リンパ系フィラリア症について (ファクトシート) 2016

リンパ系フィラリア症について (ファクトシート)
2016 年 3 月 WHO
要点
●リンパ系フィラリア症は、リンパ系組織の変化を起こし、身体の局所に異常な腫脹をきたし、疼
痛、重症身体障害、社会的偏見を引き起こします。
●世界の 55 か国において、約 11 億人が、リンパ系フィラリア症の脅威にさらされており、その広
がりを止めるに予防的化学療法として知られる、大規模な予防薬投与治療を必要としています
●2000 年において、1 億 2,000 万人以上の人が感染しており、約 4,000 万人がこの疾患による外
観の変形、機能障害を被っています。
●リンパ系フィラリア症は、予防的化学療法として感染が存在する地域の住民に 2 種類の薬剤を
単回投与することで、感染の広がりを止め、撲滅することができます。2000 年以降、感染の拡大
を阻止するための 56 億 3000 万人分の治療薬が配られました。
●WHO の戦略の実施が功を奏したことにより、31 億 4,700 万人には、もはや予防的化学療法を
行う必要がなくなりました。
●推奨される基本的な治療メニューにより、リンパ系フィラリア症患者に対し苦痛を和らげ、さらな
る障害を防ぐことができます。
リンパ系フィラリア症の特徴
リンパ系フィラリア症は、象皮病として知られていますが、顧みられない熱帯病のひとつです。
フィラリアと呼ばれる寄生虫が蚊を介して人に伝播することで感染が成立します。感染は通常、
小児期に成立し、リンパ系組織に症状の現れないまま障害を起こします。
後に、一生の中で、疼痛を伴う外観の変形、リンパ浮腫、象皮病、陰嚢水腫を起こし、永続的な
身体の障害として現れます。また、患者は、身体の障害だけでなく、社会的差別や貧困によって、
精神的、社会的さらには経済的にも損失に苦しみます。
現在、55 か国の 11 億人が、感染の拡大を止めるには予防的化学療法を必要とする地域に住
んでいます。このうち、約 80%の人々は、アンゴラ、カメルーン、コートジボワール、コンゴ民主共
和国、インド、インドネシア、モザンビーク、ミャンマー、ナイジェリア、タンザニアの 10 か国に住ん
でいます。
世界全体では、推計で約 2,500 万人の男性が生殖器の疾患に苦しんでおり、1,500 万人を超え
る人がリンパ浮腫で苦しんでいます。リンパ系フィラリア症の撲滅は、不要な苦痛を防ぎ、貧困を
削減することに繋げられます。
原因と感染経路
曲友(かねとも)
リンパ系フィラリア症は、糸状虫上科(family Filariodidea)の線虫(回虫)に分類される寄生虫の
感染によって起こります。この細長い線虫には 3 種類があります。
・Wuchereria bancrofti(バンクロフト糸状虫)は、患者の 90%に関与しています。
・Brugia malayi(マレー糸状虫)は、残りの患者のほとんどに関与しています。
・B. timori(チモール糸状虫)も、原因となり得ます。
成虫はリンパ系組織にとどまり、免疫機能障害を起こします。成虫は人の体内で 6~8 年生存
し、その生涯に何百万ものミクロフィラリア(小幼虫)を産み、そのミクロフィラリアが血液中を循環
します。
蚊は感染した宿主(人)を刺して血液を吸うことでミクロフィラリアを取り込みます。ミクロフィラリ
アは蚊の中で感染性をもつ幼虫になります。感染性をもつ蚊が人を刺す時に、感染性の幼虫を
皮膚に置いて行くと、(幼虫が)そこから体内へ侵入します。幼虫はリンパ系に移動し、成虫となり、
感染伝播のサイクルを成立させます。
リンパ系フィラリア症は様々な種類の蚊によって媒介されます。例えば、都市部や郊外に広く分
布する Culex(イエカ属)、農村地帯に分布する Anopheles(ヤブカ属)、主に太平洋の島嶼の常在
地域に分布する Aedes(シマカ属)です。
症状
リンパ系フィラリア症には、無症候期、急性期、慢性期があります。感染しても多くは無症候性
で、外見からは感染していることがわかりません。しかし、感染の無症候期には、既にリンパ系組
織と腎臓に障害を起こし、免疫機能を変化させています。
皮膚、リンパ節、リンパ管で起こる局所炎症による急性発作は、しばしば慢性のリンパ腫脹や
象皮病を伴います。この発作は、寄生虫に対する身体の免疫反応によって起こることがあります
が、そのほとんどは、リンパ系障害によって正常な防御機構の一部が失われ、その皮膚に細菌
感染が起こった結果です。
リンパ系フィラリア症が慢性期に達すると、四肢のリンパ浮腫(組織腫脹)または象皮病(皮膚
や組織の肥厚)や陰嚢水腫(液体の貯留)を起こします。乳房や生殖器への影響もよく起こります。
そのような身体の変形は社会的な差別を起こし、収入の減少や医療費の増大による経済的困窮
をもたらします。孤立や貧困による社会的経済的な重圧は甚大です。
WHO の取り組み
WHO 総会決議 50.29 は、加盟国に対し、公衆衛生上の問題としてリンパ系フィラリア症を撲滅
することを促しています。これに応えて、WHO は、公衆衛生上の問題として、疾患の撲滅を目指
