発達障害の行動特性に配慮した住環境整備

発達障害の行動特性に配慮した住環境整備
10年間93事例からみた傾向と対策
Residential Renovation for persons with developmental disabilities
considering their challenging behavior
Tendency and measures from 94 cases for 10 years
横浜市総合リハビリテーションセンター 西村 顕
キーワード:発達障害 住環境整備 傾向と対策
1.背景と目的
横浜市には、発達障害(知的障害含む)の
ある人たちを対象とした住環境整備の相談お
15
14
10
6
5
16-20歳
4(4.3%)
21歳-
3(3.2%)
0
平均8.3±4.9歳
最頻値6歳
最小1歳、最大31歳
20
40
(人)
た。性別は男性が約8割、女性が約2割(図
A1(IQ20以下)
36(38.7%)
2)。療育手帳の所持状況は、約7割がA1
A2
(21-35)
31(33.3%)
(IQ20以下)またはA2(IQ21-35)であった(図3)。
B1
(36-50)
3.2 対象者の住宅形態と相談内容
B2
(51-75)
住宅形態の内訳は、持家戸建住宅が約半数
未取得
n=93
8(8.6%)
30
60
35
台所進入
15
室内錠
15
器物破損
15
騒音対策
新築相談
その他
1
8
20
賃貸共同
無断外出
音対策」については、戸建住宅よりも共同住
1
5
1
3
1
28(30.1%)
14(15.1%)
0
30 60(人)
図4 住宅形態
n=93複数回答 (人)
0 20 40 60 80
66(71.0%)
11
9
4
50(53.8%)
持家共同
n=93
賃貸戸建
「台所進入」「室内錠」などであった。「騒
持家共同
持家戸建
出」が約7割と圧倒的に多かった。次いで、
持家戸建
賃貸共同
7(7.5%)
0
(人)
賃貸戸建 1(1.1%)
11(11.8%)
図3 療育手帳
は、住宅形態にあまり関係なく、「無断外
相談結果をみると、実際になんらかの住環
男性76(81.7%)
60
図2 男女別年齢構成
平均年齢は8.3歳、6-10歳が約半数を占め
3.3 相談結果と無断外出の改造内容
(人)
16(17.2%)
3.調査結果
断外出の相談は多いことがわかった。
(年度)
女性17(18.3%)
45(48.4%)
11-15歳
n=93
男子
女性
25(26.9%)
環境整備の相談件数を後方視的に調査した。
5)。また、療育手帳の種類に関係なく、無
2012
6-10歳
宅の方が若干相談が多いことがわかる(図
2011
テーションセンターで発達障害を対象とした住
宅が約2割であった(図4)。相談内容で
2010
-5歳
であり、持家共同住宅が約3割、賃貸共同住
2009
2003年度より10年間、横浜市総合リハビリ
相談件数は、のべ93人であった(図1)。
9
図1 相談件数の推移
2.調査方法
3.1 相談件数および対象者の属性
2008
講じるための基礎資料の蓄積を目的とする。
2007
1
2006
去10年間の相談内容を整理し、今後の対策を
2
11
18
15
13
4
2005
0
2004
は、発達障害に対する住環境整備について過
20
2003
よび助成制度 注 1 ) の仕組みがある。本稿で
のべ93件
(件)
1
2
1
2
2
25(26.9%)
21(22.6%)
18(19.4%)
8(8.6%)
3(3.2%)
11(11.8%)
図5 主な相談内容
A1/A2
B1/B2/
未取得
境整備を実施した割合は約6割であり、相談
のみが約4割であった。住環境整備を実施し
(人)
相談のみ
35(37.6%)
制度未利用
23(43.4%)
面格子
(図6)。次に、相談件数が66件ともっとも
を実施した内容を検証する。実施件数は35件
(53.0%)であり、そのうち約6割が掃出し
格子戸
玄関錠
た際、助成制度の利用割合は約6割であった
多かった無断外出について、実際に改造工事
(人)
検討中
5(5.4%)
n=93
20(57.1%)
17(48.6%)
7(20.0%)
フェンス
7(20.0%)
制度利用
クレセント
6(17.1%)
30(56.6%)
その他 5(14.3%)
n=53
改造実施
53(57.0%)
0 10 20
n=35
図6 相談結果
図7無断外出改造内訳
窓に格子戸を導入しており、約半数が玄関錠
を変更していることがわかった(図7~図
掃出し窓に格子戸
9)。
4.考察
発達障害を対象とした住環境整備の相談件
数が2007年より急増しているのは、筆者らが
屋内シリンダー錠
調査 文1) を開始し、家族向けの研修会などを
開催したからであると推測できる。また、相
談の多くが無断外出であることは、横浜市の
図8 格子戸改造例
図9 玄関錠改造例
助成制度の対象工事として認められやすいこ
故につながる。また無断外出の行動は、今は
。一方、
みられなくても、成長とともにみられること
無断外出に対する改造について、掃出し窓に
もある。日中の過ごし方に対する課題や人的
格子戸を設置する工事が多いのは、既に玄関
援助も重要であるが、当センターでは、まず
や窓には家族がホームセンター等で防犯用の
本人の身の安全を確保することが最優先であ
ロックを購入するなど、なんらかの工夫をし
ると考えた。未然に無断外出を予防する環境
ているが、その市販のロック等に不便さを感
改善を徹底する取り組みが必要である。具体
じており、より生活がしやすい改造を選択し
的には、図9に示すような玄関の鍵を両面シ
ているものと思われる。
リンダーに変更する情報を療育関係者や保護
5.まとめ
者に周知することである。
10年間で93事例という相談件数は、比較す
この「無断外出をなくそうプロジェクト
るデータがないためその多寡や改造需要は不
(仮)」を2013年5月より開始し、当セン
明である。しかし、環境が行動に及ぼす影響
ターの通園施設等に啓発用のポスターを掲示
が大きいと考えられている発達障害の場合、
する予定である。
とが原因であるとも考えられる
注2)
その行動特徴を理解した住環境整備は非常に
有効であると思われる。そのため、高齢者や
身体障害者の住環境整備のように、発達障害
者を対象とした住環境整備が一般的に普及
し、より安全で快適な暮らしを追求していく
必要があるだろう。
6.無断外出をなくそうプロジェクトの開始
無断外出については、先行研究 文 1 ) から
も、その行動に対する親のストレスが非常に
高かった。一度無断外出をおこしてしまう
と、転落や行方不明など命に関わる重大な事
注釈
注1)助成限度額120万円、IQ35以下(療育手帳A1お
よびA2)の方が属する世帯が対象。市民税所得割額
によって6段階の自己負担割合が設定されている。
注2)自身の行動により骨折や外傷を負うことを防
止し、生活の安全性を確保するためにおこなう工事
は対象となりやすい。その他種々の条件がある。
参考文献
文1)西村顕、本田秀夫他:重度自閉症の人々の住
環境-全国実態調査とそれに基づいたリハビリテー
ション工学からの住環境モデル提起-、財団法人明治
安田生命こころの健康財団研究助成論文集、第43
号、194-204、2008