○平成26年度奨励研究 「リン酸カルシウム複合化腱を使用した膝前十字靭帯再建術後の短期力学試 験」 医科学センター 教授 六崎裕高 1.研究目的 スポーツ活動などにより、膝前十字靭帯(ACL)を損傷するケースがあり、その際、大腿骨・脛骨に骨孔をあけ、 自家腱を移植するACL再建術が行われる。我々は移植腱と骨の固着改善を目指し、移植腱にリン酸カルシウム を複合化する方法を考案した。これまで我々は、本方法を用いたACL再建術において、膝の前方不安定性が 従来法より改善することを動物実験・臨床試験において確認してきた1, 2)。今回、さらなる成績向上を目指し、骨 孔を骨ソケットとして、骨ソケットに移植腱を充填する方法を考案した。こうすることで移植腱と骨孔の接触面積が 増し、固着力が向上すると考えた。本研究の目的は、リン酸カルシウム複合化腱を用いたACL再建術において 骨ソケット内充填法の固着における効果を明らかにすることである。 2.研究方法 成熟した日本白色家兎オス3kg、36羽を使用した。静脈麻酔後、右膝を展開し、右大腿骨に直径4.2㎜の骨トン ネルを開けて、2重束のリン酸カルシウム複合化腱を移植した。その際、骨ソケット内充填群は大腿骨孔を5㎜と してリン酸カルシウム複合化腱を5㎜骨孔内に引き込み外側骨皮質にボタンで固定した。従来法は大腿骨骨孔 を外側骨皮質まで貫通させリン酸カルシウム複合化腱を5㎜骨孔内に引き込み外側骨皮質にボタンで固定した。 脛骨側骨孔は両群とも関節内から関節外に骨孔を貫通させ移植腱を骨孔内に引き込み内側骨皮質にボタンで 固定した。術後2週、4週で各群合計9羽屠殺した。屠殺後、各群の大腿骨-移植腱複合体を取り出し、力学試 験機に接続し、引き抜き試験を行い、最大破断強度、応力を測定した。また、破断様式を観察した。 3.研究結果 術後2週の最大破断強度は、骨ソケット内充填群4.5±3.0N、従来法6.2±3.7Nで有意差は認めなかった(p = 0.290)。術後2週の応力は、骨ソケット内充填群0.48±0.30N/mm2、従来法0.67±0.43N/mm2で有意差 は認めなかった(p = 0.298)。術後4週の最大破断強度は、骨ソケット内充填群17.2±10.4N、従来法21.6 ±15.1Nで有意差は認めなかった(p = 0.488)。術後4週の応力は、骨ソケット内充填群1.86±1.35N/mm2、 従来法2.35±1.28N/mm2で有意差は認めなかった(p = 0.437)。術後2週の破断様式は、骨ソケット内充 填群において、骨孔からの引き抜け4検体、腱の断裂5検体、従来法において、骨孔からの引き抜け5検 体、腱の断裂4検体で有意差は認めなかった。術後4週の破断様式はすべて腱の断裂であった。 4.考察(結論) リン酸カルシウム複合化腱を用いたACL再建術において、骨孔作成における術式の違いで移植腱と骨孔の固 着強度に差はみられなかった。リン酸カルシウムによって新生骨が誘導され、骨ソケット内に充填せずとも固 着に影響がないことが確認された。今後、固着様式を組織評価していく。 5.成果の発表(学会・論文等,予定を含む) 1) 六崎裕高ほか.リン酸カルシウム複合化腱を使用した膝前十字靭帯再建術の骨孔内の移植腱設置の違い による固着強度.臨床スポーツ医学会誌に投稿予定 6.参考文献 1) Mutsuzaki H, et al. The interaction between osteoclast-like cells and osteoblasts mediated by nanophase calcium phosphate-hybridized tendons. Biomaterials. 2005;26(9):1027-34. 2) Mutsuzaki H, et al. Effect of calcium phosphate-hybridized tendon graft in anterior cruciate ligament reconstruction: a randomized controlled trial. Am J Sports Med. 2012;40(8):1772-80.
© Copyright 2024 ExpyDoc