平成27年度METI貿易会議(航空機)に参加して

工業会活動
平成27年度METI貿易会議(航空機)に参加して
1.はじめに
総合重工業会社となった。航空機関係はヘリ
経済産業省主催による貿易会議(航空機)
コプター、航空機、エレクトロニクス、防衛・
で、満岡次郎SJAC国際委員長を団長とし、平
セキュリティシステム、宇宙の事業から構成
成28年2月8日から5日間、イタリア、ドイツ
され、2014年の売上146億ユーロのうち航空
の航空宇宙企業、研究所など9ヵ所(表1、訪問
機は約21%(31億ユーロ)である。航空機では、
先一覧を参照)を21社/団体からなる合計40
ターボプロップ機ATR42/72、国際共同開発の
名で訪問した。以下にその概要を紹介する。
戦闘機(JSF、Eurofighter、トルネード)、無人機
/戦闘無人機(Neuron、Sky-Y、MALE2020)、
2.訪問先概要
軍 用 輸 送 機(C-27J)、軍 用 練 習 機(M-345、
(1)Finmeccanica社(旧Alenia Aeromacchi社)
M-346)、洋上偵察機(ATR42MP/72MP)など
Alleso Facodo 氏(Aerostructure Division,
を開発・製造してきており、1913年から2016
Managing Director)他の説明によると、同社は、
年現在までに30,000機以上の航空機を製造し
1913年に単葉機製造会社として設立された
て き た 実 績 が あ る。SESAR&SESAR2020 や
Nieuport-Macchi社を起源とし、Aeritalia社、
Clean Sky1、Clean Sky2といった欧州の共同研
Alenia社、Fiat社、Romeo社、SIAI Marchetti社
究 開 発 に Airbus 社 や THALES 社 等 と パ ー ト
などとの合弁を経て、自動車、造船、鉄道、
ナーシップを結んで参加している。
電子機器などを製造するイタリアを代表する
イタリア北部に4工場、南部に4工場あり、
表1 訪問先一覧
No. 企業・研究所名
1 Finmeccanica社
所在地
製品概要など
ナポリ(伊)
ターボプロップ機胴体製造など
Microtecnica社
トリノ(伊)
飛行制御機器
(UTAS)
Fraunhofer 研究所
3
アーヘン(独)
レーザー加工研究、先進機械加工研究
(ILT、IPT)
Diehl Aerospace
4
ユーバーリンゲン(独)飛行制御機器
Systems社
2
5 Liebherr社
リンデンベルグ(独) 装備品
6 EOS社
ミュンヘン(独)
3Dプリンタ機器
ミュンヘン(独)
Airbus Defense, Airbus Helicopter, Ludwig Bolkow
Campus, BDLIとのネットワーキング
8 ESSEI
ミュンヘン(独)
ソフトウエア認証研究
9 Kuka社
アウグスブルグ(独) 生産支援ロボット
7
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Ludwig Bolkow
Campus
平成28年3月 第747号
写真1 Diehl社にて
今回訪問したナポリ郊外のPomigliano工場は
前方胴体構造(One Piece Barrel(OPB):地上
南部グループの1つで、機体構造部門に属し
実証構造)(写真2参照)、及び③モーフィン
ている。同工場の主な製品は、ATR42-600、
グ翼(Wingtipの後縁が飛行中に空気抵抗が低
ATR72-600といったターボプロップ機で、一
減するように変形する翼)が展示されていた。
次構造部組立及びシステム艤装を含む胴体の
①は、複合材先進胴体パネルと呼ばれ、光ファ
完全組立工場である。ここで製造された胴体
イバーを埋め込み、パネル構造の状態をモニ
は、最終組み立てを行っているフランスツー
ターする構造ヘルスモニタリングや、重量軽
ルーズへ送り出している。年間約100機の製
減、製造コスト低減、振動減衰等の効果を検
造があり、1981年からATR事業を開始して、
証するための試作品で、地上実証を経てATR
1,536機を受注し、1,278機を引き渡している。
飛行実験機(FTB機)の胴体上部に装着し、
胴体組立工場では、アルミ製のATRの機首
2015年7月から飛行実験を開始した(写真3参
部分、胴体、尾部の結合を行い、断熱材や操
照)。②の複合材胴体構造、③のモーフィン
縦系統のワイヤーハーネス等の取り付け作業
グ翼も、今後、Clean Skyプログラムにおいて
