FX Weekly 平成 28(2016)年 3 月 11 日 GLOBAL MARKETS RESEARCH チーフアナリスト 内田 稔 三菱東京 UFJ 銀行 A member of MUFG, a global financial group Table of contents 1 今週のトピックス 2 来週の相場見通し 3 来週の経済指標・イベント 4 マーケットカレンダー 1. 今週のトピックス (1) 包括的追加緩和をドラギマジックと高く評価すべき シニアアナリスト (2) 米国情勢 天達 泰章 まさかのトランプ大統領への身構え シニアマーケットエコノミスト 鈴木 敏之 2. 来週の相場見通し (1) ドル円:日米金融政策の行方 予想レンジ 111.75 ~ 115.00 (2) ユーロ:日米中銀政策決定に絡んだドル売りに注目 予想レンジ 対ドル: 1.1000 ~ 1.1400 対円: 124.50 ~ 129.50 (3) 豪ドル:資源価格を睨みながらも上昇余地は限定的 予想レンジ 対ドル: 0.7200 ~ 0.7600 対円: 82.00 ~ 87.00 (4) 人民元:元の戻りは限定的、元安基調の継続を予想 予想レンジ 対ドル: 6.4800 ~ 6.5500 対円: 1 FX Weekly | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 17.10 ~ 17.70 (1) 包括的追加緩和をドラギマジックと高く評価すべき ECB は政策金利を引 き下げ ECBは、3 月 11 日のECB理事会で、政策金利であるリファイナン ス金利を 0.00%に、短期金融市場の上限金利となる限界ファシリ テ ィ 金 利 を 0.25% 、 下 限 金 利 と な る 預 金 フ ァ シ リ テ ィ 金 利 を ▲0.40%に引き下げた(第 1 図)。 第 1 図: ECB の政策金利の推移 (%) 6 5 4 3 2 1 0 -1 08 09 10 11 預金ファシリティ金利 12 13 政策金利 14 限界貸出金利 15 16 (年) (資料)ECB より三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチ作成 加えて、資産買入対象に社債を加え、資産買入額を月額 600 億 ユーロから 800 億ユーロに増額した。更に、TLTROⅡ(融資促進 目的長期リファイナンス・オペレーション)の導入を決定した。 金融市場は包括的な追加緩和を受けてユーロ売り、債券高、株高 で一時的に大きく反応した。 ① スタッフによる景気・物価見通し ECB の 物 価 目 標 は 2018 年も達成されな い見通し 2 包括的な追加緩和が実施された背景には、景気・物価見通しの下 方修正がある。スタッフ見通しでは、中国を中心とした新興国景気 減速を受けて輸出が下方修正され、2017 年の実質GDPは前年比 +1.9%から同+1.7%に下方修正された。2018 年の実質GDPは同 +1.8%に留められた。2018 年の失業率は 9.9%と、ECBが自然失業 率とする 9%台半ばを上回り、デフレギャップ(潜在GDP-実際の GDP)が残存することを示唆している。 景気見通しの下方修正を受けて、2017 年のコア消費者物価指数 (HICP)も前年比+1.6%から同+1.3%に下方修正されたことから、 エネルギー等を含む消費者物価指数(HICP)も同+1.6%から同+ 1.3%に下方修正された。2018 年のHICPも同+1.6%に留められ、 「中期的に 2%弱」というECBの物価目標が、当面、達成されない ことを示した。 今週のトピックス | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 第 2 表: ECB スタッフ見通し(前年比、%) 実質GDP 輸出 失業率 HICP コア HICP 発表時期 2016 年 2017 年 2018 年 2016 年 3 月 1.4 1.7 1.8 2015 年 12 月 1.7 1.9 ―― 2016 年 3 月 3.0 4.3 4.6 2015 年 12 月 4.0 4.8 ―― 2016 年 3 月 10.4 10.2 9.9 2015 年 12 月 10.5 10.1 ―― 2016 年 3 月 0.1 1.3 1.6 2015 年 12 月 1.0 1.6 ―― 2016 年 3 月 1.1 1.3 1.6 2015 年 12 月 1.3 1.6 ―― (注) 青色は上方修正、 赤色は下方修正。 (資料)ECB より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチが作成。 ② 包括的追加緩和 TLTROⅡは、ECB が 貸出残高の増加した金 融機関に報奨金を出す ようなもの 3 こうした景気・物価見通しの下方修正を受けて、ECB理事会は物 価目標達成のために包括的追加緩和を実施した。以下、3 月理事会 で決定した主な追加緩和策を挙げる。 第一に、政策金利であるリファイナンス金利を 0.05%から 0%に 引き下げた。ECBの資金供給手段であるMRO(主要リファイナン ス・オペレーション)とLTRO(長期リファイナンス・オペレー ション)の最低入札金利を 0%としたことで、中央銀行の中で初め て 0%で資金供給することになると考えられる。 第二に、金融機関にとって貸出増加のインセンティブを高める TLTROⅡ(融資促進目的長期リファイナンス・オペレーション) を導入した。TLTROⅡは 2016 年 6 月から 4 回実施され、金融機関 は 0%で最長 4 年間、企業・個人向け貸出残高(除く住宅ローン) の 30%の資金調達が可能となる。TLTROⅡによる資金調達可能額 も大きい。加えて、企業・個人向け貸出残高(除く住宅ローン)を 2016 年 1 月末からの 2 年間で 2.5%以上増加させた金融機関は、最 低で預金ファシリティ金利の水準(現在▲0.40%)で資金調達が可 能になる(金利は貸出増加額に応じてマイナス化)。すなわち、 ECBが貸出増加を実現した金融機関に報奨金を出すようなものであ る。ドラギECB総裁は「魅力的な条件を付けたため、TLTROに対 する大きな需要があると予想している」と発言した。ユーロ圏での 貸出残高の増加が期待される。 