中南米ビジネスの新局面

国際ビジネス情報誌
平成 28 年 4 月15日発行
(毎月 15 日発行)
第 66 巻 第 785号
新たなビジネスのヒントを!
4
米 国
世 界
ロシア
2016
April
シェールガス輸出に黄信号
付加価値で競争力維持・強化
安定政権の中に潜む“不安定”
特集
中南米ビジネスの新局面
資源ブーム後の経営環境
CONTENTS
特別インタビュー
2016 APRIL
グローバルビジネスを成功に導く
外国人材活用の秘訣
ヘールト・ホフステード博士
特集
特別リポート
中南米ビジネスの新局面
欧州市場に挑む
中堅・中小企業 ~資源ブーム後の経営環境~
4
07
中南米経済と経営環境の変化 08
ポスト資源ブーム
新ステージでの企業の対応 11
経営環境変化への対応:4 つのポイント 15
域内外の貿易協定を活性剤に 20
パナマ 運河拡張で LNG ハブに 23
日本企業の戦略は食料セクターに照準 24
メキシコ 製造拠点から消費市場へ 28
アルゼンチン 自由主義経済路線に急転換 32
キューバ フロンティア市場での商機は? 36
02
49
中堅・中小企業にもチャンス 50
英 国 幅広い分野に商機 52
ドイツ 深化する日独連携 54
フランス クールジャパンの発信拠点 56
スイス “スイス製”を支える日本の技 58
北 欧 アジアへの近道? 60
オーストリア ダイナミックな事業展開の拠点 62
コラム サービス産業進出先としての欧州 64
コラム 日本食人気を商機拡大につなげる 66
年間 INDEX
2015 年(1 ~ 12 月号)掲載記事一覧 40
モスク入り口と赤の砂漠(サウジアラビア)
(p.46 ~物価ウオッチング)
A R E A R E P O RT S
世界のビジネス潮流を 読 む
エリアリポートの読みどころ 紹介 67
【世 界】 付加価値で競争力維持・強化
【中 国】 インバウンド促進で組む 【ASEAN】 統合下の商機を探る
70
【米 国】 シェールガス輸出に黄信号
68
72
74
【欧 州】 EU 基金を市場参入の機会に
76
【ロシア】 安定政権の中に潜む
“不安定” 78
【エチオピア】 目指すはユートピア? 【チ リ】 砂漠の太陽で発電
80
82
連載
国柄・土地柄・暮らしぶり
インド/チェンナイ
サリー姿でスクーター 変わる伝統都市 話題の間奏曲
“ 男子会 ”はスイーツで 43
物価ウオッチング
中東編 テルアビブ/リヤド 46
84
挑戦!国際ビジネス
新潟県 新潟県酒造組合
新潟清酒を海外へ 酒の陣序幕! 86
表紙画像:Rossana Henriques/Getty Images
特別
インタビュー
グローバルビジネスを成功に導く
外国人材活用の秘訣
グローバル化が進む一方で、国内労働人口の減少が危惧されている。日本企業にとって外国人材の
活用はますます重要になってくる。その中で、多くの企業が直面するのが外国人材との「摩擦」であ
ろう。日本の文化では当然視されることが、異なる文化では必ずしもそうではない。例えば、日本企
業では重要視される「報告・連絡・相談(ホウ・レン・ソウ)
」
。これも、問題がなければ完了するま
で上司に報告などはしないという文化もある。日本語が話せる外国人材であっても、文化が異なれば、
日本人とは仕事のやり方や上司との関係も異なる。
外国人を活用するために、理解しなければならないことは何か? これはジェトロが追いかけてい
るテーマでもある。日本企業が今なすべきことは何だろうか?