を見学した。
ATR飛行実験機で飛行実証される計画であ
実験棟(Test Lab)では、Clean Sky1、Clean
る。欧州では、Clean Sky2プログラムの中で
Sky2プログラムで飛行実証するための①複合
リージョナル機の飛行実証について、同社と
材胴体パネル、②複合材のATR実機サイズの
EADS-CASA社が中心となって実施する計画
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工業会活動
である(図1、2参照)。このように欧州では、
板の設計・製造を担当しており、静強度試験
様々な先進技術が地上実証(TRL6レベル)か
機や疲労試験機が置かれ、C-Series向けの疲
ら飛行実証(TRL7以上)できるFTB機が整備
労試験機は作動中であった。最後に同社から
されている。試験棟では、静強度試験と疲労
日本と直接仕事ができたらいい、とういメッ
強度試験の状況を見学できた。同社は、カナ
セージが発せられた。
ダ・ボンバルディア社とBoeing社の水平安定
写真2 One Piece Barrel(OPB)
:
地上実証構造
写真3 ATR飛行実証機(パネル装着)
図1 Clean Sky2 programの体制(Regional機はFinmeccanica社が取り纏め)
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平成28年3月 第747号
図2 飛行実証は、Finmeccanica社とEADS-CASA社が中心(Clean Sky2 program)
(2)UTAS社(旧Microtecnica社)
Mechanical Actuatorでは、5翼ヘリコプターの
Vittorio Murer 氏(Microtecnica, Managing
振動防止アクチュエータがあり、④油圧ユー
Director)他の説明によると、UTAS全社では、
ティリティでは、非常用発電タービンなどを
従業員約20万人、総売り上げ597億ドルの世
挙げた。
界を代表する装備品企業で、9つの事業部を
工 場 見 学 で は、ヘ リ コ プ タ ー 向 け Hydro
持っている。同社は1929年のMicrotecnica社創
Manifoldの機械工場や、スプライン軸の手仕
業に遡り、2013年にUTASに合併された。今
上げ工程、熱処理設備、スクリュー・ジャッ
回訪問したイタリア・トリノ工場はアクチュ
キの組立工程とその修理部門などを視察し
エータおよびプロペラ事業部のアクチュエー
た。主な質問に、「技術開発はこの工場で行
タ・システム部門に属し、世界に20工場ある
われるのか、特化している技術分野はどこか」
うちの一つである。
などがあり、それぞれ、「当該工場でも開発
主な製品としては、①アクチュエータ・シ
を行うとともに欧州の他工場と協力してい
ステムでヘリコプターのメインロータやテー
る、電気・機械の組み合わせに注力しヘリコ
ルロータのプライマリー飛行制御機器、固定
プターの振動防止などに役立てる」という回
翼機で直線アクチュエータや回転アクチュ
答があった。また、装備品の電気化(More
エータを使ったセカンダリー飛行制御機器、
Electric Aircraft:MEA)に向けた課題・方向
アキュームレータやリザーバなどの構成機器
性について質問したところ、ジャミングに対
などがある。②熱制御システムでは、エアサ
する脆弱性への対策が必要とのことで、当面
イクル方式あるいは蒸発方式の空調機器、バ
は電気・機械の効率的な組み合わせを目指す
ルブ、宇宙向け熱交換機器があり、③Electro
とのことであった。
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工業会活動
(3)Fraunhofer ILTおよびIPT
28%、産業界とのプロジェクト(Industrial
Dr. Thomas Bergs氏(Managing Engineer)他
Project)が44%で、残りは政府予算(Basic
の説明によると、同研究所の名前は、Josef
F u n d i n g)と 約 3/4 が 外 部 資 金 で あ る。
von Fraunhofer氏(1787-1826)に由来するもの
Industry 4.0のあり方として、「柔軟な生産と
で、同氏は太陽光のスペクトラム(Fraunhofer
生産性向上に貢献することが利益をもたら
Lines)の発見者であり、レンズ加工に新たな
す」と紹介した。それには、1)関係した
方法を開発し、ガラス細工の指導者でもあっ
