人民元の国際化と SDR

2015 年 6 月 10 日
人民元の国際化と SDR
公益財団法人 国際通貨研究所
特別研究員 小林 敏雄
中国がドルを基軸通貨とする現在の国際通貨制度に批判的であることは、様々な機会に
表明されてきた。2009 年 3 月には周中国人民銀行総裁が論文を発表し「外貨準備資産が特
定国(米国)通貨に集中することは好ましくない」と指摘している。人民元の国際化につ
いては、それまで中国当局は明確な態度を示しておらず、周論文でも「通貨制度の多角化
を進めるため SDR の地位向上が必要」との考えを表明するに止まっていた。しかし、国務
院がまとめた 2015 年の政策指針では人民元の国際化が柱の一つとなるようになっている。
このような中、本年が 5 年毎に行うとされている SDR バスケットの見直しを行う年に当
たることをとらえ、中国当局は SDR(IMF が創設した特別引出権で国際準備資産)への人
民元組み入れを要求している。現在の SDR は、ドル、ユーロ、ポンド、円を構成通貨とし
ており(各通貨の構成比は、それぞれ 41.9%、37.4%、11.3%、9.4%)、これに人民元を追
加するかどうかは秋にも予定されている IMF 理事会で検討されることになっている。SDR
の通貨バスケット構成は、世界の貿易及び金融システムにおける通貨の相対的重要性を反
映したものになるよう、財及びサービスの取引額、加盟国により準備金として当該通貨が
保有されている額等に基づき行われている。SDR は自由利用可能通貨との交換にその眼目
があり、構成通貨は当然ながら国際的に広く受け入れられる通貨であることが要求される。
IMF の統計によると、通貨別構成が分かっている各国中銀・地域が外貨準備として保有
している外国通貨は、2014 年第 4 四半期末時点で、ドル 62.9%、ユーロ 22.2%、円 4.0%、
ポンド 3.8%となっている。中国人民銀行副総裁は「欧州、アジア、アフリカを中心に 30
超の国が人民元を外準として保有している」と述べたと伝えられるが、IMF のデータでは
人民元はまだ個別分類されるに至っていない。
他方、取引通貨としての人民元は、そのウェートを増している。BIS(国際決済銀行)の
調査(3 年毎に実施)では、2013 年 4 月の一日当たり外為取引高をみるとドル、ユーロ、
円の 3 大通貨の比率が圧倒的に高いが、人民元も全体の 9 位に上昇している。また、SWIFT
(国際銀行間通信協会)の調査では、月により変動はあるものの、国際決済通貨としての
人民元の最近におけるウェートは 2%前後を占め、3%弱の円に迫っている。中国の対外貿
易取引についてみると、2014 年にはその 25%が人民元建で行われるようになっている。
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中国は、人民元で決済ができる地域の拡大、人民元建対内証券投資の緩和等、このとこ
ろ資本規制の緩和を加速してきている。また、中国首脳は SDR の構成通貨となるに必要な
基準を満たすよう資本市場改革、金融市場の自由化を更に行うと伝えられている。IMF 事
務局は、人民元を SDR に組み込むことに対し積極的姿勢を示しており、主要国のなかでも
英国やドイツはそれを支持する意見を既に表明している。他方、米国は「SDR の基準を満
たすには更なる資本自由化が必要だ」と慎重な姿勢を取っていた。
こうした状況の下、5 月末に行われた G7財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で、議
長国のショイブレ蔵相は、①G7で議論し各国は(米国を含む)人民元の SDR への組み込
みに原則的に同意した、②ただし、現在の基準に照らした技術的問題について検討する必
要がある、③性急に結論を出す必要はない(2015 年中の決定にこだわらない趣旨と解釈さ
れている)との見解を表明した。今後は、中国当局による通貨制度改革(現在の「クロー
ル類似の為替制度」
(一種の管理フロート)からフリーフロートへの移行)や金融・資本市
場の自由化の実施状況を踏まえた IMF 理事会における検討が注目されることになる。ちな
みに、SDR の構成変更は理事会で 70%の賛成があれば可能とみられており、IMF 出資比率
の見直しのように 85%の賛成投票が必要で米国の拒否権が働く状況にはない。
人民元が SDR の構成通貨となれば、中国当局がどこまで資本市場改革や金融市場の自由
化を行うかにもよるが、国際金融市場での地位向上、人民元による外貨準備保有の増加、
人民元建債券や口座開設の増加等が想定され、いずれ円やポンドの地位を凌駕する可能性
も取りざたされている。
(IIMA メールマガジンへの寄稿)
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