「IT 資産とコスト」 最適化の指針 日本企業の多くは「IT は業務効率化・コスト削減の手段である」との考え に留まり,既存ビジネスモデルに付加価値を与え競争力を強化する手段に活 用できていないのが実態である。IT を全体最適の視点でビジネスモデルへ有 効活用するにはどのように対応すれば良いか考察してみたい。 1.日本企業の IT に関する転換点の到来 一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)が 2013 年に実施した日米民間企業の IT に対する意識調査結果によ ると,IT 投資の重要性に関して,米国企業の 75% が重要 だと考えているのに対し,日本企業は 16% に留まってい る ( 図 1)。 図 2:IT に対する期待(IT 予算が増える理由) 【出典 JEITA】 日本企業の多くは IT の有効性に懐疑心を持ち,極力投 資を控えてはいないだろうか。しかしながら直近では日本 企業のIT投資に対するパッシブマインドをよそに,IT に 対する見方を 180°変えなければならない大きな転換点を 迎えている。Windows XP/Office2003 サポート終了と 2015 年 7 月に控える Windows Server 2003 サポート 終了のイベントだ。これを単なる PC や OS・AP の移行と 現状維持に終わらせず,競争力向上を目的としたビジネス 変革のチャンスと捉え対応してはどうだろうか。全体最適 化の視座で,IT をビジネス強化手段として積極的に活用す るチャンスが来たのである。 図 1:IT/ 情報システム投資の重要性【出典 JEITA】 2.その場しのぎの IT 投資 さらに,米国企業の多くが IT 投資によってビジネスの競 厳しい経済状況の中,日本企業では IT 維持コスト削減が 争優位性を築こうと考えているのに対し,日本企業は効率 課題であると考えている。ただ,安易なコスト削減を目標 化・コスト削減の手段と考えている ( 図 2)。 にした対策を実施すると反ってサービスレベルの低下を引 き起こす結果となる。 適正な判断をするにあたっては、IT サービスにかかるコス トドライバーを見える化・分析し,サービスと IT 資産のコ ストバランスをとることが重要である。最適化の手段が判 然としていないためか,IT 投資のビジネスリスクを適正に 評価せず,投資抑制や先延ばしによるその場しのぎのコス ト削減策を優先し,リスクテイクした戦略的な投資に舵を 切れず機会損失が発生しているのではないだろうか。 IT 予算の増減見通しの統計(図3)が,米国企業の積極的 な IT 投資に比して,日本企業は IT 投資を抑制しているこ とを示している。 図 3:IT 予算の増減見通し【出典 JEITA】 図 5:PPM を応用した IT 資産分析表 3.IT 資産とコストの最適化の指針 「最適化」とは IT の維持運用・管理において,プロセス 単位にどの程度のコストが配分されているかを把握した上 で重複や冗長を排除し,IT 投資が適切に配分され,ビジネ スモデルへ有効活用された状態のことである。最適化への 課題を解決するには問題解決のフレームワークを適用した 分析が有効である。(1) 現状分析 (2) 課題設定 (3) 解決策 の選択 (4) 実施・効果測定の順に実施する ( 図 4)。 • 間接コストの分析 サービス提供にかかる間接コストを 5W1H フレームワーク で発生原因や活動ユニットに分割した後、活動基準原価計 算(Activity Based Costing)などの管理会計手法を活 用し,効果的なコストダウンを図る。時間や要員数をもとに, 活動ユニットごとのコストを計算し,配分する。活動ユニッ ト単位に標準のコストドライバー(作業時間, 処理件数など) を定義し,サービス単位にコストドライバー割合を計算し, 配賦する。適切な管理会計手法を活用することにより,コ スト傾向が把握でき,課題解決の優先順位付け等の判断が 可能となる。 図 4:最適化への課題解決フレームワーク 課題設定や解決策の選択は企業ごとに相違することは当然 のことである。なぜなら個々の企業の事業内容や規模は経 営戦略,IT 戦略,リスク選好に影響を与えるからである。 (2)課題設定 • プロセスの不整合 「業務活用度×業務貢献度」を分析した結果, 「要検討」に 位置付けられた IT 資産はビジネス自体に何等かの課題があ ることが考えられる。プロセスが適切な粒度に分割されて おらず,プロセス間で重複や漏れが生じていたり,個別最 (1)現状分析 • IT 資産の分析 IT 資産を IT サービスのコンポーネントごとにハードウェア, ソフトウェアライセンス,通信回線,および保守契約など を洗い出し, 「業務活用度」と「業務貢献度」の視点で状態 を評価する。プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント (PPM)分析を応用した IT 資産分析表で状態を視える化さ せる(図 5) 。 適な IT システムによるデータの分散や人手作業が介在した り,ボトルネックの発生が想定される。 • 複雑な構成 コンポーネントごとに集約した IT 資産に複数スペックの ハードウェア,異なるエディションやバージョンのソフト ウェア,別契約で調達したライセンスなどが存在すると, 管理の複雑性が増し,調達・導入・運用などの管理業務に かかる間接コストを増幅させる要因となる。 (3)解決策の選択 • 投資とコスト削減の最適化 IT 資産分析表において, 「業務活用度 (高) ×業務貢献度 (高) 」 に位置する IT 資産には投資を促進させ, 「業務活用度(高) ×業務貢献度(低) 」に位置する IT 資産は有効活用されて ない原因を分析し,利用効率を向上させる機能改善や操作 性改良などの追加投資を検討する。 「業務活用度 ( 低 ) ×業 • 仮想化の活用 SaaS,PaaS,または IaaS と呼ばれるパブリッククラウ ドサービスを活用するとライセンス費用や運用作業費が抑 制できる他,高性能サーバや最新アプリケーションを必要 に応じて利用することで柔軟なコスト配分ができる。また, プライベートクラウドはサーバを集約でき,それぞれのサー バにかけていたや運用保守費用の削減が可能となる。 務貢献度 ( 低 )」に位置する不良 IT 資産は徹底的なコスト 削減か廃棄を検討する。 • IT 資産の標準化 (4)実施と効果測定 • IT 戦略との整合 IT 資産や管理プロセスを標準化すると,業務品質や業務効 重要なのは、即効性をねらった部分的な改善策に走らず, 率の向上が期待できる。例えば, 職種(利用用途)ごとにハー 効果が出始めるのに2~3年程度はかかることを念頭に「中 ドウェア,OS・AP をコンポーネント化し機種を統一する 期IT戦略」を策定し計画に沿ったステップ投資をおこな ことで,調達の大口化による単価低減や調達業務,キッティ うことである。また,投資効果の測定には IT 資産と業務コ ング等の導入業務の効率化が期待できる。スキルセットの ストの分析手法を投資実行前に確立して,有効性と効率性 複雑性が低下し,情報セキュリティを含むインシデント対 を適宜評価することが大切でありビジネスへの IT の有効活 応の省力化・効率化の効果を得ることも期待できる。 用を十分に考慮に入れ,スピード感と柔軟性を持って,継 コンポーネントの各層の独立性が高く構成されるため,た 続的に PDCA サイクル回していくことが重要となる。 とえばハードウェアをリプレイスする際,OS・ミドル層と の互換性を検証すればよく,管理効率の向上に加え,可用 性も確保することが可能となる ( 図 6)。 4.最後に これまで述べたように,IT 資産の戦略的な投資や活用, 全体を捉えたマネジメントサイクルの構築・実践ができて いる日本企業はまだまだ少ない。IT はビジネスで有効活用 され,目標の達成に貢献することで企業の重要資産として 本当の投資価値が認識される。コスト削減を優先した消極 的・局所的な発想を転換し,競争力強化をねらい,全体最 適を考慮した積極的・大局的な IT の投資・活用をする時が 図 6:職種に応じた標準化の構成例 • 自動化 IT 資産のコンポーネント,業務プロセスが定義され標準化 された状態は反復性が高く,業務へ IT を適用させた自動化 が可能となり,業務品質・効率を向上させることが出来る。 例えば,サーバ死活状態やプロセス稼働状態,ネットワー ク帯域の監視,インシデントチケット発行,バックアップ, 訂正プログラム配布,構成情報収集,ログ収集,検疫ネッ 来ている。 吉丸 宏(よしまる ひろむ) システム開発・運用のスペシャ リストとしてユーザー系 IT 企 業に 20 年勤務。 特に業務プロセス分析に定評が あり、現職では SAM や ITIL の 導入コンサルに従事している。 トワークなどの作業は自動化により高い効果が期待できる。 〒108-6219 東京都港区港南二丁目15番3号 品川インターシティC棟(受付19階) ICTアセットソリューション部 tel.03-6720-8381 [email protected] 本紙に掲載された社名、製品名は各社の商標、または登録商標です。 本紙に掲載された 内容は、事例取材当時のものです。現在とは異なっている場合がありますのでご了承願いま す。詳細な製品内容、仕様等については、左記までお問合せ下さい。 2015 年 1 月 19 日作成 © NEC Capital Solutions Limited 2015. All rights Reserved.
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