資料(PDF 503KB)

2016/3/11
水戸支店
水戸市泉町 1-2-4
TEL: 029-221-3717
http://www.tdb.co.jp
特別企画 : 2016 年度の賃金動向に関する茨城県内企業の意識調査
賃金改善を見込む企業は 41.9%で 7 年ぶり減少
~ 賃金を改善する理由、「労働力の定着・確保」が 74.2%に上昇~
はじめに
2015 年の景気は「踊り場局面」とする企業が半数を超える(
「2016 年の景気見通しに対する企
業の意識調査」
)など停滞感の漂う一年となったが、政府は官民対話を通じて賃金の引き上げを要
請している。そのため、雇用確保とともにベースアップや賞与(一時金)の引き上げなど、賃金
改善の動向はアベノミクスの行方を決定づける要素として注目されている。
このようななか、帝国データバンク水戸支店は、2016 年度の賃金動向に関する企業の意識につ
いて調査を実施した。
※調査期間は 2016 年 1 月 18 日~31 日、調査対象は全国 2 万 3,228 社で、有効回答企業数は 1 万 519
社(回答率 45.3%)
。うち、茨城県内企業は 354 社で、有効回答企業数は 148 社(回答率 41.8%)
。
今回の調査は全国調査分から茨城県の企業分を抽出・分析したもの。
※賃金に関する調査は 2006 年 1 月以降、毎年 1 月に実施し、今回で 11 回目。
※賃金改善とは、ベースアップや賞与(一時金)の増加によって賃金が改善(上昇)することで、定
期昇給は含まない。
調査結果(要旨)
□2016 年度の賃金改善を「ある」と見込む県内企業は 41.9%。前年度見込みを 7.1 ポイント下回
り、リーマン・ショックで大幅減となった 2009 年調査(2009 年度見込み)以来 7 年ぶりの減少。
また、2015 年度は 3 社に 2 社が賃金改善を実施。
□賃金改善の具体的内容は、ベア 31.8%(前年度比 5.1 ポイント減)
、賞与(一時金)は 22.3(同
比 6.6 ポイント減)
。ベア、賞与とも賃金改善を実施する企業の意欲に一服感。
□賃金を改善する理由は「労働力の定着・確保」が 74.2%(前年度比 4.3 ポイント増)
。また「同
業他社の賃金動向」を挙げる企業が 24.2%(同比 3.7 ポイント増)と、労働力不足を補うため
の賃金施策を強化。一方、改善しない理由は「自社の業績低迷」が 62.9%(同比 4.4 ポイント
増)
、
「内部留保の増強」が 22.9%(同比 10.7 ポイント増)と、背景に企業業績の不透明感。
□2016 年度の総人件費は平均 2.77%増加する見込み。業界別の平均増加率は、
『建設』の 3.68%
が最多、次いで『サービス』
『小売』
。
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特別企画: 2016 年度の賃金動向に関する茨城県内企業の意識調査
1. 2016 年度の賃金改善見込みは、41.9%で 7 年ぶりの減少
2016 年度の企業の賃金動向について尋ねたところ、正社員の賃金改善(ベースアップや賞与、
一時金の引上げ)が「ある(見込み含む)
」と回答した県内企業は 41.9%(148 社中 62 社)とな
り、前回調査(2015 年 1
月)における 2015 年度見
■賃金改善状況の推移
込み(49.0%)を 7.1 ポイ
ント下回った。賃金改善を
見込む企業が減少したの
はリーマン・ショックで大
幅減を記録した 2009 年度
見込み(19 ポイント減)
以来、7 年ぶりとなった。
一方、
「ない(見込み含む)
」
と回答した企業は 23.6%
(148 社中 35 社)となり、
前回調査(27.5%)を 3.9 ポイント下回った。また、
「分からない」は 34.5%(148 社中 51 社)
と前回調査(23.5%)を 11.0 ポイント増加しており、2016 年度の賃金について結論を出していな
い企業が増加している。しかし、2014 年度から 3 年連続で「ある」が「ない」を上回っている。
2015 年度実績では、賃金改善が「あった」企業は 6 割以上を占め、景気の先行き不透明感が増
すなかで、多数の企業が賃金
改善を実施していた様子がう
