認知科学 思考のメカニズムと実践(1) 2015年11月19日(木) フレーム表現 人間の記憶および認知の過程をモデル化 するための枠組みとしてMinsky (1974)に よって最初に提案された知識表現形式. フレーム表現は知識の構造的表現の一つであり, 典型的な状況や事象・対象などの概念的記述とそ れらの間の階層的関係の記述を利用して,具体 的な状況や事象・対象に対する理解や問題解決 を効率よく行なうことを意図している. 対象中心表現 人間はすべての知識を総動員して複雑な推論 や計算をしているわけではない. フレーム表現は,対象や事象,状況 通常は典型的(prototypical)な状況についての などに関して意味的につながりをも 知識を用いて,現実の状況が予測または期待 つ知識群を陽に抽出し,これらを構 される範囲内で推移するならば,特別な推論を 必要としない. 造化しようとするものであり,その意 味で対象中心表現と呼ばれる. なにか予想されないような事態が起こった場合 に限り,特別な推論が駆動される. フレームの基本構造 フレーム名 スロット1 スロット値 スロット2 スロット値 スロット3 スロット値 : スロット値 スロットn スロット値 • 他のフレーム(継 承関係) • 数値 • 文字列 • 手続き名 • その他 各スロットはその事象における役割格を表し,フレームが 対象を表す場合にはその対象がもつ属性をあらわす. 性質の継承 フレーム間の階層関係は“is_a”関係で表現される. “a_kind_of” “an_instance_of” “a_subset_of” 静岡大学浜松キャンパス 関係 a_subset_of (静大キャンパ ス) 組織 下位フレームは上位フレームがもつ性質 を継承することができる. 浜松市城北3-5-1 所在地 情報学部 関係 a_subset_of (静大浜松C) 工学部 関係 所在地 学科 情報科学科,情報社会学科 a_subset_of (静大浜松 C) 所在地 学科 機械工,電気・電子工,物 質工,システム工 演習 この文をフレームで表現せよ. 「大学生は,一般に,勉強嫌いで,礼儀知らずで ある.工学部の学生は,一般に,性格が暗く,機 械いじりを趣味としている.情報学部の学生は,一 般に,人付き合いが苦手で,アニメーションが好き である.太郎は,工学部の学生で,性格は明るく, 勉強熱心である.次郎は,情報学部の学生である が,アニメーションよりプログラミングに興味があ る.」 解答テンプレート フレーム名 工学部の学生 関係 a_kind_of ( ① ) 性格 ( ② ) 興味 ( ③ ) 職業フレームへ フレーム名 大学生 関係 a_kind_of 職業 勉強態度 勉強嫌い 行儀 礼儀知らず フレーム名 情報学部の学生 関係 a_kind_of ( ④ ) ( ⑤ ) 人付き合いが苦手 興味 ( ⑥ ) フレーム名 太郎 フレーム名 次郎 関係 an_( ⑦ )_of 工学部の学生 関係 an_( ⑩ )_of 情報学部の学生 ( ⑧ ) 勉強態度 明るい性格 ( ⑨ ( ⑪ ) ( ⑫ ) ) 大学生は,一般に,勉強嫌いで,礼儀知らずである.工学部の学生は,一般 に,性格が暗く,機械いじりを趣味としている.情報学部の学生は,一般に,人 付き合いが苦手で,アニメーションが好きである.太郎は,工学部の学生で, 性格は明るく,勉強熱心である.次郎は,情報学部の学生であるが,アニメー ションよりプログラミングに興味がある. 注意! 人間の頭の中の知識表象(内部表現)は現在のとこ ろまだ直接知ることができない. スキーマもフレームもスクリプトも,人間の内的表現 のモデルとしての外部表現に他ならない. コンピュータで利用される知識はすべて外部表現. 人間の知識表現を説明する上で有力な方法なので 上記のことを留意の上,つねに心理学的妥当性を考 慮しながら人間の「知」のメカニズムを探ることが認 知科学の方法論となる. 思考 決定論的 目的は存在するか しない する 計算をするための方法を選 決定論的か 白昼夢 択することはできるが,一度 いいえ ある手続きを選択したならば, 正確な目標が 正解を得るための自由は奪 存在するか われる. 意味情報 ある命題によって,起こり得 る可能性のある事態を対象 から除外するほど,その命題 の含む情報は多くなる. しない はい 計算 する 創造 意味情報を 増大させるか はい 帰納 思考の分類 いいえ 演繹 思考による問題解決 「問題」 (problem) とは? 達成すべき目標が達成されずに残されている状態.その目 標を達成することが問題解決であり,その過程が問題解決過 程である. ルーチン的問題解決 あらかじめ分かっている方法を機械的に利用する問題解決過程. 計算など. 創造的問題解決 すでに知っているいくつかの計算法の適用の方法を新たに考え 出して初めて問題を解決し得るような問題解決過程. 問題解決過程 Wallasの問題解決過程 1. 準備(preparation):情報を集めて準備する. 