ヒストグラム解説

■ヒストグラム
★ヒストグラムとは
「計量特性の度数分布のグラフ表示の一つで、測定値の存在する範囲を幾つかの区間に分けた場合,
各区間を底辺とし,その区間に属する測定値の度数に比例する面積をもつ長方形を並べた図である.
備考:ヒストグラムで用いられた区間の幅が一定ならば,長方形の高さは各区間に属する値の度数に
比例する.したがって,この場合には高さに対して度数の目盛を与えることができる.」
(JIS Z 8101-1)
サンプル数を大きくして,またそれに応じて区間の幅を小さくとっていけば,ヒストグラムは確率密
度関数(正規分布)に近づいていく.
ヒストグラムは,製品の品質の状態が,規格値に対して満足のいくものかなどを判断するときに役立
ち,QC 七つ道具の一つにもあげられ広く普及している.
ヒストグラムをみるときには,①分布の形,②目標値からのばらつき状態,③層別条件の分布に与え
る影響などに注意することが大切である.
作業をした結果得られる製品の品質特性のうち,寸法,強度などのように計量値で表される品質特性
値がどのような状態かを調べたいとき,データを並べただけでは,全体の姿(最大値,最小値,平均値,
一山で左右が対称か,あるいは規格値との関係など)がよくわからない。
そこで,データを 1 個 1 個とらえるのではなく,ある区間を決めた後に,その区間内のデータは,数
値が異なっていても同一グループとして扱い,これを図のように柱状図をつくってみる。これによりば
らつきの大きさ,形など,データの分布状態の全体の姿をつかむことができる。すなわち,製品の品質
特性値の姿などからこれをつくった工程の状態(実力)を知ることができる。このようにデータを整理
して,縦軸にデータ数(度数)
,横軸にデータの数値(特性値)をとり,柱状図にしたものをヒストグ
ラム(又は度数分布図)という。ヒストグラムは,製品の品質特性値(工程の結果)だけに限らず,温
度など製造条件(工程の条件)のデータにも用いられている。
“ヒストグラム”は,
「柱状図ともいわれ,ばらつきをもった多くのデータを柱状の図にしたもので,
データの全体の姿(分布)を見るのに適している」.
ヒストグラムから分布の様子,すなわち,平均値やばらつき,山の形や,山の数,離れたデータの有
無などを一目で確認することができる.
また,規格がある場合には,データがどの程度規格値を満足しているか,規格外れはないかなど,規
格との対比が容易である.
また,工程の4要素である機械別,作業者別,時間別,原料別などで層別をし,層間の違いを見るこ
とで原因追究やアクションにつなげることもできる.
ヒストグラムを作成するには,まず度数分布表を作成する.
-1-
★ヒストグラムのつくり方
手順1
データを集める
・データの数は,100 個以上あることが望ましい。
(最低 50 個以上)
・データは工程別,機械別,ライン別などに層別してその性質をなるべく均質にしておくこと
が望ましい。
・データの採取は、ランダムサンプリングにより、偏りのないようにする。
製品の重量のデータ表
67
59
60
60
60
63
60
65
57
65
67
66
59
60
59
66
61
57
60
63
62
68
61
57
63
53
60
57
58
58
61
55
61
58
62
54
60
58
64
58
58
56
59
57
64
55
58
61
63
59
*データ数
n=100
*重量の規格値
下限規格値 SL=50 Kg
57
57
61
68
60
58
65
66
64
60
59
56
60
70
60
60
65
67
63
59
52
61
57
66
62
61
62
69
65
59
55
63
63
56
64
63
62
71
57
62
単位 Kg
54
57
60
59
60
61
63
65
56
64
上限規格値 SU=70 kg
手順2
データの最大値と最小値を求め、データの範囲を求める。
データ全体の最大値 L と最小値 S を探し.範囲 R を計算する。
最大値:L=71, 最小値:S=52,
範囲:R=L-S=71-52=19
手順3
区間の数を決める。
区間の数を k ≒ データ数 として求めて、整数値に丸める。
この例の場合は,データ数 n は 100 個なので,区間の数 k= 100 =10 となる。
あるいは,区間の数は経験的に次の表の目安で選ぶこともできる。
データ数と区間の数
データ数 n
適当な区間の数 k
50~100
6~10
100~250
7~12
250以上
10~20
手順4
区間の幅を決める。
仮の区間の幅 h’ を求めて、測定のきざみ(最小測定単位)の整数倍に丸めて、区間の幅 h を
求める。
区間の幅 h' 
範囲 R
LS R


区間の数 k
k
k
この例の場合は,
区間の幅 h' =
L  S 71  52 19

  1.9
k
10
10
→
区間の幅 h=2
この例の場合は,測定のきざみ(最小測定単位)=1 であるから、
1 の整数倍に丸めて、区間の幅は h=2 となる。
-2-
*区間の幅を測定単位の整数倍に丸める理由
測定単位の整数倍に丸めないと,各区間に入るデータの値の候補数が異なってしまう.