技術に如何にアクセスするか、大規模デー
た。同研究所の設立は第2次大戦後の1949年
タを如何に利用するか、2)生産連携を如
で、ミュンヘンに本部が置かれておりドイツ
何に即座に最適化するか、シミュレーショ
国内に66ヵ所の研究施設を持っている。21億
ンで如何にプロセスを予測するか、3)生
ユーロの予算の1/3は連邦政府から、1/3は公
産工程に関し信頼性を確保して如何に短時
的なプロジェクトから、残り1/3は企業プロ
間に作り上げるか、如何に生産システムの
ジェクトから来るものである(図3参照)。
全体設計ができるか、が必要だと述べた。
研究所全体の研究は情報、生命科学、マイ
アーヘン工科大学との共同で研究している
クロ電気、照明、製造、材料、防衛およびセキュ
内容は、治工具および金型製造、軽量複合
リティの7分野に及ぶ。今回訪問したILTは
材の製造、回転機械の製造および修理であ
レーザー技術を、IPTは生産技術を、それぞ
る。また、工具の破壊のメカニズムを明ら
れ研究開発しており、相互の連携が強いこと
かにし工具の長寿命化を図る、切削時の潤
から隣り合わせの建物に拠点を構えている。
滑・冷却法の改善、圧縮機翼端加工時の振
場所はドイツ・アーヘン市郊外でアーヘン工
動防止治具、ウォータージェットによる高
科大学機械工学科のキャンバスに隣接してい
強度材の穴あけ、加工不良による寿命低下、
る。
などの紹介があった。
①IPT
工場見学では、切削加工時の加工物と切
ここでの主な研究対象は、
プロセス技術、
製
子の変形、温度分布や金属塑性の挙動など
造機械、製造品質と金属学、技術管理の4つ
の研究のほか、ミリング加工用のセラミッ
で、2014年は約200名の職員で、
2,750万ユー
ク素材ドリルの展示、ウオータージェット
ロの予算が割り付けられた。2013年の予算
加工で50ミクロンの表面粗さが可能になる
の内訳は、公的な予算(Public Funding)が
といった紹介があった。
図3 予算配分
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平成28年3月 第747号
②ILT
電子、生命科学が挙げられている。ここで
ここではレーザー源についての基礎研究
のIndurtry4.0は、ビッグデータを含むITの
と応用研究の両面を行い、前者はエネル
国 際 化、セ ン サ ー を 多 様 化 し た 自 動 化、
ギーパワー、空間品質、温度品質、スペク
Social Network に よ る 協 調、Product Life
トル品質で、後者は製造、計測、マイクロ
Managementなどを挙げている(図4参照)。
図4 Industry4.0 生産性の向上
最新研究としてレーザー加工をより精密加
者は部品の製造などに、後者は摩耗部分の修
工を可能とするデジタル光学製造(Digital
理などに用いられる。SLMの航空部品への適
Photonic Production)に取り組んでおり、パワー
用として、一体成型の静翼リング、タービン
密度を上げ、高速加工することで、大量製と
シュラウドなど高温部材、軽量な格子構造
複雑成型のそれぞれの部品に対し、従来より
(Lattice Structure)、高温で強度の必要なニッ
製造コストを下げることが可能という(図5
ケル製パイロン・ブラケットなどが研究対象
参照)。
となっている。LDMの一例として高圧圧縮機
また、研究体制は、大学側は基礎研究、企
ダンピングワイ溝の摩耗補修に使う試作例が
業側は製造/市場に繋がる研究にと分離しが
紹介された。また、切削にレーザー光を用いる
ちだが、Fraunhoferではお互いが連携して研
と、硬化する前の炭素繊維布に星形ナットの
究する体制が構築されている(図6参照)。
形状に穴あけし、ナットを差し込み硬化させ
ることで、複合材とナットの取り付けを容易
付加製造(Additive Manufacturing)には2種
にするとともに取り付け強度を高める方法が
類ある。SLM(Selective Laser Melting:選択
紹介された。また、内部組織ICTM(International
的 レ ー ザ ー 溶 融 法)と LMD(Lase Metal
Center for Turbomachinery Manufacturing)がド
Deposition:レーザー金属堆積法)であり、前
イツ内外の企業と共同研究の調整を行ってお
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工業会活動
