先日の世界選手権では、男子やり投において日本の村上選手が 3 位

世界選手権をみて考えたこと
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男女やり投の投技術と二軸感覚について
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群馬県立大間々高等学校教諭
今泉
諭
先日の世界選手権では、男子やり投において日本の村上選手が 3 位銅メダルという
成 績 で 幕 を 閉 じ ま し た 。ま た 競 技 レ ベ ル と し て は 、女 子 や り 投 で は 37 歳 の ネ リ ウ ス 選
手( ド イ ツ )が 、1 投 目 に 67m30、男 子 や り 投 で は ト ル キ ル ド セ ン 選 手( ノ ル ウ ェ ー )
が 89m59 と い う 結 果 で 優 勝 し ま し た 。
技術的な側面を考えると、投動作の違いというのは、画面上ではわからない部分が
多々ありますが、顕著にみられた動作ポイントを述べたいと思います。
女子やり投選手にみられる動作として、助走の入り動作(私個人的には初動動作と
説 明 し ま す )に お い て 、肘 を 絞 る 動 作 を す る 選 手 が 多 い と い う こ と で す 。具 体 的 に は 、
肘頭を投方向に向けてやりを保持するという構えです。ネリウス選手を始め、ロシア
選手においても初動動作を確認してから助走に入るということが見受けられました。
この動作のポイントとして考えられるものとすれば、肘関節がちょうつがい関節で
あり、やりを引く動作(投運動に入る直前のやりの構え)で投げる側
( TS:throwing-side)か ら 外 れ な い た め の 導 入 動 作 で あ る と 考 え ら れ ま す 。右 投 げ を
例にすると、投方向を6時の方向と仮定した場合、肘頭を 6 時に向ける場合と7時3
0分、9 時の方向、とにポジションを変えた場合、リリースポイントは 6 時方向が身
体 前 で リ リ ー ス し や す い( や り を 引 き 出 し や す い )と い え 、続 い て 7 時 、9 時 と い え ま
す。
男子選手では多くが 9 時のポジションに肘頭を置く選手が見受けられますが、9 時
のポジションであると、やりを高く投げ上げやすいことがいえます。つまりリリース
ポイントは頭上になり、加速感覚は背中で行われるということになります。
こ れ は 、 女 子 や り が 600g と 軽 く 、 投 球 腕 の 振 り ( 初 速 度 ) が 投 技 術 の 大 部 分 を 占
めていることもあるのだと考えます。男子は筋力やスピードを生かした運動の切り替
え(ブロック動作)を必要とする技術が主流になっていて、効率よくブロックし、や
り に 初 速 度 を 高 め る に は 、身 体 軸 の 延 長 上 で リ リ ー ス す る 必 要 が あ る の だ と 考 え ま す 。
※ 村 上 選 手 の 助 走 の 入 り の 構 え ( http://www.tbs.co.jp/ )
次に、ヒップストライク動作に関してですが、ほとんどの選手がクロス動作で意識
的に行い、脚の蹴り出しや送り出しではなく、腰のぶつける感覚から行っていると見
受 け ら れ ま し た 。 特 に NTS(Non-throwing-side)に TS 側 の 腰 を 直 線 的 に ぶ つ け る 感
覚で行っていることは、映像からもみてとれます。またラストクロス(リリース直前
の 3 歩動作)ではヒップストライク動作を長く押し込む感覚で行い、リリース準備を
していることもみられました。
村 上 選 手 が 、動 作 に 関 し て こ の よ う な コ メ ン ト が あ り ま す 。
「踏み込む左足と右手のリリー
スポイントの相関関係が「自分を背後から撮った映像で、理想の形にきていると確認でき
た 」と 手 応 え を つ か ん で い た 。
( 8 月 24 日 1 時 5 分 配 信 時 事 通 信 よ り )」。こ れ は 理 想 の 形
と い う の は 本 人 に 確 認 し な け れ ば な り ま せ ん が 、私 の 推 測 と し て 、
「踏み込む左足と右手の
リリースポイントが直線上になっていること」と考えられます。もう少し二軸感覚的に解
釈 す る と 、「 NTS に TS を ぶ つ け 続 け る こ と で 、 乗 り 込 む ( 切 り 替 わ る ) よ う に リ リ ー ス
される」感覚なのだと思います。
この感覚を説明しているコメントとして、
「今年は左肩が投てき方向に残っている状態がで
きています。その形をつくるための動作として、左足を着く前の右脚にしっかりと重心が
乗った状態をつくることができている。左肩、右骨盤、やりの方向がすべて一致もしてい
る 。今 ま で の 技 術 の な か で 最 高 の 動 作 が で き て い る と 思 い ま す 」
( TBS 世 界 陸 上 サ イ ト
田 氏 コ ラ ム よ り http://www.tbs.co.jp/seriku/terada/20090825.html)。
寺
※ 村 上 選 手 の リ リ ー ス 直 前 の 構 え ( http://www.tbs.co.jp/ )
また、村上選手が使用しているスパイクについても説明がありました。
「ミズノ広報の大澤健治さんの説明によると、左右のシューズのそれぞれに、内側が低
くなるように斜度がついている。そして、左のシューズ足首部分がハイカットで、シャー
ク ス キ ン と 呼 ば れ る 細 か い 突 起 が つ い た ソ ー ル が 足 首 を 包 む 。こ の 2 つ が 溝 口 の 発 案 で カ
スタマイズした部分。村上はさらに、従来は足裏の中央にあったピンを外側に移すなど、
独自の工夫を施している。
「左足で助走の勢いをブロックしますが、足元がぶれたら、その衝撃が逃げてしまって投
てきに利用できなくなる。溝口さんも斜度つきだったと聞いていますし、ミズノのやり投
ス パ イ ク を 履 い て い た ゼ レ ズ ニ ー (チ ェ コ 。 や り 投 世 界 記 録 保 持 者 )も そ う だ っ た と 聞 い て
い ま す 」( 前 述 : http://www.tbs.co.jp/seriku/terada/20090825.html)。
このことは、スパイクに斜度がついている=エッジ感覚を有効にしていると推測できま
す。しかし、本人はアウトエッジなのかインエッジなのかは不明ですが、内側が低くなれ
ば加重感覚を無意識にしやすくしているとも考えられます。溝口氏は日本記録保持者
( 87m60) で 、 当 時 か ら 感 覚 を 重 要 視 し て い た と 聞 き ま す の で 、 足 底 の ピ ン 感 覚 が 投 運 動
に影響することもいえるのではないかと考えます。
片手投げ(ワンハンドアーム)では、リリース直前までに体幹部が加速できるかが重要
であるように考えています。そのためには、助走スピードを効率よく投球腕に伝えられる
かが技術の核であると考えなければなりません。ひねるのではなくヒップストライクで押
し出され、ブロック脚の外旋接地で軸の切り替えが行われると解釈すべきなのではないか
と考えるようになりました。身体の骨格構造を生かした投動作とは何か、今後追求すべき
問題であると考えます。主観と客観のズレはより複雑な動作であればあるほど大きくなり
ます。そのことを肝に銘じて今後もコーチングや技術開発をしていきたいと思います。