異文化マネジメントと組織文化研究の世界的権威のヘールト・ホフステード博士に聞いた。
ヘールト・ホフステード博士
02 2016年4月号 特
中南米ビジネスの新局面
集
〜資源ブーム後の経営環境〜
中南米のビジネス風景が変りつつある。新興国・地域の一角として資源価格高騰の恩恵に浴してきた中
南米諸国。しかし、中国経済の減速、新興国から先進国へのマネー回帰、資源価格の下落などをうけ、特
に南米諸国の景気減速が目立ってきた。急に吹いてきた寒風を前に日本企業、特に好景気の時期に進出し
てきた企業からは「こんなはずではなかった」
「今後、
経済はどこまで悪化するのか」という不安の声も──。
他方では、長年中南米に腰をすえて事業を行なってきた企業などは、利益確保のために、経費の削減、
通貨安に乗じた輸出シフト、高金利を利用した資金運用など厳しい経営環境においてそれなりに“冬支度”
を行っていたりする。また、
来るべき春に向けた“種まき”
、
つまり将来の有望分野に関する投資を行なったり、
メキシコ、キューバなど比較的経済が好調かつ有望国の開
拓に意欲を見せたりする企業も散見される。
このように「ポスト資源ブーム」における中
南米での進出日系企業の対応は様々だ。本
特集では、そうした企業へのアンケー
トを元に、新たな中南米戦略を
考える上での切り口を紹介
することとしたい。
Content s
中南米経済と経営環境の変化
ポスト資源ブーム
8
新ステージでの企業の対応
11
経営環境変化への対応:
4つのポイント
15
域内外の貿易協定を活性剤に
20
パナマ 運河拡張で LNG ハブに
日本企業の戦略は
食料セクターに照準
メキシコ 製造拠点から消費市場へ
アルゼンチン
自由主義経済路線に急転換
キューバ
23
24
28
32
①メキシコ
②キューバ
③パナマ
④チリ
⑤⑥アルゼンチン
⑦⑧ブラジル
フロンティア市場での商機は? 36
07
2016年4月号 国柄・土地柄・暮らしぶり
インド/チェンナイ
ニューデリー
サリー姿でスクーター
インド
変わる伝統都市
ジェトロ チェンナイ事務所 アソカン・アルナー
チェンナイ
Chennai
チェンナイ――インド南部タミル・ナドゥ州の州都
する理由はいろいろ考えられるが、徐々に西洋化が浸
は、インド経済の要地の一つ。海が近く、気候は温暖。
透し始めてきているようにみえる。それでも、両親へ
一番寒い時期(12~2月)であっても気温は20℃を
の感謝の気持ちは変わらない。多文化、多宗教の国イ
下回ることはない。一年中半袖で過ごせる。そんな気
ンドには、ナショナルホリデー以外にも各宗教や各州
候のせいもあってか、温厚な人が多いようだ。
ごとの休日がある。ヒンズー教新年祭「ディワリ」
当地は、デリーやバンガロールなどと比べると、極
(インド全土で祝日となる)やタミル新年祭と収穫祭
めて保守的な都市と言われてきた。伝統を重んじたラ
「ポンガル」
(タミル・ナドゥ州だけが祝日となる)と
イフスタイルが根付いており、女性の衣類にもそれは
いった祭りや祝日、家族にとって大切な日には、両親
表れている。ニューデリーやムンバイなど他の大都市
の元で一緒に過ごす。
では洋服を着る女性が多いが、当地の女性はほぼ毎日、
昔ながらの民族衣装「サリー」を身に着けている。だ
が、保守的といわれてきた当地でも、人々の生活スタ
女性と若者が変わる
女性は結婚後子どもを育て、家庭を守っていく存在
イルや考え方が近年、目に見えて変わり始めている。
だという考え方が根強かった。だが今では、結婚後も
チェンナイ最新事情を総ざらいしてみると――。
働くことを望む女性が増えている。特に 20 代の若い
家族が変わる
インドでは昔から、結婚後、夫の両親と一緒に
暮らす。いわゆる「拡大家族」である。子どもは両
親・祖父母と多くの時間を過ごし、たくさんのこ
とを学ぶ。自分を産んで育ててくれた両親や祖父
母に対する尊敬の気持ちが強い。筆者ももちろん
両親へ感謝の気持ちをきちんと伝えている。毎年
両親の結婚記念日に、兄弟と一緒にプレゼントを
渡し、ちょっとしたイベントを企画したりもする。
しかし近年当地では、結婚した夫婦が両親と
別々に暮らす「核家族」化が進んでいる。生活空
間の確保や所得の増加など、両親との別居を選択
サリーは女性の正装。右から二番目が筆者。
43