図5 デジタル光学製造(Digital Photonic Production)の効果
図6 産学連携の研究体制(Fraunhofer)
り、IHI、MHI、森精機など日本企業の名前も
ている。航空部門での売り上げは、①客室関
載っていた。工場見学では、複合材布へのレー
連が4割(フランス・ツールーズに主力工場)、
ザー穴あけ、タービン冷却孔へのレーザー穴
②電子機器などアビオニックス部門で、③残
あけなどの紹介があった。
りはサービス部門などである。今回はアビオ
ニックス部門のユーバーリンゲン工場を訪問
(4)Diehl Aerospace Systems社
した。主な製品は、表示機器、飛行制御ユニッ
Dr. Gerardo Walle氏(CEO)他の説明によ
ト、IMA(Integrated Modular Avionics)、ドア・
ると、同社は1902年の創立で、従業員15,000
スライダー制御機器、高揚力システム制御器
人で30億ユーロの売り上げを持つ企業であ
などである。Thales社とのパートナーとして、
る。売り上げは、航空部門が1/3、金属素材が
A320、A330/340、A380、A350、A400M 向 け
1/3、その他を防衛、制御、計測の事業で占め
に画面表示装置、飛行制御機器を納入してい
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平成28年3月 第747号
る。高揚力装置の制御機器として、エアバス
ない。現在は世界中で子会社は130社で、従
の機種のほか787向けにも納入している。一
業員は41,000人で、2014年の売り上げは88億
方、先進的なキャビンシステムとして、燃料
ユーロである。売り上げは移動クレーンが
電池の技術を核にして、ギャレーカートに燃
23%、建設機械が22%、航空宇宙・輸送機器は
料電池を内蔵し、プラグインすることで必要
13%の第3位で、その他、鉱山機械、サービ
な電力の使用がギャレー内で可能になるシス
スなど合計11部門を有している。航空宇宙関
テ ム(MAGIC:Modular Autonomous Galley
係の工場は世界に6ヵ所あり、ツールーズが
with Integrated Power Cell)や、更にこのシス
空調機器、ブラジルとロシアは機械加工、中
テムを拡張してギャレー以外にも使えるシス
国が降着システム、ドイツ(Friedrichshafen)に
テ ム(DACAPO:Distributed Autonomous
ギヤの加工工場がある。今回訪問したリンデ
Cabin Power)を検討している、という。
ンベルグ工場は飛行制御機器、アクチュエー
工場見学では、スラットやフラップという
タ・システム、降着システムを担当している。
高揚力装置の制御に必要なレバー、位置セン
同工場では、2015年に2,500名が働いており、
サー、表示機器の組み立てエリア、試験スタ
売り上げは8.6億ドルという。表2に同工場で
ンドなどを見学した。ソフトの開発は別棟の
生産する機器の一覧を示す。
エンジニアリング部門で行っているという
特筆すべきは、従来エアバス社の飛行制御
が、V字チャートという手法によるとの説明
器を中心に製造していたが、777XでBoeing社
があった。
の飛行制御機器を開発・製造することになっ
たことである。このため、現在の敷地を拡張
し、777X向けの専用の建屋を新設し、増産す
(5)Liebherr社
Heiko Lutjens氏(Managing Director)他の説
るという。また、今後のエアバス機の増産対
明によると、同社の名前は、Dr.-Ing.E.h.Hans
応に工場を拡張しており、同社の意気込みが
Liebherr氏に由来し、第2次大戦後の復興を推
感じられる。
工場見学では、新設されたばかりの工場の
進するためにタワークレーンなどの建設機器
を製造する会社として、1949年に設立された。
中2階に設けられたSky Walkと称する廊下を
同族会社を継続しており、株式は上場してい
移動しながら、受け入れ検査部門を視察した。
表2 Liebherr社Lindenberg工場での製造機器
システム名
飛行制御
機器
降着装置
民間大型機
A300-600, A310,
A318, 319, A320,
A321, A330/340,
A340-500/600,
A350 XWB,
A380, B777X
A300-600, A310,
A318, A319,
A320, A321,
A350XWB,
Cseries
リージョナル機
CRJ1000, Do228,
ERJ135/145.