第三に、ECB適格担保の中で投資適格(BBB-以上)の社債を資 産買入の対象に加え(社債買入プログラム<CSPP>)、資産買入 額を月額 600 億ユーロから 800 億ユーロに増額した。2010 年 5 月の ギリシャショックの際に導入されたSMP(証券市場プログラム)で は、社債を買入対象としていたが、実際には買入れていない。その ため、社債を買入対象とする決定には、相応の労力を要したものと 今週のトピックス | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 考えられる。12 月ECB理事会で買入対象となった地方債に加えて 社債も買入対象としたことで、資産買入増額に加えて資産買入期限 延長も可能になる1。 このように、今回の包括的追加緩和はECBにとってハードルの高 い(異例の)緩和策であったことから、ドイツを中心に北部勢の抵 抗は大きかったものと考えられる。ドラギECB総裁は「(決定には) 大多数が賛成した」と発言している。 ③ 結語 3 月ECB理事会では、景気・物価見通しの下方修正を受けて、 ECBとしては異例の追加緩和策を打ち出した。特に、TLTROⅡは マイナス金利で資金供給し、中央銀行としては史上初めての政策で あるため、当方は今回の包括的追加緩和を「ドラギマジック」と高 く評価すべきと見ている。 しかし、金融市場は、記者会見でのドラギECB総裁による「(包 括的追加緩和によって)一段の金利引き下げが必要になるとは思わ ない」や、「(階層構造のマイナス金利が議論されたが)制限なく マイナス金利幅を拡大できると示唆したくないことから、決定しな かった」との発言を材料に、ユーロ買いで反応している。マイナス 金利による副作用や金融機関の負担に配慮したドラギECB総裁の発 言を「金利引き下げ打ち止め」と曲解したのだろう。 今後も金融緩和が必要な状況に変化はない。声明文では「政策金 利は長期に亘り現在の水準か、これを下回る水準に留まると予想す る」としており、一段の金利引き下げの可能性を示唆している。金 融市場の混乱が収束し、緩和効果が高まるに連れて、次第にユーロ は軟化すると見込まれる。 シニアアナリスト 天達 泰章 1 資産買入プログラム(APP)の買入額増額や買入期限延長を議論する際には、財政状況の良いドイツ国債等で買入対象が 枯渇する可能性が意識されていた。 4 今週のトピックス | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 (2) 米国情勢 まさかのトランプ大統領への身構え 米国で、最近のトピックについて識者より、情勢聴取を行った。 その概要を記しておきたい。 ① 米国の潜在成長率の低下、世界景気の停滞 趨勢の経済成長率の低 下を直視するように なっている 危機前、米国経済は趨勢で見ると 3%を超える成長をしていたが、 危機後は、それに達しない。この現実は受け入れざるをえないとい う認識になっているが、その成長率の低下をもたらした労働生産性 の成長率低下についての定見は見出せていない。なお、サマーズ元 財務長官が長期経済停滞論を言って、インフラ投資の拡充を主張し ているが、それに同調する積極論もなかった また、ここへきて目立つようになっているのは、米国以外の世界 経済〔ROW Rest Of the World〕は停滞していることの認識の深まり である。しかし、いかなる対処が要るかというような具体的な議論 は乏しい。 ② 当面の米国経済 米国のマクロ経済状態 は良好、逆風は外国要 因 米国経済は、GDP Nowでみて、昨年第 4 四半期の成長率の落ち 込みを脱して、2%強の巡航速度で成長している。インフレ率も上 がってきている指標が出ている。世界景気の弱さ、ドル高など逆風 もあるが、それでも米国経済はしっかりしているという自信が積極 的に語られている。同時に、誰もが、関心の持たれている 2 期連続 マイナス成長の景気後退に論評している。その主張は、景気後退を 論じるのは、周期的にみて 2017 年後半から 2018 年であり、また、 その時点になっても景気後退に陥るとは言い切れないというのが、 共通した認識になっている。 ③ 年初からの市場の動揺の要因 年初からの市場動揺の 要因は特定されていな い 5 年初からの市場の動揺の原因について、ふたつの見解がある。第 一は、原油価格の下落、中国の成長の減速、新興国に対する信用評 価の悪化、欧州の金融システムの一部の不安定といったことが、た またま、同時に起きて、大きな調整が起きたという見方である。第 二は、キャリートレードが広範になされており、情勢の変化で、そ の巻き戻しが起きると、多くの市場に伝搬しやすい世界金融の構造 的な問題の根深さがあるという見方である。 結局、この市場の動揺の原因、メカニズムについて定見は持たれ ておらず、今後に不安を残す。 今週のトピックス | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 ④ 米国の金融政策の行方 合言葉 “Less Is More” 米国のマクロ経済はしっかりしている。市場の動揺を引き起こし ているのは、外国からの逆風によるもので、市場も落ち着いてきて いる。それならば、金融政策は正常化を進めるのが当然で、3 月 15-16 日のFOMCでは、その日の利上げこそないものの、先行きに ついて継続利上げを続ける主張を保持しそうである。“Less Is More”というのが、合言葉のようになっている。すなわち、利上 げの幅が小さいと、将来、必要以上の利上げが余計に必要になるこ とへの警戒である。いわゆる、ドットチャートは、年内 2-3 回の利 上げの意向を示すものとなりそうである。これについて、大統領選 挙への影響を避けるために、利上げを急ぐという議論もきかれた。 一方で、世界経済が弱い中で、米国が積極的に利上げを行うとい うと、ドル高を強め、結局米国にも悪影響が及ぶという警戒論も根 強くある。 ⑤ 米国の大統領選挙 まさかのトランプ「大 統領」への身構え必要 共和党の指名争で、トランプ候補の勢いが鈍らない。誰もが、こ のトランプ旋風に困惑を感じている。仮に、トランプ対クリントン ならば、クリントン候補が勝てて、トランプ大統領はないというの が一般的な認識である。しかし、まさかのトランプ大統領もありえ るとい見方もでてきている。これまで、トランプ候補は共和党の対 立候補に対して、短時間で打ち負かすことをやってきた。