四谷駅前の歴史環境

土木・地形系
no.6-01
四谷駅前の歴史環境
キーエレメント:駅、外濠跡、歴史的建築、藩邸跡など
□ 概要
四谷駅はかつて外濠だった窪地の上にあり、JR 中央・総武線、地下鉄南北線、丸
ノ内線の交差する中央にあるため、渓谷のと丘に挟まれた地勢の中にある。駅の
内部には擁壁が切り通しを支えており。恒久的なものとしてデザインがなされて
いる。
交通機関・歴史的地形
旧環濠の窪地の底には上智大のグラウンドや体育施設の平地が見下ろせ、JR 四谷
駅ホームを含め、立体的な構造となっていることが一体として見ることが出来る。
上智大学、ホテルニューオータニ敷地は高台となっているが、一帯は彦根藩井伊
家中屋敷、後に伏見宮邸跡地だった場所であり。ニューオータニ庭園と上智大敷
地との間を登る坂は、ほぼ当時の植生のまま、庭園と森の古来の景観が一帯に残
されており、古い緑の中に近代建築のホテルタワーが現れる。
また四谷駅上を渡る陸橋から北の近代的町並みとの間では新旧の景観がくっきり
と区分されている。
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4
2
5
★ check point
0. 紀尾井ホール前から上智大真田堀グランドを
超え、迎賓館前庭の庭園樹木が見える。
左より迎賓館地下に首都高4号線構造が潜る。
1. 四谷駅ホームの安全ドアがアクセントになる。
2. 外濠と森を超えて高層ビルが見える。
3. 旧藩邸の面影を残すニューオータニ庭。
4. 四谷駅ホーム法面のデザインされた擁壁。
5. 中央、総武線の跨線橋。
3
5★
4★
★1
0★
★3★2
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土木・工業系
no.6-02
水道橋駅前土木景観
キーエレメント:駅、歴史的建築、工業遺産など
□ 概要
東西を首都高速と都営三田線、南北を車道と外濠に挟まれ、駅自体が通過動線の
真ん中に、「橋」のように浮いている。
本来、旧軍の砲兵工廠用の駅として作られた工業用交通機関であり、構造も石垣
の上にリベット接合の鉄骨が乗った古典的工業手法で構成されている。
交通機関・歴史的地形
63
意図せずして構造表現主義を思わせる形式となっているが、現在としては関西や
地方にのみ残る古い景観であり、首都圏では珍しい装飾を廃した工業モダニズム
である。
車路や歩行者路、鉄道の各交通導線と飲食店が重層、露出しており、動線とプロ
グラムが一望できる。
1
4
2
5
★ check point
0. 白山通りの交差点から西に水道橋駅を見る。
1. 水道橋駅南側一層目商店の並び。
2. 小石川後楽園南、外濠通りから首都高5号方面。
3. 神田川から首都高5号池袋線を望む。
4. 水道橋駅北側の構造、石の基壇と鉄骨。
5. 水道橋駅南側のピン支持構造とリベット。
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★2
★3
★4
★1★5 ★0
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土木・自然系
no.6-03
飯田橋駅周辺の連続的景観
キーエレメント:並木、土手、擁壁、ポケットパークなど
□ 概要
JR 線路添い東側のコンクリート擁壁「いいだべえ」(公募命名)には1990年、
町作り協議会と武蔵野美術大学学生により鯨の絵が描かれた。
千代田区都心地域では珍しく、また最初期の住民主導による景観改良事業だった。
鯨は学生案の中から選ばれたものだが、歩道トンネルなど、暗く汚いことで犯罪
公園・沿道・直線的地形
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にも繋がりかねない場所を、景観機能面から改善している。
西側に伸びる外濠沿い歩道は、土手の上も歩道の並木とポケットパークが整備修
景され、南側の高層建築も、総合設計の際に統一感をもたらす並木が配置されて
いる。
北側の外濠をはさみ、その向こうに遠く見える隣接区の町並みも遠景となり。駅
から南西方向には
建築中心ではない土木都市計画中心の景観が連続している。
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4
2
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★ check point
0. 飯田橋駅から南西にむかう遊歩道上。
中央線、外濠、外堀通りを経て若宮町まで一望。
1. いいだべえに描かれた鯨の絵。
2. 外濠沿いの土手上歩道。
3. 外濠沿いの土手向かい施設にも連続した並木。
4. 同土手上歩道、ポケットパークが点在する。
5. 早稲田通り、外濠を超える橋、向かいは神楽坂。
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★5 ★1
★3
★2
★4
★0
