義歯領域のインプラント補綴≪症例報告≫

義歯領域のインプラント補綴≪症例報告≫
歯科技工士 遠藤雅文 (D.Lインターナショナル 入社11年)
はじめに
近年、多数歯欠損補綴においてインプラントによる補綴治療が多く適用されるようになってきた。
インプラント治療は、咀嚼機能の回復や装着感といった点から従来の有床義歯等に比べて優位
な点が多い。しかしながら、インプラントの長所や機能性を充分に発揮するためには、技工サイド
においても適合精度・咬合など多くの留意するべき点がある。今回は義歯領域におけるインプラ
ント補綴を行った症例を報告する。
症例1
○女性 : 63歳
○設計・部位 : 上顎all-on4
○指示内容 : スクリューリテイン
粘膜面メタルタッチ(使用金属Pd)
フルバランスドオクリュージョン
製作にあたり留意した点
・アバットメントとメタルフレームの適合精度
・重合時の収縮を最小限にしてメタルフレームの変形を防ぐ
・スクリューリテイン式のため、アクセスホールの位置と強度
・咬合力を受け止めるデザインのメタルフレーム設計
模型製作
石膏注入
石膏の膨張を補正するストロー法
咬合床・配列・試適
チェアサイドで
前歯部の排列
ガム模型完成
メタルデザインを考慮した配列
ラボサイドで
臼歯部の排列
ワックスアップ・鋳造・レーザー溶接・ロー着
フレームデザインの設定
バイト・適合確認・研磨
フレームとアバットメントの良好な適合を獲得
アクセスホールの調整
適合確認
研磨・フレーム完成
人工歯配列
フルバランスドオクルージョンを付与
レジン重合・研磨完成
適合を重視して重合収縮の少ないフィットレジンを選択
アバットメントの適合状態
症例1の考察
本ケースにおいて、最も難易度が高く製作に時間を要したのが適合である。模型製作時より石
膏の膨張を補正する目的でストロー法による石膏注入を行い、また2ピースのフレームをレー
ザー溶接・ロー着を併用して、骨格となるメタルフレームの良好な適合を得ることが出来た。
また重合作業もフルマウスの一塊での作業となるため、使用するレジンには重合収縮の最も少
ないフィットレジンを選択することにより、重合後のメタルフレームの変形もなく、ファイナ
ルでの良好な適合が得られた。
上部構造の固定方式は術者可撤式のスクリューリテイン方式を採用しているため、審美的には
前歯部のアクセスホールの位置、強度的には臼歯部の咬合面に位置するアクセスホールの設計
に留意した。また最大限の強度を発揮するために、床の全周にわたるメタルフレームのバッキ
ングによる咬合圧を受け止める設計とした。今回は長期にわたるプロビショナルデンチャーの
使用や、技工士立会いのもと行った数度にわたる配列・試適の結果、技工サイドで理想とする
アクセスホールの位置およびメタルフレームデザインをほぼイメージ通りファイナルにて再現
できた。今後は、定期的なリコール時にフルバランスで与えた咬合のチェック・プラークコン
トロールの状態等について情報共有することで、担当医とともに同症例の長期管理に関わって
いく必要がある。
症例2
○男性 : 67歳
○設計・部位 :上顎all-on6
○指示内容 :AGC(術者可撤式3ユニットブリッジ)
前歯 ハイブリッドレジン前装冠
臼歯 メタルティース(使用金属P-3)
粘膜面メタルタッチ(使用金属Co-Cr)
フルバランスドオクリュージョン
製作にあたり留意した点
・カスタムアバットメント(内冠)の着脱方向等を考慮した設計
・前歯部のメタルバッキングおよび咬合面のメタルティースによる咬合の付与
・AGCによる内冠・外冠方式のため、テクニカルエラーを最小限にするためのラボサイド
とチェアーサイドの緊密な連携
カスタムアバット
メント(内冠)作製
AGCで外冠作製
フレーム設定・製作
配列
前歯部の強度を出すための骨格フレームデザイン
フルバランスドオクルージョンを付与
重合・研磨
臼歯部メタルティース作製
強度を重視して床用レジンにはイボカップを選択
AGC装着・外冠装着
AGC装着
口腔内にてスーパボンドで位置決め・固定
口腔内装着
症例2の考察
本ケースにおいて、アバットメントと上部構造の適合は最終的にAGCコーピングを口腔内で
位置決めするため、メタルフレームとアバットメントの適合精度や、重合時に発生しうる変形
等に対する不安は少ない。そのため使用するレジンには強度を最優先したイボカップを選択し
た。カスタムアバットメント(内冠)のテーパー角度は2°に設定し、AGC(外冠)との良
好なパッシブフィトの獲得を目指した。上部構造の設計が複雑であることとメタルティースに
よるフルバランスドオクルージョンの付与を正確に得るために、技工士立会いのもと配列・試
適を行った。また今回はAGCの位置決めなどチェアーサイドでの複雑な作業が多いことから、
印象採得時も含めほぼ毎回、技工士立会いをしてテクニカルエラーの防止に努めた結果、ファ
イナルでの適合精度も良好であった。本症例のようなフルマウスケースにAGCを活用するこ
とは、適合精度において優位性が高いことが確認された。またアクセスホールが無く審美的に
も優れている。リコール時の術者による着脱作業はスクリューリテイン方式よりも簡便なため、
メインテナンスにおいても負担が少ない。ただし工程が複雑なため、技工士立会い等による
チェアーサイドとラボサイドの緊密な連携が必須である。今後は、定期的なリコール時にゴー
ルドコーピングの摩擦・摩耗による状態変化やフルバランスで与えた咬合のチェック・プラー
クコントロールの状態等についても情報共有することで、担当医とともに同症例の長期管理に
関わっていく必要がある。
まとめ
無歯顎患者のインプラント補綴は、粘膜支持の総義歯がインプラント支持に変わることで、今
まで噛めなかったものが食べられるようになることにおいて大変意義がある。しかしながら、
咬合力が上がり義歯も動かなくなることで起きるリスクも考慮し、今まで以上に咬合様式の付
与や咬合力を受け止めるフレームデザイン等に留意する必要がある。また治療計画や理想的な
設計を正確に実行していくためにもチェアーサイドとラボサイドの緊密な連携が必須である。
今後もそのような補綴物を作製するために日々知識と技術の研鑚に努めたい。