かがえる。
2016 年度に賃金改善が「あ
る」と回答した県内企業を業
界別にみると、
『不動産』が最
も高く、
『サービス』
『建設』
『運
輸・倉庫』が続いた。企業か
らは「今期の売上が増えたた
め」
(建設)という企業業績の
改善に伴う従業員への還元を
進めていく声があがった一方、
賃金改善を行う見込みがあり
ながらも「最低賃金(時給)
のアップが負担になり、経営
に影響を与えている」
(サービ
ス)、「賃金が改善すれば個人
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消費が増え、景気が良くなると思うが、企業の国内投資も必要」
(運輸・倉庫)と課題を唱える声
もあった。
また、賃金改善が「分からない」とする企業が増加した中には、
「一部の企業で賃金が上がって
も個人消費の伸びは鈍く、まして景気に影響が出るのは相当な時間がかかると思う」
(建設)や「企
業の収益が上がらないと賃金も上げられない。格差が広がっている。
」(鉄鋼・非鉄・鉱業)との
声が聞かれた。「ない(見込み含む)
」とする企業では「業績が低迷という程でもないが、先行き
不透明」(農・林・水産)や「景気動向に合わせて調整する」(その他)との声が挙がり、企業業
績の改善に陰りが見え始め、景気の先行きが不透明と感じる企業が増加する結果となった。
賃金改善が「ある(見込み含む)」と回答した県内企業を従業員数別でみると、「21~50 人」
(51.1%)
、
『51~100 人』
(50.0%)が 5 割を超えた。だたし、従業員数別では多くの企業で賃金
改善を行う割合が前年比で減少しているが、唯一「101~300 人」
(45.0%)で前年比 5.8 ポイント
上回っている。
2016 年 1 月に日本銀行がマイナス金利の導入を決定し、一段の金融緩和が進められたものの、
海外の経済情勢に不透明感が増すなかで、企業の賃金改善状況も揺れている。従業員数別では 100
人以下の企業で比較的賃金改善に前向きな姿勢を示している一方、5 人以下の企業では 2 割程度に
とどまっている。2015 年度実績は 6 割強の企業が賃金改善を実施したうえで、さらに 2016 年度も
4 割強の企業が改善を見込んでいる。賃金改善への姿勢は企業によって異なるものの、引き続き水
準が上昇しているのは確かである。
2. 賃金改善の具体的内容、「ベースアップ(ベア)」が 31.8%、「賞与(一時金)」が 22.3%
■賃金改善の具体的内容
2016 年度の正社員におけ
る賃金改善の具体的方法は、
「ベースアップ」が 31.8%
(148 社中 47 社)、
「賞与(一
50
(%)
40
時金)
」は 22.3%(148 社中
33 社)となった。前回調査
ベースアップ
賞与(一時金)
36.9%
34.3%
31.8%
28.9%
30
(2015 年度見込み)と比べ
ると、
ベアが 5.1 ポイント、
賞与が 6.6 ポイントそれぞ
れ減少しており、ベア、賞
与ともに賃金改善に一服傾
向がみられる。
20
10
2
0
1
4
年
度
見
込
み
2
0
1
5
年
度
見
込
み
2
0
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6
年
度
見
込
み
20.3%
2
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1
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年
度
見
込
み
22.3%
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1
5
年
度
見
込
み
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1
6
年
度
見
込
み
0
注:2014年度見込みは2014年1月調査、2015年度見込みは2015年1月調査、2016年度
見込みは2016年1月調査。母数は2014年度143社、2015年度149社、2016年度148社
