昨年のインバウンド需要増が約27万人の雇用を創出

リサーチ TODAY
2016 年 3 月 11 日
昨年のインバウンド需要増が約27万人の雇用を創出
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
内需の低迷が続いているにもかかわらず、小売業や宿泊・飲食サービス業といった業種で労働需給の
ひっ迫感が強まっている。この背景にはインバウンド需要の増加がある。2015年のインバウンド消費の伸び
は前年差+1.5兆円に上り、雇用創出効果は上記2業種を中心に27万人前後となる。また、効果が表れる
までには一定のラグがあることから、2016年の雇用を下支えする見通しである。みずほ総合研究所は「雇用
を下支えするインバウンド」と題するリポート1を発表しており、インバウンド消費の増加が雇用に与える影響
を分析している。ただし、足元ではインバウンド消費の中身に変化が生じているため、今後も持続的な雇用
創出を図るためには、インバウンド需要の広がりにも留意する必要がある。下記の図表は、インバウンド消
費を品目別にみたものである。宿泊料金や飲食費のほか買い物代などのシェアが大きく、とりわけ小売業
や宿泊・飲食サービス業にとってインバウンドの拡大は大きな追い風と言える。
■図表:インバウンド消費の品目別シェア(2015年)
その他
(0.3%)
買い物代
(41.8%)
1
宿泊料金
(25.8%)
飲食料費
交通費
(18.5%) (10.6%)
娯楽サービス
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
(注)2015 年各四半期の品目別消費額(1 人当たり)に訪日外国人数を乗じることで、四半期別の各品目消費額を計算。
その数値を合算した年間消費総額から品目別のシェアを算出。
(資料)日本政府観光局「訪日外客数・出国日本人数」、観光庁「訪日外国人消費動向調査」よりみずほ総合研究所作成
次ページの図表はインバウンド消費の増加による経済効果の試算結果を示したものである。ここでは産
業連関分析を用いて、インバウンド需要が増えた場合の財消費や関連サービスまで含めた影響を考えた。
この分析から、2015年のインバウンド消費による経済効果は、生産誘発効果が6.8兆円、付加価値誘発効
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果が3.8兆円、雇用創出効果が63万人となる。そのうち、2014年と比較した追加的な押し上げ効果は、生産
誘発効果で2.8兆円、付加価値誘発効果で1.6兆円、雇用創出効果で26.7万人となる。
■図表:インバウンド需要による経済・雇用創出効果(産業連関分析)
2014年
(インバウンド消費額2.0兆円)
2015年
(インバウンド消費額3.5兆円)
伸び
生産
付加価値
誘発額
誘発額
(兆円)
(兆円)
4.0
雇用誘発
小売業
宿泊・飲食
サービス業
(万人)
(万人)
(万人)
2.2
36.3
12.9
9.6
6.8
3.8
63.0
25.9
13.5
2.8
1.6
26.7
12.9
3.9
(注)観光庁「訪日外国人消費動向調査」の調査品目別に「購入者単価×購入率×訪日外客数」を計算し、訪日外客によ
る品目別購入総額を算出。品目別購入総額を、各産業への新規需要として計上することで、1 次波及効果(原材料
波及効果)、2 次波及効果(家計迂回効果)を試算した。
(資料)総務省「産業連関表」
、
「労働力調査」
、日本政府観光局「訪日外客数・出国日本人数」よりみずほ総合研究所作成
先月、筆者がオーストラリアを訪問した時に持っていた一つの問題意識は、資源安のなかオーストラリア
が予想以上に底堅い成長を遂げるのはなぜかであった。当社では「資源価格下落にもかかわらず増加す
るオーストラリアの雇用」と題するリポート2を発表しており、オーストラリア経済が依然として堅調さを保つ背
景には、サービス輸出が拡大し、雇用環境が改善していることを明らかにしている。2014年の財・サービス
輸出の内訳をみると、旅行サービスと専門サービスの輸出は合わせて全体の10%超に上り、天然ガスより
も高いシェアを占め、サービス業はオーストラリアの主要輸出産業となっている。サービス業も含めて、発展
するアジアの恩恵を獲得するのが今後の日本の成長戦略であるとすれば、日本にとってオーストラリアの
対応から学ぶべき点は多い。インバウンドは国際収支統計上はサービス業の輸出にあたる。これまでサー
ビス業は輸出できないものという発想の転換が必要になる。同時に、これまで日本では製造業で物の輸出
が中心という発想であったが、こうした発想からの転換も必要だ。今日、日本のサービス業の生産性の低さ
が問題とされているが、海外に目を広げたインバウンドの影響が、こうした状況からの転換のカギを握って
いる。
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松浦大将 「雇用を下支えするインバウンド」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 2 月 17 日)
菊池しのぶ 「資源価格下落にもかかわらず増加するオーストラリアの雇用」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』
2016 年 1 月 13 日)
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