テクニカルノート Dual-Luciferase® レポーター 遺伝子 アッセイ Tecan Spark™ 10M マルチ検出モードプレートリーダーでの発光測定 緒言 レポーター遺伝子アッセイ 近年、レポーター遺伝子を用いたシステムが、真核細胞、原核細 胞を問わず、遺伝子発現、遺伝子調節、細胞応答を研究、理解す るのに大きな影響を及ぼしている。 レポーター遺伝子システムは、プロモーターまたは調査したい遺伝 子配列にレポーター遺伝子を接続したものが、発現ベクターに組 み入れられている。レポータータンパク質の発現は、タンパク質そ のものを測定することによっても、タンパク質の酵素活性を測定す ることによっても明らかにすることが可能である。 酵素を測定するほうが、反応生成物を生成するのに必要なレポー ター酵素の量がごくわずかでよいことから、きわめて感度が高い。 感度が高く、測定が容易であることから、さまざまな生物から採取 したルシフェラーゼ酵素が、レポーターシステムに普通に用いられ るようになってきている。 測定原理 Promega Corp.の Dual-Luciferase®Reporter Assay System は、2 種類のルシフェラーゼ活性を測定することに基づいている。レポー ターの一方を、実験の目的となる反応を測定するのに使用する。 通常、このレポーターを「実験用」レポーターと呼んでいる。もう一 方のレポーターを内部コントロールとして用い、実験用レポーター のデータを補正するのに用いられる。 ホタル( Photinus pyralis )からとったホタルルシフェラーゼは、61 kDa の一量体酵素であり、ルシフェリンの酸化を触媒して約 560 nm の光を放出する。ウミシイタケ(Renilla reniformis)からとった同 じく一量体で分子量が小さい Renilla luciferase(31 kDa)は、セレン テラジンを酸化して約 480 nm の光を放出する。 実験の組立て方によって、ホタルルシフェラーゼかウミシイタケル シフェラーゼのどちらを実験レポーター、コントロールレポーターに 用いてもよい。 組換え ホタルルシフェラーゼ +AMP+PP1+CO2+光 カブトムシルシフェリン オキシルシフェリン ウミシイタケルシ フェラーゼ CO2+光 セレンテラジン セレンテラミド 図 1:ホタルルシフェラーゼおよびウミシイタケルシフェラーゼの反応 デュアルルシフェラーゼレポーターアッセイでは、ホタルルシフェラ ーゼおよびウミシイタケルシフェラーゼの活性を連続して測定する。 そうするにはまず、サンプル細胞ライセートの入ったウェルに、 個々のマイクロウェルプレートを分析したホタルルシフェラーゼ試 薬(LAR II)100 l を分注する。10 秒間の発光測定ののち、第二の ルシフェラーゼ試薬(Stop&Glo®試薬)100 l を分注し、再び発光 1 テクニカルノート を測定する。第二の試薬は最初の反応を停止(消光)させると同時 に、ウミシイタケルシフェラーゼ反応の基質を供給する。 本テクニカルノートでは、最新の用途に関するニーズに対応するも のとして開発した Tecan の次世代型マルチ検出モードリーダー Spark 10M を使用した Dual-Luciferase Reporter Assay System の 性能について説明する。同システムは、8 桁以上のダイナミックレ ンジを備えた高感度発光測定(フラッシュ&グロー)が可能である。 また改良型発光モジュールにより、最大 5 種類のルシフェラーゼを 用いたマルチカラーアッセイの測定が可能である他、(発光タンパ ク質などの)スペクトルスキャン機能も備えている(1)。 発光測定用の精巧な光学システムを搭載した Spark 10M は、評 価の高い Tecan の Infinite®リーダーの後継機種として完璧な性能 を備えている(2)。 材料及び方法 Spark 10M マルチ検出モードリーダー(Tecan、オーストリア) 96 ウェル平底白色ポリスチロールマイクロプレート(Greiner Bio-One、ドイツ) Dual-Luciferase Reporter Assay System(Promega、ドイツ) ウミシイタケルシフェラーゼ(組換え) (LUX Biotechnology、英国) QuantiLum® Recombinant Luciferase (Promega、ドイツ) 試薬の調製 製造業者の説明書に従い、ルシフェラーゼアッセイ試薬 II(LAR II)、 Dual-Glo Stop & Glo 試薬および受動溶解緩衝液(1 x PLB)を調 製した(3)。 1 x PLB を用いて、ホタルルシフェラーゼおよびウミシイタケルシフ ェラーゼ保存溶液(~1 mg/ml タンパク質濃度)を調製した。保存 溶液から 1 x PLB を用いて各ルシフェラーゼ希釈液(~800 万カウ ント)を調製した。必要に応じ、1 x PLB を用いて希釈液をさらに希 釈した。 インジェクターA に LAR II を充填し、インジェクターB に Stop & Glo 試薬を充填した。マイクロプレートからの自然燐光を抑えるため、 製造業者の説明書に従い、アッセイの実施前に、リーダー内に 5 分間プレートを設置した(3)。 チューブへの吸着: 試薬がインジェクターチューブに吸着していないことを確認するた め、ピペットを使用し、組換えホタルルシフェラーゼのウミシイタケ ルシフェラーゼ(1:50)希釈液(20 µl)をマイクロプレートの 1 列(12 ウェル)に注入した。