Legacy600,
Superjet 100,
Embraer E2
175/190/195
ARJ21,
ERJ135/145,
Embraer170/175,
Embraer 190/195,
Embrael E2 175
搭載機体
ビジネスジェット
Challenger 300,
Learjet 85
Global Express,
Legacy 600,
Lineage
ヘリコプター
AW149, PAH1,
NH90, LUH,
Tiger, EC635,
AW189, Bo105,
X4, EC135,
EC145, T2
AW149, Tiger,
AW139, AW189
防衛機
A400M, AWACS,
Eurofighter, IA63,
Tornado
Eurofighter, F-18,
M346, Transall
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工業会活動
ここでは、傾斜を利用して小部品を移動させ
タの設定の仕方の3つの面でサービスを提供
たり、地下の大型倉庫からリフトやコンベア
している。また、顧客によっては部分的な支
でパレットごと部品を取出し、自動搬送する
援も可能という。製品への適用ステップとし
設備などを使うことで省力化、高効率化を
てMTUでの例を挙げ、最初は1)治工具を3D
図っていた。また、油圧機器の組み立てエリ
Printingで制作する、2)鋳物の代用として部
ア、油電組み合わせ試験設備、降着装置の組
品を製作し、評価試験を行う、3)新たな3D
み立てエリアなどを見学した。
Printing加工に適した設計で部品を製造する、
という3段階方式を紹介した。Liebherr社との
(6)EOS社
Deniz Demirtas氏(Technical Internal Service)
共同試作で、5,000psiに耐える油圧ブロックを
3D printingで製造し、55%の重量軽減を狙っ
他の説明によると、同社はDr. Han J. Langer氏
ているという。工場見学では、展示場にプラ
が1989年に設立した3D Printingの会社である。
スチック成型が2台、金属成形が2台置かれ、
現在は売上2.6億ドル、従業員は800人の企業
実演を行っていた。
で あ る。工 場 は ド イ ツ ミ ュ ン ヘ ン 郊 外 の
Kraillingが主力工場だが、スウェーデンにも
工場を持っている。同氏はレーザー計測を
(7)Ludwig Bolkow Campus
ドイツ航空宇宙工業会(BDLI)が主催者、
扱っていたが、新たな適用を検討していたと
Airbus社がHostで、会場をミュンヘン郊外の
き、BMW社の依頼でプラスチック部品製造
産学官研究施設Ludwig Bolkow Campus(以下
の改良をもとめられ、レーザーを使った製造
LBC)にて昼食会に併せて意見交換会が開催
法を売り込むことでそのビジネスを始めたと
さ れ た。冒 頭、Airbus Group 社 の Siegfried
いう。BMWの後にはBoeing社がプラスチック
Knecht(VP Head of CTO External Affairs
部品の製造を要請し、その後、金属系でGE社
Germany)氏から挨拶があった。同社は14万
やMTU社との協力が進んだ。金属系の開発初
人の従業員を抱え、1,664億ユーロの受注があ
期には、最終製品の材料強度のばらつきを狭
り、昨年の売り上げは607億ユーロで、研究
めることが重要であった。金属系の装置では、
開発には34億ユーロを投資している。Airbus
レーザー出力200Wから1,000Wまでの装置を
Group Innovation(AGI:エアバス社の中央研
そろえており、今後は400Wレーザーを4軸配
究所)には世界12ヵ国で1,000人の研究者がお
備し、同時に加工することで加工時間を短縮
り、TRL(技術成熟度)2から5の範囲を研究
することに挑んでいる。現在は別々の部品の
対象としている。ここL BCは産学官の連携を
加工を同時に行うものであるが、さらに将来
図っており、TRL3から5を扱い、エアバス社
は、1つの部品に対して4軸のレーザーを同時
の民間部門や防衛部門はTRL6-9を扱うことに
にいろいろな部分に照射し、加工時間を短縮
している(図7参照)。
することも将来の視野に入れているという。
バイエルン州政府が支援し2012年に設立さ
また、加工時間を短縮するには、レーザー加
れたLBCのManaging Director Alexander Mager
工の前処理や後処理(バリ取りや熱処理)も
氏は、このキャンパスにはAirbus Defense社の
装置に組み込むことで、全体の加工時間を短
本社もこのキャンパスにある。ミュンヘン工
