ミトコンドリア・色素体以外の共生オルガネラ成立過程の解明

研究班紹介 ● B03
ミトコンドリア・色素体以外の共生オルガネラ成立過程の解明
研究代表者:稲垣祐司(筑波大学生命環境系(計算科学研究センター)
・准教授)
https://sites.google.com/site/yujiswebsite/Home/
●計画研究の概要
アノバクテリア由来共生体(spheroid body・楕円体)を保
細胞内共生細菌による真核細胞の進化
持していることが知られている。楕円体の分裂は宿主
(珪
ミトコンドリア(mt)
、色素体は、それぞれ細胞内共
藻)
細胞の分裂と同調し娘細胞に分配される。では楕円体
生した α プロテオバクテリア、シアノバクテリアに由
が珪藻細胞内でどのような働きをしているかであるが、
来する。mt は真核生物進化のごく初期に、色素体は mt
この点に関しては比較的理解が進んでいる。楕円体はシ
共生よりも後に獲得されたと考えられている。これらの
アノバクテリア由来だがクロロフィルの自家蛍光が検出
進化的起源・機能が異なる 2 種類のオルガネラは真核生
できず、光合成能力はないと考えられている。①楕円体
物の初期に確立したため、現存する真核生物の細胞・ゲ
は一部の窒素固定シアノバクテリアときわめて近縁なこ
ノムの進化に重大な影響を与えたはずである。つまり、
と、②楕円体ゲノムコードと考えられる窒素固定関連遺
現在の真核細胞体制・ゲノムの成り立ちを知るためには、
伝子群が同定されたこと、③楕円体ゲノムには Rhopalo-
オルガネラ獲得に際して、共生細菌と真核細胞(宿主)、
dia 科珪藻には窒素固定能があること等の知見を総合し、
すなわち内と外のマトリョーシカの体制やゲノムにどん
楕円体は珪藻細胞内で窒素固定に特化したオルガネラで
な変化がおこったかを知る必要がある。
あると考えられている。また珪藻類の中で Rhopalodia 科
珪藻だけが楕円体を持つことから、珪藻類の主要系統群
“古い”オルガネラ vs“若い”オルガネラ
が分岐した後窒素固定オルガネラである楕円体が確立し
細胞内共生した α プロテオバクテリア、シアノバク
たと考えられる。
テリアが、それぞれ mt・色素体として確立するためには、
本計画研究では、Rhopalodia 科珪藻とその内部の“若
以下の 3 つの大きな変革が必要であった。
い”オルガネラである楕円体をモデルとしてマトリョー
【変革 1】共生細菌ゲノムから宿主ゲノムへの遺伝子転移
シカ過程の研究を進める。窒素固定能をもつ自由生活性
【変革 2】転移した共生細菌遺伝子の真核型発現機構の獲
シアノバクテリアが珪藻細胞中でオルガネラ化するため
得
【変革 3】宿主細胞質で翻訳された共生細菌タンパクのオ
ルガネラへの輸送機構の確立
には、上記 3 つの変革が必要であるが、①楕円体ゲノム
の完全解読、②楕円体ゲノムから珪藻ゲノムへ転移した
遺伝子群の探索、③転移遺伝子の発現機構の解明、④楕
mt・色素体の獲得に伴うこれらの変革については、こ
円体維持のためのタンパク質輸送機構などの研究を行
れまでに細胞生物学的手法、ゲノムデータの解析などに
い、その実態解に迫る。
より研究されてきた。ただ、mt・色素体は真核生物進
化の初期に確立されたため、これらの“古い”時期に起
こったマトリョーシカ過程の痕跡は真核生物進化の過程
で消し去られてしまった可能性が高い。
mt・色素体を扱う研究に付随する問題点を回避する
一つの方法は、mt・色素体よりも進化的に“若い”オ
ルガネラをもつ真核生物種をモデルにすることである。
本研究計画では、
“若い”オルガネラをもつ真核生物と
して有殻アメーバ Paulinella chromatophora と Rhopalodia
科珪藻の研究を計画している。P. chromatophora 細胞内
のシアノバクテリア由来共生体(有色体)に関しては、
本計画班分担者である小保方の計画研究の概要を参照し
てほしい。
窒素固定オルガネラ・楕円体:マトリョーシカ過程の研
究の新たなモデル
Rhopalodia 科珪藻はその細胞内に色素体とは異なるシ
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文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「マトリョーシカ型進化原理」News Letter Vol.1
■ 略歴
1995年
1994-1996年
名古屋大学大学院理学研究科博士後期課程修了
日本学術振興会・特別研究員(DC2)
1996-1998年 (株)JT生命誌研究館・奨励研究員
1998-2000年
日本学術振興会・海外特別研究員
ダルハウジー大学生化学分子生物学部・博士研究員
2000-2004年
2004-2005年
長浜バイオ大学・講師
筑波大学大学院生命環境科学研究科構造生物科学専攻
2005-現在
(計算科学研究センター)・准教授
■ 最近の主な論文
1. Kamikawa R, Inagaki Y, Tokoro M, Roger AJ, Hashimoto T. Split introns in the genome of Giarida intestinalis are excised by spliceosome-mediated trans-splicing. Curr Biol. 2011;21:311-315.
2. Yabuki A, Inagaki Y, Ishida K. Palpitomonas bilix gen. et sp. nov.: A novel deep-branching heterotroph possibly related to Archaeplastida or Hacrobia. Protist. 2010;210:523-538.
3. Inagaki Y, Nakajima Y, Sato M, Sakaguchi M, Hashimoto T. Gene sampling can bias multi-gene phylogenetic inferences: the relationship between red algae and green plants as the case study. Mol Biol Evol. 2009;26:1171-1178.
4. Kamikawa R, Inagaki Y, Sako Y. Direct phylogenetic evidence for lateral transfer of elongation factor-like gene. Proc Nat Acad Sci
USA. 2008;105:6965-6969.
5. Patron NJ, Inagaki Y, Keeling PJ. Multiple gene phylogenies support the monophyly of cryptomonad and haptophyte host lineages.
2007 Curr Biol. 2007;17:887-891.
6. Inagaki Y, Susko E, Roger AJ. Recombination between elongation factor 1α genes from distantly related archaeal lineages. 2006
Proc Nat Acad Sci USA. 2006;103:4528-4533.
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「マトリョーシカ型進化原理」News Letter Vol.1
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