媒となる可能性のある Ag をバッファー層として用いているため、
SWCNT と Ag の接触部分において、CH3OH から発生した OH ラジカルによる燃焼の
活性化エネルギーが Ag が触媒となることで小さくなり、Ag 表面近傍で OH ラジカル
により欠陥が導入されたと考えることができるが、その詳細についてはさらに実験が
必要である。
図 3.11 に、エピタキシャル Ag 上に膜厚 0.5 nm の Co を蒸着した試料を用いて成長
した CNT の、TEM 像を示す。図 3.11(a)は広域 TEM 像、図 3.11(b)~図 3.11(d)は成長
した SWCNT、DWCNT、そして MWCNT である。図 3.11(a)から、蒸着膜厚 0.5 nm の
-39-
第3章
SWCNT diameter (nm)
21.5 1
励起光: 532 nm
Normalizzed intensity
×5
Catalyst
thickness
G/D=5
7
2 nm
0.5 nm
10
11
2 nm
0.5 nm
on Ag
on SiO2
100 200 300 400 1300 1400 1500 1600 1700
Raman shift (cm-1)
図3.10
CH3OHを原料として800ºC、30 minでCNT成長を行った試料のラマンスペクトル。
基板はエピタキシャルAg層上にCoを0.5
板
ャ
g層
nmおよび2 nm蒸着、またはSiO
蒸着、
層上に
2層
Coを0.5 nmおよび2 nm蒸着したもの。励起光波長は532 nm。
-40-
第3章
(a)
(b)
1.2 nm
50 nm
( )
(c)
5 nm
5.4 nm
4.7 nm
(d)
Co{002}
0.21 nm
5.7 nm
5 nm
5 nm
図3.11 エピタキシャルAg層上にCoを膜厚0.5 nm 蒸着し、CH3OHを原料として800ºC、
成長 行
試料 ( ) 広域TEM像および(b)
域
像お
( ) SWCNT、(c)
、( ) DWCNT、
、
30 minでCNT成長を行った試料の(a)
および(d) MWCNTの高分解能TEM像。加速電圧は120 kV。
-41-
第3章
Co を用いてエピタキシャル Ag 層上で成長した CNT の多くは、SWCNT であること
がわかる。この TEM 観察により見積もった SWCNT の割合は 90%以上であった。ま
た、図 3.11(a)および図 3.11(b)から、成長した SWCNT は孤立または数本からなるバン
ドルを形成しており、その表面には a-C のような副生成物がほとんど付着していない
事が確認できる。このことから、エピタキシャル Ag 層上において、不純物の少ない
SWCNT の成長が確認できた。TEM 像により見積もった SWCNT の直径分布は、およ
そ 0.8 nm~4.2 nm であり、その平均直径は 3.1 nm であった。また、わずかではある
が図 3.11(c)および図 3.11(d)に示すような、DWCNT および MWCNT の成長も確認で
きる。
3.7
CNT 成長プロセス中のエピタキシャル Ag バッファー層の安定性
次に、CNT 成長直後のエピタキシャル Ag 層の構造について、説明する。
図 3.12(a)および図 3.12(b)は、CNT 成長直後の試料の θ-2θ 測定および 2θ 測定 XRD
プロファイルである。本測定においても X 線の単色光化を行っていないために、CuKα
線および CuKβ 線に起因した回折ピークが現れる可能性があり、θ-2θ 測定時には、非
常に強く現れる CuKα 線による Si(111)の回折ピークを含む領域を除いて、測定を行っ
た。図 3.12(b)の 2θ 測定 XRD プロファイルからは、多結晶に起因した回折ピークは確
認されない。また、図 3.12(a)の θ-2θ 測定 XRD プロファイルにおいて、2θ=25.660º の
位置に CuKβ 線による Si(111)回折ピーク、および 2θ=38.280º の位置に CuKα 線による
Ag(111)回折ピークが確認できることから、図 3.5 で示したエピタキシャル Ag 層成長
直後と同様に Ag(111)//Si(111)の関係を保っていることがわかる。
図 3.13(a)および図 3.13(b)に、同試料の高分解能断面 TEM 像と平面 TED パターン
を示す。d=0.24 nm および d=0.31 nm の格子縞が観察でき、Ag{111}および Si{111}に
起因した格子縞だとわかる。この断面 TEM 像および平面 TED パターンと、図 3.6 に
示したエピタキシャル Ag 層成長直後の断面 TEM 像および平面 TED と比較すると、
エピタキシャル Ag 層が CNT 成長プロセス後に、その構造を保って安定に存在してい
る事がわかる。
-42-
第3章
Inttensity (arb. units)
(a)
Ag(111)
Si(111)
Si(111)
20
25
30
35
40
45
50
55
40
45
50
55
2θ (º)
Inten
nsity (arb. units)
(b)
20
25
30
35
2θ (º)
図3.12 CNT成長後のエピタキシャルAg層を作製した試料の
(a) θ-2θ測定および(b) 2θ測定のXRDプロファイル。
-43-
第3章
(a)
Ag
Ag{111}
Si{111}
0.31 nm Si
3 nm
(b)
Si(220)
Ag(220)
図3.13 CNT成長後のエピタキシャルAg層を作製した試料の
(a) [110]入射高分解能TEM像および(b) [111]入射平面
TEDパターン
TEDパタ
ン。電子線の加速電圧は200
電子線の加速電圧は200 kV。
kV
-44-
第3章
3.8
まとめ
本章では、Si(111)基板上のエピタキシャル Ag 層をバッファー層として、SWCNT
の成長を行った。
Si(111)基板上に蒸着した Ag を N2 雰囲気中で熱処理することにより、エピタキシャ
ル Ag 層の形成を実現し、このエピタキシャル Ag 層は CNT 成長プロセスを経ても安
定に存在することがわかった。
エピタキシャル Ag 層上への蒸着および熱処理を行うことで分散した Co 粒子は、
同じ条件で形成した SiO2 層上の Co 粒子と比較して、その粒径は小さく、また数密度
は多くなることがわかった。また、このように粒径を制御したエピタキシャル Ag 層
上の Co 粒子を、触媒金属として CNT 成長を行うことで、SiO2 層上と比較して欠陥が
多いことが予想されるが、高密度な SWCNT の成長が可能であることがわかった。
以上の結果から、エピタキシャル Ag 層上での CNT 成長が可能であり、Si 基板上
にエピタキシャル Ag 層の電極パターンを形成することで、エピタキシャル Ag 層上
のみの自己整合的な SWCNT 成長の可能性を見出した。
-45-
第3章
参考文献
[3.1] Y. Homma, Y. Kobayashi, T. Ogino, D. Takagi, R. Ito, Y. J. Jung, and P. M. Ajayan: J.
Phys. Chem. B 107 (2003) 12161.
[3.2] Y. Nosho, Y. Ohno, S. Kishimoto, and T. Mizutani: Appl. Phys. Lett. 86 (2005) 073105.
[3.3] Y. Nosho, Y. Ohno, S. Kishimoto, and T. Mizutani: Nanotechnology 17 (2006) 3412.
[3.4] S. Okada and A. Oshiyama: Phys. Rev. Lett. 95 (2005) 206804.
[3.5] N. D. Lang and W. Kohn: Phys. Rev. B 3 (1971) 1215.