2. あたため(incubation):問題を離れて別の事をするが,この 間に潜在的に何かが進行する. 3. ひらめき(illumination):解決に通じるアイディアが浮かぶ. 4. 検証(verification):解決が本当に正しいかどうか確かめる. 過程を明らかにする Newell, Shaw, & Simon (1958) 情報処理モデルの提案と問題解決過程の記号による 記述.一般問題解決プログラム(General Problem Solver). ヒューリスティック法 手段ー目的分析 プロトコル分析 問題解決の過程 問題解決の過程とは,制約条件を守りながら,オペレータ を使って初期状態から目標に移動していく過程である. ある状態から別の状態へと状態を変換 (transform) していく過程. 問題空間の探索方法(1) アルゴリズム法 基本的問題空間のすべての状態をしらみつぶしに試し ていく方法.→コンピュータ 決まりきった手続きを適用して問題を説いていく方法.→ ルーチン的問題に適用 プロトコル分析法 思考過程で経験しつつある事柄を随時被験者に詳細に 報告させて得た資料(言語的プロトコル)を思考過程解 明の重要な手がかりとする方法.被験者の内観を重視 する. 内観を報告することについて 内観法の欠点 人間の意識的経験だけしか研究対象にできない. したがって,言語使用可能な被験者のみを対照としうる. ある経験につき言語報告しているときにはその経験はす でに過去のものであり,生々しい現実の報告ではありえ ず,また,言語化する過程で経験内容がさまざまに歪め られる可能性がある. あくまでの個人の主観的経験の報告なので,公共性が ない. が,使われるのはなぜ? 思考は知覚や短期記憶などの過程とは異なり,刺激と反応 との間に長い時間経過がある. 思考は多くの場合,内言によって行われている場合が多い. 刺激に対する反応を被験者自身が創り出していかなければ ならない事態では,考えつつあること,経験しつつあることが らの即時的な言語報告の方がより多くの貴重な情報をもた らす場合も多い. プロトコルの内容を鵜呑みにするのではなく,あるプロトコル とその前後の実際的な行為との関連性を検討し,それらの 関係から,思考過程を推論するという手続きをとる. 問題空間の探索方法(2) ヒューリスティック法(発見的方法) どのようにしてよいかわからない場合に,うまくゆくという 保証はないが,以前の経験に頼って役に立ちそうなこと をやってみるという方法.将棋や碁,チェスなどの問題解 決に多い. 手段ー目的分析 (means-end analysis) 初期状態と目標との間にどのような差があるかを認識し, その差を埋めるためのオペレータ,つまり手段を選択す ることから始める.そしてその手段を講じるための下位 目標を設定し,そのためにまた手段ー目的分析を行なう という過程をふんでいく方法. ハノイの塔 ルール 3本の杭(ペグ)と中央に穴の開いた大きさの異なる複数の 円盤(ディスク)から構成される. 最初はすべての円盤が左端の杭に小さいものが上になる ように順に積み重ねられている. 円盤を一回に一枚ずつどれかの杭に移動させることができ るが,小さな円盤の上に大きな円盤を乗せることはできな い. タスク 一番左のペグに下から大きいディスクの順で積み重ねられた状態か ら,ルールに従ってこの状態のものを一番右のペグに作る. ハノイの塔の問題空間 の探索(1) 初期状態 手段ー目標分析によって目標状 態との差異が小さいものが選択 される. 状態A 状態B 手段ー目標分析では 目標状態に到達でき るか不明なので, ヒューリスティクが寄与 している. 状態C ハノイの塔の問題空間 の探索(2) 状態C 状態D 状態E たとえ目標状態から遠ざかった操 作をしたかのようだが,下位の目 標をクリアするには必要. 目標状態 演習 ハノイの塔 ディスクの枚数を5枚 ディスクの枚数を7枚 ディスクの枚数をN枚 本質的な部分は3枚のときと全く同じ 手続きが2N-1回のディスクの移動 http://www.afsgames.com/towerofhanoi.htm まとめ 認知科学の方法によって,「心の働き(頭の中の現象)」を 形式的に表現することで,客観的・理論的な観察が可能 になる. 人間がものを考え,答を導く過程(問題解決過程)は,一 見複雑な手続きが行われているように思えるが,実は比 較的単純な情報処理過程として説明することができる. 学習の場面にこのようなアプローチを適用可能であれば, 人間が学習するという認知活動を理論的な根拠に基づい て支援することが可能になるだろう. 次回以降の予定 11月26日(木)は月曜日シフト →「認知科学」授業無し 次回は 12月3日(木) 12月10日(木) ←年内最後 12月17日(木) ←休講 1月 7日(木) ←中間レポート提出
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