くする方式も採用している。顧客に対して、1)
科大学もここに持ち藻由来の代替燃料の研究
材料選定、2)装置のシステム、3)加工パラメー
を行っている、などと説明した。このほかの
32
平成28年3月 第747号
図7 LBCパートナーの研究対象範囲
企業は、シーメンス社、評価試験などをおこ
者の代表と、産業側の要求を代表するLBCが
なうiABG社、大学ではミュンヘン大学などが
調整を行い、研究開発、教育、とその展開を
ここに集まっている。共同研究のモデルとし
行っている(図8参照)。
て、大学などMunchen Aerospaceと称する科学
2015、2016年に1,100万ユーロの投資を受け、
図8 LBCとMunchen Aerospaceの関係(調整、コラボレート)
33
工業会活動
パワーラボ、複合材積層機械、セラミック繊
のつながりは1924年のドルニエ社の支援によ
維編み機、EOS社の3D Printing機械などを設
る爆撃機製造に遡り、戦後BK-117やV2500な
置した。
どで関係を続けており、今後も関係の強化や
パワーラボは、ジェットエンジンと電動
理解を深めることが望ましく、6月のドイツ国
ファンを組み合わせた、新しい「ハイブリッ
際航空展を活用してほしい旨の挨拶があった。
ド航空機」のコンセプト実現に向けた研究の
一つであり、会場には、6基の電動ファンと
(8)ESSEI(Embedded Systems Software
機体尾部に搭載のタービンエンジンから構成
Engineering Institute)
された「E-THRUST」のコンセプトモデルが
ドイツ航空宇宙工業会(BDLI)の技術ソフ
ト ウ ェ ア ー 委 員 会 の 指 導 の 下、Aerospace
展示されていた(図9参照)。
Airbus HelicopterのMichael Rudolf氏は、同
Embedded Solutions GmbH社、Diehl Aerospace
社が従業員23,000人、売上8兆円、官民の売り
社、Liebherr Aerospace社、Airbus Defense and
上げ比率は1対1、特に民間のヘリコプターの
space社など7社の企業やミュンヘン工科大学
シェアは44%で世界一の企業と紹介した。日
などとともに2014年に設立された仮想研究所
本でもMETI支援のもとに医療装備品の搭載
(Virtual Institute)で、2020年までのプロジェ
など研究開発施設を作っており、H145のアッ
クトである。
プグレード化や防民共用の次世代ヘリコプ
本件の責任者であるDiehl社のWerner Burger
ターX9の共同開発にパートナーを探している
氏、Eduard Harwardt氏によると、その目的は、
という。
航空宇宙分野でのソフトウェア・プログラミ
最後に、BDLIのStefan Brundes氏から今回の
ングの複雑さを評価し、制御することで、ソ
日本の訪問団を歓迎し、ドイツ人気質が核に
フトウェアの作成コストと発生するリスクを
なる技術をしっかり持って勤勉に働くことが
抑止することである。具体的には、1)実行可
航空宇宙産業を支えていると述べた。日本と
能な仕様の作成や設計/評価モデルの作成、
図9 E-THURUST概念図
34
平成28年3月 第747号
標準言語などモデル基準の開発、2)インター
との連携で新たな知見を得ることができ、博
フェイスの標準化やコードの評価の自動化な
士号を取得した学生が航空宇宙産業へ就業す
どを含むソフトの作成、3)公開されているソ
ることで産業強化が達成できる、と結んだ。更
フトの利用、4)アーキテクチュアとセキュリ
にミュンヘン工科大学からの発表では、同工
ティ、5)複雑さの評価・予測を行うとしてい
大の機械科の中に航空専攻があり、Diamond
る(図10参照)。これには、EASA(European
DA42 MPPというFlying Test Bedを使ったFBW
Aviation Safety Agency:欧州航空局)との連
な ど の 試 験 評 価(写 真 4 参 照)や、Airbus
携も図られている。
Defense and space 社 が 主 導 の 無 尾 翼 無 人 機
また、企業間の連携が技術力を強め、大学
「SAGITTA」プロジェクトの一環で研究して
図10 仮想研究所(Virtual Institute)の概要
写真4 Flying Test Bedを使ったFBWなどの試験評価
35
工業会活動
いる無尾翼無人機スケールモデル機の空力特
工場見学では、同大学の設備として、ダイ
性改善(図11参照)、及び航空機の軌道最適
アモンド・エアクラフト社のDA42機の飛行
化研究の成果の一例として、Red Bull Air Race
シミュレータ(写真5参照)、圧力センサやジャ
を模擬した航空機の軌道最適化とその比較