2016年4月号 世界の暮らしが
見える
物価 ウオッチング
中東編
テルアビブ リヤド
外国人ヘルパーに任せるテルアビブの在宅介護事情。
リヤドの男たちは、スイーツでおしゃべりを楽しむ。
中東 2 都市の日常の断面は日本人の目には異空間―。
の場
憩い
園は
公
ン
ルコ
ハヤ
アズリエリ・ショ
ッピングセンター
像
グリオン
相ベン=
首
る初代
逆立ちす
Tel Aviv
Riyadh
遭遇
列に
の隊
ダ
ラク
剣を使っ
た伝統
的なダン
スの練習
風
時計塔
景
■イスラエルの基礎経済指標
■サウジアラビアの基礎経済指標
*1人当たり GDP
*1人当たり GDP
3万3,700米ドル(2014年)〔出所 イスラエル中央統計局〕 2万1,228米ドル(2015年)〔出所 経済企画省中央統計局〕
*人口
846万人(2015年)〔出所 同上〕
*人口
3,077万人(2014年)〔出所 同上〕
*消費者物価(CPI)上昇率
▲1.0%(2015年)〔出所 同上〕
*消費者物価(CPI)上昇率
2.2%(2015年)〔出所 同上〕
*‌外資系(日系)企業事務系スタッフ‌
月額給与水準(賞与・諸手当込み)
2,400米ドル〔出所 イスラエル中央統計局2014年平均〕
*‌外資系(日系)企業事務系スタッフ‌
月額給与水準(賞与・諸手当込み)
2,000米ドル 〔出所 2014年度ジェトロ投資関連コスト比較調査〕
(非製造業、スタッフ〈一般〉)
46 2016年4月号 特別
リポート
欧州市場に挑む
中堅・中小企業
独自の商習慣やビジネスルールがあり、成熟市場である欧州とのビジネ
スは、これまで大企業が中心だった。中堅・中小企業にとっては距離的に
も心理的にも遠い存在だったことは否めない。2013 年に交渉が開始され
た日 EU・EPA(経済連携協定)は、大筋合意に向けて大詰めを迎えている。
締結されれば、EU 側の高関税撤廃、日本企業が直面する規制上の問題の
改善などにより、日欧ビジネスの裾野拡大が期待される。
本リポートでは、日本企業の① 欧州各国の特性や強みを生かした戦略
構築、②現地パートナー企業との協業、③欧州の地域産業間交流により欧
州ビジネスを行う中堅・中小企業を中心とした取り組みを紹介する。 (ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課)
画像:Alex Belomlinsky / Getty Images
49
2015年4月号 世界の
を
ス潮流
ビジネ
読む
AREA
REP RTS
エリアリポート
読みどころ
紹介
世界 ◎ p68
欧州 ◎ p76
付加価値で競争力維持・強化
EU 基金を市場参入の機会に
円安下でも輸出の回復が遅れ気味。その一因として
日本製品の競争力低下が指摘される一方、産業ロボッ
トなどの生産用機械のように競争力を強めた製品もあ
る。鍵は高度な技術力。ニーズに合わせた高付加価値
品の提供が競争力維持の源泉に。実際、日本企業の多
くは競争力の軸足を価格から付加価値向上へと移行中。
EU は地域開発や雇用促進のための各種基金を設け
ているが、採択要件や申請条件が基金ごとに定められ
るなど、その実は複雑だ。本稿では分かりやすく整理・
解説するとともに、入札方式の EU 基金プロジェクト
を活用して欧州市場参入を果たした日本企業の事例を
紹介する。入札には過去の実績を求められるケースも。
中国 ◎ p70
ロシア ◎ p78
インバウンド促進で組む
安定政権の中に潜む“不安定”
訪日中国人観光客のさらなる需要拡大を図るべく、
日本企業が中国企業と連携する事例が増えている。日
本では小売業のみならず、ホテルや旅行業界も中国語
での接客や情報発信の強化に重点を置き始めた。イン
ターネットが情報収集の主要ツールとなる中、中国ネ
ット企業との提携は観光客誘致の有力策となり得よう。
ロシア経済の減速が鮮明だ。原油価格下落に加え経
済を大きく下支えしてきた消費は縮小、物価も上昇傾
向にある。だがプーチン政権への支持は依然として高
い。経済・生活面で国民が不自由さをさほど感じてい
ないというのがその一因。一方、
「先行き不安」の声も
上がる。油価の動向が今後の社会情勢を左右しそうだ。
ASEAN ◎ p72
エチオピア ◎ p80
統合下の商機を探る
目指すはユートピア?
