共創・共育・共感 尾鷲市教育長だより 2016.3.11.(金) 第167号 3.11を 心 に 刻 ん で 2011( 平 成 23) 年 3月 1 1日 ( 金 ) の 午 後 に 発 生 し た 東 日 本 大 震 災 か ら 5 年が経過します。災害の犠牲になられた方々に哀悼の意を捧げるとともに、 被災された方々のことを心に刻み、前に向かって歩んでいきたいと思います。 この日が来ると、壊滅的な被害を受けた南三陸町の病院で、最後まで治療 を続けながら3日目に救出された医師の菅野武先生の話を思い出します。 震災当 日、5 階建 ての病院 は約1 5mの 津波に より浸水 して しまいま した。 140人ほどの患者やスタッフのうち3分の2の行方が分からなくなる中、 結果的に5階は波にのまれなかったため、第1波が引いた直後、スタッフと ともに膝まで泥水につかりながら4階を捜索し、全身ずぶ濡れで生き残って い る 42人 を 何 と か 5 階 ま で 避 難 さ せ ま し た 。 衣服の濡れているた患者の服を脱がし、段ボールを敷いた床に寝かせて、 窓からはがしたカーテンをかけました。そのまま暗闇の中、誰一人パニック に陥ることなく2日目の救助ヘリを迎えました。 菅野先生は、患者に寄り添い続け、治療にあたり、最後の患者が搬送され た3日目にやっと救助されたのですが、医療器具も無く、救助までに、低酸 素・低体温のために7人の患者が亡くなっていました。 菅野先生は救助された後、出産のため仙台市にいた妻のもとに駆けつけま した。泥だらけの白衣で帰宅した夫を玄関先で迎えた妻は、ただただ涙を流 し ま し た 。 そ し て 、 3月 16日 に は 男 の 子 を 授 か り ま し た 。 3月 1 6日 に 子 供 を 授 か っ た 様 子 が 、 そ の 日 の 『 NH Kニ ュ ー ス 7』 な ど で 全 国放送されたのです。被災地に授かった新たな命の感動は世界中を駆けめぐ り 、 ア メ リ カ の T I M E 誌 は 彼 を “ 最 も 勇 敢 な ド ク タ ー ” と し て 、「 世 界 で 最 も影響力のある100人」に選出しました。 菅野さんは当時、こう話していました。 「私自身に影響力があるということではなく、私を通して震災時のみんな の苦しみや闘いをTIME誌が世界に伝えたいという意味だと考えました」 「多くの人々が亡くなっている中で、私が生きていることも、新しい命が 与えられたことも、手放しでは喜べないのですが、こうして今、命があると いうこと自体、与えられた奇跡だと思うのです」と。 菅野さんは、新しい命と、そして今、命あることに、新たな希望と勇気を 与えられたのです。 私 た ち は 、 3.11を 心 に 刻 ん で 、 風 化 さ せ る こ と な く 、 い つ 起 き て も お か し くない南海トラフでの巨大地震・津波に対して、さらなる備えを徹底してい く必要があります。 集中豪雨や台風の場合、地域の地形的・地質的・気象的特性等から、被害 予測や事前対処の対策はまだ立てやすく、防災マニュアルの作成も進んでい ますが、地震の場合、常に有効な防災マニュアルの作成はなかなか困難です。 ですから、日常生活や学校の教育活動のなかで、事前の対応策を十分に取 っておくことが危機管理の第1条であると考えます。 最 も 大 切 な こ と は 、「 自 分 の 命 を 守 る 」「 率 先 避 難 」 と い う こ と を 基 本 に し て、状況を正確につかんで臨機応変に行動できるような判断力をふだんから 育んでいく家庭教育、学校教育、防災教育を心がけることです。 地域には、地域の自然災害の歴史、メカニズム、対策に詳しい人々や東南 海地震・津波、集中豪雨・土石流災害、阪神・淡路大震災等さまざまな被災 体験をもっている人々がいます。地域の自然や人々に直にふれながら、自然 災害の特徴の学習や被災体験の聞き取りをすすめたり、安全な場所、危険な 場所、避難場所等を自分の足と目で地域を歩き、調べ、考え、いざというと きに迅速な行動ができるよう、ふだんから訓練しておくことが大切です。 『尾鷲は海の自然の恵みをえて栄えてきた。海の近くに住むことは、海の 恵みに近づくと同時に、時に災いにも近づくことであり、津波等の災いに備 え る の は 当 た り 前 で あ る 。 50年 、 100年 に 1 回 あ る か な い か と い う 災 い を 恐 れるよりも、日常の尾鷲の自然を満喫してほしい。ただし、津波が来るその 日そのときだけは災いをやり過ごすための行動をとる。それがこの土地に住 む人が持つべき“お作法”である」という。片田教授の教えをもとに、災害 に立ち向かう地域づくりを進めるとと同時に、自然と向き合い、危機に向か い合いながら、生き抜く力をもった“おわせ人”を育ててまいります。
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