その実績 が侮れない。その矛先が、本選でクリントン候補に向けられると、 クリントン候補が、その餌食にならない保証はない。また、トラン プ候補は過激な言動が不安をもたらすところがあるが、仮に、副大 統領候補が穏健で、大統領の暴走はおさえられる人物の場合、オバ マ政権の継承という地味なアジェンダのクリントン候補を凌駕する かも知れない。まさかのトランプ大統領への身構えは必要になって きている 結び 米国経済はしっかりまわっている。米国だけをみれば、金融政策 の正常化、利上げの継続が妥当な選択に見える。しかし、世界は厳 しい状態がある。米国は、後者をみないでよいのか、悩ましい問題 に直面している。その中で、政治は、二大政党制の存続を問われか ねない大統領選挙になっている。結構、不透明は強い。 シニアマーケットエコノミスト 6 今週のトピックス | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 鈴木 敏之 (1) ドル円:日米金融政策の行方 今週のレビュー 膠着続くドル円相場場 今週のドル円は 113.84 で寄り付いた(日本時間午前 9 時)。前 週の米雇用統計(2 月分)では、平均時給の伸びが鈍化していたた め、予想を大きく上回った非農業部門の雇用者増も、ドルの支援材 料とはならなかった。全人代(全国人民代表大会)開催中の中国か らは、交通網整備などに年 2 兆元の財政出動が講じられるとの報道 もあって、一定の緊張緩和がドル円をサポート。ただ、その中国の 貿易統計(2 月)が改めて中国や世界経済の先行き不透明感を高め、 世界的な株式相場の軟化をもたらした。前週末(4 日)から週初に かけて 17000 円台を回復していた日経平均株価が、9 日に一時 16500 円を割り込む下落を演じると、ドル円相場も週間安値となる 112.23 を記録した。もっとも、今週は、ECB理事会や、翌週の日銀 金融政策決定会合、米国のFOMC(連邦公開市場委員会)を控え、 様子見姿勢も強く、同水準では底堅く推移。原油先物相場も総じて 底堅く推移したため、緊張が緩和。ドル円相場も、113 円台を回復 した。注目されたECB理事会では、予想を上回る追加緩和策が発表 され、直後には対ユーロでのドル高やリスク回避の緩和を期待した クロス円での円売りなどが活発化。ドル円は 113 円台半ばから約 1 円も急上昇し、週間高値 114.45 を記録した。しかし、その後の記 者会見にて、ドラギ総裁が「一段の利下げが必要だとは考えていな い」と発言したことに市場は反応。ユーロが急反発する中、ドル円 は直前の上昇幅を全て吐き出して下落。加えて、ドイツなどユーロ 圏の主要株価指数が、前日の終値を下回って下落すると、ドル円も 112 円台へと反落する荒い値動きとなった。一段安には歯止めがか かったものの、週末 11 日のドル円は 113 円台前半で推移している (11 日正午のドル円スポット相場:113.18~20)。 第 1 図: 今週の為替相場推移 (円) 115.0 ↑円安 114.0 113.0 ↓円高 112.0 3/7 3/8 3/9 3/10 3/11 (月/日) (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 注目の日米金融政策の 行方 7 ドル円は、110.99 を記録した 2/11 の翌週以降、総じて 112 円台 から 114 円台にとどまり、方向感に乏しい。本邦の決算期末を控え た円買い需要や、米景気の減速懸念によるドル売りが、ドル円の上 値を抑えているとみられる。一方、資源価格や新興国通貨、世界的 な株式相場に下げ止まりの兆しもうかがえ、緊張緩和を期待する声 もきかれ、リスク回避的な円高圧力が和らいだ面もあるだろう。こ 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 うした中、来週は日銀の金融政策決定会合や米国のFOMCを控えて おり、市場の注目が集まる。 日銀、追加緩和見送 り、マイナス 15 日、マイナス金利付き量的質的金融緩和(以下、マイナス金 利付きQQE)の導入決定後、初めて日銀の金融政策決定会合が開催 される。一部では、ECBに追随し、日銀の追加緩和を期待する声も ある。但し、本来なら、日銀が追加緩和を講じるのは、よほど緊急 性を要する場面を除き、物価の展望レポートを公表する 1 月、4 月、 7 月、10 月。来週は、マイナス金利付きQQEの政策効果を見極める ほか、マイナス金利が適用される政策金利残高の規模を決するマク ロ加算残高の具体的な運用方針が示される可能性が高い(第 2 図)。 (追加緩和ではないと説明しつつ)買い入れ国債の平均残存期間の 延長(補完措置)を決めた昨年 12 月や、マイナス金利導入を決定 した今年 1 月 29 日以降、かえって円高が進んだ経緯を踏まえ、日 銀が次回、追加緩和を講じる場合も、さらに万全を期し、工夫と凝 らすとみられ、それには十分な時間を費やそう。総じてみれば、足 元では、極端な緊張も和らいでおり、追加緩和は見送られよう。量 的緩和とマイナス金利とを組み合わせた類似の緩和策を行なってい るECBが追加緩和に踏み切った一方、日銀が見送れば、ドル円に下 押し圧力が加わる場面はありそうだ。 第 2 図:日銀の当座預金(3 段階の階層構造) 当座預金残高 (先行き) 年間80兆円ペースで増加 約10兆円+α 政策金利残高(▲0.1%) (当初) 約10兆円 マクロ加算残高(0%) 約40兆円 基礎残高(+0.1%) 約40兆円+ 約80兆円/年 (当預残高増加に合わ せて引き上げた場合 約210兆円 約210兆円 期間 (資料)日銀「マイナス金利付き量的・質的金融緩和への疑問に答える(2016/3/7)」より、三菱東京 UFJ 銀行作成 利上げ見送り、正常化 姿勢維持とドット チャート下方修正 8 米国でも、FOMCを控えている。米国では労働市場の改善が継続 しているが、賃金の伸びが鈍化。幅広い 19 指標から算出される労 働市場情勢指数も前回の景気後退末期(09 年 6 月)以来の低水準 となる▲2.4 を記録。2 ヶ月続けてのマイナスも、4 年ぶりとなる (第 3 図)。昨年 12 月以降の市場の動揺の背景や世界経済の減速、 市場の混乱による米経済への影響なども議論されるとみられ、来週 の会合では利上げは見送られよう。