[3.6] R. T. Tung and J. M. Gibson: J. Vac. Sci. Tech. A 3 (1985) 987.
[3.7] R. T. Tung, A. F. J. Levi, J. P. Sullivan, and F. Schrey: Phys. Rev. Lett. 66 (1991) 72.
[3.8] T. C. Nason, L. You, and T. M. Lu: J. Appl. Phys. 72 (1992) 466.
[3.9] H. Baker: Alloy phase diagrams, ed. N. D. Wheaton, K. Mills (Materials Park, OH:
ASM International, 1992).
[3.10] R. S. Wagner and W. C. Ellis: Appl. Phys. Lett. 4 (1964) 89.
[3.11] E. I. Givargizov: J. Cryst. Growth 31 (1975) 20.
[3.12] Y. Saito, M. Okuda, N. Fujimoto, T. Yoshikawa, M. Tomita, and T. Hayashi: Jpn. J.
Appl. Phys. 33 (1994) L526.
[3.13] C. P. Deck and K. Vecihio: Carbon 44 (2006) 267.
[3.14] D. N. Futaba, K. Hata, T. Namai, T. Yamada, K. Mizuno, Y. Hayamizu, M. Yumura,
and S. Iijima: J. Phys. Chem. 110 (2006) 8035.
[3.15] S. Helveg, C. Lopez-Cartes, J. Sehested, P. L. Hansen, B. S. Clausen, J. R.
Rostrup-Nielsen, F. Abild-Pedersen, and J. K. Norskov: Nature 427 (2004) 426.
[3.16] A. Cao, P. M. Ajayan, G. Ramanath, R. Baskaran, and K. Turner: Appl. Phys. Lett. 84
(2004) 109.
[3.17] H. Ago, K. Nakamura, K. Ikeda, N. Uehara, N. Ishigami, and M. Tsuji: Chem. Phys.
Lett. 408 (2005) 433.
[3.18] M. Maret, K. Hostache, M-C. Schouler, B. Marcus, F. Roussel-Dherbey, M. Albrecht,
and P. Gadelle: Carbon 45 (2007) 180.
[3.19] H. L. Skriver and N.M. Rosengaard: Phys. Rev. B 46 (1992) 7157.
[3.20] T. Wadayama, K. Takeuchi, K. Mukai, T. Tanabe, and A. Hatta: J. Vac. Sci. Technol. A
-46-
第3章
20 (2002) 299.
[3.21] H. Yanagisawa, S. Shinkai, K. Sasaki, J. Sakurai, Y. Abe, A. Sakai, and S. Zaima: J.
Cryst. Growth 297 (2006) 80.
[3.22] M. Hu, S. Noda, and H. Komiyama: Surf. Sci. 513 (2002) 530.
[3.23] K. Kakehi, S. Noda, S. Chiashi, and S. Maruyama: Chem. Phys. Lett. 428 (2006) 381.
[3.24] O. Fruchart, M. Klaua, J. Barthel, and J. Kirschner: Phys. Rev. Lett. 83 (1999) 2769.
[3.25] H-C Cheng, K-C Lin, H-C Tai, C-P Juan, R-L Lai, Y-S Liu, H-W Chen, and Y-Y Syu:
Jpn. J. Appl. Phys. 46 (2007) 4359.
[3.26] R. Brukh and S. Mitra: J. Mater. Chem. 17 (2007) 619.
-47-
第 5 章 HFCVD 法における SWCNT の成長機構
はじめに
5.1
5.2
熱 CVD 法および PECVD 法による MWCNT 成長の律速過程
実験方法
5.3
5.4
CNT 成長およびその成長様式評価
5.5
C-HFCVD 法による CNT 成長機構
まとめ
5.6
参考文献
第5章
第5章
5.1
HFCVD 法における SWCNT の成長機構
はじめに
第 4 章において、アルコールを原料とした C-HFCVD 法は、フィラメントによるア
ルコールの熱分解により、熱 CVD 法と比較して SWCNT の低温成長が可能であるこ
とがわかった。また、アルコール種の違いにより C-HFCVD 法における SWCNT 成長
様式が変化する理由を、C-フィラメントによるアルコール分解の効率とし、標準生成
エンタルピーを用いて説明した。しかし、第 4 章において、C 前駆体の挙動や前駆体
から SWCNT の成長の詳細について、十分に議論しなかった。通常の熱 CVD 法は、
VLS 成長に分類され、触媒金属中に C 原子が溶け込むことが重要となる。しかし、
MWCNT の低温成長を行うために広く使われる PECVD 法では、VLS 成長ではなく、
表面拡散型成長(surface-bound growth)による CNT 成長と言われており、触媒金属の表
面のみで成長に必要な素過程が起こり、表面の C adatom の拡散が重要となる[5.1]。
PECVD 法が低温成長可能な理由は、この C adatom の挙動に由来し、表面拡散型成
長による MWCNT 成長における活性化エネルギーは、VLS 成長における拡散エネル
ギーと比較し、非常に小さいことがよく知られている。本章では、C-HFCVD 法によ
る SWCNT 成長の律速過程について、その活性化エネルギーを見積もり、C-HFCVD
法による SWCNT 成長が VLS 成長もしくは表面拡散型成長のいずれかの場合である
か、活性化エネルギーにより分類することで、SWCNT 成長機構を考察した。
5.2
熱 CVD 法および PECVD 法による MWCNT 成長の律速過程
PECVD 法は MWCNT の熱 CVD 法と比較して、低温成長が可能である。その理由
として、MWCNT の成長機構が熱 CVD 法と PECVD 法において異なり、成長の律速
過程が変化することが挙げられる[5.1-4]。図 5.1 に、熱 CVD 法および PECVD 法にお
ける CNT 成長における、C 原子の挙動を示す。
通常の熱 CVD 法において、CNT は VLS 成長により成長するといわれており、触媒
金属と C 原子の液相状態を経た後に触媒金属上に析出した C 原子が、CNT の成長に
寄与すると考えられている。図 5.1 中において C adatom の挙動は①→②→③→⑤→④
の通りである。このうち、最もエネルギーが必要で成長速度を決定する律速過程とな
-90-
第5章
: C原子
: H原子
+
①
①*
②
③
⑤
④
①:
①*:
②:
③:
④:
⑤:
図5.1
前駆体の触媒金属上への吸着
活性な前駆体の触媒金属上への吸着
前駆体の解離
C原子の触媒金属表面拡散
C構造体への核形成または結合
C原子の触媒金属中の拡散
熱CVD法およびPECVD法によるMWCNT成長における、
触媒金属上でのC原子の挙動のモデル図。
-91-
第5章
