Contact ポスト CG コード時代に求められる 企業の対応

EY Institute
10 March 2016
シリーズ:企業価値向上のためのコーポレートガバナンス
ポスト CG コード時代に求められる
企業の対応(総論)
執 筆 者
はじめに
2013 年にスタートした政府主導のコーポレートガバナンス改革は、15 年にコー
ポレートガバナンス・コード(以下、CG コード)が適用開始されたことによって総
仕上げされた。上場会社は今後、CG コードの初期対応※ 1 を出発点として、さまざ
まなコーポレートガバナンスに関わる仕組み・取り組みを議論し、改善活動を継続す
る新たなステージに突入するものと考えられる。
これを踏まえて EY 総合研究所では今後、「シリーズ:企業価値向上のためのコー
ポレートガバナンス」として関連する情報を発信していく。本稿においては総論とし
藤島 裕三
EY 総合研究所株式会社
未来経営研究部長
主席研究員
て、まず政策的な方向性を総括した上で、初期対応後の課題=「ポスト CG コード対応」
の意義と、上場会社に今後、求められる取り組みについて考察する。
政策的な方向性:「攻めのガバナンス」と CG コード
安倍政権が「日本再興戦略 2013
-JAPAN is BACK-」と「日本再興戦略 改訂
2014 - 未来への挑戦 -」で成長戦略の中核に掲げたコーポレートガバナンス改革は、
<専門分野>
• コーポレートガバナンス
• 組織経営
14 年 2 月に確定した日本版スチュワードシップ・コード、同年 5 月に成立した改
正会社法などを経て、15 年 6 月に適用開始された CG コードによって総仕上げとなっ
た。これを受けて発表された「日本再興戦略 2015 - 未来への投資・生産性革命 -」は、
攻めのガバナンスや建設的な対話といった改革路線の強化・継続を通じて、以下を実
現することを強く打ち出している。
グローバル市場において「稼ぐ力」を高めていくには、(中略)稼ぐための最適
解を見出し、能力増強や更新等の設備投資にとどまらず、技術、人材を含めて積
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極果敢に「未来に向けた投資」を決断し、「攻めの経営」を展開していくことが
不可欠である。
EY 総合研究所株式会社
03 3503 2512
[email protected]
※ 1 CG コード適用初年度は、株主総会終了後 6 カ月以内に CG コード対応を含む新書式の CG 報告書を提出しなくてはならない。
このように 3 年間で構築された「攻めのガバナンス」を活用して「攻めの経営」に打って出る
ことが、上場会社には強く期待される。一連の改革を「政府主導によるコーポレートガバナンス改
革」<図 1 >とすると、その後に求められるのは「企業自律によるコーポレートガバナンスの実践」
であり、その意味で 16 年は企業価値向上のための「ガバナンス元年」といえる。 図 1 日本再興戦略とコーポレートガバナンス改革
日本再興戦略 2013 -JAPAN is BACK「緊急構造改革プログラム」
⃝会社法改正の早期成立などによる 1 人以上の社外取締役の確保
→「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明義務付け(14 年 5 月)
⃝機関投資家が企業と建設的な対話をするための受託者責任原則
→日本版スチュワードシップ・コードの確定(14 年 2 月)
⃝収益性 ・ 経営の評価が高い銘柄による投資インデックスの設定
→株価指数 JPX 日経インデックス 400 の算出開始(14 年 1 月)
日本再興戦略 改訂 2014 - 未来への挑戦 「新たに講ずべき具体的施策」
⃝企業が透明 ・ 公正かつ迅速 ・ 果断な意思決定を行うための原則
→コーポレートガバナンス・コードの運用開始(15 年 6 月)
⃝持続的な企業価値の創造に向けた企業と投資家との対話の促進
→経営者・投資家フォーラムの開催(15 年 6 月)
日本再興戦略 2015 - 未来への投資・生産性革命 「改訂戦略の鍵となる施策」
⃝「攻め」のガバナンス体制の強化
→取締役会が経営陣に決定を委任できる業務の範囲や、社外取締役が
社外性を有したまま行える行為の範囲等に関する会社法の解釈指針を作成
⃝企業と投資家の建設的な対話の促進
→企業が投資家に対して必要な情報を効率的かつ効果的に提供するため、
情報開示ルールを見直し、など
出典:政府資料より EY 総合研究所作成
具体的に「攻めの経営」として求められる企業行動については、「日本再興戦略 改訂 2014
-未
来への挑戦 -」から、以下を読み取ることができる。
大胆な事業再編を通じた選択と集中を断行し、将来性のある新規事業への進出や海外展開を促
進することや情報化による経営革新を進める
これにより「攻めの経営」として、
「大胆な事業再編」を伴う、ノンオーガニック(非連続)なコー
ポレートアクションが想定されていることが分かる。必要な環境整備を通じて経営陣を未踏の領域
に駆り立てる役割を果たすのが「攻めのガバナンス」であり、CG コードへの初期対応はそれを確
立する取り組みの第一歩と位置付けられよう。
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∼ポスト CG コード時代に求められる企業の対応(総論)∼
初期対応後の課題:「ポスト CG コード対応」の意義
企業価値向上を実現する「攻めの経営」が各社ごとに差別化されるべきなのと同様に、それを引
き出す「攻めのガバナンス」も各社によってユニークなものでなければならない。そのため初期対