この為、イエレン議長の記者会 見や、各メンバーによる政策金利の予想分布図(ドットチャート) が注目される。足元の物価動向をみると、やや伸びが加速している (第 4 図)。この為、イエレン議長は、正常化(利上げ)継続の基 本姿勢を維持。今後の情勢を見ながら、慎重な金融政策運営を行な うとする説明に終始し、それほど新しい手掛かりは得られない可能 性が高い。 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 第 3 図: 米国の労働市場情勢指数(LMCI) 第 4 図:米国の物価動向(前年比でみた PCE デフレーター) 20 (%) 5 (労働市場の改善) ヘッドライン コア(除、食品・エネルギー) 10 4 3 0 2 -10 1 -20 0 -30 -1 (労働市場の悪化) -40 -2 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) 07 (資料)米 FRB より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 08 09 10 11 12 13 14 15 (年) 16 (資料)米経済分析局より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 一方、ドットチャートについては、前回 12 月と比べ、予想の中 位値(17 名中 9 番目の回答)が、年 4 回の利上げを示唆する 「1.375%」から、「0.875%(同、年 2 回)」や「1.125%(同、3 回)」まで引き下げらる可能性が高く、ドル売りを誘う可能性があ る(第 5 図)。米国の利上げペース鈍化は、ある程度、織り込まれ つつあるため、それほど大きなサプライズとはなりにくいが、ドル の下押し圧力となる可能性が高い。何より、FOMC後も、市場が再 び混乱した場合、正常化姿勢を維持するのかどうかや利上げペース を巡る不透明感といった不確実性は、今後も残ることになりそうだ。 第 5 図: FOMC メンバーの政策金利予想分布図、いわゆるドットチャートの中位値 (%) 4.0 3.5 3.0 2.5 14年12月FOMC 2.0 15年3月FOMC 1.5 1.0 1.375% 15年6月FOMC 下方修正 15年9月FOMC 0.5 15年12月FOMC 0.0 15年末 資源価格の動向 9 16年末 17年末 18年末 Longer Run 来週のドル円相場の材料としては、これら日米の金融政策のほか、 資源価格の動向も重要だろう。特に、2014 年半ば以降、原油先物 相場とドルとの逆相関性は極めて高い(第 6 図)。年初来、米国の 利上げペース鈍化との見方から、ドル高の一服感が強まり、原油先 物相場も小じっかりと推移。これが、緊張緩和に一役買い、ドル円 を下支えしていると考えられる。もっとも、原油先物相場の下押し の一因となってきた需給ギャップが容易に解消するとは考えにくい。 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 また、原油先物相場反転の一因でもある石油輸出国機構(OPEC) とロシアによる増産凍結に向けた暫定合意も、その具体的な協議の 行方は流動的であり、予断を許さない。実際、原油先物相場も今週 に入って、上昇には一服感がみられている。原油先物相場が反落す るようであれば、ドル円にも下押し圧力が加わる可能性が高く、要 注意だろう。 第 6 図: 米ドル指数(※)と WTI 原油先物相場 (㌦/バレル) 110 105 (ドル高) 100 100 90 80 95 70 90 60 50 85 40 80 WTI 30 ドル指数(右目盛) 20 14/1 14/4 14/7 14/10 15/1 15/4 (ドル安) 15/7 15/10 75 16/1 (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 (※)米ドル指数は、ユーロ(57.6%)、円(13.6%)、英ポンド(11.9%)、加ドル(9.1%)、スウェーデンクローナ(4.2%)、スイスフ ラン(3.6%)の 6 通貨を対象に算出。カッコ内は比重。 来週の見通し 来週は、日米の金融政策決定を経て、日銀は緩和見送りによる円 買いを、また、FOMCでは、慎重な正常化姿勢がドル売りをそれぞ れ招き、ドル円が下押しされる場面がありそうだ。どちらもある程 度、予想されており、大きな値幅は見込みにくいが、時節柄、本邦 での円買い需要は活発とみられる。日経平均株価が 17000 円を回復 した場面や、3 月月初からのユーロ円の反発(3/1 の 122 円台前半 ⇒3/11 の 126 円台後半)などに比べ、ドル円の戻り高値は 114 円台 にとどまるなど、上値が重い。112 円前後では下げ渋っており、押 し目買いも出やすい頃合とみられるが、根底でのドル高円安期待は 大きく後退したままと言え、依然として下落(ドル安円高)に警戒 が必要だろう。 予想レンジ ドル円:111.75 ~ 115.00 チーフアナリスト 10 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 内田 稔 (2) ユーロ:日米中銀政策決定に絡んだドル売りに注目 今週のレビュー 今週のユーロドル相場は、3 月ECB理事会での包括的追加緩和と ドラギECB総裁発言を受けて乱高下した(第 1 図)。 第 1 図: 今週の為替相場推移 (ドル) 1.130 ↑ユーロ高 1.120 1.110 1.100 1.090 ↓ユーロ安 1.080 3/7 3/8 3/9 3/10 3/11 (月/日) (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 ユーロドルは、週初に 1.09 ドル台後半で寄り付いた。週半ばに かけて、ECBによる追加緩和期待によるユーロ売りと、ブレイナー ドFRB理事による「米利上げは見通しがより明確になるまで忍耐強 さが求められる」との発言(3/7)や国際商品市況の堅調推移など を材料にしたドル買いが交錯して、ユーロドルは 1.10 ドルを挟ん で揉み合った。 10 日のECB理事会では、政策金利の引き下げ、資産買入プログ ラムの規模と対象の拡大、TLTROⅡの導入などが決定された。