第4回かつしかミライテラス

隅田
昭
(取材日:2015年1月25日)
まえ がき
葛飾区認定製品の販売や、職人の工芸品などを制作体験できるイベント
「かつしかミライテラス」が、テクノプラザかつしかで行われた。
記者の幼少時代はソフトビニールの怪獣人形が全盛で、よく近所の悪ガ
キ達と遊んだものだ。会場を進んだ奥に置かれたキューピーや、アニメキ
ャラクターの人形を眺めるうち、妙に懐かしい気分になってくる。
その脇のブースでは株式会社カミジョーが、100円でセルロイド湯し
ぼり体験を開催しており、記者も参加すると共に取材を進める。
上條靖典社長はセルロイドの歴史を、湯しぼり同様に熱く語った。
3分ほどで完成して喜んでいると、昔の職人は愚痴ひとつ漏らさず、黙々
とこなし、灼熱の中、1分ほどで完璧に仕上げていたそうだ。
セルロイドは接着剤などで用いるニトロセルロースと、防虫剤などに利
用される樟脳(しょうのう)を合成した、歴史上最古の人工樹脂だ。
過去に初代キューピー人形やピンポン玉、ギターピック等で使われ、ア
ニメの「セル画」は、フィルムにセルロイドを使用した名残である。
目次
1.まえがき
2.抽選会は大混雑・カワイイ職人殺到
3.小さな後継ぎ参上・達人にも時代の波
4.プチバブル再来か・目玉が飛び出そう
5.優しいおじいちゃま・芯棒強く頑張ります
6.編集後記
7.あとがき
-1-
風評 被害のセ ルロイド
株式会社カミジョーの上條靖典社長曰く、
「白木屋の火災で出火地点に、管理が悪いセ
ルロイド人形が大量に置かれていた為、風評
被害で危険な商品だ、とやり玉に上げられた。
ただ、常温保管すれば、決して燃えやすい物
質ではない」
ソフトビニールの成型は得意分野で、多種
多様な注文が舞い込む。
それでも、焼却後は有害物質を出さず、土
に戻るエコなセルロイドが復活する日を信
じて、国内唯一の金型を製作し、生産に汗を
流している。
カワ イイ職人 殺到
入場して最初の目立つ場所に、上生菓
子作りの体験コーナーが設けられ、親子
連れで賑わっていた。
菓匠岩月のパティシエが、可愛らしい
和菓子のように、小さな即席の職人達に
伝授している。
見学される親御さんは、我が子の生菓
子作りに目を細め、カメラやビデオを夢
中で操作していた。
お子さんは白アンと小倉アンで、干支
の羊を、真剣に作っている。この中から
本物のパティシエが出現すれば、次回の
東京五輪では来日外国人に、美味しい
「お・も・て・な・し」ができるだろう。
-2-
小さ な後継ぎ 参上
菓匠岩月に隣接した販売コ
ーナーに、何処かで見掛けた
風景が広がっている。
産業フェアで取材した亀む
らの仲良し母子だった。
母は過去4回開催のうち、
3回連続で出展を果たしてお
り、費用が無料なのが魅力だ
と語る。小さな店員は、既に
立派な後継者だ。
達人 にも時代 の波
灯篭の穏やかな灯りに誘われ、奥の
ブースまで進んだ。古風な景色が漂い、
防炎加工済みの和紙に、ウサギや鶴、
亀や龍が、毛筆で見事に描かれている。
手書友禅体験で指導している男性に
聞いたところ、以前は着物職人で、反
物や帯に腕を奮っていたそうだ。
ところが最近は、めっきり注文が減
ったらしく、
「色々試しながら、今はイ
ンテリア用品に書いている」と語る表
情が、どこか寂しそうに見える。
体験で筆を走らせるご婦人は、飼っ
ているペットを題材に目が輝く。その
女性が職人に、掛け軸のオーダーメイ
ドを注文する。彼女の嬉しそうな様子
を見ながら、時代の波を如実に感じた。