る過程は、⑤の触媒金属中を C 原子が拡散していく過程である。この触媒金属中の C
原子の拡散に必要なエネルギーは、従来の気相成長炭素繊維(VGCF: Vapor Growth
Carbon Fiber)においては 1.2 eV であり[5.5]、MWCNT の場合において触媒金属が Fe、
Co、および Ni のいずれの場合であっても、同様の 1.2 eV~1.6 eV 程度と報告されてい
る[5.1-4]。
PECVD 法における C adatom の挙動は、
熱 CVD 法と比較して異なった挙動を示す。
その理由としては、炭化水素種がイオン化もしくはラジカル化することにより、熱
CVD 法において必要となる、触媒表面での分子の解離(②)の過程がなくなることが挙
げられる。ここで PECVD 法において起きる反応過程は①*→③→④となる。ここで注
目すべきことは、熱 CVD 法において成長律速過程であった、触媒金属中への C adatom
の拡散(⑤)の過程が、PECVD 法では見られないことがわかる。この過程のうち反応速
度を決定する律速過程となる過程は、触媒金属上での C adatom の拡散といわれてい
る。C2H2 を炭素供給源とした PECVD 法において、触媒金属が Fe、Ni、および Co の
場合、それぞれ 0.35 eV、0.23 eV、および 0.3 eV の活性化エネルギーが報告されてお
り[5.1]、熱 CVD 法における活性化エネルギー1.2 eV と比較し、非常に小さいことが
わかる。先ほど示したように、熱 CVD 法における成長律速過程が、触媒中の C 原子
の拡散であり、その過程を経ることなく CNT の成長が可能であるために、PECVD 法
の成長律速過程は熱 CVD 法と比較して小さな活性化エネルギーとなり、そのため熱
CVD 法と比較して、低い温度での CNT 成長が可能であるといわれている。
5.3
実験方法
第 4 章において行った、C-HFCVD 法を用いて SWCNT の成長を行った。触媒金属
は、Si(100)基板上に熱酸化によって作製した膜厚 100 nm の SiO2 上に、Co を 0.5 nm
蒸着したものを用い、アルコール種は CH3OH、C2H5OH、および 2-C3H7OH を用いた。
500ºC、30 min、H2/N2 混合ガス中で触媒を還元した後に C-HFCVD 法を行った。C-フ
ィラメント温度は 1700ºC、成長時間はそれぞれ 3 min、15 min、30 min、および 75 min、
CNT 成長の基板温度はそれぞれ 600ºC、625ºC、650ºC、675ºC、および 700ºC である。
CNT の成長長さは断面 SEM 観察により評価し、その構造はラマン分光および TEM
により評価した。
-92-
第5章
5.4
5.4.1
CNT 成長およびその成長様式評価
CH3OH
基板温度 675ºC
図 5.2(a)~図 5.2(d)は、
それぞれ CH3OH をアルコール種として用い、基板温度 675ºC、
成長時間 3 min、15 min、30 min、および 75 min で CNT の成長を行った試料の、断面
SEM 像である。いずれの断面 SEM 像においても、基板に対して垂直に CNT が成長
していることが確認できる。図 5.3 は、これらの断面 SEM 像から見積もった CNT の
平均長さを、成長時間に対してプロットしたグラフである。また、この図 5.3 中の近
似曲線は、第 4 章における(4.2)式を用いて、初期成長速度、触媒寿命、そして正味の
SWCNT 燃焼速度を定義して描いた。以下、このような手法を用いて、SWCNT の初
期成長速度を求めた。このフィッティングによって、CH3OH をアルコール供給源と
して成長時間 675ºC の場合、初期成長速度は 1.4 μm/min、触媒寿命は 7.3 min、そして
正味の CNT 燃焼速度は 0.014 μm/min であることがわかる。
5.4.2
CH3OH
基板温度 600ºC
図 5.4(a)~図 5.4(d)に CH3OH をアルコール種として用い、フィラメント温度 1700ºC、
基板温度 600ºC、成長時間 3 min、15 min、30 min、および 75 min で CNT 成長を行っ
た試料の、断面 SEM 像を示す。いずれの場合においても、基板に対して垂直に CNT
が成長していることが確認できる。図 5.5 は図 5.4(a)~図 5.4(d)から見積もった CNT 平
均長さを、成長時間に対してプロットしたグラフであり、図 5.5 中は(4.2)式の関数を
用いた近似曲線も同時に描いている。この近似曲線から、基板温度 600ºC の場合、CNT
初期成長速度は 0.15 μm/min、触媒寿命は 4.6 min、そして正味の CNT 燃焼速度は 0.0017
μm/min と見積もることができる。また、図 5.4 および図 5.5 から、基板温度 600ºC に
おいても、その成長初期から CNT が垂直成長していることがわかる。
5.4.3
C2H5OH
基板温度 675ºC
図 5.6(a)~図 5.6(c)は、
C2H5OH をアルコール種として用い、フィラメント温度 1700ºC、
基板温度 675ºC、成長時間 3 min、15 min、および 30 min で CNT の成長を行った試料
の、断面 SEM 像である。また、図 5.7 は図 5.6 より見積もった CNT の平均長さを成
長時間に対してプロットしたものである。いずれの断面 SEM 像においても、CNT が
-93-
第5章
(a)
3 μm
(b)
3 μm
図5.2
CH3OHを用い、フィラメント温度1700ºC、基板温度675ºCで成長した
CNTの断面SEM像 成長時間は(a) 3 minおよび(b) 15 min。
CNTの断面SEM像。成長時間は(a)
min
-94-
第5章
(c)
3 μm
(d)
3 μm
図5.2
CH3OHを用い、フィラメント温度1700ºC、基板温度675ºCで成長した
CNTの断面SEM像。成長時間は(c) 30 minおよび(d) 75 min。
-95-
第5章
10
H(t)=1.41×7.28{1-exp(-t/7.28)}-0.0138t
CNT length
h (µm)
8
6
4
2
0
0
図5.3
10
20
30
40
50
Growth time (min)
60
70
CH3OHを用い、フィラメント温度1700ºC、基板温度675ºCで
成長したCNTの、成長時間に対するCNT長さの変化。
-96-
80
第5章
(a)
300 nm
(b)
300 nm
図5.4
CH3OHを用
OHを用い、フィラメント温度1700ºC、基板温度600ºCで成長した
、 ィラメ ト温度1700 C、基板温度600 Cで成長した
CNTの断面SEM像。成長時間は(a) 3 minおよび(b) 15 min。
-97-
第5章
(c)
300 nm
(d)
300 nm
図5.4
CH3OHを用い、フィラメント温度1700ºC、基板温度600ºCで成長した
CNTの断面SEM像。成長時間は(c) 30 minおよび(d) 75 min。
-98-
第5章
0.8
0.6
CNT length
h (µm)
H(t)=0.154×4.55{1-exp(-t/4.55)}-0.0017t
0.4
0.2
0
0
図5.5
10
20
30
40
50
Growth time (min)
60
70
CH3OHを用い、フィラメント温度1700ºC、基板温度600ºCで
成長したCNTの、成長時間に対するCNT長さの変化。
-99-
80
第5章
(a)
1 μm
(b)
1 μm
(c)
1 μm
図5 6
図5.6
C2H5OHを用い、フィラメント温度1700
OHを用い フィラメント温度1700ºC
C、基板温度675
基板温度675ºCで成長した
Cで成長した
CNTの断面SEM像。成長時間は(a) 3 min、(b) 15 min、および(c) 30 min。
-100-
第5章
8