市 場予想を上回る結果となったことから、発表直後にユーロドルは 1.0822 まで急落した。しかし、記者会見でのドラギECB総裁による 「追加利下げを見込まない」との発言が報じられると、緩和打ち止 め観測が台頭し、欧州債利回りが反発する中で、ユーロドルは 1.1218 まで急騰した。 来週の見通し 来週は、ユーロ圏 1 月鉱工業生産(3/14)、ユーロ圏 2 月新車登 録台数(3/16)、ユーロ圏 1 月貿易収支(3/17)等の経済指標が発 表される。ユーロ圏景気指標は原油安や物価下落による実質購買力 の上昇を受けた個人消費の増加、ユーロ安を受けた輸出の持ち直し から、引き続き、ユーロ圏景気の着実な持ち直しを示す良好な結果 となろう。 しかし、ユーロ圏景気はデフレギャップ(実際のGDPが潜在GDP を下回る幅)が引き続き大きい上に、消費者物価指数(HICP)は 最近の原油価格下落によって前年比マイナス転化した。 そのため、10 日の 3 月ECB理事会では、景気・物価見通しが下方 修正され、政策金利の引き下げや資産買入の拡大、TLTROⅡの導 入等の包括的追加緩和を決定した(詳細は本週報トピックス「包括 的追加緩和はドラギマジックと評価すべき」を参照)。金融市場の 混乱が収束すれば、包括的追加緩和の効果もあって、ユーロ売りが 膨らむと考えられる。もっとも、直近では、ドラギECB総裁発言を 11 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 受けて「金利引き下げ打ち止め」が意識され、ユーロは大きく買い 戻された。 金融市場は、日銀政策決定会合(3/15)やFOMC(3/16)を強く 意識している。①日銀政策決定会合では、マイナス金利導入直後の ために追加緩和は見送られると考えられ、ドル売り円買いになり易 く、②FOMCでは、過度な景気悲観論によって、ハト派的な声明が 期待され、ドル売りになり易いと考えられる。 来週のユーロドルは、日米中央銀行の動きを眺めたドル売りから、 堅調な推移を予想する。FOMC後のドル売りポジションの利益確定 の動きに留意したい。ユーロ円はもみ合う展開を予想する。 予想レンジ ユーロドル:1.1000 ~ 1.1400 ユーロ円:124.50 ~ 129.50 シニアアナリスト 12 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 天達 泰章 (3) 豪ドル:資源価格を睨みながらも上昇余地は限定的 今週の豪ドル相場は、0.74 台前半で寄り付いた。週初に安値とな る 0.7393 を示現するも、その後は、資源価格の反発を背景に、底 堅く推移。週央にかけては、全般的なドル売りも相俟って、昨年 7/6 以来となる高値 0.7528 を示現した。もっとも、週後半にかけて は、ニュージーランド準備銀行による予想外の利下げ、資源価格の 反落等が重石となる中、豪ドルも反落。本稿執筆時点では、0.74 台 後半で推移している(第 1 図)。一方、対円相場は週初 84 円台前 半で寄り付いた後、リスク回避志向の高まりを背景に軟化。週央に は、安値となる 83 円台前半を記録した。もっとも、その後は、資 源高を背景にリスク回避の動きが後退。豪ドル円も反発に転じ、高 値となる 85 円台前半を記録。ボラタイルな値動きが継続した。引 けにかけては反落し、結局 84 円台後半にて越週しそうだ。 今週のレビュー 第 1 図: 今週の為替相場推移 (ドル) 0.755 ↑豪ドル高 0.750 0.745 0.740 ↓豪ドル安 0.735 3/7 3/8 3/9 3/10 3/11 (月/日) (資料) Bloomberg より、三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 中国の財政出動期待を背景に、鉄鉱石価格が反発している(第 2 図)。輸出物価上昇に伴う交易条件の改善期待が、利下げ観測の後 退を想起。これが、豪ドル相場上昇の原動力となっている。事実、 IMM通貨先物市場では、豪ドルのネットポジションが 9 ヶ月ぶりに ロング(買い越し超)に転化(第 3 図)。昨年来つづいた豪ドル ショート(売り越し超)の巻き戻しが発生している。 来週の見通し 第 2 図 : 鉄鉱石価格と交易条件の推移 第 3 図 : 通貨先物市場における豪ドルポジションの推移 (指数) (米ドル) 130 200 (枚) 120,000 豪ドルのネットポジション 100,000 120 160 80,000 (豪ドル買い持ち超) 60,000 40,000 110 120 20,000 0 100 80 交易条件 鉄鉱石価格(右目盛) -20,000 -40,000 90 40 -60,000 80 0 -100,000 -80,000 (豪ドル売り持ち超) 10 11 12 13 14 15 16 (年) (資料) 豪統計局、Bloomberg より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 13 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 10 11 12 13 14 15 (資料)CFTC より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 16 (年) とは言え、豪州経済には不透明感も根強い。失業率が再び 6%台 へ悪化した他、雇用者数変化も 2 ヶ月連続で減少(第 4 図)。低調 な小売売上高や住宅建設許可件数も警戒される(第 5 図)。冴えな い設備投資、低い賃金伸び率、インフレ圧力の弱さといった従来か らの懸念材料に加え、足許では、中国を巡る不透明感の増大、隣国 ニュージーランドによるサプライズ利下げ等、内外共に不確実性が 増している。中国の過剰生産設備の削減も中長期的には鉄鉱石価格 の重石となるだろう。 