プレートをリーダー内に設置し、表 1 の手順を 用いて測定を開始した(測定値 1)。10 分後、再びピペットを使用し て各希釈液をプレートの別の列(12 ウェル)に注入し、上記と同じ 手順で測定した(測定値 2)。次に式 1 を用いて、2 回の測定にお けるルシフェラーゼ活性を計算した。 活性 (%) = 測定値 2/測定値 1×100 式 1:活性の計算 活性(%) ルシフェラーゼ活性 測定値 1 初回の測定値 測定値 2 2 回目の測定値(10 分間の培養後) 消光 ピペットを使用して PLB(20 µl)をマイクロプレートの A 列に注入し、 ブランク試料とした。次にピペットを使用して、組換えホタルルシフ ェラーゼ(20 µl)を D 列および G 列(24 ウェル)に注入した。表 1 の手順を用いてプレートを測定し、消光速度を求めた。式 2 を用い て消光を計算した。 消光 = シグナル FF/シグナル REN 式 2:消光速度の計算 シグナル FF LAR II 注入後に測定した発光 シグナル REN Stop & Glo 注入後に測定した発光 一致度 ウミシイタケルシフェラーゼを用いて組換えホタルルシフェラーゼを 希釈し、モル比を 1:50 および 50:1 とした。この 2 種類の条件につ いて、ピペットを使用して各々の酵素希釈液(20 µl)をマイクロプレ ートの 2 列(24 ウェル)に注入した。表 1 の手順を用いてプレート を測定し、各ルシフェラーゼに関する発光シグナルの一致度を求 めた。式 3 を用いて一致度を計算した。 %CV = 標準偏差/平均値×100 式 3:一致度の計算 %CV 相対変動係数 標準偏差 シグナルの標準偏差 平均値 平均シグナル(カウント/秒) 2 テクニカルノート 測定パラメータ プレート モード 注入 装置の設定 Greiner96fw 発光ウェルモード インジェクターA:体積 100 µl LAR II、200 µl/秒、注入後に再充 填 2秒 発光測定 自動 10,000 ミリ秒 0 ミリ秒 カウント/秒 インジェクターB:体積 100 µl Stop & Glo、200 µl/秒、注入後に 再充填 2秒 発光測定 自動 10,000 ミリ秒 0 ミリ秒 カウント/秒 待機 測定 減衰 積分時間 待機時間 出力 注入 待機 測定 減衰 積分時間 待機時間 出力 発光(カウント/秒) 測定パラメータ 表 1 に示すパラメータを用いて、発光スキャン測定を実施した。 消光前 消光後 ウェル 図 2: 消光実験から得られたデータの例。Stop & Glo 試薬(100 µl)の添加後、ホ タルルシフェラーゼ反応が抑制された。 一致度 2 種類のルシフェラーゼ反応測定の一致度を明らかにするため、 濃度の異なる酵素に対する試験を実施した。 図 3 に、異なるモル比(それぞれ 1:50 および 50:1)で混合し、連続 して測定したホタルルシフェラーゼおよびウミシイタケルシフェラー ゼの発光出力をまとめたグラフを示す。2 種類の酵素の発光出力 の干渉は観察されなかった。さらに 24 個のウェルで測定したシグ ナルは一致し、その相対変動係数(%CV)は 3.4%から 3.6%の間であ ることが明らかになった。 結果 チューブへの吸着 インジェクターチューブ内で DLR™試薬を 10 分間培養した後、ホタ ルルシフェラーゼおよびウミシイタケルシフェラーゼの活性を計算 した。10 分間の培養後の活性は、いずれのルシフェラーゼでも 95%以上を維持しており、したがってチューブへの試薬の吸着は観 察されなかった(表 2)。 測定値 1 測定値 2 (10 分後) 活性(%) FF 値 平均値 標準偏差 7,599,901 282,288 7,595,369 98,918 99.94 REN 値 平均値 標準偏差 169,743 10,397 179,789 3,314 発光(カウント/秒) 表 1: DLR 測定時の装置の設定 ウェル ホタル( ホタル( )およびウミシイタケ( )およびウミシイタケ( )ルシフェラーゼ(1:50) )ルシフェラーゼ(50:1) 図 3: ホタルルシフェラーゼ およびウミシイタケルシフェラーゼのシグナルの非 依存性。ホタルルシフェラーゼおよびウミシイタケルシフェラーゼを混合し、モル 比をそれぞれ 1:50 および 50:1 とし、発光(カウント/秒)を測定した。 105.92 表 2: DLR 測定時の装置の設定 消光 Stop & Glo 試薬の注入後、ホタルルシフェラーゼのシグナルは 10,000 分の 1 以下に減少し、ウミシイタケルシフェラーゼの発光の みが観察された。本実験では、試験対象の全てのウェルのシグナ ルが平均で 8.5 x 105 分の 1 に減少した(図 2)。 3 テクニカルノート 結論 謝辞 このテクニカルノートでは、Tecan Spark10M マルチ検出モードマイ クロプレートリーダーで、Promega Dual Luciferase Reporter Assay を実施すると、良好な性能を発揮することを示している。 Dual Luciferase Reporter Assay の実施にあたり、いくつか注意し なければならない点があるが Spark10M を用いれば簡単に克服で きる。 