多世代・多様な共助で未来へ紡ぐ京都堀川団地再生まちづくり

子育て世帯
多世代交流・コミュニティ形成
既存ストック活用
H27.4 公開
多世代・多様な共助で未来へ紡ぐ京都堀川団地再生まちづくり
(選定年度:平成 24 年度)
■代表提案者:京都府住宅供給公社
■事業場所:京都市上京区
高齢者
障害者
子育て
〔事業概要〕
住宅供給公社、社会福祉法人、NPO 法人らが協賛し京都市上京区市街地にて高齢者・障害
者・子育て世帯を対象とした堀川団地を高齢者向け、子育て向けに住宅改修を行う。まちカ
フェ、障害者グループホーム、子どもサポート施設も併設し、持続可能な団地再生のための
自由度の高い新しい賃貸方式の創出・活用法の技術検証を行う。
〔提案の評価概要〕
既存ストックを活かした持続可能な団地再生を目指し、地域住民や専門家と協働しながら、
多世代・多様な人たちが住める環境整備に、コミュニティを育てる仕組みを加え、ハード・
ソフトともに具体的な計画であり、推進体制も確立され、実現性が高い提案である点が評価
された。
(1)提案概要
位置図
①提案時の事業背景
京都府の住宅施策において、老朽化した堀川団地
の再生は重要課題と位置づけられている。持続可能
な団地再生のためには、既存ストックを活用しなが
ら、新しい力と協働し、高齢者の孤立化を防ぐ「終の
棲家」の確保が必要である。そのために、京都府、京
都府住宅供給公社による連絡調整会議が設置されて
おり、全体計画や事業実施の協議・調整が行われて
いる。
②提案時の事業概要
本事業は、老朽化した京都府住宅供給公社の市街
地賃貸住宅である堀川団地を再生し、それを機に周
辺のまちづくりを一層進めようとする事業である。
当事業は、計 6 棟ある堀川団地のうち、2 棟を耐震
補強し、高齢者向け、子育て向けに改修するととも
に、コミュニティ形成に資するテナントを誘致する
こと等を通じて、既存ストックを活用した団地再生
を進めるともに、様々な協働を実現することで、多
世代、多様な人が共に支えることのできるまちづく
りをめざしている。
外観
(2)建物概要(竣工時)
①建物(住宅部分)
共同住宅兼店舗(公社賃貸住宅)
住宅・施設の形態
敷地面積
1,679 ㎡
延床面積
2,408 ㎡(住宅・居住系部分:1,204 ㎡)
鉄筋コンクリート造・2棟3階
構造・階数
(36 戸中、改修住戸 14 戸+技術検証 4 戸)
昭和 26 年 8 月(住みながらの改修工事)
管理開始年月
着工:平成 25 年 11 月、竣工:平成 26 年 8 月
高齢者 32.05~34.43 ㎡、子育て世帯 64.09~65.21 ㎡
住戸面積・住戸数
技術検証 32.05 ㎡~34.19 ㎡
改修住戸床面積合計 652.71 ㎡(2棟合計延床面積:3,028.31 ㎡)
住戸内設備
共同利用設備
トイレ、洗面、浴室、家庭用キッチン、収納、洗濯パン
エレベーター
【第1棟】まちカフェ 190.15 ㎡
職住の家(障害者グループホーム 4 室+ショート 1 室)
97.02 ㎡
併設事業所
【第2棟】高齢者生活支援施設(デイサービス)183.84 ㎡
施設床面積合計 471.01 ㎡
セルフビルド賃貸(第1棟・4タイプ)各 32.05 ㎡
各棟において、耐震壁の設置、鋼板柱巻き、スリット工事の3種の耐震改修を行うほか、
各棟にエレベーターを設置している。
ⅰ)高齢者向け住戸
高齢者向け住戸(10 戸)では、①住戸内のフルフラット化、②介助に配慮した洋式便所
(洋式便器、手すりの設置、便所正面に扉の設置)
、③物入れ兼下足収納、④カーテンによ
る玄関とDKの仕切り(建具を撤去しDKを広く利用)
、⑤断熱建具の襖、⑥高齢者対応の
浴室・洗面所(UB1216、浴室・洗面所に手すり設置)などの改修工事を行っている。
ⅱ)子育て世帯向け住戸
子育て世帯向け住戸(改修前 4 戸→改修後 2 戸)では、2 戸を 1 戸につなげて約 60 ㎡の
住戸に改修することで、①ゆったりした玄関スペース(ベビーカー等のスペース)、②洗面
所の出入口に施錠(子どもの事故防止)
、③家具による間仕切り(子どもの成長に合わせて
家具の配置によって2室に)、④取り外し式天吊物干し金具(大量の洗濯物に対応)、⑤子
どもと一緒に使える洗面台・浴室(幅の広い洗面台、UB1418)、⑥将来対応の手すり下地
(玄関、便所、洗面所)などを備えている。
当初は、1階店舗に出店する人に限定して居住者を募集したが、申込みがなかったため、
申込み要件を緩和する予定である。
ⅲ)セルフビルド賃貸
セルフビルド賃貸(4 戸)は、改修前の既存パーツ割合(面影度)に応じて、4 タイプを
設定している。
「スタジオタイプ」は面影度 10%で土間によるワンルーム、
「オープン和室
タイプ」は面影度 25%で共用廊下側の和室を残したプラン、「オープン土間タイプ」は面
影度 50%で奥の和室を残したプラン、「町家タイプ」は面影度 75%で玄関から奥まで続く
土間と和室2室のプランである。
通常、空き家の改修には 500 万円程度を要するが、スケルトン賃貸では改修費用は半額
程度となるため、家賃を下げることが可能となっている。また、原状回復義務を免除して
おり、クリエイティブ層が入居することによって付加価値が向上するDIYが行われるこ
とを期待していたが、あまり手を加えないまま居住される傾向にある。
②費用等