第 4 図 : 失業率と雇用者数変化の推移 第 5 図 : 住宅建設許可件数と政策金利の推移 (万人) (%) 7.0 5.0 常勤 非常勤 雇用者数変化 (政策金利%) (前月比%) 6.0 60.0 住宅建設許可件数(右目盛) 失業率(右目盛) 4.0 6.5 3.0 6.0 政策金利 5.5 50.0 5.0 40.0 4.5 30.0 2.0 5.5 4.0 20.0 1.0 5.0 3.5 10.0 0.0 4.5 3.0 - 2.5 -10.0 2.0 -20.0 1.5 -30.0 -1.0 4.0 -2.0 3.5 3.0 -3.0 11 12 13 14 15 16 (資料) 豪統計局より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 1.0 (年) -40.0 11 12 13 14 15 16 (年) (資料)豪統計局、RBA より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 こうした状況を踏まえると、RBAによる金融緩和政策は当面続け られる公算が大きい。事実、直近の定例理事会では、「低インフレ が続けば、需要喚起の為、一段の金融緩和もあり得る」と、追加緩 和の可能性を強調。「可能性の度合い」を示す文言についても、従 来までの「may(かもしれない)」から「would(だろう)」に変 更するなど、総じてハト派寄りの内容となった。その為、豪ドルが 一段と上昇する局面では、RBAによる通貨高牽制姿勢の再開が見込 まれよう。よって、余程強い米ドル売り圧力や、資源高圧力が加わ らない限り、豪ドルの上値余地は限定的と予想する。来週は、3/17 の豪雇用統計の他、日米の金融政策決定会合、中国の全人代閉幕な ど、重要イベントが目白押しだ。週を通してボラタイルな値動きを 想定する。 予想レンジ 対ドル:0.7200 ~ 0.7600 対円:82.00 ~ 87.00 アナリスト 14 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 藤瀬 秀平 (4) 人民元:元の戻りは限定的、元安基調の継続を予想 今週のレビュー 今週の人民元相場は、オンショア(CNY)、オフショア(CNH) 共に、年初来高値を更新した。週初、6.5040 で寄り付いたCNYは、 冴えない輸出統計を背景に軟化。3/10 には安値となる 6.5229 を示 現した。もっとも、週末にかけては反発。対ドル基準値の元高設定 を背景に、高値となる 6.4860 を示現している。CNHも同様に、冴 えない輸出統計を背景に安値 6.52 台後半を示現するも、週末にか けて反発。高値となる 6.48 台前半を記録している(第 1 図)。 第 1 図 :人民元相場の推移 (CNY) 6.80 対ドル基準値 6.70 オンショア人民元相場 6.60 オフショア人民元相場 6.50 6.40 6.30 6.20 6.10 6.00 15/01 15/03 15/05 15/07 15/09 15/11 16/01 16/03 (年/月) (資料) Bloomberg、中国人民銀行より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 2016 年の成長率目標 は 6.5%~7.0% 3/5 開幕の全人代(全国人民代表大会)で、李克強首相は政府活 動報告を発表した。「供給側改革の断行」と「中高速成長の維持」 の両立を目指す中、2016 年の成長率目標を 6.5%~7.0%、2020 年ま での 5 カ年計画を、年平均 6.5%以上に決定した(第 2 図)。構造 改革によってもたらされる実体経済への下押し圧力を、金融・財政 両面にてサポートする構えだ。事実、金融面では、早々に預金準備 率の引き下げを決定。マネーサプライ(M2)目標の引き上げ、社 会融資残高目標の新規設定など、当局の金融緩和姿勢は明確だ。他 方、財政面では、GDPに占める財政赤字の割合を 3%に拡大(昨年 の目標は 2.3%)。鉄道や道路建設等、インフラ投資も計画してい る。 第 2 図 : 中国の 2016 年の主要目標 (資料) 政府活動報告などを参考に三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 15 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 人民元の先安観が足許 で後退 当局による各種資本規制の強化(個人の外貨両替規制の厳格化、 窓口指導を通じた企業の外貨買い制限やオフショアへの資金移動制 限など)や、財政出動への期待感の高まりを背景に、昨年来続いた 資本流出圧力が足許で減衰している。事実、当局は「外貨準備が減 少しているが懸念は無い」「人民元は通貨バスケットに対して安定 的」「人民元が継続的に下落する根拠はない」等、強気な姿勢を維 持。3/7 に発表された外貨準備増減でも、2 月は減少幅が縮小して いる(第 3 図)。当局が通貨バスケットの安定を重視する中、人民 元の先安観は後退。通貨オプション市場では、インプライドボラ ティリティの低下、リスクリバーサルの縮小(USDコールCNYプッ トオーバーの縮小)が続いている(第 4 図)。とはいえ、中国経済 を取り巻く環境は依然として厳しい。3/8 に発表された貿易統計で は、輸出が前年比マイナス 20.6%と冴えない結果となった(第 5 図)。実質実効為替レートが高止まる中、輸出競争力の一段の悪化 も警戒される(第 6 図)。こうした状況を踏まえれば、当局が元高 を更に許容する可能性は低いだろう。 第 3 図 : 中国の外貨準備高の推移 第 4 図 : 通貨オプション市場の動向 (兆ドル) (兆ドル) 0.15 4.50 外貨準備前月比増減(右目盛) (%) 11.00 USDCNH ボラティリティ(3ヶ月物) 10.00 4.00 中国外貨準備高 0.10 USDCNH リスクリバーサル(3ヶ月物) 9.00 3.50 8.00 0.05 3.00 2.50 7.00 6.00 0.00 5.00 2.00 1.50 -0.05 4.00 3.00 1.00 -0.10 0.50 2.00 1.00 0.00 -0.15 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) (資料) 中国人民銀行より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 第 5 図 : 中国の貿易収支の推移 0.00 15/01 15/03 15/05 15/07 15/09 15/11 16/01 16/03 (年/月) (資料)Bloomberg より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 