2015年末に経済共同体
(AEC)
を発足させたASEAN
は市場統合を進める。従来、外資の参入が難しかった
サービス産業分野での商機が拡大しつつある。日本企
業とりわけ中小企業にとっては、小口配送などきめ細
かさを必要とする事業に商機がありそうだ。現地ニー
ズを把握するには進出検討国での実体験がものをいう。
近年の経済成長は世界でもトップクラス。けん引す
るのは農業だ。最近では卸・小売業や建設業も成長に
寄与しつつある。2025年までに低位中所得国入りを目
指す政府は、輸出志向型製造業の誘致に注力する。日
本企業誘致にも積極的。慢性的な外貨不足と外貨規制
への懸念は大きいものの、賃金と電力の競争力は高い。
米国 ◎ p74
チリ ◎ p82
シェールガス輸出に黄信号
砂漠の太陽で発電
原油安の影響が米国産天然ガスの対日輸出にまで及
んでいる。日本にとって割安感のあった米国産液化天
然ガス(LNG)が他国 ・ 地域産に比べ逆に割高になる可
能性が出てきた。日系企業6社が対日輸出に向けたプ
ロジェクトを手掛けるが、米国内の天然ガス価格が高
騰した際、価格リスクは日本側が負う契約方式をとる。
チリは2050年までに発電量の7割を再生可能エネル
ギーで構成する目標を掲げる。既に太陽光発電拡大に
向けた取り組みも始動。日射量で突出するアタカマ砂
漠はその好条件がそろう。電力入札法改正により新規
参入も容易に。今春は、家庭や中小企業向け配電が対
象の中央供給システム(SIC)の入札に注目が集まる。
67
2016年4月号 話題の
間
奏
曲
「50フルーツ」店内でスイーツとおしゃべりを楽しむ男性
“男子会”はスイーツで
で確認しつつ、店に無事に入れるだ
ろうかと、よく心配していたものだ。
しかし、日がたつにつれ分ったこ
荒涼たる砂漠には灼熱の太陽より
方は、カフェやスイーツ店で甘いも
とがある。特に都市部の飲食店の多
神秘的な月明かりがよく似合う――
のを食べながらおしゃべりすること
くは、入り口を男性用、家族用と二
人々が活動を本格化させるのは日が
だと言っても過言ではない。そして
つ設け、飲食スペースも、レジさえ
とっぷり暮れた夜になってから。夜
それは男性同士においてもだ。
も別々に分けており、そうすること
が更けるにつれ、街は活気を増して
当地に赴任を命ぜられ、この状況
いく。気温が下がり始めたころを見
に放り込まれた筆者は、「まるで男
計らったかのように、人々は家族を
子校みたいな社会だ」と思った記憶
誘い、友人を誘って、街に繰り出す。
がよみがえる。
思い思いに……。
だが、ここはサウジアラビア。イ
スラム教が社会生活を律しており、
でいろいろな客層に対応できるよう
工夫していたのだ。
それでは入り口が二つある店をの
ぞいてみよう。店の入り口にある看
板 に は「Single Section」
「Family
男女、席を同じくせず
赴任当初、緊張したことがある。
Section」 とそれぞれ書かれてい
る。客は同行するメンバーを確認し、
酒類を提供する店は皆無だ。小売店、
外で食事をしようと思ったときだ。
どちらから入店するかを選択する。
空港、高級ホテルであってもアルコ
お目当ての店に入り口が一つしかな
ち な み に、 女 性 の み の 場 合 は
ール類は一切置いていない。それで
かったら……その店は“男性のみ入
「Family Section」 か ら 入 店 す る
も人々は外に出て、大好きな甘い飲
店可能”、あるいは“家族メンバー
ことになる。同行者が男性のみの場
み物や甘いケーキを食べながら長々
(女性を含まなくてはならない)で
合は、迷わず「Single」の扉を開け
とおしゃべりを楽しむ。それはまる
ないと入店できない”という意味に
ればよい。
「Family Section」側で
で、日本人が気の置けない仲間と居
なる。
「未婚の男女は同じ空間を共
あれば、男女は同じ空間にいても問
酒屋で一杯やりながらおしゃべりを
有すべからず」というのがイスラム
題はない。ただし、その男女が家族
楽しむ姿に重なる。
の教えだ。そのため、婚姻関係にな
関係(夫婦、親と娘、兄弟姉妹、母
い男女が食事を共にできる店はない。
と子どもなど)にあることが条件だ。
エンターテインメントが限られる
当地において、余暇の最大の楽しみ
84 2016年4月号 一緒に食事に行くメンバーを頭の中
大きな店であれば、「Single」は
挑戦!国際ビジネス 新潟県酒造組合
新潟清酒を海外へ
酒 の陣序幕!