有益なディスカッションと、多大なご協力をいただいた Promega Corp.の Amy Landreman 氏および Kevin Kopish 氏に感 謝いたします。 参考文献 1) ルシフェラーゼ反応も、多くの酵素反応と同じく、温度依存性であ る。このため、機器を反応温度に 30 分以上馴化することが望まし い。Spark10M の温度調製機能で、アッセイ中は機器内の温度を 均一にすることができる。ルシフェラーゼアッセイの感度が高いた め、機器を正しく管理することが欠かせない。 2) 3) Technical note. Unparalleled flexibility for luminescence detection with the Spark 10M multimode reader. Tecan technical note 398597 V. 1.0, 12-2014 Technical note. Dual-Luciferase Reporter Gene Assay. Tecan technical note 395677 V. 2.0, 06 2012 Dual-Luciferase Reporter Assay System, Instructions for use (Promega Corp., MA) Dual Luciferase Reporter Assay を実施する前に、試薬の希釈や 汚染を予防するため、インジェクターを入念に洗浄する必要がある。 アッセイの試薬をインジェクターに満たす前に、チューブ内の液体 をすべて除去するとよい。 略語の一覧 アッセイ終了後、インジェクターとチューブを、まず蒸留水、次に 70%エタノールに 30 分間浸漬してきれいにする。こうすることによ って、プラスチックの種類によって可逆吸着を起こす Stop&Glo 試 薬を効果的に除去することができる。 DLR FF REN LAR II PLB Dual Luciferase Reporter ホタルルシフェラーゼ ウミシイタケルシフェラーゼ ルシフェラーゼアッセイ試薬 II 受動溶解緩衝液 ※このアプリケーションノートは Tecan (本社 スイス)が発行(原文 最後に、マイクロプレートによっては、製造に用いる材料によって、 自家発光が大きいものがある。このため、実験開始前に、マイクロ 英語)し、テカンジャパンが日本語翻訳したものです。 プレートの自己発光をテストしておく必要がある。測定値の精度を 翻訳文の表現等に疑義が生じた場合は、原文をご参照ください。 上げるため、自家発光の大きいプレートには暗順応が必要である。 Australia +61 3 9647 4100 Austria +43 62 46 89 33 Belgium +32 15 42 13 19 China +86 21 2206 3206 Denmark +45 70 23 44 50 France +33 4 72 76 04 80 Germany +49 79 51 94 170 Italy +39 02 92 44 790 Japan +81 44 556 73 11 Netherlands +31 18 34 48 174 Singapore +65 644 41 886 Spain +34 93 595 95 25 31 Sweden +46 31 75 44 000 Switzerland +41 44 922 81 11 UK +44 118 9300 300 USA +1 919 361 5200 Other countries +43 62 46 89 33 Tecan Group Ltd.では本文書において正確かつ最新の情報をご提供するよう最善の努力を尽くしておりますが、誤謬や脱漏が生じる可能性があります。したがって、Tecan Group Ltd.では明示的または暗示的にかかわらず、本文書における情報の正確性または完全性につき、何らの表明または保証を行うものではありません。また、本文書は予告な く変更する場合があります。記載された商標はすべて法律で保護されています。 本文書に記載された仕様書の技術的詳細および詳しい手順については、テカンの担当者までご 連絡ください。 本文書で取り上げたアプリケーションおよび製品は一部の市場で入手困難な場合がありますので、営業担当者にお問い合わせください。 記載された商標はすべて法律で保護されています。 本文書に記載された商標とデザインは、Tecan Group Ltd.(スイス Männedorf)の商標または登録商標です。完全なリストは www.tecan.com/trademarks で参照できます。リストには含まれませんが、ここに記載されている製品名および会社名はそれぞれの所有者の商標である場合があります。 398685J V1.0. 06-2015 Tecan および Infinite は、Tecan Group Ltd.(スイス Männedorf)の登録商標です。Spark は同商標です。 Spark 10M は研究用途向けです。診断用途ではご使用いただけません。 © 2015 Tecan Trading AG www.tecan.com スイス 著作権所有 免責事項と商標については、www.tecan.com をご覧ください。 www.tecan.co.jp/spark 4
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