第 6 図 : 実質実効為替相場の推移 (指数 2010=100) (前年比、%) 60 140 50 130 ↑通貨高/輸出競争力低 129.62 40 CNY EUR GBP USD JPY 120 115.99 30 110 20 10 100 0 90 112.32 90.82 -10 80 74.81 -20 70 -30 ↓通貨安/輸出競争力高 60 -40 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) (資料) 中国国家統計局より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 16 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 10 11 12 13 14 15 (資料)BIS より三菱東京 UFJ 銀行グローバルマーケットリサーチ作成 16 (年) 来週の見通し 来週は、3/12 の鉱工業生産、小売売上高、固定資産投資、3/16 の 全人代閉幕の他、3/15 の日銀金融政策決定会合、3/17 のFOMC等、 重要イベントが目白押しだ。人民元相場は、当局の安定志向を背景 に、足許で落ち着きを取り戻しているものの、供給側改革に伴う実 体経済への下押し圧力を、金融・財政両面で下支えすることは容易 では無い。財政出動への期待感が剥落するに連れ、再び元安圧力が 加わる可能性に留意が必要だ。当方では引き続き、①過剰生産、過 剰債務を背景とした実体経済の減速懸念、②当局による緩和的な金 融政策、③人民元国際化に伴う通貨政策変更への思惑、④外貨準備 減少に伴う介入余力への警戒感等を材料に、元安基調の継続を予想 する。 予想レンジ ドル人民元:6.4800 ~ 6.5500 人民元円:17.10 ~ 17.70 アナリスト 17 来週の相場見通し | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 藤瀬 秀平 来週の主な経済指標 14 日 (月) 15 日 (火) 16 日 (水) 17 日 (木) 18 日 (金) 8:50 19:00 21:30 21:30 21:30 23:00 5:00 16:00 21:30 21:30 21:30 22:15 22:15 8:50 9:30 9:30 19:00 19:00 19:00 21:30 21:30 21:30 23:00 23:00 23:00 日 ユ 米 米 米 米 米 ユ 米 米 米 米 米 日 豪 豪 ユ ユ ユ 米 米 米 米 米 米 機械受注(前月比、1 月) 鉱工業生産(前月比、1 月) 生産者物価指数(前月比、2 月) 小売売上高(前月比、2 月) ニューヨーク連銀景況指数(3 月) 企業在庫(前月比、1 月) 証券投資収支(1 月、億ドル) EU27 ヵ国新車登録台数(前年比、2 月) 消費者物価指数(前年比、2 月) 住宅着工件数(2 月・万件) 建設許可件数(2 月・万件) 鉱工業生産(前月比、2 月) 設備稼働率(2 月) 貿易収支(通関ベース、2 月・億円) 雇用者数変化(2 月・万人) 失業率(2 月) 消費者物価指数(前年比、2 月確定) 消費者物価指数(前年比、2 月確定コア) 貿易収支(季調済、1 月・億ユーロ) 新規失業保険申請件数(3/12・万件) 経常収支(4Q・億ドル) フィラデルフィア連銀景気動向指数(3 月) 景気先行指数(2 月) 求人労働異動調査(1 月・万人) ミシガン大消費者信頼感指数(3 月速報) 1:00 9:30 ユ 豪 日 日 ビルロワドガロー・フランス中銀総裁講演 RBA 議事要旨(3/1 分) 日銀金融政策決定会合(金融政策発表) 黒田・日銀総裁定例会見 米 米 日 英 英 日 米 米 米 FOMC 金利誘導目標発表 イエレン・FRB 議長定例記者会見 黒田・日銀総裁挨拶(決済システムフォーラム) MPC(BOE 金融政策委員会、政策金利発表) MPC 議事録 日銀金融政策決定会合議事要旨(1/28, 19 分) ダドリー・ニューヨーク連銀総裁挨拶 ローゼングレン・ボストン連銀総裁講演 ブラード・セントルイス連銀総裁講演 ユ 日 ユ ユ ユ 米 10 年債入札(ドイツ) 20 年債入札 EU 首脳会議(~18 日) 国債入札(スペイン) 国債入札(フランス) 10 年インフレ連動債入札 中央銀行関連 14 日 (月) 15 日 (火) 15:30 16 日 (水) 17 日 (木) 18 日 (金) 19 日 (土) 3:00 3:30 15:30 21:00 8:50 22:00 0:00 3:00 その他 14 日(月) 15 日(火) 16 日(水) 17 日(木) 19:35 12:45 18 日(金) 18:30 18:50 2:00 ※市場予想は Bloomberg 調査中央値 時刻は日本時間 *印は作成日(3/11)現在で未確定のもの 18 来週の経済指標・イベント | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 予想 1.9% 1.4% ▲ 0.1% ▲ 0.1% ▲ 10.00 0.0% 0.9% 115.0 120.1 ▲ 0.2% 76.9% 3,886 1.20 6.0% ▲ 0.2% 0.7% ▲ 1,145 ▲ 1.2 0.2% 560.0 92.2 前回 4.2% ▲ 1.0% 0.1% 0.2% ▲ 16.64 0.1% ▲ 294 6.2% 1.4% 109.9 120.2 0.9% 77.1% ▲ 6,488 ▲ 0.75 6.0% 0.3% 1.0% 210 25.9 ▲ 1,241 ▲ 2.8 ▲ 0.2% 560.7 91.7 マーケットカレンダー 月 火 水 2016/3/14 ユーロ圏/鉱工業生産(1 月) 日/日銀金融政策決定会合 機械受注(1 月) 木 15 米/FOMC(~16 日) 小売売上(2 月) 生産者物価指数(2 月) (~15 日) NY 連銀景況指数(3 月) 企業在庫(1 月) 証券投資収支(1 月) 日/日銀金融政策決定会合 日銀総裁定例会見 豪/RBA 議事要旨(3/1 分) 16 米/FOMC FRB 議長定例記者会見 住宅着工件数(2 月) 建設許可件数(2 月) 消費者物価指数(2 月) 鉱工業生産(2 月) 設備稼働率(2 