中学校特別支援学級におけるキャリア教育の現状と課題

中学校特別支援学級におけるキャリア教育の現状と課題
森田
Ⅰ
問題
文部科学省(2004)においてキャリア教育は、
①フェイスシート
②キャリア教育に関する校内体制を明らかにする
「キャリア概念に基づいて児童生徒一人一人のキ
ャリア発達を支援し、それぞれにふさわしいキャ
項目
③中学校特別支援学級におけるキャリア教育の取
リアを形成していくために必要な意欲・態度や能
力を育てる教育、端的には、児童生徒一人一人の
り組みを明らかにする項目
④キャリア教育に対する教師の意識を測定する項
勤労観、
職業観を育てる教育」
と定義されている。
現在、中学校特別支援学級の生徒数は増加傾向
輝洋
目
4
結果
にあり、特別支援学校高等部等への進学率が 9 割
72 名中 68 名から回答があり、回収率は 94.4%
をこえている。このような状況の中、生徒が自ら
だった。この 68 名のうち 48 名が特別支援学級に
その学校を選ぶ意味や、自分が学校で何を勉強す
おいてキャリア教育を行っていると回答した。
るか、そしてその学びが社会に出る際にどのよう
調査項目②以降は、キャリア教育を行っている
に影響してくるかということを考えるためのキャ
と回答した特別支援学級担任48名と、キャリア
リア教育は、自立を見据えた教育の中では重要な
教育を行っていないと回答した特別支援学級担任
ことである。また、田村(2007)は自校の中学校
20 名に分けて質問項目を設定し、回答を求めた。
特別支援学級に在籍している生徒が、進路選択を
「キャリア教育に関する校内体制を明らかにす
する際に、保護者や教師に依存してしまうという
る項目」における「特別支援教育におけるキャリ
問題があることを指摘している。このようなこと
ア教育に関する校内研修」について、
「キャリア教
から、特別支援学級におけるキャリア教育の現状
育を行っていると回答した特別支援学級担任」の
と課題を把握し、今後のキャリア教育のあり方を
89.6%(表 1)、
「キャリア教育を行っていないと
探ることは意義あることであると考える。
回答した特別支援学級担任」の 95.0%(表 1)が、
Ⅱ
「校内研修は行われていない」と回答していた。
目的
本研究では、中学校特別支援学級におけるキャ
また、
「特別支援教育におけるキャリア教育に関
リア教育の現状と課題を明らかにし、今後のキャ
する校外研修」では、
「キャリア教育を行っている
リア教育のあり方を検討するために必要な知見を
と回答した特別支援学級担任」の 83.3%(表 2)、
得ることを目的とする。
「キャリア教育を行っていないと回答した特別支
Ⅲ
研究Ⅰ
援学級担任」の 80.0%(表 2)が、「校外研修へ
1
対象
参加していない」と回答していた。
文部科学省における職業教育・キャリア教育の
「キャリア教育に対する教師の意識を測定する
研究開発学校に指定されている中学校及び、キャ
項目」では、
「キャリア教育を行っていると回答し
リア教育を推進している岩手県、
千葉県、
愛知県、
た特別支援学級担任」の 45.8%(表 3)
、「キャリ
広島県の中学校特別支援学級担任 72 名。
ア教育を行っていないと回答した特別支援学級担
2
任」の 55.0%(表 3)が、「進路指導とキャリア
方法
郵送による質問紙調査法。
3
調査項目
教育の違いがわかりにくい」と回答していた。
5
考察
表 1 特別支援教育におけるキャリア教育に関する校内研修
N=68
表 3 キャリア教育について率直に思うこと
キャリア教育実施の有無
項目
行われている
行われていない
合計
キャリア教育実施の有無
行っている 人数(%) 行っていない 人数(%)
5(10.4)
(複数回答) N=68
項目
1 (5.0)
生徒にとって有意義である
43(89.6)
19(95.0)
進路指導とキャリア教育の違いが
48(100)
20(100)
分かりにくい
行っている 人数(%) 行っていない 人数(%)
29(60.4)
8(40.0)
22(45.8)
11(55.0)
17(35.4)
5(25.0)
提唱されている内容が分かりにくい
6(12.5)
10(50.0)
学校現場に浸透するか未知数である
5(10.4)
4(20.0)
一時的な流行でいずれ忘れ去られる
3 (6.3)
1 (5.0)
障害のある生徒には適さない
2 (4.2)
1 (5.0)
教員が果たすべき役割が分からない
1(2.1)
8(40.0)
その他
9(18.8)
2(10.0)
望ましい進路指導が実現で
きそうな期待感がある
表 2 特別支援教育におけるキャリア教育に関す校外研修
N=68
キャリア教育実施の有無
項目
参加している
参加していない
合計
行っている 人数(%) 行っていない 人数(%)
8(16.7)
4(20.0)
40(83.3)
16(80.0)
48(100)
20(100)
中学校特別支援学級におけるキャリア教育の現状
として、特別支援教育におけるキャリア教育の校
内研修を行っている学校が尐ない、特別支援教育
におけるキャリア教育の校外研修に参加している
回答者が尐ないという結果が得られた。この結果
は、
「キャリア教育を行っていると回答した特別支
きな差異は見られない(文部科学省,2004)こと
が考えられる。しかし、個別のキャリア発達支援
が重要であるという観点や、小学校・中学校・高
等学校が連携・協力しつつ進めていく必要がある