イロセンサの較正設備、自律飛行の予備検証
(図12参照)などの紹介があった。
(写真6参照)などを見ることが出来た。
図11 無尾翼無人機「SAGITTA」コンセプト
図12 Trajectory Optimization(航空機の軌道最適化)
36
平成28年3月 第747号
写真5 Flight Simulators(DA42)
(9)Kuka社
同社は1898年にJohann Josef Keller氏とJacob
写真6 GNC Subsystem
体自動製造工程では、組立所要日数が現在6
日 か ら 4 日 へ 短 縮 す る こ と が 可 能 と い う。
Knappich氏が家庭用機器を製造する工場とし
Siemens社向けでは、配置精度±1㎜、持ち上
て創立し、第2次大戦後は、家電向け自動溶
げ距離200㎜、荷重56t、レーザーによる障害
接機器、自動車の溶接作業用ロボットの製造
物検知可能な全方位駆動搬送ロボットを用い
などを手掛け、世界で12,000人の従業員、売
て鉄道車両が転回しながら組立てられていく
り上げ21億ユーロ(2014)の規模になってい
様子が紹介された。最大年間280万台、400種
る。ロボット制御の有力企業で、日本のファ
類以上のロボットを生産可能な工場を視察し
ナック、安川電機、スイスABB社とならび「ロ
た。まず、6軸の大型ロボット製造現場では、
ボット世界4強」と言われている。
ヨーロッパを中心に、自動車メーカや一般機
Charlie Martin氏( Vice President Business
械メーカへ次々と出荷されていた。次に、人
Unit Aerospace)他によると、同社には4つの
工知能を搭載した7軸の小型ロボットの製造
事業部門があり、それらは(1)Robotics(アー
ラインが紹介された。7軸すべてにトルクセ
ム型ロボット単体、自動搬送車、軍用無人搬
ンサを内蔵し、人間の腕に近い危険防止の感
送車)、(2)Industries(レーザー溶接機等の
知や動作が実現可能となる。また、製品の全
産業用)、(3)Systems(自動製造工程)、(4)
数検査を実施しており、大小さまざまな20台
Swisslog(医療・物流システム)である。同
近いロボットが安全用ケージ内でペイロード
社にとってのロボットは“Humans Job Better”
を模した錘を高速で振り回して、即座に止め
との考え方で、ドイツの2014年の労働者平均
る動作を繰り返していた。
年齢が50歳であり、自動車産業などで退職者
が今後大量に発生するため、ロボットの導入
が不可欠であると考えている。
同社のAerospace部門は、
自動車及び先端技術
3.所感
(1)欧州では、Clean Sky2プログラムの中で
リ ー ジ ョ ナ ル 機 の 飛 行 実 証 に つ い て は、
ソリューションと共にKUKA Systems GmbH
Finmeccanica社とEADS-CASA社が中心と
に属し、最終組立ラインのロボット化、駆動
なって実施する計画である。このように欧
搬送ロボットなどを販売している。また、ボー
州では、様々な先進技術が地上実証(TRL6
イング社の4万ヵ所のリベット作業がある胴
レベル)から飛行実証(TRL7以上)できる
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工業会活動
FTB機が整備されている。我が国も胴体構
(3)ESSEIに関し、ミュンヘン工科大学の成
造などを改造できるような飛行実験機(FTB
果発表や工場見学からは、航空宇宙分野で
機)を保有し、飛行実証した技術を世界に
のソフトウェア・プログラミングの複雑さ
アピールする必要性を実感した。
を評価し、制御することで、ソフトウェア
の作成コストと発生するリスクを抑止する
(2)ドイツの研究機関Fraunhofer(ILTおよび
という、仮想研究所の設立目的について本
IPT)では、連邦政府、公的なプロジェクト、
質的な説明を受ける事が出来なかった。し
企業プロジェクトが均等に予算を準備し、
かしながら、産学が連携して、産業界が将
基礎研究(∼TRL4相当)と実用化研究(TRL5
来の航空機に向けた研究開発プロジェクト
∼9相当)をつなぐ産学連携研究を実施し
を実施すること、また実機を使った研究を
ており、産官学が有機的に連携し成果を創
実施することは、学生にとって航空機産業
出していると感じた、我が国の産官学の連
に対する意識が高揚することに大きく役
携の在り方についても、考察する必要性を
立っていると感じることができた。
感じた。
〔(一社)日本航空宇宙工業会 技術部長 伊藤 一宏、国際部長 板原 寛治〕
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