リサーチ TODAY 2016 年 3 月 8 日 G20で第1ステージ終了、危機は更なる協調への催促相場 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 みずほ総合研究所は四半期毎に改訂している『内外経済見通し』1を2月16日に発表したが、そこでは米 国の減速に伴なう世界連鎖不況のリスク、世界のバランスシート調整の第4局面の不安を指摘した。昨年ま で、世界で唯一のけん引役として期待されてきた米国において、昨年12月の利上げにより急に失速不安が 生じたことが2016年の大きな転換だ。同時に、2008年のリーマン・ショックを世界の救世主となって支えた中 国が人民元の切り下げで、通貨戦争に入ったら世界経済に救いはない。これまで金利が水没しているなか で「浮き輪」の存在であった米国の浮力が低下し、世界中が水没し、通貨戦争へ陥る不安が生じて歯止め がきかない可能性が生じているのが足元の状況だ。1930年代の世界大恐慌の再来ともいえる世界的バラ ンスシート調整に対処し、当時と同様に世界中が通貨戦争に参戦し、ブロック化という保護主義台頭の不 安も生じかねない状況である。こうした不安に2月26~27日のG20はどのような答えを出すかに注目が集ま った。下記の図表は従来から我々が想定してきたものであるが、G20で示された対応も概ね想定された線 に沿ったものだ。G20では世界経済の下振れが意識されたが、まだ、危機意識が行動を促すまでの閾値に は達していない2。2016年を展望した我々の基本シナリオは、大恐慌の再来とも言える世界的なバランスシ ート調整のなか、断続的に生じる市場の不安が危機的なレベルに達し、それを受けた相場が世界的な政 策協調を催促する役目を果たすことになるというものだ。今年2月のG20を受けて、足元の市場は小康状態 を迎えた。ただし、それは危機をもたらした催促相場の第1ステージであり、その後は年半ばから年後半に 向けて第2、第3ステージがありうると展望している。今年はまだ先のシナリオに向けて山場が待っている。 ■図表:世界経済へ求められる対応 <世界連鎖不況への不安に歯止めをかけるため、求められる対応> ① 不安の震源である、中国の人民元切り下げ不安と米国利上げ不安の除去 ・ 中国は、資本規制も含め人民元切り下げ回避と景気重視の表明 ・ 米国は、利上げ停止と景気重視の姿勢の表明 ② 景気底入れのため世界各国の協調姿勢 ・ G7、G20 において景気底上げ姿勢の明示 ③ 金融による近隣窮乏化策のみに依存しない各国の内需拡大策 ・各国の財政拡大、成長戦略の明示 ④ 日本は国際貢献の観点から、政府と一体による金融緩和策、景気対策、消費増税延期も選択肢 (資料)みずほ総合研究所作成 次ページの図表は米ドルの実効為替の推移である。世界の金利水没のなか、米国だけが世界の「浮き 輪」としてけん引役を果してきた。その結果、米国へ資金が流入しドル高が生じていた。一方、米国のドル 高の結果、製造業を中心とした輸出が減少し、企業収益がマイナスとなり「浮き輪」が萎み、ドル安への回 帰となった。ドル安への振れは昨年の夏場にも生じたが、米国FRBの利上げが遠のくとの観測から足元で 1 リサーチTODAY 2016 年 3 月 8 日 はドル高の基調が修正されるに至っている。我々は2月の見通しで米国の2016年の成長率を1.8%と昨年 末時点の見通しから0.7%も下方修正したが、リセッションにまでは至らないとした。ただし、その前提は、 FRBが今年の利上げを休止し、為替水準もドル高を回避することだ。同時に、国際的な協調政策の追加も 必要となる。 ■図表:ドルの名目実効為替レート推移 160 (1997/1=100) ドル名目実効為替(対OITP、主として対新興国通貨) 155 150 145 140 135 15/1 15/3 15/5 15/7 15/9 15/11 16/1 (年/月) (注)OITP は Other Important Trading Partners の略。主として新興国が対象 (資料)FRB よりみずほ総合研究所作成 下記の図表は今後のG7、G20を中心とした国際協調を議論する会議のスケジュールである。先に、今年 の世界の経済の変動は、世界的な規模に及んだバランスシート調整に伴う世界連鎖不況の危機と、それを 受けた相場が促す世界的な政策協調により決められるとした。以上の観点から、第1ステージは先述の2月 の上海G20、第2ステージは年半ば5月の日本でのG7サミットのタイミング、第3ステージは9月の中国の G20と言える。断続的な経済危機と背中合わせながらも、政策協調により米国も含めた国々は景気後退を 免れ、2017年に向けて緩やかな回復に向かうとするのがメインシナリオだ。ただし、年半ばから後半にかけ て世界連鎖不況のリスクシナリオを再び意識せざるをえない状況を覚悟する必要もあるだろう。 ■図表:今後の主なG7、G20開催日程(2016年) 日程 2月26・27日 4月13・14日 5月20・21日 5月26・27日 7月23・24日 9月3・4日 10月6日 会議体 場所 中国・上海 米国・ワシントン 日本・仙台 日本・伊勢志摩 中国・成都 中国・杭州 米国・ワシントン G20(財務大臣・中央銀行総裁会議) G20(財務大臣・中央銀行総裁会議) G7(財務大臣・中央銀行総裁会議) G7(伊勢志摩・サミット) G7(財務大臣・中央銀行総裁会議) G20(杭州・サミット) G20(財務大臣・中央銀行総裁会議) (資料)財務省などよりみずほ総合研究所作成 1 2 「2015・16・17 年度内外経済見通し」(みずほ総合研究所 『内外経済見通し』 2016 年 2 月 16 日) 小野 亮「中国の譲歩と果実」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 2 月 29 日)。また、G20 を展望したものとして、 有田賢太郎「G20 は市場安定の契機となるか」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 2 月 25 日)も参照いただきたい。 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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