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建築・造園系
no.6-04
日建設計周りランドスケープ
キーエレメント:並木、植栽、ストリートファニチャー、ポケットパークなど
□ 概要
民間企業の本社施設及び複合開発でありながら、日本最大の建築・都市設計専業
組織の敷地である。
そのため建築周囲の路面には透水性舗装とペイブメントがバリアフリー配慮され
ており、並木の植栽のまわりにも休憩テーブルとして転用できる囲いが付帯して
民間・公開空地・配置計画
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いたり、公開空地の外部からの見えがかりや植栽ストリートファニチャーのひと
つひとつにまで隙のない配慮がある。
隣接の外濠、その上空の首都高5号線との距離も綿密に計算した上で取られてお
り。
統一感と周辺配慮、接続という点において、最も教科書的に整合性がとれた景観
形成例と言える。
1
4
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5
★ check point
0. 首都高五号池袋線とその下を流れる日本橋川、
左手にそれと向かい合う日建設計社屋。
1.4棟の一体開発、棟同士の距離。
2. 公共の歩道と歩道が一体化しバリアフリー化。
3. 敷地周囲の公開空地は匿名・有機的デザイン。
4. 珍しいテーブル風ストリートファニチャー。
5. 隣地のガーデンテラス内の公開部分、
比すると若干賑やかなデザイン。
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★5
★3
★2
★4
1★ ★0
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歴史系
no.7-01
皇居周辺・お堀端エリア
キーエレメント:江戸城内堀、遊歩道など
□ 概要
北の丸公園、皇居前広場がある皇居外苑、そして千鳥ヶ淵戦没者墓苑は、環境省
が維持・管理する国民公園である。日本武道館がある北の丸公園は森林公園とし
て造成され、皇居外苑とあわせて散策をすれば一年を通して花緑を楽しむことが
歴史的建造物・都市環境計画
69
できる。皇居前広場は、玉砂利が敷き詰められ、手入れされた芝生の上にクロマ
ツが点在する空間で、関東大震災時には避難場所として用いられ、昭和に入ると
儀礼空間としての性格を次第に強めていったものの、占領期にはさまざまな集会
が行われていた。しかし現在では、奉祝行事以外に使われることはほぼない。
1959 年に創建された千鳥ヶ淵戦没者墓苑は、厳かさや静けさの雰囲気を尊重する
ため、常緑樹が主に植えられている。園内に植樹された約四千本の木々は年月と
共に成長し、隣接する千鳥ヶ淵緑道が 1 年を通して見せるさまざまな表情と共に、
墓苑の景観を形成している。
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6
★4
★1
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★5
7
★2
★6
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★0
★8
3
8
★ check point
0.和田倉門から和田倉濠にかかる木造の橋
4.牛ケ淵ごしに昭和館(左)と九段会
を望む。雨の景観。
館(右)を望む。
1.代官町にたたずむ交番。
5.清水門を望む。
2.千鳥ヶ淵さんぽ道から千鳥ヶ淵の
6.竹橋近郊のポケットパーク。
水面を走る首都高速道路を望む。
7.大手濠沿いの歩道。
3.半蔵門にたたずむ交番。
8.皇居前広場の黒松林。
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2013年度までの千代田学先行研究「都心再生に向けたデジタル都市アトラスの構築」成果
である、色相により地形表現がなされた3D地形図に本年度研究のサーベイ結果を重ねる。
グリッド上に並んだ GIS データのマップに、現地まちあるき・サーベイをした区域を重ね、必
要なデータ区域を切り分けた。
現地まちあるき・サーベイをした区域7つを
地図上に分類。
地図から読み込んだ区域に合わせ、GIS デー
タの目次マップが7区域に相当するグリッド
区画部分を対応させる。
デジタル都市アトラスと景観マップのリンク
立体デジタル都市アトラス・GIS データ・デジタルリンクマッピング
区全体の3D 地図上に景観分類エリアを対応させ、この区域分けから各区域データ詳細にリンクが貼られる。
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各区域データ、地形により表示できない部分もあるため2種類の角度から視点を切り取
る。南方向、上方45度より。
北
南東方向45度、上方45度から。
北
選ばれた各区域データ、の上に景観マップデータを対応させ、リンクを貼る。