-3-
プチ バブル再 来か
「えっ、買われますか?」
「包装しなくてもいいよ、
すぐに自分で使うから」
エコで手作りの風合いを
持つ、漆の高級筆記具。
一万円札を財布から出し
て衝動買いする、リッチな
男性に店員が驚く。
店員は恐縮しながら、何
度も釣銭を確認した。
目玉 が飛び出 そう
有限会社高田紙器製作所では、高田照
和社長が自ら、ポップアップ名刺の特長
を熱く語って、サンプルを配っている。
多色刷り、写真入り、奇抜なデザイン
の名刺は数あれど、飛び出す絵本の如く、
企業ロゴや商品がポップアップする名
刺は効果絶大だという。営業マンが差し
出せば、話題に事欠かないと自負する。
他にも、年賀状やクリスマスなどのポ
ストカード、特製の立体模型なども手掛
けている。今後も市場動向を見極め、商
品開発を進めると、決意を口にしていた。
社長から突然渡された名刺に、小さな
男の子もビックリして、目を白黒させる。
彼が「セールスマンになろうかな?」
と考えたなら、将来有望な、お得意様だ。
-4-
優し いおじい ちゃま
「お耳が取れちゃった」
「大丈夫。すぐ直すから」
野太い声でお孫さんに語
り掛ける、優しいおじいち
ゃまを彷彿とさせる。
株式会社杉野ゴム製作所
の杉野行雄さんは、手作り
ストラップで柔和な
顔を見せ、順番を待つ子供
達に大人気だった。
芯棒 強く頑張 ります
北星鉛筆株式会社では、社長の杉谷和
俊さんが粘土工作教室を開いていた。
その脇に後継者で、専務の行雄さんが
鉛筆のつかみ取りをアピールする。
記者は土産用の鉛筆を購入して、企業
の歴史や商品ラインナップを尋ねた。
「元々は北海道で、先祖が木材加工を
していました。鉛筆は黒鉛に粘土を混ぜ
て作ります。その製造過程で発生する木
屑を再利用できないかと考え、子供の工
作用として、体に優しい無害の粘土を製
作したところ、大好評を頂きました。
当社の芯の折れにくいオリジナル鉛筆
は、イラストレーターや画家に絶大な支
持があります。今後もこだわりを持った
商品を開発し、頑張って作り続けます」
-5-
編集 後記
葛飾区内は町工場が多く、記者の住む周辺地域でも、ゴムや金属加工の
作業音が、外出する度によく聞こえる。普段、何気なく耳にしているリズ
ム感が、下町の新しい情緒に思える。
会場でアンケートを取っている、スタッフの佐藤香さん(失礼ながら年
齢をうかがい、41才とお聞きしました)に逆取材を申し込んだ。
すると「あぁ、区民記者の小冊子ですね。いつも仕事の合間に楽しく拝
見していますよ」とカウンターパンチ。
(これは下手な記事が投稿できない
ぞ…)と苦笑いしながら、気を取り直して話を進める。
「まだ試行錯誤の状況です。出展者や来場者の方に話を伺いながら、今
後は時期や主催方法も含め、より一層、発展するように頑張ります」
近年は安価な海外製品に押され気味の伝統工芸ではあるが、会場で取材
した限りでは後継者不足や、販売不振に苦悩する気配は皆無だった。
ここでアピールしている企業や店舗は、選りすぐりのいわゆる「勝ち組」
であろう。ただ、手書友禅職人を見るうち、着物を和紙に替えても、自慢
の腕をフル活用できないのは、少々もったいない気持ちになった。
イベントなども重要ではあるが、葛飾区内の小・中学校やホール、図書
館や公民館などで、体験会を定期的に開催してはどうだろう。
子供や若者が興味を持って、一人でも「あの仕事をやってみたい」と感
じたならば、それは葛飾の未来に繋がる、大きな財産になるはずだ。
-6-
-7-