リサーチ TODAY 2016 年 3 月 9 日 欧州マイナス金利の日本への示唆、不動産に集まる関心 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 欧州はマイナス金利の導入を日本より1年以上も前から行っている。みずほ総合研究所は「欧州マイナ ス金利の日本への示唆」と題するリポート1を発表して、欧州からの示唆を分析している。欧州のマイナス金 利政策と比較すると、日本銀行は金融機関の収益に過度な下押しを与えないよう、慎重に中銀預金への マイナス付利の範囲を設定している。下記の図表は、ユーロ圏並びに北欧3カ国の当座預金残高を、マイ ナス金利が付利される部分とそれ以外に分け(いずれも銀行総資産比)、マイナス金利導入時点と2015年 末時点を比較したものである。金融機関の中銀預金全体に占めるマイナス金利付与適用残高のシェアは、 欧州に比べて日本でかなり低い。また、2015年末時点で欧州においてマイナス付利がなされている中銀預 金残高は、銀行総資産比1.2%から5.2%となる。これに対し、日本銀行の場合はマイナス付利がなされる 政策金利残高の規模は当初銀行総資産比約1%にとどまる。 ■図表:欧州各国の中銀預金額(銀行総資産比) (銀行総資産比、%) 30 中銀預金(プラス付利) 中銀預金(マイナス付利) 中銀預金に占めるマイナス付利預金の比率(右目盛) (%) 120 25 100 20 80 15 60 10 40 5 20 0 0 導入時 2015年末 導入時 ユーロ圏 2015年末 導入時 スイス 2015年末 導入時 デンマーク 2015年末 導入時 スウェーデン 日本 (注)日本は当座預金総額は 260 兆円、うちマイナス金利が付加される政策金利残高は 10 兆円として計算。 スウェーデンは法定準備預金制度は無く、中銀預金には全てマイナス金利が課される。 (資料)ECB、SNB、Eurostat、日本銀行よりみずほ総合研究所作成 マイナス金利により預金金利は低下したが、リテール預金がマイナスには至らない一方で貸出金利の低 下が着実に生じることで、ユーロ圏では金融機関全体の純受取利息額が減少した。マイナス金利政策は 基本的に為替対策であると言っても過言ではない。マイナス金利で当初は通貨安になったが、海外環境の 1 リサーチTODAY 2016 年 3 月 9 日 悪化のなか、マイナス金利だけで為替を管理するには限界も生じている北欧諸国の当局は為替介入も併 用することで通貨高を抑制してきた。また、ユーロ圏の「マイナス金利付き量的緩和」で、当初、企業の資金 需要増加や金融機関の与信スタンス緩和が生じたが、海外環境の悪化によってこれらの効果が弱まった。 当初は効果があったのは、欧州と日本によるマイナス金利政策、金利水没の通貨戦争のなか、米国という 沈まない支柱としての「浮き輪」の存在があった段階であり、昨年末の米国利上げ以降、米国の「浮き輪」の 浮力が低下し、世界水没の不安が生じた段階では効果がなくなった。すなわち、米国に景気後退の可能 性が生じている段階では、日本がマイナス金利政策をとっても、景気回復の効果が薄れ資金需要も生じに くいということだ。我々の企業へのヒアリングでも追加的な投資需要や借入需要は確認できていない。 ただし、欧州において着実に確認されることは、住宅価格への影響だ。下記の図表はユーロ圏と北欧の 住宅価格の推移を示す。欧州ではマイナス金利が物価を底上げした状況にはないが、住宅価格には着実 に影響があったと考えられる。北欧を中心に各国で国債の利回りはマイナスに転じたが、不動産の生み出 す賃料や企業が生み出す果実である配当がマイナスになる状況ではない。着実にインカムを生み出す不 動産等に投資資金が集まるのは当然のことと言える。株式の世界では「ニューソブリン」として着実に配当 をもたらす株式への再評価も生まれている。もちろん、賃料に対し極端な価格になることはバブルという問 題を引き起こすが、選別をしつつも投資においては着実なインカムを生み出す対象を探す動きが続くと展 望される。 ■図表:ユーロ圏と北欧の住宅価格推移 (2010=100) 140 135 130 ユーロ圏 スイス デンマーク スウェーデン 125 120 115 110 105 100 95 90 10 11 12 13 14 15 (年) (注)スイスは、居住用アパートの価格指数 (資料)Eurostat、SNB よりみずほ総合研究所作成 1 吉田健一郎 「欧州マイナス金利の日本への示唆」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 2 月 19 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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