すなわち,各区間に入るデータの確率が異なり,結果として歯抜け型のヒストグラムになって
しまうので,注意を要する.
手順5
区間の境界値を決めます。
区間の境界値がデータの値と一致すると,そのデータを上下どちらの区間に含めるのかわか
らなくなるため,区間の境界値は,測定のきざみ(最小測定単位)の 1/2 のところにくるよ
うに決める。
第1区間の下側境界値=min { 最小値 S,規格下限値 SL } -
測定のきざみ
2
この例の場合は、
測定のきざみ
2
1
=min { 52,50} -
=50-0.5=49.5
2
第1区間の下側境界値=min { S,SL } -
したがって,第1区間は 49.5~51.5 となる。
上記の手順により、データが境界値と一致して,どちらの区間に入れていいのかわからない
という問題が起こらなくなる.この手順を守らないと、歯抜け型のヒストグラムとなる恐れが
ある。
手順6
区間の中心値(X)を決める。
区間の中心値(X)=
区間の下側境界値+区間の上側境界値
2
この例の第1区間の中心値(X1)は
第1区間の中心値(X1)=
49.5  51.5
 50.5
2
となる。
手順7
データの度数を数え,度数表をつくる。
データがどの区間に入るかマーク(//// 又は正)をつける。
度数表
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
49.5
51.5
53.5
55.5
57.5
59.5
61.5
63.5
65.5
67.5
69.5
区間
~ 51.5
~ 53.5
~ 55.5
~ 57.5
~ 59.5
~ 61.5
~ 63.5
~ 65.5
~ 67.5
~ 69.5
~ 71.5
中心値(X)
50.5
52.5
54.5
56.5
58.5
60.5
62.5
64.5
66.5
68.5
70.5
度数マーク
//
////
////
////
////
////
////
////
///
//
-3-
////
////
////
////
////
//
////
//// //
//// //// ////
////
/
度数 (f)
0
2
5
14
17
24
15
11
7
3
2
手順8
ヒストグラムをつくる。
手順9
平均値や規格値の位置を記入する。
手順 10 データ数nなど必要事項を記入する。
・製品名、工程名
・データをとった期間
・データ数n
・平均値,標準偏差
・規格値
・工程能力指数
・作成年月日,作成者
ヒストグラム
30
n=100
25
σ = 3.843
Cp = 0.867
Cpk = 0.801
Xbar=60.76
SL=50
SU=70
20
度 15
数
10
5
0
48.5 50.5 52.5 54.5 56.5 58.5 60.5 62.5 64.5 66.5 68.5 70.5 72.5
重量(Kg)
-4-
★ヒストグラムの見方 - 分布の形
ヒストグラムは,製品の品質特性値が集団としてどのような状態になっているかを見て,工程の状態,
実力を知り,工程に対してどのような対策を立てればよいのかの判断に役立つ.したがって,ヒストグ
ラムの形や姿から,次のような見方・使い方をすることが大切である.
① 分布の姿や形からの見方
→下図参照
安定した工程からとられたデータは,左右対称の一般型のヒストグラムになるが,工程に異常が
あると,歯抜け型,離れ小島型,二山型などの不規則な形になる.ヒストグラムの姿をみることに
よって工程の異常を知ることができる.
② 規格に対する工程能力面からの見方
ヒストグラムに規格値や目標値を記入すると,規格外れの状況がわかる.また,規格値や目標値
に対して平均値やばらつきの大きさをみることができる.
名 称
ヒストグラムの形
説
明
工程の状況
一般型
度数は、中心付近が最も多
く、中心から離れるに従っ 工程は管理状態にあり安定
て徐々に少なくなる。ほぼ している。
左右対称の形をしている。
離れ小島型
工程の4要素(材料、設備、
普通のヒストグラムの右端
作業者、作業方法)の変化
または左端に少数の離れ小
などで、異常があった場合
島がある。
に現れる。
二山型
平均値の異なる2つの母集
分布の中心付近のデータが
団のデータが混在している
少なく、左右に2つの山が
場合に現れる。層別したヒ
ある。
ストグラムを作成する。
歯抜け型
または
櫛の歯型
度数表の作成時に区間の幅
区間の1つおきに度数が変
を測定のキザミの整数倍に
動しており、櫛の歯型にな
しない場合や測定器にくせ
っている。
がある場合に起こる。
絶壁型
(右絶壁型)
(左絶壁型)
規格外品を全数選別して取
右または左の端が切れた分
り除いた場合などに現れ
布になっている。
る。工程能力が小さいので、
左右非対称である。
工程の改善が必要である。
高原型
スソ引き型
(右スソ引き型)
(左スソ引き型)
平均値が多少異なるいくつ
各区間に含まれる度数があ かの分布が混じり合った場
まり変わらず、高原状にな 合に現れる形である。層別
っている。
したヒストグラムを作成す
る。
ヒストグラムの平均値が分
理論的に、また規格値など
布の中心より右寄りまたは
で下限または上限が押さえ
左寄りにある。度数は一方
られており、ある値以下ま
がやや急に、他方はなだら
たは以上の値をとらない場
かに少なくなっている。左
合に現れる。
右非対称である。
-5-
★ヒストグラムの見方 - 規格に対する工程能力面からの見方
ヒストグラムに規格値(あるいは目標値)と対応させて、規格の満足状況や規格外れの状況がわかる.
