電気工学 講義資料 4.電磁力と電磁誘導1(磁性体、電磁力、フレミングの左手則) 4.1 磁性体の磁化 (a)分子磁石説 鉄は、図1(a)に示すように、元々内部に微小な磁石(これを分子磁石とよぶ)を持っている。通常で は、この分子磁石がランダムに配列しているため、外部に磁石としての性質を現さない。この鉄に磁 石を近づけると、あるいは磁界を加えると、同図(b)のように、分子磁石は磁界の方向に揃うように移 動する。全ての分子磁石が、同図(c)に示すように磁界方向に揃うと、それ以上外部から加える磁界 の強さを大きくしても、分子磁石は変化しない。 一方、外部から加える磁界の方向を反転させると、分子磁石も反転しようとするが、このとき分子磁 石同士が擦れ合い、摩擦熱が発生する。この分子磁石の原因は、物質を構成する原子の中の電子 の周回運動(原子核の周りを回る運動)と電子自身の回転(スピン)にあり、物質により磁石になりや すいもの、なりにくいものがある。表 1 に物質の磁性による分類を示す。常磁性体とは、図 1(b)及び(c) のように磁界の方向にS極、N極が現れる物質であり、特に強力な磁極が現れるものを強磁性体とい います。強磁性体は、地球上には4種類しか存在しない。これらの強磁性体を一般に磁性材料とい い、モーターや変圧器などの材料として利用されている。一方、反磁性体とは、常磁性体及び強磁 性体とは反対の方向に分極磁石が揃う物質である。 表 1 物質の磁性による分類 (電気理論Ⅰ、小林淑朗著、学研社より) 鉄、ニッケル、コバルト、マンガンとその化合物 アルミニュウム、白金、すず、イリジウム、酸素、空気など ビスマス、炭素、燐(りん)、金、銀、銅、セシウム、アンチモン、亜鉛、鉛、水銀、窒 素、アルゴン、硫酸、塩酸、水など 分子磁石 S S N N S 反磁性体 S N N S S N S N N S S N N S N S 強磁性体 常磁性体 S S N S N (a ) N N S N S N S N S N S N S N S N S N S N (b ) (c ) 図1 分子磁石説 (b)鉄心の磁化特性 図2(a)に示すように、鉄心に巻線を巻いて電流を流すと図示の向きに磁界が発生する。さらに、切 り替えスイッチを1側及び2側に倒して電流の向きを変え、さらに可変抵抗により電流の大きさを変化 させると、鉄心内部の磁界の向きならびに大きさを変化させることができる。 このとき、磁界の強さ H(A/m)と磁束密度 B (T)の関係を測定すると、図2(b)に示すような曲線とな る。この曲線を鉄心の磁化特性とよび、磁性材料の性質を判断する重要な特性である。 一般に、変圧器やモーターなどに使用される磁性材料としては、図3(a)に示すように、残留磁気 Br 及び保磁力 HC とも小さいことが要求される(ソフト磁性材料)。一方、同図(b)のように、残留磁気 Br 及び保磁力 HC とも大きい磁性材料は、永久磁石用として利用される(ハード磁性材料)。 B 6 I 2 1 H 7 Hc 1 H Br Hc H Hc 0 H 12 9 10 Br 13 0 8 (a) B B 2 Br B 4 3 5 14 11 (b) 図2 鉄心の磁化特性 (a) 図3 磁化特性の分類 -1- (b) 4.2 磁気回路と等価回路 図4(a)に示す磁気回路において、磁界の強さH(A/m)はアンペアの周回路の法則より、 H NI / l である。一方、磁束密度 B(T)は、磁心の透磁率がμであるため B H で得られる。従って、磁心の 2 磁束φ(Wb)は、磁心の断面積が S (m )であるため、次式で与えられる。 B S NI S l H S S NI l NI l S (1) (1)式をみると、表2に示すように磁気回路と電気回路を対応させれば、磁気回路を電気回路として 扱うことができ、磁気回路の解析が容易になることが判る。図4(b)に等価な電気回路を示す。 H[A/m] I[A] I(=Φ) l[m] E(=NI) Φ[Wb] N S[m2] + - R(=l/μS) μ (b) (a) 図4 磁気回路と等価回路 表 2 電気回路と磁気回路の対応関係 電気回路 磁気回路 電圧(起電力) E (V) 起磁力 NI (A) 電流 I (A) 磁束 φ (Wb) 磁気抵抗 Rm l ( S ) (A/Wb) 電気抵抗 R (Ω) 電気回路のオームの法則: I E R NI Rm 磁気回路のオームの法則: 例題 下図(a)に示す磁気回路において、各部分の磁束を計算せよ。ただし、漏れ磁束を無視し、磁 心の透磁率をμ(一定)とする。 S2 φ1 S1 図(b)に等価回路を示す。ただし、 R1 l1 , R2 S1 φ1 (2) l3 l2 φ2 S3 N l3 S3 l2 , R3 S2 R1 φ3 I[A] l1 + NI - φ2 μ (a) R3 R2 φ3 (b) 起磁力NIからみた合成磁気抵抗 R0 (A/Wb)は、 R0 R1 R2 R3 R2 R3 R1 R2 R2 R3 R3 R1 R2 R3 (3) 従って、各部の磁束φ1, φ2 及びφ3 は、(3)式ならびに表 2 より、次式のように得られる。 