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3. 賃金改善理由、「労働力の定着・確保」が 7 割超、改善しない理由は「自社の業績低迷」
が 6 割超と最多
2016 年度の賃金改善が「ある」と回答した県内企業 62 社に理由(複数回答)を尋ねたところ、
最も多かったのは「労働力の定着・確保」の 74.2%(複数回答、以下同)となり、前年調査(69.9%)
から 4.3 ポイント増加した。
次いで
「自社の業績拡大」
が 37.1%、
「同業他社の賃金動向」
が 24.2%、
「消費税率引き上げ」が 14.5%、
「物価動向」の 12.9%と続いた。また、人手不足が続くと同時
により良い人材の確保が必要と
されるなかで、
「労働力の定着・
確保」を挙げる企業は過去最高と
なり、他社の賃金動向をより意識
する傾向も強まってきている。
一方、賃金改善が「ない」と回
答した県内企業 35 社に理由を尋
ねたところ、
「自社の業績低迷」
が 62.9%(複数回答、以下同)
と前年調査(58.5%)より
4.4 ポイント増加
した。次に「人的投資の増強」が
25.7%で同比 3.7 ポイント増、
「内部留保の増強」が 22.9%で
■賃金を改善する理由(複数回答)
0
ならないと賃金のアップはな
い」
(鉄鋼・非鉄・工業製品卸売
業)とするように現状の業績では
難しいとする意見や、
「賃金は僅
かであるが上昇傾向にある。ただ
し、現正社員ではなく新入社員や
臨時社員が現給与体系では集まら
なくなっている」
(運輸・倉庫)と
いった労働力の定着・確保に苦慮
している声が聞かれた。
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40
60
58.7%
労働力の
定着・確保
自社の
業績拡大
37.1%
同業他社の
賃金動向
消費税率
引き上げ
物価動向
69.9%
74.2%
2015年度 見込み
2016年度 見込み
31.7%
26.0%
12.9%
80
2014年度 見込み
33.3%
11.0%
14.5%
(%)
47.6%
46.6%
22.2%
20.5%
24.2%
注:2014年度見込みは2014年1月調査、2015年度見込みは2015年1月調査、2016年度見込みは2016年1
月調査。母数は賃金改善が「ある」と回答した企業、2014年度63社、2015年度73社、2016年度62社
■賃金を改善しな い理由( 複数回答)
0
同 10.7 ポイント増となった。
県内企業からは「業況がよく
20
20
40
47.5%
自社の
業績低迷
人的投資の
増強
内部留保の
増強
消費税率
引き上げ
物価動向
60
(%)
80
58.5%
62.9%
20.0%
22.0%
25.7%
12.5%
12.2%
22.9%
17.1%
20.0%
10.0%
14.6%
17.1%
35.0%
2014年度 見込み
2015年度 見込み
2016年度 見込み
注:2014年度見込みは2014年1月調査、2015年度見込みは2015年1月調査、2016年
度見込みは2016年1月調査。母数は賃金改善が「ない」と回答した企業、2014年度40
社、2015年度41社、2016年度35社
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4. 2016 年度の総人件費は平均 2.77%増加を見込む
2016 年度の自社の総人件費は、2015 年度と比較してどの程度変動すると見込んでいるか尋ねた
「減少」
ところ、
「増加」*1と回答した県内企業は 68.2%(148 社中 101 社)にのぼった。他方、
は 8.1%(同 12 社)にとどまり、県内企業の大半は人件費が増加すると見込んでいる。また、2016
年度の総人件費の増加率は前年比
■2016 年度の総人件費見通し
で平均 2.77%の増加が見込まれて
総人件費
いる。
総人件費が「増加」すると回答
減少
8.1 %
した県内企業を業界別にみると、
分からな
い
8.8 %
平均 2.77 %増
『農・林・水産』
『不動産』が最も
高く、次いで『建設』
『運輸・倉庫』
『小売』と続いた。また、平均増
加率では、『建設』の 3.68%が最
変わらな
い
1 4.9 %
増加
68.2%
