別府悦子・宮本正一・別府哲・新村津代子・山田典子・北川小有里 2015

社会性の発達に困難を抱える子どもの早期徴候と支援(1)
ー1歳6か月児健診の「ままごと遊び」観察をもとにー
別府悦子 宮本正一 別府哲 新村津代子 山田典子 北川小有里
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中部学院大学 岐阜大学 本巣市健康増進課
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3
Ⅰ.問題
・わが国の乳幼児健診は、障害の早期発見とその後の対応に大きな役割を果たしてきた。
・しかし、自閉症スペクトラム障害(以下 ASD) などの社会性の発達の問題については、必ずしも感度が高くない(小枝、2008 など)。
・そのため、発見や診断が遅れる、ASD などの社会性の発達に困難を抱える子どもの親子関係の不調さからくる問題・集団に参加した
時の不適応の問題が指摘されている。
・こうした子どもへの早期支援が重要である。早期支援につながるアセスメント方法の有効性を実証的に検証し、乳幼児健診の場面等
で活用できる方法やシステムの開発が求められている。
・神尾(2011 等)は、ASD などの社会性の発達に困難を抱える子どもの早期発見のためのアセスメントと
N
して、M−CHAT(Modified Checklist for Autism in Toddlers: 乳幼児期自閉症チェックリスト修正版)
を乳幼児健診場面で活用、有効性を検証している。
・岐阜県本巣市では、乳幼児健診場面でM−CHATを活用し、これをもとに表2のように、健診場面で
17k
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おもちゃグッズを用いた「ままごと遊び」を保健師が問診時に実際に提示して、子どもの行動観察を行っ
43k
ている。
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●
所
・そして、子どもの社会性の発達に保護者が関心を持ち、親子のかかわりの支援につながるよう、健診のシ
本庁
舎
ステムや内容を策定している。
・今回、支援につながるアセスメントの有効性を検証することを目的に、健診データの分析を行う。
表 1
年齢
教室
胎児期 0か月
マタニ
ティ教室
相談
訪問
2~3
6~7か
4か月
10か月 Ⅰ歳
か月
月
新生児 赤ちゃ
訪問 ん教室
7か月児教
室
妊婦相
談
1歳6カ月 2歳
3歳
①他児への興味
②呼名反応
③要求の指さし
④興味の指さし
⑤模倣
⑥指さし追従
⑦興味あるものを持ってくる
⑧社会的参照
⑨耳の聞こえ
⑩ことばの理解
1歳児教室
4か月
児健診
健診
表2 1歳6か月児健
診時の「ままごと遊
び」の反応
本巣市 母子保健事業体系図 (H23年度)
10か月
児健診
1歳6か 2歳児 3歳児
月児健診 健診 健診
保健師による乳幼児相談・家庭訪問
発達相談員による発達相談
すくすく教室
発達支援
本巣市の1歳6か月児健診における
ままごと遊び
人形と玩具(ポットとコップ)を
子どもに提示し、保健師がまま
ごと遊びをして見せ、表1の反
応を観察し評価を行う
Ⅱ.目的
・社会性の発達に困難を抱える子どもの早期徴候につながる発達の特徴や性差を明らかにする。
Ⅲ.方法
・岐阜県本巣市の 1 歳6か月児健診を受診した平成 22 年 10 月∼平成 24 年 3 月生まれの 435 名の乳幼児健診カルテ(母子支援票)に
記載されている項目の通過状況を Excel に入力し、分析を行った。
Ⅳ.結果と考察
・ままごと遊び観察で、表 2 のように反応を分類した結果、各項目の「芽生え」(不通過だが反応は見られる)および「不通過」の反応
を示さなかったのは 297 名であった。
・これ以外の 138 名は 10 項目のうち、何らかの項目で「芽生え」「不通過」の反応が見られた(表4)。
・10 項目の合計点を Wilcoxon の順位和検定によって、男女の差を分析したところ、表5のように男児が女児より、支援得点が高いこ
とがわかった(P < 0.01)。
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1.25
0.69
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検定統計量U= 19609.5000000
期待値= 23500.0000000 分散= 1161531.
検定統計量Z= 3.609857
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234.56
198.55
• 危険率: 0.0003064
• 検定結果: P < 0.01
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10
11
・さらに、全ての data が った子どもの分析を行ったところ、「芽生え」を1点、「不通過」を2点と得点化してもよいと判断された
(図2)。そのため、この 138 名は、「ままごと遊び」観察において、支援が必要な子どもととらえた
・この 138 名のうち、10 項目の中で測定人数の多い6項目を使ってパターン分類の数量化3類を実施した(図2)。図3は、138 名の
ままごと遊びにおける 10 項目の通過状況である。これによれば、②呼名反応、⑤模倣、⑥指さし追従、⑧社会的参照、⑩ことばの理解で、
支援得点が高いことがわかり、「ままごと遊び」観察において支援のために重要な項目になると示唆された。
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