【1】金利先物等取引に係る清算・決済制度の概要

【1】金利先物等取引に係る清算・決済制度の概要
1.金融取における清算・決済制度の特徴
金融取における清算・決済制度には以下のような特徴があります。
金融取の各取引参加者は、行った取引について、日々(1)清算に関する各種設定(転売・買戻
し、ギブアップ、テイクアップ)の申告により建玉を確定します。金融取は、(2)SPAN Ⓡ 証拠金額の
計算によって各取引参加者の建玉に対するリスク量を測定するとともに、リスク量に応じた証拠金
額の預託を受けます。また、(3)値洗い制度で、日々リスク相当額の資金の過不足を受払いしま
す。取引所の 取 引 参 加 者 の 顧 客 が 取 引 を 行 う 際 に 取 引 参 加 者 に 預 託 す る 証 拠 金 に
ついては、その保 護 を図 るために、(4)証 拠 金 の分 別 管 理 制 度 を設 けています。さら
に 、 ( 5 ) ギ ブ ア ッ プ 制 度 の 利 用 に よ り 、 顧 客 の 事 務 負 担 の軽 減 及 びリスク 管 理 の向 上
に寄 与 しています。
これから、上記 5 点を中心に、金融取の清算・決済制度の概要を説明します。
2.清算機関とは
金融取は、金融商品取引法に基づき、市場デリバティブ取引の清算機関としての業務を行ってい
ます。
金融取で行われる取引は、清算機関でもある取引所(金融取)が取引の相手方となり、取引の履行
を保証する仕組みになっています。金融取は、取引参加者から証拠金の預託を受けて取引の確実
性・信頼性を確保し、清算・決済を行います。
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金融取
買い手
売り手
(売り手)
(買い手)
取引参加者A
取引参加者B
当初売り手と買い手との間で成立した取引は、直ちに金融取を相手
方とした取引に置き換わるため、相手方の信用リスクの問題を回避
できます。
3.金融取における日中/夜間取引と清算業務
金融取の取引時間は、日中取引と夜間取引に区分されます。日中取引とは、通常は 8 時 45 分から
開始し、15 時 30 分までの時間帯での取引です。夜間取引とは、15 時 30 分以降 20 時までの時間帯
での取引です。
この夜間取引で成立した取引は、清算業務上では翌日付の取引として扱われます。すなわち、清
算業務では当日の夜間取引と翌日の日中取引については、翌日付の取引として処理が行われます
(下図ご参照)。当日の夜間取引を翌日付取引として処理するのは、取引参加者側の事務の合理化
のためです。
<T 日>
<T+1 日>
8:45
15:30
日中取引
20:00
8:45
夜間取引
15:30
日中取引
T 日付取引
T+1 日付取引
として清算処理
として清算処理
20:00
夜間取引
T+2 日付
として清算処理
4.清算設定と転売・買戻し申告
金融取における金利先物等取引は、①取引最終日までに反対売買する、または、②反対売買しな
いまま取引最終日を迎えた場合には最終決済することにより、決済の時期、方法などを選ぶことがで
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きます。
新規で取引が成立した後に、反対売買で決済が終了していない売付取引(売建玉)または買付取
引(買建玉)のことを建玉(たてぎょく)といいます。
金融取で成立した取引については、それが新規取引として建玉を残すものなのか、既存の建玉と
の反対売買を行うものなのかを指定又は申告することで、証拠金計算等の前提となる建玉を確定しま
す。そして、この確定した建玉に係る証拠金所要額を計算する等の清算処理を行います。
金融取では、以下の事項について取引参加者が指定・申告を行うことで建玉が確定します。
(1)
自己・受託の指定(発注の時から必須)
(2)
サブアカウントの指定(設定している場合には必須)
(3)
Open・Close の指定(約定ごとに設定することができる)
(4)
ギブアップ・テイクアップの申告(顧客からの指示に基づく)
(5)
転売・買戻しの申告(申告せず、Close の指定もなければ全て新規取引に
なる)
なお、清算業務受付時間帯は以下のとおりです。
<T 日>
8:30
<T+1 日>
15:30
17:00
当日清算処理
20:30
8:30
翌日清算処理
T 日付清算処理
当日清算処理
T+1 日付清算処理
15:30
17:00
20:30
翌日清算処理
T+2 日付清算処理
翌日清算処理受付開始時刻は 15 時 30 分となります。
毎営業日 17 時に当日建玉が確定します。
(1)自己・受託の指定
取引を発注する際には、自己取引又は受託取引の区分を入力しなければなりません。
そして、この区分入力情報は、そのまま清算システム(※)に反映されます。また、この区分のことを
ここではアカウントと呼ぶことにします。
※ 金利先物等取引の清算に関するシステム
(2)サブアカウントの指定(任意)
取引参加者は、自己・受託の区分の次にサブアカウントを任意に設定し、サブアカウント単位で取
引や建玉、証拠金を管理することができます。例えば、自己取引について取引目的又は担当部署に