応に際しては本来、「企業価値を向上させる攻めの経営」として独自に構築したストーリーと優れ
て整合する「自社特有に求められる攻めのガバナンス」について、社内で十分な議論を行ったうえ
で投資家に訴えることが求められていた。
しかし現実には、両者を結び付けた議論が十分に行われたケースばかりではなかったのではない
か。「攻めのガバナンス」以前に、企業価値向上ストーリーの方が説得力を欠いていることに気付
かされた企業もあったかもしれない。もっとも CG コードは、自社のコーポレートガバナンス全体
について広範な「気付き」を与えるものであり、初期対応を経て積み残した課題があっても何らお
かしくない(エクスプレイン)。それらは社内の検証(取締役会全体の実効性評価など)や社外の
評価(投資家との対話)を通じた、「ポスト CG コード対応」の取り組みとして継続されるべきで
ある<図 2 >。
図 2 CG コード初期対応とポスト CG コード対応
CG 報告書の開示
• 法定開示では
なく IR の観点
コード対応の方針
決定を断行す
る必要性
からの信認を
得る必要性
• 権限委譲や人
事など制度設
計は適切か
• 自社の成長ス
トーリーと整
合した仕組み
• 当面の対応と
積み残しとす
る課題の明確
化
• 各種規定は従
ガバナンスの改善
• 積み残しとし
社の姿勢が反
映される
• 取締役会全体
投資家との対話
• 自社が目指す
の実効性評価
による検証
• 投資家との対
話による論点
フィードバッ
ク
方向性を前提
とした説明
• 株主視点によ
業員に納得性
の高いものか
た課題への対
応
る初期対応の
内容チェック
CG コード初期対応
投資家との対話
社内の現状洗出し
ガバナンスの検討
による記載
• comply/
explain に自
ガバナンスの改善
• 株主・投資家
C
G
報告書の開示
• 非連続な意思
ポスト CG コード対応
出典:EY 総合研究所作成
また初期対応においては、CG コードが求める水準の高さ(グローバルスタンダードに依拠)や
時間的な制約(株主総会終了後の 6 カ月間)もあり、一部の原則・補充原則について検討を尽く
すことができなかった企業もあるのではないか。あらためて自社に特有な「攻めのガバナンス」を
議論するため、また初期対応において積み残した課題を解決するため、ポスト CG コード対応の継
続実施こそが重要となる。
そもそも CG コードには「プリンシパル・ベース(原則主義)」と「コンプライ・オア・エクス
プレイン(実施か説明か)」という運用上の特徴があり、対応する上場会社にとって裁量の余地が
大きい。開示が義務付けられている 11 項目以外は特に、「限りなくエクスプレインに近いコンプ
ライ」や「コンプライを装った事実上のエクスプレイン」も珍しくない、との指摘も聞かれる。ポ
スト CG コード対応においては、コンプライの水準を高めることが求められよう。
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∼ポスト CG コード時代に求められる企業の対応(総論)∼
上場会社に今後、求められる取り組み(テーマ)
ポスト CG コード対応を進めるためには、コーポレートガバナンスを全体像として捉えることが、
初期対応の段階よりも一層重要となる。その際には「攻めのガバナンス」だけでなく、「守り」も
含めたトータルのシステムとして議論しなければならない。また「攻めのガバナンス」の実効性が
信任されるよう、株主の理解を得る取り組みも必要である<図 3 >。
図 3 ポスト CG コード対応のテーマ
実効性を高める
株主の理解を得る
① 資本政策
② 役員報酬
③ 取締役会の機能の見直し
攻めのガバナンス
(企業価値向上)
(社外取締役の活躍促進を含む)
④ 報酬・指名に関する諮問委員会
⑦ 政策保有株式に関する検証
⑧ 株主(特に機関投資家)との対話
⑤ 取締役会の実効性向上のための
分析・評価
⑥ 役員のトレーニング
守りのガバナンス
(不祥事防止)
⑨ 外部監査人の評価基準
⑩ 監査役監査・内部監査体制の検証、再構築
⑪ グループガバナンス・リスクマネジメントの構築
出典:EY 総合研究所作成
実際に各社がどのテーマに注力すべきかは、その成長ステージや企業価値向上ストーリーなどに
よって異なる。現在のビジネスモデルが強固で中長期的にも高成長が見込めるなら、「攻め」をガ
バナンスに頼る必要性は相対的に小さく、取り組みの主眼は「守りのガバナンス」に置くべきだろ
う。成長ステージが踊り場を迎えてビジネスモデルの変革が迫られている場合は、「攻めのガバナ
ンス」の実効性を高めることで、大胆な意思決定そしてコーポレートアクションを導出しなければ
ならない。その際、M&A など資本市場を活用する局面が想定されるならば、「攻めのガバナンス」
に対して株主の理解を積極的に求めるべきである。
中でも各社が今、取り組むべきテーマを認識し、方向性を定めるために不可欠なプラクティスと
して、⑤「取締役会の実効性向上のための分析・評価」と、⑧「株主(特に機関投資家)との対
話」が挙げられる。継続的なコーポレートガバナンス改善を導出するには、PDCA サイクルの核
となる Check 機能が不可欠である。⑤によって自律的な検証プロセスを構築すると同時に、⑧を
通じて客観的かつ批判的な視点を具備することは、Check 機能の有効性が担保されるだけでなく、
Plan 機能すなわち「自社に最適なコーポレートガバナンスの在り方」(<図 3 >の各項目を含む)
の検討・構築につながる、ポスト CG コード対応の両輪となり得るだろう。
以上
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