H(t)=0.249×314.1{1-exp(-t/314.1)}
CNT length
h (µm)
6
4
2
0
0
図5.7
10
20
Growth time (min)
30
C2H5OHを用い、フィラメント温度1700ºC、基板温度675ºCで
成長したCNTの、成長時間に対するCNT長さの変化。
-101-
第5章
垂直に成長していることが確認できる。ここで第 4 章でも述べたように、CH3OH を
アルコール種として CNT の成長を行った場合と比較して、C2H5OH をアルコール種と
した場合には、正味の燃焼速度は非常に遅いこと、そして触媒寿命が長いことがわか
る。そこで、図 5.7 の実験値に対して近似曲線を求める際には、燃焼に関する項は加
えず、Futaba 等の関数[5.6]をそのまま用いてフィッティングを行った。この近似曲線
より、CNT 初期成長速度を 0.25 μm/min、触媒寿命は 310 min と見積もった。
5.4.4
2-C3H7OH
基板温度 675ºC
図 5.8(a)~図 5.8(c)は、2-C3H7OH をアルコール種として用い、フィラメント温度
1700ºC、基板温度 675ºC、成長時間 3 min、15 min、および 30 min で CNT 成長を行っ
た試料の断面 SEM 像、図 5.9 は、図 5.8 より見積もった CNT 成長長さを、成長時間
に対してプロットし、さらに近似曲線を挿入したものである。2-C3H7OH の場合にも、
正味の燃焼速度は触媒寿命が長いために、SWCNT 燃焼を観察することができなかっ
たため、Futaba 等の関数をそのまま用いてフィッティングを行った。このフィッティ
ングにより、CNT 初期成長速度を 0.087 μm/min、触媒寿命 54 min と見積もった。
5.4.5
C2H5OH, 2-C3H7OH
基板温度 600ºC
図 5.10(a)および 5.10(b)は、C2H5OH または 2-C3H7OH をそれぞれアルコール種とし
て用い、フィラメント温度 1700ºC、基板温度 600ºC、成長時間 30 min で CNT の成長
を行った試料の、断面 SEM 像である。いずれのアルコール種を用いた場合において
も、基板温度 600ºC では基板に対して垂直に CNT が成長していないことがわかり、
今まで通りの成長では初期成長速度を求めることはできないことがわかる。しかし、
ここで重要なことは、個々の CNT 自体は成長しているということである。つまり、
基板に対して垂直に成長しない理由として、基板温度の低下によって触媒金属からの
CNT 成長確率が小さくなった可能性が考えられる。
5.4.6
各条件における CNT 構造評価
図 5.11、図 5.12、および図 5.13 に、それぞれ CH3OH、C2H5OH、および 2-C3H7OH
をアルコール種として各基板温度および時間で成長した試料の、ラマンスペクトルで
-102-
第5章
(a)
500 nm
(b)
500 nm
(c)
500 nm
図5 8
図5.8
22-C
C3H7OHを用い、フィラメント温度1700ºC、基板温度675ºCで成長した
OHを用い フィラメント温度1700ºC 基板温度675ºCで成長した
CNTの断面SEM像。成長時間は(a) 3 min、(b) 15 min、および(c) 30 min。
-103-
第5章
2.5
2
CNT length (µm)
H(t) 0 0867 53 5{1
H(t)=0.0867×53.5{1-exp(-t/53.5)}
( t/53 5)}
1.5
1
0.5
0
図5.9
0
10
20
Growth time ((min))
30
2-C3H7OHを用い、フィラメント温度1700ºC、基板温度675ºCで
成長したCNTの成長時間に対するCNT長さの変化。
-104-
第5章
(a)
50 nm
(b)
50 nm
図5 10
図5.10
フィラメント温度1700ºC、基板温度600ºC、成長時間30
フィラメント温度1700ºC
基板温度600ºC 成長時間30 minで成長したCNTの
i で成長したCNTの
断面SEM像。用いたアルコール種は(a) C2H5OHおよび(b) 2-C3H7OH。
-105-
第5章
SWCNT diameter (nm)
2 1.5
1
0.75
励起光: 532 nm
Normalized intensity
×5
G/D=9
700ºC
14
675ºC
7
650ºC
6
625ºC
13
100
図5 11
図5.11
200
300
400
1300 1400
Raman shift (cm-1)
1500
600ºC
1600
1700
CH3OHを用いた場合の、基板温度に対するラマンスペクトル。基板温度
OHを用いた場合の 基板温度に対するラマンスペクトル 基板温度
は600ºC~700ºC。600ºCの場合の成長時間は30 min。625ºC~700ºCは75 min。
-106-
第5章
SWCNT diameter (nm)
2 1.5
1
0.75
励起光: 532 nm
Normalized intensitty
N
×8
G/D=18
700ºC
8
675ºC
650ºC
8
3
100
625ºC
625
C
200
300
図5 12
図5.12
C2H5OHを用いた場合の、基板温度に対するラマンスペ
OHを用いた場合の 基板温度に対するラマンスペ
クトル。基板温度は625ºC~700ºC。成長時間は30 min。
400
1300 1400
Raman shift (cm-1)
-107-
1500
1600
1700
第5章
SWCNT diameter (nm)
2 1.5
1
0.75
励起光: 532 nm
Normalized intensitty
N
×6
G/D=16
100
200
図5 13
図5.13
300
400
1300 1400
Raman shift (cm-1)
700ºC
7
675ºC
8
650ºC
4
625ºC
625
C
1500
1600
1700
22-C
C3H7OHを用いた場合の、基板温度に対するラマンス
OHを用いた場合の 基板温度に対するラマンス
ペクトル。基板温度は625ºC~700ºC。成長時間は30 min。
-108-
第5章
ある。それぞれ、CH3OH は基板温度 625ºC~700ºC の領域において成長時間 75 min、
CH3OH で基板温度 600ºC もしくは C2H5OH および 2-C3H7OH で基板温度 625ºC~700ºC
の領域において成長時間 30 min で成長した CNT である。すべてのラマンスペクトル
中に、1590 cm-1 付近に強い G-band、1350 cm-1 付近に D-band、および 100 cm-1~400 cm-1
の領域に多くの RBM ピークが確認でき、今回成長した CNT は、主に SWCNT である
ことが確認できた。このことから各基板温度の CNT 初期成長速度変化が、成長した
CNT の種類による変化でないことが考えられる。また今回の結果から、C-HFCVD 法
により、SWCNT の 600ºC における高密度低温成長ができたと考えられる。
図 5.14、図 5.15、および図 5.16 は、同じ試料を TEM によって観察した像で、(a)
および(b)はそれぞれ広域および高分解能 TEM 像である。いずれの広域 TEM 像にお
いても、非常に多くの SWCNT が確認でき、図 5.11~図 5.13 のラマンスペクトルの結
果とよく一致することがわかる。さらに、この TEM 像から 600ºC という低温領域に
おいても、SWCNT の高密度成長が達成できたことがわかった。しかし、図 5.14(b)を
注意深く観察すると、二層 CNT(Double-Walled CNT: DWCNT)が成長していることも
わかる。
5.5
C-HFCVD 法による CNT 成長機構
図 5.17 は、フィラメント温度 1700ºC、CNT 成長時の基板温度 600ºC、625ºC、650ºC、
