演題名 最近当科で経験した急性巣状細菌性腎炎の 3 症例 本文

●演題名
最近当科で経験した急性巣状細菌性腎炎の 3 症例
●本文
【はじめに】急性巣状細菌性腎炎(acute focal bacterial nephritis;AFBN)は急性腎盂腎炎
と腎膿瘍の中間に位置する疾患概念で、局所感染に伴う液状化を伴わない腫瘤性病変とし
て 1979 年 Rosenfield らによって報告された。適切に診断し治療されなければ、腎瘢痕化
さらには無機能腎へ進展する。しかし、発熱を主訴に受診する症例の多くは初診時細菌尿
や膿尿を伴わないことも多く、診断が遅れることがある。最近当科で経験した AFBN3 症例
について診断を中心に検討し考察したので報告する。
【症例】
(症例 1)
5 歳、男児、主訴は発熱、腹痛、下痢、傾眠傾向。初診時尿所見は WBC3+、細菌-。血液検
査は CRP 15.5 mg/dl。髄膜炎を疑い腰椎穿刺を施行したが陰性。腹痛、膿尿あり入院当日
に腹部骨盤部造影 CT を施行し両側 AFBN と診断。CTRX で治療し第 14 病日に退院。
(症例 2)
7 歳、男児、主訴は発熱、嘔吐、頭痛。初診時尿所見は WBC-、細菌+、血液検査は CRP 18.1
mg/dl。腰椎穿刺施行も陰性。腹部超音波で左腎に軽度水腎あり、低エコー。腹部骨盤部造
影 CT を施行し両側 AFBN と診断。CTRX で治療し第 14 病日に退院。
(症例 3)
5 歳、女児、主訴は 1 週間続く発熱、腹痛、排尿時痛。前医でマイコプラズマ肺炎の診断で
加療されたが改善なし。当院初診時尿所見は WBC2+、細菌-。血液検査は CRP 12.5 mg/dl。
尿路感染症を疑い、入院当日に腹部骨盤部造影 CT を施行し右 AFBN と診断。CTX で治療
し第 10 病日に退院。
【結語】
原因不明の発熱の際には AFBN の可能性も考え、画像診断をすすめる必要がある。超音波
検査が非侵襲で慣れている場合には有用だが、個人の技量により診断精度が異なり、信用
性の高い検査は造影 CT と考えられた。
最近当科で経験した急性巣状細菌性腎炎の3症例
向⽥千夏1) ⼭本慧2) 齋藤恭⼦2)
1)浜⽥医療センター 初期研修医 2)同 ⼩児科 はじめに
表4 抗⽣剤治療とその反応
急性巣状細菌性腎炎(acute focal bacterial nephritis;AFBN)
は急性腎盂腎炎と腎膿瘍の中間に位置する疾患概念で、 局所感染に伴う液状化を伴わない腫瘤性病変として、 1979年Rosenfieldらによって報告された。
例
適切に診断し治療されなければ、腎瘢痕化さらには無機能腎へ
進展することもある。
しかし、発熱を主訴に受診する症例の多くは初診時、細菌尿や
膿尿を伴わないことも多く、診断が遅れることがある。
平成26年4⽉から平成27年4⽉までに当科で経験したAFBN3症
例について診断を中⼼に検討し考察した。
症例提⽰
表1 症状と⼊院までの経過
例
年齢
性
発症-⼊院
までの⽇数
症状
1
5歳
男
1
発熱、腹痛、
下痢、傾眠傾向
AMPC
2
7歳
男
2
発熱、嘔吐
頭痛
CFPN-PI
3
5歳
⼥
2
発熱
排尿時腹痛
CFPN-PI
加療から解熱まで
抗⽣剤加療⽇数
1
CTRX 120
治療
㎎/㎏
7⽇
18⽇
2
CTRX 100
㎎/㎏
4⽇
17⽇
3
CTX 100
1⽇
21⽇
㎎/㎏
表5 VURの有無とその後の経過
例
罹患腎
1
左右
VUR
2
左右
VCUG
未施⾏
なし
-
なし
3
右
右–
左Ⅱ
CDTR 80 ㎎
なし
膀胱鏡下
注⼊療法
右 Ⅳ 左Ⅳ
予防投与
再発
⼿術
CCL 150 ㎎
なし
VUR根治術
⼊院前の加療
考察
AFBNについて
表2 初診時の尿・⾎液検査、培養検査
例 定性
1
3+
⽩⾎球
(/HPF)
尿定量培養
⽩⾎球数
(/μL)
CRP
(㎎/dl)
陰性
18,730
15.5
14,840
18.16
20,710
12.5
30-49
Enterococcus
2
-
5-9
3
3+
不明
faecalis
陰性
症状 発熱、腹痛が多く、急性腎盂腎炎との重複をする
稀に下痢、中枢神経症状を呈す
検査所⾒ 尿定性、沈渣で膿尿を認めない報告は多い
尿培養陰性の症例もある
画像所⾒
超⾳波検査は簡便性、⾮侵襲性の点で第⼀選択
境界不明瞭な低or⾼エコーの腫瘤を呈し、内部は不均⼀
健側と患側の径に優位な差
造影CTは超⾳波検査と⽐べ信頼度は⾼い
楔状もしくは腫瘤状に造影不良域
壁を有さない腫瘤性病変
表3 腎超⾳波と腹部造影CTの所⾒
例
超⾳波での所⾒
左/右腎
⻑径
1
2
3
⽔腎症
造影CTでの所⾒
その他の
所⾒
施⾏せず
9.0/6.5
8.7/7.0
- / 軽度
-/-
右腎に
低エコー
左腎に
低エコー
罹患腎 不染域の形態
左・右
腫瘤状
左・右
腫瘤状
右
楔状
表6 急性腎盂腎炎、急性巣状細菌性腎炎、腎膿瘍の分類1) 急性腎盂腎炎 急性巣状細菌性腎炎 腎膿瘍
Rosenfieldの分類
(腎エコー)
(腫瘤状の所⾒なし)(辺縁不明瞭な腫瘤像) (辺縁明瞭な液状レベルの腫瘤像)
望まれる分類
(造影CT)
(造影不良なし・楔状造影不良像) (辺縁不明瞭な腫瘤状造影不良像) (辺縁明瞭な造影不良像)
重症度
症例画像
治療
(症例1)
(超⾳波施⾏せず)
(症例2)
抗⽣剤投与 抗⽣剤投与 抗⽣剤投与
(治療量14⽇間) (治療量 14-21⽇間) ±外科的治療
1)⻄尾利之、他、急性巣状細菌性腎炎.⼩児科診療
2008;71(2):324-328 より⼀部改編
当院での症例について
左室
・全例に発熱を認めており、稀な中枢神経症状もみられた。
・初診時の尿検査で全例に何らかの異常所⾒を認めた。
・腎超⾳波を施⾏し AFBNを疑う所⾒を確認していたが、
当院では全症例で腹部造影CTを施⾏した。
・⻄尾らは、造影CTでの楔状造影不良像と所⾒なしでは
治療反応性に差がなく、腫瘤状造影不良像だと発熱期間が
延⻑し、腎膿瘍を形成したものがあると報告している。1)
・腫瘤状構造不良像を呈した症例1、2は治療反応性が悪く、
楔状造影不良像を呈した症例3は治療反応性が良かった。
まとめ
●原因不明の発熱の際に、AFBNを疑うときには画像診断を
すすめる必要がある。
(症例3)
●超⾳波検査は⾮侵襲であり慣れている場合には有⽤だが、
個⼈の技量により診断精度が異なり、信⽤性の⾼い検査は
造影CTと考えられた。