月) ユーロ圏/EU27 ヵ国新車登録 金 17 米/経常収支(4Q) フィラデルフィア連銀景況 速報(3 月) 指数(3 月) 日/日銀金融政策決定会合 求人労働異動調査(1 月) 議事要旨(1/28, 29 分) 景気先行指数(2 月) ユーロ圏/貿易収支(1 月) 消費者物価指数確報(2 月) 英/MPC(BOE 金融政策委員会) MPC 議事録 台数(2 月) 英/MPC(BOE 金融政策委員会、 日/貿易収支速報(2 月) ~17 日) 豪/雇用統計(2 月) 日・黒田日銀総裁挨拶 米・10 年 TIPS 債入札 EU 首脳会議(~18 日) 21 米/中古住宅販売(2 月) ユーロ圏/経常収支(1 月) 18 米/ミシガン大消費者信頼感指数 22 23 米/FHFA 住宅価格指数(1 月) 米/新築住宅販売(2 月) ユーロ圏/製造業 PMI 速報 ユーロ圏/消費者信頼感指数 (3 月) 米・ニューヨーク連銀総裁挨拶 米・ボストン連銀総裁講演 米・セントルイス連銀総裁講演 24 米/耐久財受注速報(2 月) 日/日銀金融政策決定会合 速報(3 月) 25 米/GDP 確報(4Q) 日/消費者物価指数 主な意見(3/14, 15 分) (東京都区部 3 月、全国 2 月) サービス業 PMI 速報(3 月) 独/Ifo 景況指数(3 月) ZEW 景況指数(3 月) 米・アトランタ連銀総裁講演 日市場休場 米・シカゴ連銀総裁講演 米・フィラデルフィア連銀総裁講演 28 米/個人所得・消費支出(2 月) 独/小売売上(2 月)* 米一部市場休場 英・独市場休場 日・北海道新幹線開業(26 日) 欧州夏時間(27 日~) 米・セントルイス連銀総裁講演 29 30 米/ケース・シラー住宅価格 米/ADP 雇用統計(3 月) 指数(1 月) ユーロ圏/欧州委員会景況指数 31 4/1 米/雇用統計(3 月) ISM 製造業景況指数(3 月) 建設支出(2 月) CB 消費者信頼感指数(3 月) (3 月) 速報(3 月) ユーロ圏/マネーサプライ M3 独/消費者物価指数速報 日/住宅着工件数(2 月) 自動車販売(3 月)* ユーロ圏/失業率(2 月) (2 月) (CPI、3 月) 日/完全失業率(2 月) 日/鉱工業生産速報(2 月) 中/製造業 PMI(3 月) 家計調査(2 月) 日/日銀短観 概要 米・2 年債入札 英・独市場休場 米・5 年債入札 4 米/シカゴ PM 景況指数(3 月) ユーロ圏/消費者物価指数 米・7 年債入札 5 6 7 8 米/製造業受注指数(2 月) 米/貿易収支(2 月) 米/FOMC 議事要旨(3/15,16 分) 米/消費者信用残高(2 月) 米/卸売在庫・売上(2 月) ユーロ圏/生産者物価指数(2 月) 求人労働異動調査(2 月) 独/鉱工業生産(2 月) ユーロ圏/ECB 理事会議事録 独/貿易収支(2 月) 日/日銀短観 ISM 非製造業景況指数(3 月) 日/景気動向指数速報(2 月) (3/10 分) 日/国際収支速報(2 月) 調査全容、業種別計数 ユーロ圏/小売売上(2 月) 対外対内証券売買契約等 豪/RBA 理事会 の状況(3 月) 景気ウォッチャー調査(3 月) 米・イエレン FRB 議長討論会 *印は作成日(3/11)現在で日程が未確定のもの 19 マーケットカレンダー | 平成 28(2016)年 3 月 11 日 照会先:三菱東京UFJ銀行 グローバルマーケットリサーチ チーフアナリスト 内田 稔 当資料は一般的な情報提供のみを目的として作成されたものであり、特定のお客様のニーズ、財務状況又は投資対象に対応することを意図しておりませ ん。また、当資料は、適用法令上許容される範囲内でのみ利用可能であり、当資料の頒布を制約する法令が存在する地域の方によって利用されることを意 図しておりません。当資料内のいかなる情報又は意見も、預金、有価証券、デリバティブ取引その他の金融商品の売買、投資、保有などを勧誘又は推奨す るものではありません。 当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、当行はその正確性、適時性、適切性又は完全性を表明又は保証するものではなく、 当行、その子会社又は関連会社は、お客様による当資料の利用等に関して生じうるいかなる損害についても責任を負いません。ご利用に関しては、すべて お客様御自身でご判断下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。 また、過去の結果が必ずしも将来の結果を暗示するものではありません。 当行は、当資料において言及されている会社と関係を有し、又はかかる会社に対して金融サービスを提供している可能性があります。当行のグループ会 社は、当資料において言及されている証券又はこれに関連する証券について権利を有し、又はこれらの証券の引受けを行っている可能性があり、また、こ れらの証券又はそのポジションを保有している可能性があります。 当資料の内容は予告なしに変更することがあり、また、当行、その子会社又は関連会社は、当資料を更新する義務を負っておりません。また、当資料は 著作物であり、著作権法により保護されております。当行の書面による許可なく複製又は第三者、個人顧客もしくは一般投資家への配布をすることはでき ません。 (BTMUロンドン支店のみに適用される情報開示) 株式会社三菱東京UFJ銀行(以下「BTMU」)は、日本で設立され、東京法務局(会社法人等番号 0100-01-008846)において登記された有限責任の株式会 社です。 BTMUの本店は、東京都千代田区丸の内二丁目 7 番 1 号(郵便番号 100-8388)に所在しています。 BTMUロンドン支店は、英国会社登録所において、英国支店として登録されています(登録番号BR002013)。 BTMUは、日本の金融庁によって認可及び規制されています。BTMUロンドン支店は、英国プルーデンス規制機構より認可を受けており(FCA/PRA番号 139189)、英国金融行為監督機構の規制とプルーデンス規制機構の限定された規制の対象となっています。英国プルーデンス規制機構によるBTMUロンド ン支店の規制の範囲の詳細は、ご請求いただいた方にお渡ししております。 20 FX Weekly | 平成 28(2016)年 3 月 11 日
© Copyright 2024 ExpyDoc