675ºC、および 700ºC において CH3OH を、CNT 時の基板温度 625ºC、650ºC、675ºC、
および 700ºC において C2H5OH および 2-C3H7OH をアルコール種として用いた場合の、
初期成長速度をアレニウスプロットしたグラフである。ここでプロットした初期速度
は、すべて 5.4 節で説明した方法を用いて求めている。このプロットをした場合、以
下の反応速度のアレニウスの式で、初期成長速度の基板温度依存性を表すことができ
る。
k=Aexp(-Ea/kBT)
(5.1)
k は反応の速度定数、A は温度に無関係な定数で頻度因子、Ea はこの反応における活
性化エネルギー、kB はボルツマン定数、そして T は絶対温度である。このアレニウス
プロットの傾きから、SWCNT 成長における成長律速過程の活性化エネルギーを求め
ることができる。図 5.17 より、CNT 成長時の基板温度が 625ºC より高温の場合で
-109-
第5章
(a)
50 nm
(b)
DWCNT
1.3 nm
10 nm
図5 14
図5.14
CH3OHを用いC-HFCVD法で600
OHを用いC HFCVD法で600ºC
C、75
75 minで成長した試料
の(a) 広域および(b) 高分解能TEM像。加速電圧は120 kV。
-110-
第5章
(a)
50 nm
(b)
1.3 nm
1.4 nm
1.5 nm
10 nm
図5 15
図5.15
C2H5OHを用いC-HFCVD法で625
OHを用いC HFCVD法で625ºC
C、30
30 minで成長した試料の
(a) 広域および(b) 高分解能TEM像。加速電圧は120 kV。
-111-
第5章
(a)
50 nm
(b)
1.8 nm
10 nm
図5 16
図5.16
C2H5OHを用いC-HFCVD法で625
OHを用いC HFCVD法で625ºC
C、30
30 minで成長した試料の
(a) 広域および(b) 高分解能TEM像。加速電圧は120 kV。
-112-
第5章
: CH3OH
: C2H5OH
: 2-C
2 C3H7OH
Growth temperature (ºC)
700
675
100
650
625
600
Initiaal growth rate (µm//min)
0.53 eV
2.4 eV
0.59 eV
10-1
0.49 eV
1.02
1.04
1.06
1.08
1.10
1.12
1.14
1.16
1000/T (K-1)
図5 17
図5.17
各アルコ ル種における成長温度に対する初期成長速度の変化の
各アルコール種における成長温度に対する初期成長速度の変化の
アレニウスプロットによる評価。成長温度は600ºC~700ºC。
-113-
第5章
CH3OH、C2H5OH、および 2-C3H7OH をアルコール種として用いた C-HFCVD 法の活
性化エネルギーは、それぞれ 0.52 eV、0.59 eV、および 0.49 eV であり、アルコール種
の違いによらず、およそ 0.5 eV であることがわかる。5.2 節において説明したように、
熱 CVD 法のような VLS 成長によって CNT が成長しているとすると、触媒金属中を
C 原子が拡散する 1.2 eV の活性化エネルギーが得られると考えられる。また、Sato 等
によると、基板温度 550ºC~700ºC の領域において C2H5OH を用いた熱 CVD 法の活性
化エネルギーは、C2H5OH の標準生成熱である 2.4 eV であるともいわれている[5.7]。
VLS 成長での CNT 成長でないとすると、PECVD 法のような触媒金属表面の C adatom
の拡散が成長律速過程である可能性が考えられる。Hofmann 等は、Co(111)表面を C
adatom が拡散する場合の活性化エネルギーは 0.5 eV と計算している[5.1]。これらの活
性化エネルギーのうち、Co(111)表面の C adatom の拡散に必要な活性化エネルギーが、
今回の結果に非常に近い値となるために、CNT 成長時の基板温度 625ºC~700ºC の領域
において、C-HFCVD 法における成長律速過程は Co 表面の C adatom の拡散であると
考えられる。つまり C-HFCVD 法は表面拡散型の CVD 法であると考えられる。
第 4 章において、標準生成エンタルピーの違いによるアルコール種の安定性につい
て述べた。図 5.17 は、最も不安定な CH3OH における SWCNT 初期成長速度が最も速
く、安定なアルコール種になるに従って SWCNT 初期成長速度が遅くなっていること
を示しており、アルコール種の安定性と CNT 成長速度に相関があることがわかる。
この初期成長速度の違いは、(5.1)式において A で表した頻度因子の違いで表わされる。
この頻度因子の違いが、SWCNT 成長に寄与する活性な炭化水素種の触媒金属への到
達頻度に差をもたらし、これがアルコール種による成長速度違いとなって表れている。
つまり、より不安定なアルコール種においては、C-フィラメントによる熱分解により
生じる活性な炭化水素種の初期分圧が比較的高く、そのために触媒表面にたどり着く
活性な炭化水素種の量が多いのではないかと考えられる。
一方、図 5.17 をみると、CH3OH をアルコール種として用いた場合、625ºC よりさ
らに低温での成長において、CNT 成長の活性化エネルギーが 2.4 eV と大きくなって
いることがわかる。このことは、他のグループの PECVD 法における表面拡散型の
MWCNT 成長では、見られない傾向である。また、現段階ではアルコールを用いた
C-HFCVD において特有な現象であるか、CH3OH をアルコール種とした場合のみに現
-114-
第5章
れる現象であるか断定ができない。Sato 等が報告したように、標準生成熱が活性化エ
ネルギーである[5.7]とすると、CH3OH の標準生成熱は 2.1 eV であり、比較的近い値
となる。しかし前述したように、C-フィラメントによってアルコールが熱分解されて
いるとすると、この高い活性化エネルギーは、標準生成熱に起因したものではないと
考えられる。ここで SiH4 や Si2H6 を用いた、Si の気相エピタキシャル成長においては、
シラン系ガスの Si 表面への吸着サイトに、シラン系ガス由来の水素が吸着しサイト
ブロッキングすることにより、水素脱離速度が遅い低温領域において Si 成長の活性
化エネルギーが増大することが知られている[5.8]。そのため、CVD 法による Si のエ
ピタキシャル成長において、Si 表面からの水素脱離が活性化エネルギーとなる低温側
と、Si 表面からの水素の脱離が十分で Si 基板上に直接シラン系ガスが吸着するため
に低い活性化エネルギーとなる高温側とに分類される。また Hofmann 等は、表面に
a-C などが吸着し触媒表面を覆ってしまうと、PECVD 法での成長においても活性化エ
ネルギーが増大する可能性を示唆している[5.1]。今回の結果から、水素や a-C などに
よる触媒表面のサイトブロッキングによって、低温領域において活性化エネルギーに
変化が現れた可能性がある。これが CH3OH を用いた C-HFCVD 法において特有な現
象であるかを調べるためには、C2H5OH や 2-C3H7OH などにおいて垂直成長できなか
ったような条件下において、垂直成長長さを測定可能な実験を行う必要がある。
表面拡散型の CNT 成長における CNT 成長初期核形成には、触媒金属最表面での C
adatom の化学吸着が重要であると考えられるため[5.9]、触媒表面のサイトブロッキン
グの可能性は、CNT 低温成長において非常に重要なことであり、その理解は、さらな
る CNT 低温成長技術において必須となると考えられる。
図 5.18 は、CH3OH をアルコール種として用いた場合の SWCNT 燃焼速度の基板温
度依存性を、アレニウスプロットしたグラフである。また、このアレニウスプロット