また,規格値や目標値に対して平均値やばらつきの大きさをみることができる.
ヒストグラムが規格(あるいは目標値)の上限・下限の内側に十分なゆとりをもって納まっているか
どうか,次のような点に着目する.
① 分布の中心が規格の上限と下限の真ん中にあるかどうか.
② 規格の上限あるいは下限からはみ出しているデータはないか.
③ 分布は規格の幅の中にゆとりをもって入っているか.
*規格値どの対比
型
理
想
型
―規格と分布の関係―
規格と分布の関係
SU:上限の規格,SL:下限の規格,公差:SU-SL
説 明
規格の公差に対して製品のバラツキが小さく、製品のデ
ータ範囲は規格に十分入っている。平均値も規格の中心
値と一致しており、最も望ましい状態である。製品のヒ
ストグラムから求めた標準偏差の8倍が規格の公差以下
となっていれば理想的である。(工程能力指数 CP≧1.33
の状態)
片
側
に
余
裕
な
し
製品のデータ範囲は規格の公差に入っていて、規格外れ
は発生していないが、平均値が規格の上限に近すぎて、
わずかな工程の変化に対して、規格外れが発生する恐れ
がある。分布の中心を規格の中心に移動して余裕を持た
せ、工程を改善する必要がある。
両
側
余
裕
無
し
製品のデータ範囲は規格の公差にちょうど一致してい
る。わずかな工程の変化に対して、規格外れが発生する
ので、製品のバラツキを小さくするように工程を改善す
る必要がある。
余
裕
あ
り
す
ぎ
規格の公差に対して、製品のデータ範囲が小さく、十分
な余裕があり、規格外れは発生していない。規格を満足
しすぎていることにより、工程管理のコストがアップし
ている場合には、製品のバラツキを大きくしてコストダ
ウンを図ってもよい。
平
均
値
の
偏
り
製品データの平均値が右へずれすぎていて、規格上限を
超える規格外れが発生している。製品データの平均値を
規格の中心値に持ってきて、規格外れをなくすように、
工程の改善をする必要がある。
バ
ラ
ツ
キ
大
工程のバラツキが大きすぎて、規格上限と規格下限を超
えて、規格外れが発生している。取りあえず全数選別す
るとともに、バラツキを小さくして工程の改善を図る。
可能であれば、規格の公差を広げることも検討する。
-6-
★ヒストグラムの見方 - 規格中心からのずれとばらつきの関係
分布のばらつきの大きさと分布の平均値の規格中心からのずれの大きさの関係を次の表に示す。
分布の平均値のずれと分布のばらつきが大きくなるにつれて、工程能力が低下し、不良率が大きくな
っていく状況をしめしている。
小
ばらつき
正常
大
規格の範囲にゆとりを持って
収まっている。
分布の裾が両側とも規格から
はみ出している。
ず
れ
な
し
規格の中央に集中している。
ばらつきは十分すぎるほど小
さい。
18
SL
公差
16
30
SU
公差
SL
SU
25
14
ず
平 れ
均 小
値
の
ず
れ
12
20
10
15
8
6
10
4
5
2
0
0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
平均値が少しくらい片側へ偏
っても、規格限界までには余
裕がある。
18
16
SL
公差
1
分布の裾が規格幅の片側に寄
り、これ以上ずれると規格限
界からはみ出す恐れがある。
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
片側のはみ出しがなくなって
も、反対側は規格限界へのは
み出しが増えてしまう。
30
SU
2
公差
SL
SU
25
14
12
20
10
15
8
ず
れ
大
10
6
4
5
2
0
0
1
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
いくらばらつきが小さくて
も、平均値が甚だしくずれる
と規格限界からはみ出してし
まう。
平均値が中央に戻るように調
整できれば、分布のすそがは
み出さずにすむ。
-7-
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
平均値を規格の中央に修正す
るよりは、先ずばらつきを小
さくする改善が必要である。