1 3 R2 R3 NI , R1R2 R2 R3 R3 R1 NI R0 R2 R2 R3 1 R2 R2 R3 R1 R2 2 R3 R2 R3 R2 R3 NI R2 R3 R3 R1 -2- 1 R3 R2 R3 R2 R3 NI , R1R2 R2 R3 R3 R1 (4) 4.3 電磁力 電磁力とは、磁界中にある導体に電流を流したとき、電流(すなわち電流が流れている導体)に働 く力である。この電磁力の方向、及び電磁力の大きさについては、次のようなことが知られている。 (a)フレミングの左手の法則 電磁力により導体が受ける力の方向については、1880 年代にイギリスの電気技術者、物理学者 であった J. A. フレミング(1849~1945)によって発見された。これをフレミングの左手の法則とよぶ。 (この他に、フレミングの右手の法則もあるが、これは電磁誘導のところで扱う。) フレミングの左手の法則とは、図5に示すように、人差し指の方向に磁界があるとき、中指の方向に 電流をながすと、導体は親指の方向に力(電磁力)を受けると云うもので、我々は、この法則を利用す ることにより、容易(直感的)に電磁力の方向を知ることができる。 (b)電磁力の大きさ(ローレンツ力) フレミングの左手の法則では、電磁力の大きさを示していない。この電磁力の大きさを定量的に明 らかにしたのは、オランダの物理学者の H. A. ローレンツ (1853~1928) で、この磁界中で電流 (電子)に働く力を、ローレンツ力と云いう。(電界中で電子に働く力も、ローレンツ力という。) 図6は電磁力を説明したものです。磁界中(磁束密度 B (T))に l (m)で電流 I(A)が流れている導線 が磁界の方向とθ(rad)の角度で存在するとき、導線には次式に示す電磁力 F(N)が働く。 F (5) B I l sin ただし、(5)式に示す電磁力の方向は、フレミングの左手の法則より図示の に向かう方向)の方向である。 印(図面の裏側から表 [A] θ [rad] l [m ] I B [T] F [N] 図5 フレミングの左手の法則 図6 電磁力(ローレンツ力) 4.4 電流の定義 電流は、電荷の時間変化率( i dq dt )で定義されているが、実用的な電流の大きさは電磁力を 利用して定義されている。 すなわち、図7に示すように、r(m)離して十分に長い平行導線(1, 2)に電流 I1(A), I2(A)を図示の 向きに流した場合、I1 により導線2につくられる磁界の強さと I2 により導線1につくられる磁界の強さが アンペアの周回路の法則より計算できるため、導線1と2を通過する磁束密度を各々B1 (T)及び B2 (T)とすると、B1 及び B2 は透磁率を 0 ( 4 10 7 ( H / m)) として次式のように得られる。 B1 I , 2 r 0 2 B2 I 2 r 0 1 (6) ただし、B1 及び B2 は、右ねじの法則より、図示の方向に発生し、I1 及び I2 との角度は 2 (rad)である。従って、導線1及び2の長さ1m あたりに働く電磁力 F1 (N)及び F2 (N)は、(5)式及び (6)式より、次式のように求めることができる。 -3- 1 2 F1 [N] 1 F2 [N] [m] B2 [T] B1 [T] I1 [A] I2 [A] r [m] 図7 平行導線に働く電磁力(電流の定義) I I , 2 r 0 2 1 F1 F2 II 2 r [N] 0 1 2 (7) 従って、r = 1m, I1 = I2 = 1 A とした場合の電磁力は、 F1 F2 2 10 7 (N)である。このことから、 1 m 離して置いた平行導線に流れる電流の間に働く力が1m あたり 2×10-7 N であるとき、この電 流の大きさを1Aとしている。 4.5 電磁力による仕事について 磁界中にある導体に電流を流せば、導体は力(電磁力)を受けて移動する。このとき、導体は仕事 をしますが、これについては次のように考えることができます。 図8に示すように、磁界中の導体 l (m)が電磁力 F (N)を受けて、x (m)の距離を移動すれば、導体 は W F x (J)の仕事をする。一方、電磁力 F (N)は、(5)式より、次式のように得られる。 F BIl l x Il I x (8) ただし、Φは図の斜線部の磁束であり、導体が移動することにより切った磁束である。従って、導体の なす仕事 W (J)は、(8)式より、次式のように求めることができる。 W (9) I l [m] I [A] x [m] B [T] F [N] Φ [Wb] 図8 電磁力による導体の仕事 4.6 演習問題 1本の導線を折り曲げて長さ a(m)、幅 b(m)の長方形コイル(1ターン)をつくり、磁束密度 B (T)の 磁界中に、そのコイルの面が磁界方向とθ(rad)の角度となるようにおいた。このコイルに I (A)の電 流を流したとき、コイルに働くトルクが最大になるための a と b との比を求めよ。 -4-
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