より SWCNT 燃焼の活性化エネルギーを見積もると、625ºC 以上の高温側で 0.69 eV、
625ºC 以下の低温側で 4.6 eV となった。Brukh 等は SWCNT、MWCNT、および graphite
の CO2 を用いた燃焼による活性化エネルギーは、それぞれ 1.3 eV、2.6 eV、および 2.6
eV と報告している[5.10]が、今回の結果はいずれにも当てはまらない。しかし Brukh
等は、SWCNT における小さな燃焼の活性化エネルギーは、SWCNT 表面の欠陥の量
および触媒金属の違い(Fe と Ni)により変わるとしている。また、今回の燃焼種は活性
-115-
第5章
Growth temperature (ºC)
700
675
650
625
: CH3OH
600
SWCNT burning rrate (µm/min)
10-1
0.69 eV
10-2
4.6 eV
10-3
1.02
1.04
1.06
1.08
1.10
1.12
1.14
1.16
1000/T (K-11)
図5.18
CH3OHにおける、基板温度に対するSWCNT燃焼速度変化の
アレニウスプロットによる評価。成長温度は600ºC~700ºC。
-116-
第5章
な OH ラジカルと考えられ、CO2 とはまた違った燃焼速度となることが考えられるた
め、Brukh 等の結果とそのまま比較することは難しい。しかし、触媒金属によって燃
焼の活性化エネルギーが低くなるということを考えると、本研究の場合には Co が
SWCNT 燃焼の触媒金属となり、0.69 eV という graphite と比較して非常に小さな活性
化エネルギーとなったと考えられる。またこのことは、SWCNT の成長の起点となる
触媒金属近傍において、SWCNT の燃焼が同時に起きていることも示唆している。
基板温度が低温側において、活性化エネルギーが大きくなった理由も、触媒金属が
SWCNT 燃焼に関わりがある場合、その触媒表面が水素や a-C などでサイトブロッキ
ングされて、活性化エネルギーが変わることが十分に考えられる。しかし、触媒金属
表面の水素によるサイトブロッキングによる SWCNT 燃焼の抑制の場合、水素の脱離
が反応の律速過程と考えられ、低温領域における SWCNT 成長および燃焼の活性化エ
ネルギーは本質的には同じになるはずである。a-C によるサイトブロッキングの場合
にも、a-C の燃焼などによる表面からの脱離が反応律速過程と考えると、やはり
SWCNT 成長及び燃焼で同じ活性化エネルギーが考えられる。しかし低温領域におけ
る SWCNT 成長および燃焼の活性化エネルギーは、それぞれ 2.4 eV および 4.6 eV と
大きな差がある。ここでサイトブロッキングを起こす物質と炭化水素種または酸化種
との反応性の違いや、基板温度低下による各触媒能の低下度合いの違いなども考えら
れるが、この SWCNT 成長および燃焼の活性化エネルギーは、触媒表面の状態を考え
る上で非常に有効な情報となるため、さらに詳しい実験による活性化エネルギーの見
積もりが必要である。
図 5.19 は、本章の結果から見積もった活性化エネルギーを基に、C-フィラメントに
よって熱分解したアルコール分子および C adatom の挙動を、基板温度が高温領域お
よび低温領域のそれぞれの場合に分けて考えたモデル図である。このモデル図におい
て、Si エピタキシャル成長において起きる水素のサイトブロッキングと同様に、触媒
金属表面でのサイトブロッキング現象[5.8]が起きたと考えた。このとき、サイトブロ
ッキングを引き起こす原子または分子として水素や a-C などが考えられるがここでは
α とあらわす。高温領域においてサイトブロッキングは、水素の場合は水素分子とし
て触媒表面から脱離、a-C の場合に a-C が酸化種と反応し CO として脱離するなどし、
触媒金属表面のサイトブロッキングが起きていないと仮定している。つまり高温領域
-117-
第5章
‹High temperature region
+
: C原子
: H原子
: O原子
CNT
: サイトブロッ
キング種α
+
+
catalyst
substrate
‹Low temperature region
+
CNT
×
×
catalyst
substrate
図5.19
高温および低温領域におけるC、O、およびH原子の挙動。
-118-
第5章
では、触媒金属表面に吸着しているサイトブロッキング種 α が脱離するために、炭化
水素の吸着サイトが十分に確保され、触媒金属表面に吸着した後に C adatom が触媒
金属表面を拡散して CNT 成長する。また、酸化種が触媒金属表面に到達した後に、
CNT の触媒金属を介した燃焼またはエッチングが起きることとなる。しかし低温領域
では、触媒金属表面がサイトブロッキング種 α で終端してしまうために、活性な炭素
種もしくは酸化種が触媒を介した反応をすることなく、再び気相中に脱離していき、
CNT の成長、燃焼、もしくはエッチングが妨げられることとなっている。
5.6
まとめ
本章では、異なるアルコール種を用いた C-HFCVD 法による CNT 成長における活
性化エネルギーを評価することで、CNT 成長機構の解明を行った。
各成長時間での CNT 成長長さに対して、従来の関数から補正項を追加した近似曲
線を用いることで、CNT 初期成長速度、触媒寿命、正味の CNT 燃焼速度を見積もり、
いずれの基板温度に対しても、アルコール種によって初期成長速度に変化があること
がわかった。
初期成長速度を基にアレニウスプロットを用いることで、各アルコール種に対して、
C-HFCVD 法 に よ る CNT 初 期 成 長 の 活 性 化 エ ネ ル ギ ー を 求 め る こ と が で き 、
625ºC~700ºC の領域で CH3OH、C2H5OH、および 2-C3H7OH の活性化エネルギーはそ
れぞれ 0.52 eV、0.59 eV、および 0.49 eV であることがわかった。その結果、625ºC~700ºC
の基板温度では、アルコール種が変わっても CNT 初期成長の活性化エネルギーにほ
とんど変化がないことを見出された。アルコールを用いた C-HFCVD 法においては、
Co(111)面上での C adatom の拡散が成長の律速過程となる過程であると考えられる。
また、625ºC 以下の低温領域においては、CNT 初期成長の活性化エネルギーが大きく
変わることがわかった。
-119-
第5章
参考文献
[5.1] S. Hofmann, G. Csányi, A. C. Ferrari, M. C. Payne, and J. Robertson: Phys. Rev. Lett.
95 (2005) 036101.
[5.2] S. Hofmann, C. Ducati, and J. Robertson: Appl. Phys. Lett. 83 (2003) 135.
[5.3] C. Ducati, I. Alexandrou, M. Chhowalla, G. A. J. Amaratunga, and J. Robertson: J. Appl.
Phys. 92 (2002) 3299.
[5.4] I. Denysenko and K. Ostrikov: Appl. Phys. Lett. 90 (2007) 251501.
[5.5] R. T. K. Baker, M. A. Barber, P. S. Harris, F. S. Feates, and R. J. Waite: J. Catalys. 26
(1972) 51.
[5.6] D. N. Futaba, K. Hata, K. Mizuno, M. Yumura, and S. Iijima: Phys. Rev. Lett. 95 (2005)
056104.
[5.7] H. Sato, K. Hata, K. Hiasa, and Y. Saito: J. Vac. Sci. Technol. B 25 (2007) 579.