こと(文部科学省,2006)等のキャリア教育の特
徴もある。
援学級担任」と「キャリア教育を行っていないと
回答した特別支援学級担任」に共通した結果であ
った。
しかし、キャリア教育を推進するためには教員
の資質や専門性の向上が極めて重要であり(文部
このことから、国や都道府県等がキャリア教育
の意義や内容を広く伝え、教員に浸透させる手立
てを一層工夫していかなくてはならないと考える。
Ⅳ
研究Ⅱ
1
対象
科学省,2004)、必要な知識の習得および基本的
な資質向上を図ることを目的とした研修の必要性
が示されている(文部科学省,2006)。さらに、
松為(2007)は、障害のある子どものキャリア発
達への理解が必要としている。今後、研修を推進
研究Ⅰで、キャリア教育の取り組みと意識につ
いての項目において、十分な回答を得ることが出
来た回答者のうち、研究協力が可能であった教師
1名。
2
するための方策について検討していく必要がある
だろう。
キャリア教育に関する教師の意識では、
「進路指
導とキャリア教育の違いが分かりにくい」という
項目が、
「キャリア教育を行っていると回答した特
別支援学級担任」では 2 番目に多く、
「キャリア
教育を行っていないと回答した特別支援学級担
任」
では最も多い結果となった。
この要因として、
進路指導の定義・概念がキャリア教育と比べ、大
調査方法
半構造化面接法によって面接調査を行った。発
話は、了解を得た上で全てメモリーレコーダーに
録音した。
3
調査内容
①キャリア教育をどのように捉えているか。
②キャリア教育をどのように教科・領域へ位置づ
けて指導しているか。
③キャリア教育を推進する上での困難のうち、特
別支援学級ならではの困難にはどのようなもの
があるか。
④キャリア教育を推進する上での困難をどのよう
に解決しているか。
を無くし、保護者との共通理解を図る上で、参考
になるものであると考える。
Ⅴ
総合考察
⑤保護者との連携においてどのような困難がある
本研究では、今後のキャリア教育の在り方を検
のか。また、その困難をどのように解決してい
討する上で、特別支援学級担任だけでキャリア教
るか。
育を進めていくのではなく、地域の特別支援学級
4
結果
キャリア教育を推進する上での困難として、
「職
場開拓」
を挙げていた。
この困難への対策として、
や特別支援学校、職業安定所等の地域の関係者が
連携を取ることが必要であるという視点を得るこ
とができた。
中学校特別支援学級担任と特別支援学校の教員、
研究Ⅱで明らかとなった、地域の関係者が協働
公共職業安定所の職員で組織された進路対策委員
してキャリア教育に取り組む方法は、職場開拓と
会を活用することを挙げていた。
いう困難の解決だけではなく、研究Ⅰで明らかと
保護者との連携の困難として、
「意見の相違」が
なった「特別支援教育におけるキャリア教育に関
挙げられていた。困難の要因は、子どもの実態の
する研修」といった課題への対策として利用でき
理解における、保護者と教師との捉えのずれであ
ると考える。進路対策委員会等の機会を活用し研
った。このようなことがないように、回答者は保
修を開催することで、教師のキャリア教育に関す
護者と会話をする時間を十分に確保し、生徒の将
る専門性の向上に繋がるのではないかと考えた。
来について見通しを持ちながら、一緒に進路につ
Ⅵ
いて考えるようにしていた。
今後の課題
本研究では、いくつかの特別支援学級における
また、生徒の見通しを持つために、地域の特別
キャリア教育の課題を明らかにすることができた
支援学校高等部の生徒が取り組んでいる活動や就
が、課題が生じてしまう原因を明らかにすること
職先の情報を入手する場としても、進路対策委員
ができなかった。課題を把握するだけにとどまら
会を活用していることが明らかとなった。
ず、その原因を探っていくことは課題解決におい
5
て重要であると考えるので、今後、調査等で明ら
考察
キャリア教育を推進する上での「職場開拓」と
かにしていくことが望まれる。
いう困難に対し、回答者は進路対策委員会を活用
また、研究Ⅰではキャリア教育を推進している
していた。このことから、職場開拓を担任一人で
地域のみを対象とし、研究Ⅱではインタビューの
行うのではなく、地域の特別支援学級担任や公共
対象が 1 名であった。今後、より広い地域での質
職業安定所と協力して行うことが、中学校特別支
問紙調査やインタビュー調査を行い、中学校特別
援学級におけるキャリア教育の推進に繋がると考
支援学級における課題やとの対策について、知見
える。
を得ることも課題である。
保護者との連携において、文部科学省(2004)
文献
では、キャリア教育を進めるにあたって家庭・保
松為信雄(2007)障害のある人のキャリア発達の
護者との共通理解を図ることの必要性が示されて
形成と支援.発達障害研究,29,310-321.
いる。今後は、キャリア教育を推進するための具
文部科学省(2004)キャリア教育の推進に関する
体的な方法を検討していくことも必要だろう。
そこで、特別支援学級担任が進路対策委員会を
総合的調査研究協力者会議報告書~児童生徒一
人一人の勤労観、職業観を育てるために~.
活用して生徒の将来について見通しを持ち、保護
文部科学省(2006)小学校・中学校・高等学校 キ
者と共に生徒の進路について一緒に考えていくと
ャリア教育推進の手引 -児童生徒一人一人の
いう回答者の取り組みは、保護者との意見の相違
勤労観、職業観を育てるために-.