「地理学概論II」 第八回:マルクス主義とラディカル地理学 2015年6月15日 担当: 二村 太郎 [email protected] 前時の授業にあった質問&コメントから: 計量地理学では、主にどのようなテーマが研究されていたのだ ろうと思いました。 農業、工業からスペイン風邪まで地理学が関わっているという新 発見ができました。地理学は何かを研究する際のアプローチの 1つとして使われているのですね。 データをもとに計算して研究することも、フィールドワークによっ て研究することも、どちらにも良い面があるので、両方の研究を うまく組み合わせて研究するのがいいのではないかと思いました。 地理学に限らないかもしれませんが、学問は時代背景や世論の 影響を受け、流行廃りがあるのだなと思いました。 今国内で研究資金が削られて、大学によって論文を読めたり読 めなかったりする話を初めて聞きました。論文は研究者たちの長 年の努力の結果や能力を発表する場だと認識していたので、当 然無料で公開されるものと思っていました。 前回の内容 計量革命 アメリカやイギリス以外で行われていた関連研究: 産業立地論 モデルや数式を利用し、ロジックに重きを置く 後年、英語圏に導入されていく 地誌学に対するシェーファーの例外主義批判 個性記述や地域性を明らかにしようとする研究 地域や場所の例外を増長するとの 指摘 ハーツホーンの地理学に反論 ワシントン大学における計量学派の形成 海外の研究を積極的に導入 ウルマンやギャリソンのリーダーシップのもとで、研究が進展 なぜ地理学において計量的手法が支持されたのか? 計量的手法 数字の援用、客観的な分析結果、理論的な思考を提示 「科学」として地理学の評価を高める 計量革命の影響 計量地理学に特化した学派の形成 少数の大学が研究を主導 地理情報システム(GIS)の発展において、計量地理学の研究者が主導する 1960年代以降の地理学 長くは続かなかった計量革命 1960年代中期~1970年代以降、計量的手法に依存し た研究が強い批判を受け、計量地理学は衰退するよう になる なぜだろうか? ヒント:当時の時代背景との関連 ベトナム戦争と反戦運動 人種差別をはじめとした様々な社会的不平等・不公正 o 特にアメリカ合衆国で顕著 地理学でどのように不平等問題を解決するのか? 計量的手法では十分な 解決策を提供しえない(例:居住分布 を地図化しても、そこから何を論じるか?) ウィリアム・バンギによるデトロイト市内部に深く根差した研究 1960年代以降の地理学 マルクス主義地理学の台頭 様々な不平等・不公正問題を階級闘争と位置づける 「マルクス主義地理学(Marxist geography)」の誕生 地理学の中でも急進的な潮流 ラディカル地理学(radical geography)と呼ばれる 人文地理学の一研究分野ではなく、研究課題へ思想的影響を 与える アメリカ・クラーク大学地理学科における学術雑誌Antipodeの 刊行(1969) o 現在は英語圏でもっとも古い歴史を持つラディカル地理学 雑誌 マルクス墓地の写真@ロンドン 計量地理学からマルクス主義地理学への転換 David Harveyの影響 イギリスの地理学者。博士号を取得し、計量研究の理論を論 じる『地理学の説明』(1969)を刊行 3年後に『都市と社会的不平等』を刊行、計量地理学から転 換し、マルクス主義の視点から都市の問題を読み解いていく 1970年代からアメリカ・ジョンズホプキンズ大学で教鞭をとり 、オックスフォード大学などを経て、現在ニューヨーク市立大 学教授 『資本の限界』刊行(1982) 『ポストモダニティの条件』刊行(1989)、その後も数多くの著書を出版 し、日本語訳も多数有 現代世界で最も研究が引用される地理学者となる 公式サイト: http://davidharvey.org/ ラディカル地理学がもたらしたもの 様々な事象を所与のものとしない視点の重視 様々な例: 都市地理学的研究:従来の都市圏研究や中心地研究から、 弱者の存在を問題提起する研究が加わる(不法占拠、ジェン トリフィケーション、など) 社会地理学的研究:マイノリティや貧困に焦点を合わせた研 究 ホームレス研究もその潮流 経済地理学的研究: 従来の産業立地論だけでなく、空間的 分業論の提唱、不平等を世界レベルで検討する 2013年に刊行された『人文地理学事典』の項目は、地理学 が研究対象とするテーマが多様化したことをよく表している 項目をみながら、気づいたことを話し合ってみよう(ディスカッション)
© Copyright 2024 ExpyDoc