兵庫県におけるデング熱の検査状況及び遺伝子解析について 押部智宏(健康科学研究センター感染症部) 【はじめに】 デング熱は、熱帯、亜熱帯地域で流行している蚊媒介 性の急性熱性疾患であり、稀に出血傾向やショック症状 を併発し重症化することがある。本疾病は 1940 年代に西 日本を中心に流行が確認されたが、それ以降は国内感染 が見られなかった。しかしながら、2014 年に東京の代々 木公園を中心とした国内流行が発生し、これに関連して 西宮市在住の代々木公園等を訪問したことのないデング 熱患者から、国内流行事例で検出されたものと同一配列 のウイルス遺伝子が検出され、市内での 2 次感染を否定 できない事例も発生した。このため、今後は海外からの 輸入例だけでなく県内での流行も想定した検査体制の充 実を図ることが求められている。 本発表では、2013 年度以降に当所で実施したデング熱 の検査状況、ウイルス遺伝子、抗原及び抗体検査法の有 用性を検討した結果及び疫学調査で重要となるデングウ イルスのEnvelope遺伝子領域の系統樹解析について報告 する。 【材料と方法】 1. 検体 2013 年 4 月から 2015 年 7 月までにデング熱疑いで当 所に搬入された血液または血清(第 1 病日~第 9 病日に 採取)26 検体を用いた。 2. デングウイルスの遺伝子検査 コンベンショナル及びリアルタイム RT-PCR 法は、デン グウイルス感染症診断マニュアル(国立感染症研究所) に準拠した。 3.デングウイルス抗原検査及び抗体検査 NS1 抗原検査は、IC 法の DENGUE NS1 AG STRIP (BIO RAD 社)を用いた。IgM 抗体検査は、IgM Capture ELISA 法の Dengue IgM Capture DxSelect (FOCUS 社)を用いた。 4. デングウイルスの遺伝子解析 検出されたウイルスの Envelope 領域を RT-PCR 法で増 幅した。この増幅産物をダイレクトシークエンス法で塩 基配列を決定し、NJ 法にて系統樹解析を行った。 【結果および考察】 1.デングウイルスの検査結果と検査法の比較 供試した 26 検体中 10 検体からデングウイルスが検出 された。血清型は 1 型が 4 検体、2 型が 1 検体、3 型が 4 検体、4 型が 1 検体となった。デングウイルス陰性の検体 からは、チクングニアウイルスと麻疹ウイルスがそれぞ れ 1 検体検出された。これらは発熱、発疹を伴う疾病で あり、デング熱との臨床上の鑑別が難しいため、検査に よる鑑別診断が重要と考えられた。また、陽性となった 患者の海外渡航歴は、タイ、フィリピン、インドネシア 等の東南アジアが中心であった。 検査法の比較(表)では、NS1 抗原検出キットがリアル タイム RT-PCR 法との結果と全て一致したことから、簡便 性や迅速性の面からも有用であった。しかしながら、本 法は血清型や Genotype の型別ができないため、特に、国 内感染等の疫学調査を必要とするケースでは、リアルタ イム RT-PCR 法等の検査を追加する必要がある。一方、コ ンベンショナル RT-PCR 法では、一部の陽性検体で反応が 弱いか、 陰性となるケースが見られた。 IgM 抗体検査では、 発症初期(第 1 病日~第 4 病日)の陽性検体が陰性と診 断された。 2.デングウイルスの遺伝子解析 デングウイルス 1 型の Envelope 遺伝子領域の系統樹解 析を行った結果、3 株のうち 2 株が 2014 年に東京の代々 木公園を中心とした国内流行株と同じ Genotype I 型に属 し、1 株は、アメリカ、西アフリカに分布する Genotype V 型に分類された。 デングウイルス 3 型の Envelope 遺伝子領域の系統樹解 析では、 2 株がインド、 アフリカ、 アメリカに広く分布し、 他の型よりも重篤なデング出血熱を引き起こす傾向が強 いとされる Genotype III 型に属し、1 株は、主にインド ネシア、マレーシア、フィリピン等に分布する Genotype I 型、1 株は主にタイ、ベトナム、バングラディシュに分布 する Genotype II 型に分類された。 【まとめ】 今回供試した検体では、簡便、迅速な NS1 抗原検出キ ットが有用であった。さらに本法とリアルタイム RT-PCR 法を組み合わせることで、血清型の情報が得られ、より 確実な診断が可能であると考えられた。 デングウイルスのEnvelope遺伝子領域の系統樹解析は、 感染源や感染経路等の疫学情報を得る手段として有用で あり、今後とも県内発生に備えて県内患者のウイルス株 の解析を継続していく必要がある。
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