も高く、次いで『サービス』
(3.64%)
、
『小売』
(3.38%)と続
いた。
注1:母数は有効回答企業148社
注2:「増加」は「1%以上3%未満増加」「3%以上5%未満増加」
「5%以上10%未満増加」「10%以上増加」の合計。
注3:「減少」は「1%以上3%未満減少」「3%以上5%未満減少」
「5%以上10%未満減少」「10%以上減少」の合計。
■2016 年度の総人件費の増加見通し~業界別~
100
80
60
40
100.0
3.68
92.9
100.0
2.00
75.0
2.00
3.64
3.38
66.7
2.52
2.17
62.5
62.5
2.00
単位:%
58.8
20
0.00
0.0
そ の他
製造
サービ ス
卸売
「増加」計(左目盛り)
小売
運輸 ・倉庫
建設
不動産
農 ・林 ・水産
0
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
平均増加率(右目盛り)
1 「増加」
(
「減少」
)は、
「10%以上増加(減少)
」
「5%以上 10%未満増加(減少)
」
「3%以上 5%未満
増加(減少)
」
「1%以上 3%未満増加(減少)
」の合計
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まとめ
2016 年 1 月に日本銀行が公表した「経済・物価情勢の展望」で、インフレ率 2%という目標の
達成時期は 2017 年度前半へと先延ばしされた。そのようななかにあって、
「賃金の上昇」がアベ
ノミクスの成否を決定する重要なファクターとなっている。そのため、政府は官民対話等を通じ
て業績改善している企業に対しての賃金の引き上げを要請している。
2015 年度には県内企業の 3 社に 2 社が賃上げを実施し、2016 年度も 4 割以上の企業が賃金改善
を実施する見通しとなった。総人件費も平均 2.77%上昇すると見込まれ、従業員への給与・賞与
の負担は増加すると推計される。しかし、賃金改善の理由として「労働力の定着・確保」を挙げ
る企業は 7 割を超え、逆に業績が拡大したことを理由とする企業は 3 年連続で減少している。企
業の賃金改善は、業績よりも労働力の定着・確保を第一に捉えて実施するという姿勢が鮮明とな
っている。
本来的に、賃金は企業の業績拡大を通じて上昇することが望ましく、そうでない状況に長続き
しえないだろう。現状は人手不足が生じているなかでの賃上げで、業績はまだそれに追いついて
いない。賃金上昇を確実なものとし、安定的なインフレ率が達成されるためにも、企業業績の改
善は一段と重要になってくる。残された時間は少ない。
【企業規模区分】
中小企業基本法に準拠するとともに、全国売上高ランキングデータを加え、下記のとおり区分。
大企業
中小企業(小規模企業を含む)
小規模企業
製造業その他の業界
業界
「資本金3億円を超える」 かつ 「従業員数300人を超える」
「資本金3億円以下」 または 「従業員300人以下」
「従業員20人以下」
卸売業
「資本金1億円を超える」 かつ 「従業員数100人を超える」
「資本金1億円以下」 または 「従業員数100人以下」
「従業員5人以下」
小売業
「資本金5千万円を超える」 かつ 「従業員50人を超える」
「資本金5千万円以下」 または 「従業員50人以下」
「従業員5人以下」
サービス業
「資本金5千万円を超える」 かつ 「従業員100人を超える」
「資本金5千万円以下」 または 「従業員100人以下」
「従業員5人以下」
注1:中小企業基本法で小規模企業を除く中小企業に分類される企業のなかで、業種別の全国売上高ランキングが上位3%の企業を大企業として区分
注2:中小企業基本法で中小企業に分類されない企業のなかで、業種別の全国売上高ランキングが下位50%の企業を中小企業として区分
注3:上記の業種別の全国売上高ランキングは、TDB産業分類(1,359業種)によるランキング
【 内容に関する問い合わせ先 】
(株)帝国データバンク 水戸支店
TEL 029-221-3717
FAX 029-232-0272
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