・家賃 35,000 円、共益費 1,000 円、敷金 105,000 円
(3)運営状況
①入居状況
入居者数
(入居率)
高齢者向改良住戸 10 戸/10 戸(入居率 100%)
子育て世帯向け 2 戸 1 改良住戸 0 戸/2 戸(入居率 0%)
職住の家(障害者グループホーム) 3 戸/3 戸(入居率 100%)
技術検証(DIY) 4 戸/4 戸(入居率 100%)
店舗 6 区画/10 区画(入居率 60%)
(平成 27 年 2 月)
②介護、地域との連携
計画段階から、まちづくり協議会等において意見調整を図り、地域団体との協働体制が
確立している。また、テナント募集の際にも、地域住民も利用可能な施設を誘導すること
などを地域団体とも協議しながら検討している。
高齢者の安否確認等について協定等は締結していないが、公社の事務所が近隣にあり、
本事業の実施に伴い頻繁に訪問した結果、居住者の状況を把握できることとなった。
団地入居者が高齢化する中、子育て世帯向け住戸、セルフビルド賃貸によって、団地全
体の活性化を図っている。イベントを通じた多世代の交流も一部では起きている。
ⅰ)デイサービスセンター
デイサービス(定員 23 名、平均利用者 19.4 名)は、送迎、入浴、昼食、レクリエーシ
ョン、リハビリ、相談、持ち帰り弁当などのサービスを行っている。配食サービスは、昼
食(500 円)の平均利用 9.8 食、夕食(600 円)の平均利用 19.1 食である。団地外の地域
住民の利用がほとんどであり、団地居住者との接点については模索中である。
月~土 18 時~21 時まで、デイのフロアを開放(1000 円/回)しており、詩吟やフラダン
スが行われている。今後、地域の高齢者向けに体操教室やカラオケの開催を検討している。
堀川団地の既存住戸には浴室がなく、銭湯も遠いため、デイの浴室の利用について要望が
あるが、開放には至っていない。
ⅱ)職住の家(グループホーム、ショートステイ)
グループホーム(入居登録者1名)は、月曜日 16 時~土曜日9時まで利用している。世
話人スタッフ6名で、1名が宿泊し、調理・掃除、入浴介助等の支援を行っている。利用
者は、日中は就労継続支援B型事業所に通所している。
ショートステイ(利用登録者 12 名)は、夕方 16 時~翌9時まで利用し、日中はグルー
プホームと同様に就労継続支援B型事業所に通所している。宿泊訓練、家族のリフレッシ
ュ、冠婚葬祭等所用、自宅の修理として、1人平均2~3日/月利用している。
ⅲ)まちカフェ
ライブや上映会などのイベントやアートなどの展示・販売を行っている。利用者は、ラ
ンチタイム(主に近隣の主婦層)
、カフェタイム(学生)
、ディナータイム(近隣の社会人)
と多様で時間帯で異なる。長い時間を過ごし、少しでも接点を持ってもらえるように、Wi-Fi
環境を整え、コーヒー(350 円)をおかわり自由とし、トイレや水を飲むだけの利用も歓
迎している。セントラルキッチンでは、障害のある人たち、子どもをもつ母親がパートタ
イムで働ける職場環境としている。現在、障害者3名、母親1名、留学生1名が働いてお
り、今後も拡大する予定である。チョコレートの販売スペースを設け、有名ブランドのチ
ョコレートのプロデューサーと京都の特色を活かしたチョコレートを開発、販売している。
また、子どもたちに商店街の思い出を数多く作ってもらえるよう、小学生向けのチョコレ
ート作りのワークショップも開催している。
既存ストック活用の影響として耐震補強のため、区画内に構造壁が生じる等、使い勝手
に制約が生じたが、隣接区画との一体利用や運用等により解決した。
(4)提案内容の達成状況・課題
ハード面については、様々な苦労や工夫を経て竣工しており、多世代・多様な人たちが
住める環境が整いつつある。一方、ソフト面については、公社を中心に、まちカフェ、障
害者グループホーム、デイサービスの各事業者と協働できる関係は構築されているが、エ
リアマネジメントやコミュニティ育成の具体的な取組みはこれから本格化する必要がある。
今後の課題であるコミュニティの育成については、新しい入居者を含めた持続的な交流
や協働の推進を実現する必要がある。例えば、デイサービス、まちカフェにおいても、入
居者の情報を把握可能な場合があるため、情報共有について検討したいと考えている。ま
た、今後も随時空家が発生することになるが、その際にコミュニティ育成に寄与するよう
な改修方針や募集方針を適切に判断していくことが求められる。
〔事業実施後の評価委員の所見〕
高齢者・身障者を含む居住者・近隣住民と綿密な連携を保っており、ソフト全体として
適切に運営されている。規模がさほど大きくはないものの、サービスの多様性を保ってい
る点は印象的であった。今後、地域のニーズが変化していくことも想定されるが、運営の
仕方から見て、それに柔軟に対応できそうである潜在性を確信できた。本物件の位置が、
地域の方々にとって重要な商店街の中に位置し、改修によってその商店街としての特徴を
失わずに済んでいることが、地域との連携を保っている大きな要因であると思われる。今
後、人口減少が次第に進んだ時に、運営モデルとしての現在の仕組みをいかに維持ないし
適応していくか、そして新たな需要をいかに発掘していくかが重要となりそうである。
〔資料等〕
2階バルコニーのウッドデッキ
平面図(高齢者向住戸)
堀川出水団地第2棟2階平面図