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応じてヘッジと ALM(Asset Liability Management:資産負債の統合管理)に区分する、受託取引を顧
客単位で区分するなど、取引参加者の管理方法に従ってサブアカウントを設定することができます。
なお、サブアカウントを設定した場合は、どのサブアカウントに属するかを約定単位に指定しなけれ
ばなりません。
アカウント・サブアカウントの設定例*
アカウ
ント
自 己
売 300 枚
サブアカ
受 託
買 500 枚
売 800 枚
買 700 枚
Hedge: 売 100 枚
買 400 枚
ABC: 売 100 枚
買 200 枚
ALM:
買 100 枚
FGH: 売 300 枚
買 200 枚
1234: 売 400 枚
買 300 枚
ウント
売 200 枚
*自己取引をヘッジと ALM の2つのサブアカウント、受託取引を ABC、FGH、1234 の3つのサブアカウントに
区分した例
(3)Open・Close の指定
Open 又は Close の指定とは、個々の約定毎に新規取引を Open、反対売買を Close と指定すること
です。この指定には次の2つの方法があります。
① 取引システム(※)で指定する方法。注文入力時に取引システムで指定します。この指定は、清
算システムに転送されます。
② 清算システムで指定する方法。清算システムで個々の約定毎に Open/Close を指定します。
※ 金利先物等取引の成立に関するシステム
(4)ギブアップ・テイクアップの申告
ギブアップとは、顧客からの注文を執行した取引参加者から、顧客との間で取引を清算する取引参
加者に取引を移すことをいいます(詳細は『【4】ギブアップ制度』の章をご参照)。
このギブアップの申告には、次の2つの方法があります。
① 取引システムでギブアップを申告する方法。取引システムで注文入力時にギブアップ先の取引参
加者を申告します。申告した内容は、清算システムに反映されます。
② 清算システムでギブアップを申告する方法。個々の約定毎に、清算システムの清算設定でギブア
ップ先の(テイクアップする)取引参加者を指定します。
テイクアップとは、顧客からの注文を執行した取引参加者(注文執行取引参加者)がギブアップした
取引について、ギブアップを受けた取引参加者(清算執行取引参加者)が清算業務を引き受けること
です。清算執行取引参加者は、テイクアップを承認又は拒否する申告を清算システムで行います。な
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お、テイクアップを拒否された取引は、注文執行取引参加者が顧客との間で清算する(すなわち注文
執行取引参加者=清算執行取引参加者)ことになります。
(5)転売・買戻しの申告
転売・買戻しの申告は、当日取引のうち転売又は買戻しをする数量を、銘柄、アカウント(サブアカ
ウントを指定している場合にはサブアカウント)単位で申告するものです。
なお、(3)で説明した Open・Close の指定が全ての取引で行われていれば、この申告は不要です。
5.証拠金制度
先物取引は、①取引最終日までに反対売買すること、または、②反対売買しないまま取引最終日
に最終決済することで損益が確定します。このため、反対売買または最終決済までの間は、相場変動
リスクにさらされます。
この取引に係る債務の履行を確保するために、取引参加者は金融取に証拠金を預託しなければな
りません。
取引を行った際に必要になる証拠金額の計算方法の概略は、以下のとおりです。
(1)ベースとなる計算方法
最もシンプルなケースとして、ある商品の1つの限月にのみ建玉を保有している場合を考えてみまし
ょう。この場合には、以下の計算式で簡単に必要となる証拠金額を計算できます。
(1枚あたりの証拠金額) × (建玉数量)
1枚あたりの証拠金額は、金融取ホームページ(www.tfx.co.jp)の「マーケットデータ>清算関連デ
ータ」内にある SPAN Ⓡ パラメータ表に『スキャンレンジ』として掲載してあります。例えば、スキャンレン
ジが 7,500 円と掲載されているユーロ円 3 ヵ月金利先物の第 1 限月の建玉として、売りを 20 枚保有し
ている場合に必要な証拠金は、上の式に当てはめると
(7,500 円)×(20 枚)=(150,000 円)
になります。
(2)限月・商品間でのリスク相殺を考慮した計算方法
例えば、ユーロ円 3 ヵ月金利先物の第 1 限月に売り 10 枚、第 2 限月に買い 10 枚の建玉を保有し
ているケースで考えてみましょう。単純に考えると、
(1 枚あたりの証拠金額)×(10 枚+10 枚)
で計算できそうですが、この建玉が保有するリスクの観点から考えてみると、これでは預託する証拠金
を多めに算出してしまうおそれがあります。なぜかというと、限月が異なっていても同一商品であれば、
両限月の価格は同じ方向に動く(これを価格変動の相関性といいます)ことが多く、その結果売りと買