[5.8] M. Suemitsu, H. Nakazawa, T. Morita, and N. Miyamoto: Jpn. J. Appl. Phys. 36 (1997)
L625.
[5.9] S. Hofmann, R. Sharma, C. Ducati, G. Du, C. Mattevi, C. Cepek, M. Cantoro, S. Pisana,
A. Parvez, F. Cervantes-Sodi, A. C. Ferrari, R. Dunin-Borkowski, S. Lizzit, L. Petaccia,
A. Goldoni, and J. Robertson: Nano Lett. 7 (2007) 602.
[5.10] R. Brukh and S. Mitra: J. Mater. Chem. 17 (2007) 619.
-120-
第 6 章 総括
本研究の要約
6.1
6.2
今後の課題
参考文献
第6章
第6章
6.1
総括
本研究の要約
本論文では、SWCNT の低温成長技術について、バッファー層制御技術および成長
技術の 2 つの面からアプローチを行った。第 3 章においては、エピタキシャル Ag 層
を用いることによって、バッファー層を用いた SWCNT の低温成長、第 4 章および第
5 章においては成長技術の面から、C-フィラメントを用いた C-HFCVD 法により、熱
CVD 法と比較して SWCNT の低温成長を達成した。各章で得られた主要な成果につ
いて、以下にまとめる。
9 第3章
エピタキシャル Ag 層上における SWCNT 成長
ソース/ドレイン電極として考えられる金属について、その選択指針の確立を目的に
エピタキシャル Ag 層上での SWCNT 成長を行った。
基板である Si および Ag または Ag および触媒金属である Co の 2 元状態図を基に、
Co の触媒能を失わずに SWCNT 成長を行う条件として、2 相分離という観点から成長
温度を決定した。その時、エピタキシャル Ag バッファー層上で SiO2 層上と比較して、
非常に高密度に Co 粒子を分散させることに成功し、その結果、SWCNT が垂直成長
することがわかった。SiO2 上と比較して Co が高密度に分散した理由に、その初期核
形成プロセスの違いが考えられる。SiO2 のような酸化膜上では、遷移金属と酸化膜と
の間で酸素原子を介した相互作用により決定する拡散長が、触媒金属の核形成に密接
にかかわる。しかし、Au などの金属上での核形成において、Co は Au 表面ステップ
のキンクに優先的に核形成することが知られており、この差が熱処理後の Co 粒子の
粒径および数密度に違いを与えたと考えられる。このような高密度 Co 微粒子を用い
ることにより、高密度 SWCNT 成長を、エピタキシャル Ag 層上で達成した。また、
SWCNT 成長後においても、Ag/Si 間でのエピタキシャル関係が保たれていることも
わかり、Ag 層の表面原子配列が制御可能であることがわかった。この事は、将来考
えられる結晶面方位の違いによる、CNTFET の各々の素子特性揺らぎの抑制につなが
ることが期待される。そして触媒金属と電極金属との間の 2 相分離の関係により、触
媒金属の触媒能の維持が可能であり、CNTFET の電極選択の指針として挙げられる。
-121-
第6章
9 第4章
C-HFCVD 法における SWCNT の低温成長
熱フィラメントによる炭素供給源の活性化による、CNT 低温成長技術の確立を目指
し、W-フィラメントおよび C-フィラメントを用いてアルコールを原料とした HFCVD
法を行った。
W-フィラメント使用時に生じた、フィラメント材料酸化による悪影響を、C-フィラ
メント使用によって抑制し、熱 CVD 法と比較して SWCNT の高密度低温成長に成功
した。また、アルコール種によって、SWCNT 初期成長速度および触媒寿命に変化が
生じることがわかり、CH3OH では SWCNT 初期成長速度は速いが触媒寿命が短く、
アルコール分子量を大きくしていくと、SWCNT 初期成長速度は遅くなるが触媒寿命
が長いということがわかった。このアルコール種の違いによる成長様式の差は、アル
コールの標準生成エンタルピーに対応した安定性が密接に関係することがわかった。
また、HFCVD 法において酸化種導入の際には、酸化種も同時に活性化されるため、
熱 CVD 法および cold wall 型 CVD 法において起こらなかった、意図しない SWCNT
の燃焼の可能性があることを見出した。これは、C2H5OH や 2-C3H7OH においては観
察されず、標準生成エンタルピーに関連した分解効率にともなう、OH ラジカル分圧
の差が支配的になっている可能性が考えらえる。
9 第5章
C-HFCVD 法による SWCNT 成長機構
第 4 章において開発した C-HFCVD 法における、SWCNT 成長の律速過程を、活性
化エネルギーの観点から考察した。
SWCNT 初期成長速度のアレニウスプロットから、SWCNT 初期成長の活性化エネ
ルギーを求め、C-HFCVD 法における SWCNT 成長の律速過程は、触媒金属である Co
表面の拡散であることと結論付けた。この活性化エネルギーの値は、熱 CVD 法にお
ける活性化エネルギーと比較して、CNT 成長温度 625ºC~700ºC の領域において十分に
低いことがわかり、PECVD 法における MWCNT 成長の活性化エネルギーに近いこと
がわかった。このことは、C-HFCVD 法において触媒金属中の C adatom の拡散がその
成長の律速過程でないことを示唆しており、C-HFCVD 法は PECVD 法のような表面
拡散型成長であることが考えられる。しかし、成長温度を下げていくと、成長温度
625ºC 付近で活性化エネルギーが突然大きくなることを確認した。このため、高温に
-122-
第6章
おいて常に吸着可能であった触媒表面の吸着サイトが、水素もしくは a-C によってサ
イトブロッキングされている可能性があることがわかった。
6.2
今後の課題
SWCNT の低温成長技術は、将来考えられる CNTFET 構造の有力な候補である
SGFET 作製のために必要な技術であり、触媒金属と様々な電極金属との間でミキシ
ングを起こすことがない温度での SWCNT 成長が望ましい。このような SWCNT 低温
成長技術のためには、表面拡散型成長による SWCNT 成長が必要となり、炭素供給源
の活性化は必須である。そのため、PECVD 法や本論文で行った C-HFCVD 法は、非
常に注目すべき成長法である。しかし、SWCNT 低温成長にむけ、低温領域での活性
化エネルギーの増大は、無視することのできない問題となる。本論文で紹介した
C-HFCVD 法では、PECVD 法において見られなかった、成長温度の低い領域での活性
化エネルギーの増大が確認された。この活性化エネルギーの増大の起源を、詳細に解
明することにより、C-HFCVD 法によるさらなる SWCNT の高密度かつ低温成長の可
能性が広がると考えられる。実際に Si エピタキシャル成長では、水素によるサイト
ブロッキングによる影響が現れる温度を、成長雰囲気を制御することによって変化す
ることが可能であることがわかっている[6.1]。
最後に、CNT の電子デバイス応用に向け、MWCNT の LSI の配線応用から[6.2]、さ
らにその先のチャネル応用[6.3]に向けて、カイラリティの制御が必要となる。しかし
現在の所、カイラリティ制御に向けた具体的な解決策はまだ発見されていない。近年、
Al2O3 基板を用いその Al と O の原子配列に起因したポテンシャル変化および成長温度
変化によって、SWCNT のカイラリティを制御する方法が考案された[6.4]。このよう
な、原子配列を用いたカイラリティ制御は触媒金属を用いた試みもされているが、ま
だ実現していない。その理由として、熱 CVD 法において VLS 成長で SWCNT が成長
するために、CNT 成長直前には触媒金属が液相になってしまうためだ[6.5]と考えられ
る。しかし触媒金属による SWCNT のカイラリティ制御の可能性は、まだ残されてい
る。実際に CNT 成長直後には、CNT の構造は触媒金属の情報をもっているという報
告はある[6.6]。今回考案した C-HFCVD 法や PECVD 法による表面拡散型成長で
SWCNT を成長することで、触媒金属を液相にすることなく SWCNT の成長が可能で
-123-
第6章
あると考えられる。つまり、触媒金属の構造を制御することで、その原子配列を利用
した SWCNT のカイラリティ制御につながると考えられる。
-124-
第6章
参考文献
[6.1] M. Suemitsu, H. Nakazawa, T. Morita, and N. Miyamoto: Jpn. J. Appl. Phys. 36 (1997)
L625.