すリンパ系フィラリア症の撲滅のための世界計画(Global Programme to Eliminate Lymphatic
曲友(かねとも)
Filariasis; GPELF)を 2000 年に開始しました。2012 年には、WHO の注目されることのない熱帯病
に対するロードマップが再設定され、2020 年までに撲滅を目指すという目標が示されました。
WHO の戦略は、以下の 2 つの重要な内容に基づいています。
・感染が発生している地域のリスクのあるすべての人を対象に、毎年、大規模に治療を実施する
ことによって感染伝播を遮断すること
・疾患管理の向上と身体障害の予防活動を通してリンパ系フィラリア症による苦痛を軽減するこ
と
大規模な治療(集団に対する薬剤投与)
リンパ系フィラリア症の撲滅は、感染の拡大を抑え込めれば実現できます。大規模な治療は、
毎年、リスクのあるすべての人に、アルベンダゾール(400mg)とイベルメクチン(150~
200mcg/kg)または、アルベンダゾールとジエチルカルバマジン (6mg/kg)という 2 種類の薬剤を
単回投与します。
これらの予防的化学療法薬は、寄生虫の成虫に対しては限られた効果を及ぼすのみですが、
血中のミクロフィラリアを駆虫することができます。感染が発生している地域に住むすべての人を
対象とした大規模な治療を 4 年から 6 年間継続すれば、感染伝播のサイクルを遮断することが
できます。
GPELF の開始時に、81 か国でリンパ系フィラリア症は風土病と考えられていました。その後の
疫学データから、9 か国では予防的化学療法が必要ないことが示されました。2000 年から 2014
年までに、少なくとも 63 か国で一度は 10 億以上の人に 56 億 3,000 万回分の治療薬が配布され、
多くの場所で感染伝播を大きく減少させることができました。最近の研究データでは、感染リスク
のある対象人口におけるリンパ系フィラリア症の感染伝播は、GPELF を開始してから 43%減少し
たことが示されています。2000 年から 2007 年の計画による経済効果は全体で少なくとも 240 億
米ドルと推計されています。
現在は、73 か国で風土病と考えられていますが、このうち 18 か国では推奨戦略が順調に実行
されて、大規模な治療を中止して、撲滅が達成されたことを示すためのサーベイランスを行って
います。
しかし、予防的化学療法は 2015 年末までにすべての流行地域には届いておらず、まだ 55 か
国では必要とされています。2020 年までに撲滅目標を達成し治療を終了するために、約 28 か国
では戦略の強化が必要とされます。
疾患管理
疾患管理と身体障害の予防は公衆衛生の改善にとって非常に重要で、保健システムの中に十
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分に組み込まれる必要があります。手術によって、水腫の大部分の患者は症状を軽減させること
ができます。リンパ浮腫と急性炎症性発作の臨床的な重症度は、衛生管理、皮膚の手入れ、運
動、障害肢の挙上などの簡単な対策によって改善させることができます。リンパ浮腫を伴う人は、
疾患管理と病期の進行抑制のために、生涯にわたり治療を継続できる環境にいなければなりま
せん。
GPELF は、リンパ系フィラリア症が現存するすべての地域において、リンパ系フィラリア症の慢
性期症状に関連するすべての人々への最低限の医療支援を提供できる環境を整備し、それに
よって苦痛を軽減し、生活の質の改善することを目指しています。
以下に掲げる最低限の医療支援を患者に提供できれば、2020 年での成功は達成されるでしょう。
・腺リンパ管炎(ADL)の症状発現に対する治療
・リンパ浮腫の進行を抑制し、ADL の炎症発現を軽減するためにリンパ浮腫と水腫の管理に対
する分かりやすい対策を行うためのガイダンス ・水腫の手術
・予防的化学療法もしくは患者治療により残存する成虫やミクロフィラリアを破壊するための抗
フィラリア薬を用いた治療
媒介する蚊の制御
媒介蚊の駆除は、WHO に支持されているもうひとつの補助戦略です。この戦略は、リンパ系
フィラリア症やその他の蚊が媒介する感染症の伝播を減少させるために用いられます。殺虫剤
処理された蚊帳や屋内残留タイプの殺虫スプレーなどの対策は、人を感染から保護することを手
助けします。媒介蚊の駆除は、予防的化学療法を行わずにリンパ系フィラリア症を撲滅する選択
肢になります。
出典
WHO:Lymphatic filariasis. Fact sheet. Updated March 2016
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs102/en/index.html
この PDF ファイルは、厚労省( FORTH )が WHO のファクトシート(英文)を
翻訳したものです。
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曲友(かねとも) 新道有限会社 特殊清掃事業部
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曲友(かねとも)