在宅での往診を診療中に依頼 された場合,断ることができ るか? 社会歯科学研究会 東京歯科大学 上條英之 か み じょう ひ で ゆ き 質問:日中,要介護の患者さんの家族の 方から電話で「寝たきりとなっている母 の歯が痛む」とのことで訪問診療を依頼 されましたが,診療中であるため断って しまいました.これは応召義務違反に当 たるのでしょうか? ■応召義務に違反すると行政処分の 対象になるか? 定で新設された“在宅療養支援歯科 ご指摘のケースにおいては,予約 診療所”の届出を行っている歯科医 診療を行っていてすぐに対応ができ 応召義務については,1948年に 療機関は約5,000で,年々増えては ないことから,通常,患者さんの納 現在の歯科医師法が制定される際に い る も の の, 医 療 施 設 調 査 で 約 得が得られる場合は診療中を理由に 「そもそも,このような規定は,法 69,000近く届出されている歯科診 断ることは許容されると思われます 律で強制すべきものではなく,歯科 療所の1割に満たない状況です. が,今回のケースでは患者さんが疼 医師の自覚をまつべき」との意見が これでは社会通念上, “歯科医療 痛を訴えていることから,診療時間 ありましたが,歯科医師の職務に対 機関で訪問歯科診療を行うのが一般 外を含め,可能な範囲での応急処置 する公共性から“強調されるべき” 的”とはみなしにくい状況です.し を行うか,自院での対応ができない とされ,義務として法律で規定され かし,後期高齢者が増え続けている 場合には,ご家族の同意を得て,訪 ました.ただし,旧法で規定されて ことや,最近の医療提供体制として, 問歯科診療を行っている他の機関に いた罰則は削除されました. 在院日数の短縮や医療施設の機能分 即座に紹介することが妥当適切であ しかし,法制定から7年経過した 化を進めていく潮流から,在宅歯科 ると考えられます. 1955年に出された通知では,歯科 診療を求める患者さんが今後も増え 医師が患者の診療の求めに応じる義 ていく可能性は否定できません. なお,患者さんの歯科医療に対す 務違反を再三繰り返した場合,歯科 る権利意識の高まりや在宅歯科医療 医師法第7条に規定する「歯科医師 ■診療中を理由に訪問診療の依頼を 断れるか として品位を損する行為のあったと 訪問診療を含め,患者さんからの 変化,また歯科医師と患者との関係 き」に当たることから,歯科医師に 診療の求めに対して診療を断ること の変化などにより,応召義務に該当 対する行政処分を行うケースがあり ができるのは,「社会通念上,妥当 する考え方は今後変わっていく可能 える旨,通知されています. と認められる場合に限られる」とさ 性があります.そのため,社会通念 ■訪問歯科診療の状況 れています.以前,厚生省(現厚生 も時代に応じて変化していくことを 訪問歯科診療が増え始めたのは最 労働省)が発出した通知によると 留意すべきだと思います. 近のことであり,2011年の医療施 「診療時間を制限している場合であ * 設調査では,訪問歯科医療サービス っても,これを理由に即座に対応を 詳しくはヒョーロン社刊『歯科五 を行っている歯科診療所は約2割に 要する患者の診療を拒むことは許さ 法コンメンタール』の53 ~ 54頁を すぎません.2008年の診療報酬改 れない」と規定しています. ご参照ください. 154 THE NIPPON Dental Review Vol.75 No.9(2015 -9) * の一般化をはじめ,医療提供環境の
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