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いの建玉の間で、一定量のリスクは相殺されることが見込まれるからです。上記計算式ではそのリスク
相殺部分を一切考慮していません。
こういった建玉間でのリスクの相殺が見込まれる組み合わせの例としては、以下があります。
◎ 同一商品の異なる限月間での建玉
⇒(ユーロ円 3 ヵ月金利先物 3 月限の売り)と(同 6 月限の買い)
◎ 先物とオプションの建玉
⇒(ユーロ円 3 ヵ月金利先物の買い)と(同プットオプションの買い)
◎ 価格に相関性のある商品間での建玉
⇒(ユーロ円 3 ヵ月金利先物の買い)と(無担保コール O/N 金利先物の売り)
このような建玉を保有する場合に、相殺されるリスクを反映して適正な証拠金額を計算できる制度と
して、金融取では SPANⓇを採用しています。SPANⓇとは、Standard Portfolio ANalysis of risk を略した
もので、米国の先物取引所である CME(シカゴ・マ-カンタイル取引所:Chicago Mercantile Exchange
Inc.)が開発した証拠金システムです。現在 SPANⓇは世界の主要な取引所で広く採用されています。
SPANⓇでは、取引全体、すなわちポートフォリオ全体でどれくらいのリスクを抱えているかという観点か
ら証拠金額を算出します。
『(1)ベースとなる計算方法』で紹介した証拠金額の計算についてもこの SPANⓇを用いますが、その
計算結果は(1)で紹介した簡単な式での計算と一致することになります(概要については『【2】SPAN
Ⓡ
』をご参照)。
(3)緊急証拠金
緊急証拠金とは、相場が一定以上の幅で大きく変動した場合に臨時に適用する証拠金です。取引
証拠金の預託期限は取引の翌日ですが、緊急証拠金については、取引参加者が取引所に当日中に
預託しなければなりません。緊急証拠金が発動される際には、午前 11 時 30 分頃に清算システムおよ
び取引システムにその旨のメッセージを表示します。
6.顧客証拠金の安全性
金融取では、証拠金の分別管理制度を導入しています。この制度に基づき、取引参加者は顧客の
証拠金を取引所に預託し、取引所は取引参加者の自己分の証拠金と受託分(オムニバス口座)の証
拠金とに分別して保管することで、取引参加者が破綻した場合に顧客の証拠金が毀損することを防い
でいます。
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自己分
金融取
受託分
取引参加者 X
取引参加者 X
顧客 A&B 分
(オムニバス口座)
取引参加者 X
自己分
顧客 A 分
顧客 B 分
顧客 A
顧客 B
7.値洗い
値洗いとは、日々の価格の変動に応じて、取引参加者や顧客の成立した取引や保有している建玉
にどの程度の損益(値洗い価格差)が生じているかを算出し、その損益に相当する現金(以下「差金」
といいます。)を授受するものです。金融取は、全ての取引や建玉を日々の清算価格で時価評価し、
その結果生じた差金を金融取と清算参加者の間で翌営業日に現金で決済します。値洗いをすること
により、損失が累積することを防止しています。金利先物等取引に係る差金は以下のとおりです。
引直差金:当日約定した取引を値洗いすることによって生じる差金。約定価格と約定日当日の清
算価格との差額から算出。
更新差金:前日建玉を値洗いすることによって生じる差金。前日清算価格と当日清算価格との差
額から算出。
金利先物等取引ではこの 2 つの差金と、オプション料、移管調整差金(過去のギブアップの訂正処
理により生じる差金)を取引参加者ごとに損益を通算した後の金額を翌営業日に現金で決済します。
8.最終決済
最終決済とは、取引最終日までに転売・買戻しが行われなかった建玉を、日々の値洗いと同様に、
最終決済価格で全ての取引と建玉を時価評価し、最終決済日(取引最終日の翌営業日)において決
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済することです。
9.建玉移管
建玉移管とは、移管元取引参加者が保有する建玉を、移管先取引参加者へ引き継がせることです。
建玉移管に係る処理の流れは以下のとおりです。
金融取
(2)建玉移管申請
取引参加者 A
(移管元)
(4)建玉移管承認
(5)建玉移管の実行
取引参加者 B
(3)建玉移管承認
(移管先)
(2)建玉移管申請
(1)建玉移管依頼
(1)建玉移管依頼
顧客 C
(1)
顧客 C は移管元取引参加者 A(以下「参加者 A」といいます。)及び移管先取引参加者 B
(以下「参加者 B」といいます。)へ建玉移管処理を依頼します。
(2)
参加者 A は、顧客 C の建玉移管依頼に基づき、建玉移管の内容を金融取及び参加者 B
へ申請します。
(3)
参加者 B は、参加者 A からの申請内容を確認し、建玉移管の承認処理を行います。
(4)
金融取は、参加者 A からの申請内容を確認し、建玉移管の承認処理を行います。
(5)
金融取の承認後、建玉移管が実行されます。
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