2016/2017 年度香港財政予

中国・香港
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ニュースフォーカス
【2016 年第 3 号】
2016/2017 年度香港財政予算案
三菱東京 UFJ 銀行
香港支店 業務開発室
業務開発室
何 薇波 (HE WEIBO, HELEN)
T +852-2821-3647
The Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ, Ltd.
2016 年 3 月 7 日
A member of MUFG, a global financial group
2016 年 2 月 24 日、曽俊華(John C Tsang)財政長官が 2016/2017 年度(2016 年 4 月~
2017 年 3 月)の香港の財政予算案を発表した。本稿ではその概要について紹介したい。
1.
2015/2016 年度の財政収支と 2016/2017 年度財政予算案の概要
年度財政予算案の概要
2015/2016 年度(2015 年 4 月~2016 年 3 月)の財政収支は当初 367 億香港ドルの黒字を計
画していたが、最終的に 305 億香港ドルの黒字(当初予算比▲62 億香港ドル)で着地の見込
み。これは、2015 年の GDP 成長率が 2.4%とほぼ当初計画どおりだったものの、土地売却が
予定通りに進まなかったことなどにより歳入減(前年比 4.2%)となったことが主な要因。
一方 2016/2017 年度の財政予算案は、世界経済の先行き不透明感が強まり、2016 年の香港の
実質 GDP 成長率が 1~2%にとどまる見通しを踏まえ、4,983 億香港ドル(前年度比 8.9%
増)の歳入に対して過去最大規模の 4,869 億香港ドル(前年度比 14%増)の歳出を計画。
なお、歳出のうち一般会計支出の約 6 割が教育・医療・福祉に充てられる予定で、低所得世
帯への補助金支給(毎年 29 億香港ドル)や高齢者介護施設への資金援助・サービス改善(1
億 4,000 万香港ドル)などが盛り込まれている。
【今後の財政収支の見通し】
【今後の財政収支の見通し
(単位:億香港ドル)
会計年度
2015/16 年度
修正予算案
2016/17 年度
2017/18 年度
2018/19 年度
2019/20 年度
2020/21 年度
一般会計
資本会計
歳入合計
一般会計
資本会計
歳出合計
一般会計
資本会計
総合収支
財政余剰
3,876
699
4,575
3,393
877
4,270
483
▲178
305
305
3,982
1,001
4,983
3,768
1,101
4,869
214
▲10
114
114
4,266
795
5,061
3,841
1,082
4,923
425
▲286
138
138
4,359
838
5,197
4,309
1,178
5,487
50
▲340
▲290
▲290
4,514
874
5,388
4,285
1,313
5,598
229
▲439
▲210
▲225
4,721
906
5,627
4,270
1,330
5,600
452
▲424
27
27
(出所)香港政府の財政予算案をもとに三菱東京 UFJ 銀行香港支店業務開発室作成
1
2. 2016/2017 年度財政予算案で示された政策
年度財政予算案で示された政策の主な内容
で示された政策の主な内容
今回の財政予算案では、中小企業や香港の主要産業である観光業向けの数多くの税務優遇策の
ほか、将来の経済発展に向けたイノベーション促進策が盛り込まれている。主な内容は次のと
おり。
(1) 税務優遇策
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2015/2016 年度の企業所得税の 75%を減額(2 万香港ドルが上限)
2016/2017 年度の商業登記費用を免除
旅行会社 1,800 社に対し 1 年間のライセンス料を免除
ホテル・宿泊施設 2,000 社に対し 1 年間のライセンス料を免除
飲食店 27,000 軒、行商人及び特定食品販売店に対し 1 年間のライセンス料を免除
中小企業向け融資担保スキームの優遇策申請期間を 17 年 2 月末まで延長
2015/2016 年度の個人所得税の 75%を減額(2 万香港ドルが上限)
2016/2017 年度より、父母・祖父母の扶養控除額を増額(60 歳以上の扶養父母・祖父母と
同居の場合+1 万 2,000 香港ドル、同別居の場合+6,000 香港ドル)
(2) イノベーション促進策
① 科学技術・産業分野
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「イノベーション・科学技術ファンド」に 50 億香港ドルを投入し、R&D や科学技術の運
用・研究成果を商業価値のある製品・サービスへ転換することなどを奨励
投資推進署に専門チームを作り、国際イベントの開催や企業・投資者・R&D 機構の香港進
出を支援
香港金融管理局、証券及び先物取引監督委員会・保険業監督管理処が共同で金融科学技術
の専用的なプラットフォームを構築
創業企業の支援のため、20 億香港ドルの「科学技術投資ファンド」を設立し、香港の科学
技術型ベンチャー企業に投資
サイバーポートにおいて、ベンチャー企業に対する 2 億香港ドルの投資資金を確保
ファッション・アパレル業の発展に 5 億香港ドルを投入
② インフラ・貿易分野
• 金融管理局にインフラ建設融資促進オフィスを設置し、投資者・銀行・金融業界を横断し
たプラットフォームを構築し、各種インフラ建設プロジェクトに対して全面的な金融サー
ビスを提供
• ASEAN 諸国との自由貿易協定に関する協議を今年中に完遂する。また、中国本土が第三
国と締結した自由貿易協定及び協議中の自由貿易協定の参加に努める
• 香港空港の第三滑走路建設プロジェクトを推進し、第三滑走路の完成により、2030 年に旅
客数 1 億人・貨物取扱量 9 百万トンを達成する
• 貨物貿易のより一層の利便化を図るため、企業が政府機関に対してワンストップで 50 以
上の税関申告・税関クリアランスに関する貿易文書や資料を提出することを可能とする「シ
ングル窓口」を設立する(初期的措置を 2018 年に打ち出す予定)
2
3.
2016/2017 年度財政予算案に対する評価
今回の財政予算案では、香港の景気減速懸念が強まる中、企業所得税及び個人所得税の減税、
ライセンス料の免除など企業及び個人向けの税務優遇策が数多く盛り込まれていることで、多
数の政党から「実務的な計画案」との高い評価が得られている。一方で、経済問題を解決する
ための目玉政策がないとの批判の声も聞こえる。
また、香港大学が財政予算案発表直後に実施した調査(対象者 528 名)では、「今回の財政
予算案に満足」と答えた割合は 36%(前年度は 45%)、「普通」と答えた割合 31%(前年
度は 28%)、「不満」と答えた割合は 20%(前年度は 18%)であり、前回の財政予算案と
比べて香港市民の満足度が低下していることが伺える。
4.まとめ
.まとめ
今回の財政予算案では経済分野に重点が置かれている。これは、世界経済が不安定な状況下、
香港の 2015 年の貨物輸出額及び小売販売額が 2009 年以降初めて前年比マイナスに転じ、サ
ービス貿易輸出も 1998 年以来の前年割れとなるなど「今年の香港の経済状況は楽観視できな
い」という香港政府の姿勢が表れている。
香港政府は、今回の財政予算案における減税措置などにより個人消費を刺激し香港経済の底支
えを図りたい意向であり、当該政策効果の実現に期待したい。また、現在立法議会では、前回
の財政予算案で打ち出されたコーポレートトレジャリーセンター向けの優遇税制を審議中であ
り、香港経済の更なる発展のためにも当該優遇税制の早期成立に期待したい。
以上
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