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画面上右列の景観写真をスク
ロールする。
同時に画面左の地図上の対応
エリアの赤部分が変化する。
その一帯の景観であることが
認識される。
デジタル都市アトラスと景観マップのリンク
立体デジタル都市アトラス・GIS データ・デジタルリンクマッピング
景観マップの景観エリア(赤部分)に景観写真画像が対応する。
73
2013年度までの先行研究「都心再生に向けたデジタル都市アトラスの構築」に、
本年度研究のサーベイ結果を重ねることで、良好な景観が存在する条件についてあ
る知見が得られた。
前提として、法政大学千代田学ゼミ、及び授業に参加した、学部1年生、3年生、
大学院修士課程学生達とのまちあるき調査をし、(メンバー50名以上に配布したま
ちあるきマニュアルと経路の例を付す)また建築、都市研究者達によるまちあるき
調査も重ねて行った。
特定街路や地区に偏ることなく、可能な限り区内くまなく細い路地に至るまでを網
羅して踏査したことがわかる。
その結果を2013年度研究成果3 D デジタル地形マップに重ねることで判明した
こととして、
・1良好な景観の局所的偏在
・2景観の特徴的地形への依存、が挙げられる。
1については、近年の都心再開発によるランドマークの出現や、過去の歴史遺産が
中心となり、重要な景観として整備のテーマとなってきたことが関連する。(例 :1
−3丸の内中央口駅前広場、2−5国会議事堂前大通り 4−5靖国神社周景計画 な
ど)
それらはおのずとデザイン上でのキーポイントとして意識され、景観を形成する要
因となった。
2については、武蔵野台地との境界線の高低差、段差(例:3−3男坂女坂、5−
4神田明神)。河川やお掘端の渓谷などのある場所(例:3−1聖橋、6−1四谷駅
周辺、6−3飯田橋外堀沿い)など。
落差があり上方が開けた地形において、人工物や自然など、複数の景観要素が複合
的に視界に入りやすく。視覚的に特徴的な景観を形成しやすいのだろう。
これらは、私たちが調査開始当初に景観の定義を議論する中で出ていた、
「重要な歴史との関わりがある空間」「複合的な要素が組み合わさったもの」が良好
な景観をつくっているのではないか、との予測とも合致する。
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本調査は、2020年に開催が予定されている東京オリンピック2020に際来
日した観光客が、東京の観光をスムーズに行うことが出来るかどうかのための調
査である。
ひとつには、『景観デザインマップ千代田』を制作するにあたって、本データだけ
では、スムーズな観光が行えないのではないだろうかということもあったが、そ
れだけでなく、地域の人々が自分の住んでいる町がどのようになっているのか、
また、どのように形成されてきたのかを知るために本当に効果的に掲示板、案内 ( 地
図 ) 板、町名由来板などが作られているのかを調査するものである。
秋葉原・淡路町・岩本町エリア
町掲示板、案内 ( 地図 ) 板、町名由来板調査
★ 調査方法
本研究は、法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工
学科高見研究室の学生を3チームに編成し、『景観デザイ
ンマップ千代田』における秋葉原エリアにおける観光客
が見るであろう掲示板、地図、町名由来板の調査である。
学生には、
「観光客が通りそうな道」を自由に選択させルー
トを歩かせた。
その歩いたルートの中に、観光客が見るであろう掲示板、
地図、町名由来板があればそれを地図上にプロットし、
その特徴を写真で記録させた。また、その掲示板に使わ
れている言語はどの国からの観光客に対応しているのか
について調査を行ってもらった。同時に、「どのような形
状の掲示板なのか?」、「どのような表記が書かれている
のか?」、
「どこに設置されているのか?」など、その他思っ
たことをヒアリングしている。
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町名由来(歴史)の書かれた掲示板
★ 歩行調査ルート
本研究は、法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工学科高見研究室の学生を3チームに編成
し、『景観デザインマップ千代田』における秋葉原エリアにおける観光客が見るであろう掲示板、
地図、町名由来板の調査である。
学生には、
「観光客が通りそうな道」を自由に選択させルートを歩かせた。その歩いたルートの中に、
観光客が見るであろう掲示板、地図、町名由来板があればそれを地図上にプロットし、その特徴
を写真で記録させた。また、その掲示板に使われている言語はどの国からの観光客に対応してい
るのかについて調査を行ってもらった。同時に、「どのような形状の掲示板なのか?」、「どのよう
な表記が書かれているのか?」、「どこに設置されているのか?」など、その他思ったことを列記
してもらっている。