「新潟清酒」
。
“新潟”という地域イメージをより浸
透させることで、さらなる輸出拡大を目指す。香港を
「酒の陣」の大盛況を祝う関係者
拠点としたユニークな海外展開を紹介する。
なかったものの、このオファーがきっかけとなり、海
試行錯誤を重ねターゲットを設定
外で新潟ブランドを広める活動を本格的に開始する決
心に至った。
新潟といえばコメ、酒……。高級米の産地として知
輸出に関していえば、12 年の時点で約 7 割の酒蔵
られる新潟県は、水や天候など酒造りに最適な環境に
が個別に行っていた。だが海外では、「新潟=酒どこ
も恵まれている。新潟県酒造組合(以下、組合)に属
ろ」というイメージはまだ浸透していなかった。組合
する酒蔵数は 91。一県の酒蔵数としては全国一だ。
としては、「新潟」ブランドとしての価値を高める必
各酒蔵が造る「新潟清酒」は大吟醸、吟醸、純米大吟
要性を痛感していた。「海外で新潟ブランドを広めた
醸、純米吟醸といった、いわゆるプレミアム酒の割合
い」
。その思いは強かった。
が 6 割を占める。酒米を磨き、本当に良いところだけ
まず、ターゲットを近い所に定めた。シンガポール
を使用して造るため、できる酒の量は少ない。その意
で行われる ASEAN 市場最大の日本の食に特化した
味でとても贅沢な酒だ。
見本市「Oishii Japan」に出展。この海外での初プロ
ぜいたく
組合設立 50 周年を記念して 2004 年に始まったのが
モーションは好評を博した。だが現地では、まだ日本
「新潟淡麗 にいがた酒の陣」(以下、酒の陣)だ。こ
酒そのものの知名度が低く、可能性は少ないと感じた
の消費者向けイベントは毎年 3 月に新潟市内で行われ、
のも事実だった。
県内の酒蔵が一堂に会する。ドイツのビール祭り「オ
次のターゲットは香港に定めた。香港は日本酒の輸
クトーバーフェスト」がモデルだ。来場者は、各酒蔵
入関税がかからない。そのため価格優位性が期待でき
が出品した 500 以上の銘柄の日本酒を飲み比べること
る。また、アジア最大級の酒類専門見本市「香港イン
ができるだけでなく、その場で購入もできる。04 年
ターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・フェ
の初回から約 5 万人が来場。以後来場者数は伸び続け、
ア(以下、ワイン&スピリッツ)」が開催される、ア
14 年には約 10 万人が集う巨大イベントに成長した。
ルコール市場の世界的なハブでもある。さっそく「ワ
09 年ごろから、「酒の陣」に海外ビジネスパーソン
イン&スピリッツ」に出展。だが、日本酒ブースは会
の来場者が目立ってきた。会場内でビジネスの話も出
場内の目立たない片隅に。香港でも、日本酒の知名度
るようになった。12 年には、米国・ロサンゼルス市
の低さを痛感した。組合の大平俊治会長は次のように
長から、
「酒の陣」を米国でやってみないかというオ
当時を振り返る。「最初からワイン目当ての客に日本
ファーを受けた。ロサンゼルスでのイベントは実現し
酒を試飲してもらっても、『おいしい』と言ってはも
らえるものの、直接ビジネスには結びつかないし、新
会長:大平 俊治
創業年月:昭和28年11月2日
た」。そこで組合が出した結論は「ワイン目当ての客
所在地:新潟市中央区東中通2番町292-2
にアピールするより、たとえ人数が少なくても本当に
事業内容:酒税の保全協力と組合員共同利益の
増進を図る事業
組合員数:91蔵元
URL:http://www.niigata-sake.or.jp/
86 2016年4月号 潟の日本酒の説明に耳を傾けてくれることもなかっ
関心のある人々に新潟清酒の個性を感じてもらいたい。
ならば、香港でも『酒の陣』を開催してみよう」だっ
た。