[6.2] M. Nihei, A. Kawabata, and Y. Awano: Jpn. J. Appl. Phys. 42 (2003) L721.
[6.3] S. J. Tans, A. R. M. Verschueren, and C. Dekker: Nature 393 (1998) 49.
[6.4] 石神直樹, 吾郷浩樹, 今本健太, 辻正治, I. Konstantim, and 南信次: 第 68 回応用
物理学学術講演会講演予稿集 (2007) 948.
[6.5] Y. Homma, Y. Kobayashi, T. Ogino, D. Takagi, R. Ito, Y. J. Jung, and P. M. Ajayan: J.
Phys. Chem. B 107 (2003) 12161.
[6.6] S. Helveg, C. López-Cartes, J. Sehested, P. L. Hansen, B. S. Clausen, J. R.
Rostrup-Nielsen, F. Abild-Pedersen, and J. K. Norskov: Nature 427 (2004) 426.
-125-
謝辞
本論文は、筆者が名古屋大学大学院工学研究科決勝材料工学専攻博士課程に在学中
に行った研究を纏めたものである。
本研究を進めるにあたり、素晴らしい研究環境を与えて頂くとともに、多大なるご
指導·ご助言を賜りました財満
鎭明
教授(名古屋大学大学院·工学研究科)に誠意を
表わすとともに厚く御礼申し上げます。本論文を査読して頂くとともに、研究を進め
ていくにあたり終始懇切丁寧なご指導を頂きました小川
正毅
教授(名古屋大学·エ
コトピア科学研究所)に深く感謝いたします。本論文を査読して頂き、貴重なご意見
を頂いた田中
信夫
教授(名古屋大学·エコトピア科学研究所)および齋藤
弥八
教授(名古屋大学大学院·工学研究科)に深く感謝の意を表します。日ごろから実験結果
について議論をして頂き、本論文の査読および学術論文のご指導をして頂いた酒井
朗
教授(大阪大学大学院·基礎工学研究科)に深く御礼申し上げます。私の研究指針に
ついて、有益なご指導およびご助言を頂いたばかりでなく、半導体デバイス工学の基
礎について御教授頂きました安田
現
幸夫
名誉教授(名古屋大学大学院·工学研究科、
高知工科大学)に深く感謝いたします。
日々の実験および解析において、ご助言をいただいた中塚
理
講師、坂下
満男
助教、および近藤 博基 助教(名古屋大学大学院·工学研究科)に深く感謝いたします。
研究生活全般にわたり、ご協力およびご支援をいただきました松永
本
陽子
様、西田
絵里
様、河尻
幸江
様、山田
早苗
直子
様、山
様に感謝いたします。
私の初めての研究生活にあたり、その基礎および取り組みについてご指導いただい
た岡田
絵美
氏(名古屋大学大学院·工学研究科、現 NEC エレクトロニクス)に深く
感謝いたします。本研究を遂行するにあたり、有意義な議論およびご協力をいただい
た久田
憲二
氏(名古屋大学大学院·工学研究科)に深く感謝いたします。日々、研究
室での学生生活において、お世話になりました安田研究室および財満研究室の皆様に
感謝の意を表します。
最後に、今日に至るまでの学生生活を様々な面から支えていただいた、父母や姉に
心から感謝の意を表します。
研究業績
学術論文
Satoshi Oida, Akira Sakai, Osamu Nakatsuka, Masaki Ogawa, and Shigeaki Zaima
“Epitaxial Ag layers on Si substrates as a buffer layer for carbon nanotube growth”
Jpn. J. Appl. Phys. to be accepted
Satoshi Oida, Akira Sakai, Osamu Nakatsuka, Masaki Ogawa, and Shigeaki Zaima
“Effect of alcohol sources on synthesis of single-walled carbon nanotubes”
Appl. Surf. Sci. to be accepted
Satoshi Oida, Akira Sakai, Osamu Nakatsuka, Masaki Ogawa, and Shigeaki Zaima
“Growth kinetics of synthesis of carbon nanotubes by hot-filament chemical vapor deposition
using alcohol sources”
投稿準備中
国際会議
Satoshi Oida, Akira Sakai, Osamu Nakatsuka, Masaki Ogawa, and Shigeaki Zaima
“Effect of alcohol sources on synthesis of single-walled carbon nanotubes”
9th International conference on Atomically Controlled Surfaces, Interfaces and Nanostructures
Komaba Research Campus of The University of Tokyo, Tokyo, Japan (November 11-15th
2007)
国内会議
種田
智、酒井
朗、中塚
理、小川
正毅、財満
鎭明
「エピタキシャル Ag/Si(111)上における触媒金属 CVD 法によるカーボンナノチュー
ブ成長」
春季第 53 回応用物理学関係連合講演会 (講演番号: 24p-ZN-14) 東京 (2006 年 3 月)
種田
智、酒井
朗、中塚
理、小川
正毅、財満
鎭明
「エピタキシャル Ag テンプレート層上における触媒金属 CVD 法によるカーボンナ
ノチューブ成長」
第 4 回日本表面科学会中部支部学術講演会「若手講演会」 名古屋(2006 年 4 月)
種田
智、酒井
朗、中塚
理、小川
正毅、財満
鎭明
「ホットフィラメント CVD 法による単層カーボンナノチューブ成長様式のアルコー
ル種依存性」
第 68 回応用物理学会学術講演会 (講演番号: 6p-T-7) 北海道 (2007 年 9 月)
関連した学術論文
Emi Okada, Osamu Nakatsuka, Satoshi Oida, Akira Sakai, Shigeaki Zaima, and Yukio Yasuda
“Influence of C incorporation on the initial growth of epitaxial NiSi2 on Si(100)”
Appl. Surf. Sci. 237 150 (2004).
関連した口頭発表
Emi Okada, Satoshi Oida, Osamu Nakatsuka, Akira Sakai, Shigeaki Zaima, and Yukio Yasuda
“Influence of C incorporation on the initial growth of epitaxial NiSi2 on Si(100)”
7th International Conference on Atomically Controlled Surfaces, Interfaces and
Nanostructures
Nara, Japan (November 16-20th 2003)