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英語表記無し
韓国語表記無し
中国語表記無し
英語表記無し
韓国語表記無し
中国語表記無し
英語表記無し
韓国語表記無し
中国語表記無し
(後付けのシール)
英語表記あり
韓国語表記無し
中国語表記無し
用途の異なる地図が併置されているが、
設置場所が近接していないため両方を
同時に見れない。
現状では、古地図が腰を屈めないと見る
ことができない。
※本参考事例は麹町エリアの町名由来板の写真を使用しています。
秋葉原・淡路町・岩本町エリア
町掲示板、案内 ( 地図 ) 板、町名由来板調査
★ 調査結果
調査全体を通して、公共が提供する情報として千代田区
全体の中でトータルに計画されていないことがわかった
。
エリアごとに無秩序に、地図板や町名由来板及び環境設
計基準の説明板が設置されているのが現状である。
「誰のために、どこで、どのような情報を提供している
のか」が都市全体を観光してもらう人にとって不親切な
情報になってしまっている。
とくに、デザインや言語のフォーマットが統一されてい
ないことが問題である。地域の特色を生かすためにデザ
インに個性をもたせようという試みはうかがえるが、日
本的な文化コードを理解しない海外からの観光客にとっ
ては非常に不親切であるように思われる。
また、今回のことは地図板や町名由来板及び環境設計基
準の説明板だけではなく、それを見るための環境整備の
必要性も見受けられた。
今回の調査の中で見えてきた具体的な問題について右記
にまとめる。
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★ 秋葉原町名由来板実態調査報告書
具体的な 問題点
調査員達からは以下のような報告がなされた。
○路上に設置されている町名由来板の脇に設置されている地図板の上部が常に北
方向を向いているわけではない。
海外の地図板は、必ず北向きになっているためそのルールが理解できないと思
われる。
○一般に市販されている『観光マップ』と載っている地図板の情報が合致しない
ため、路上に設置してある地図板と隣り合っている町名由来板を自分の位置情
報と照らし合わせてみることが出来ない。
○地図板や町名由来板及び環境設計基準の説明板には、詳細情報を見るために
バーコードが貼られておりインターネット上の掲示サイトに飛べるようになっ
ているが、犯罪が多様化している昨今において、公共のものに付されていると
はいえ活用を控えてしまう。
○電子情報が発達している現在において地区の町名由来板及び環境設計基準の説
明板を見ることがない。気になれば検索エンジンで調べてしまうので、検索エ
ンジン程度で調べられる情報であれば、必要がない。だからといって、長文の
説明を掲載しても読むことがないように思われる。
○地図板や地区の町名由来板及び環境設計基準の説明板の前に駐輪されているこ
とが多く、掲示板自体の存在に気づかない。または、気づいたとしても見えづ
らいので活用されていない。
○いろいろなフォーマットの掲示板があるが、インフォメーションマップサイン
のある都や区の管理する地図板や町名由来板の歴史及び環境設計基準の説明板
意外、海外の人には自分たちにとって必要な情報かわからない。
○秋葉原は大型店舗ではなく小型の商店が立体的に組み合わさっているので立体
的な情報が必要となる。ただ、そうした情報が掲示されているわけではないの
で、平面的な地図板や地区の町名由来板及び環境設計基準の説明板の情報はあ
まり必要がないように思われる。
○駅から遠い場所の名所旧跡の案内が出されていることがあるが、一枚の地図を
暗記して遠い場所までたどり着くことはない。
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●解説抄訳(簡体中国語)
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法政大学 エコ地域デザイン研究所
平成26−27年度 千代田学研究成果
「景観デザイン MAP 千代田」
2015 年 3 月 初版1刷発行
法政大学エコ地域デザイン研究所
住所:千代田区富士見 2-17-1(法政大学市ケ谷キャンパス内)
TEL/FAX:03-3264-9517
URL:http://eco-history.ws.hosei.ac.jp/
E-mail:[email protected]
高見 公雄 (法政大学)
金子 祐介 (景観デザイン支援機構)
小池 公二 (景観デザイン支援機構)
淺川 敏 (写真家)
森田 大貴 (ZOOM)
笠置 秀紀 (ミリメーター)
岸 佑 (国際基督教大学アジア文化研究所)
田宮 晃志 (ブラウ・トラム・アーキテクツ)
辻 彩香 (武蔵野美術大学)
稲葉 唯史 (法政大学)
新井 陸 (法政大学)
朱 安琪 (法政大学)
協力:TDA(NPO 法人景観デザイン支援機構)
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