平成27年9月1日 デンマーク研修報告 初日:デンマーク社会について(小島ブンゴード孝子レクチャー概要) デンマーク福祉の背景には、第二次世界大戦後の復興が大きくかかわる。ドイ ツに占領はされたものの、戦地にならなかったため、人的被害も受けることが なかった。そのため戦後すぐに復興し好景気になった。ところが人手不足も深 刻で、女性の社会進出が急速に進んだ。この女性の社会進出がのちに社会福祉 発達の大きな要因となる。現在の就労可能年齢女性の就労率は67%である。 一方、1914年世界初の義務教育が開始され、考える教育というヴィジョ ンでの教育がおこなわれた。それは最大の資源は人であるという、デンマーク の文化・社会性が根底にある。この教育システムの影響からか、デンマークで は人生観が3つのステージに分けられている。これらの人生は自己決定によっ て決められる。この自己決定が医療福祉と大きくかかわる。デンマークは元々 個々の意見が尊厳されているため尊厳死という言葉や概念はあるが尊厳死協会 というものは必要ない。このことがすべてを物語っているといっても過言では ない。日本のように自由に様々な医療機関を受診するのではなく、家庭医が存 在する。日本の、かかりつけ医と似ているが、家庭医になるにはそれなりの研 修(最低 6~7 年の資格教育で、その資格を持つもののみが家庭医として開業 を許される)が必要であること、また、診療所の開業には国があらかじめ規制 をかけていることも特徴である。デンマークは医療の効率性や在宅医療の充実 を長い時間をかけ政策的に追求された印象に対し、日本は過剰ベッド、過剰診 療が医療費の高騰につながったとし、地域医療構想という名のダウンサイジン グを考え出した印象である。 *写真は小島ブンゴード孝子氏の説明に聞き入る院長と本部長 2日目 高齢者ケアセンター(プライボーリ)・アクティビティセンター 初日のデンマーク社会で学んだように、個々の自己決定を最も尊重されるため 日本のように長期的な入院という考えがない。市が政策的にケアセンターを設 立し、運営を行う。施設長は看護師が多い。病院で経験を積んだ看護師が経営 学の資格を取得後、施設長となる。日本では病院の勤務はハードなので特養へ という考えの方も少なくない。 デンマークでは在宅を支える看護師及び介護専門スタッフほどスキルが必要で あるという考えだし、内容を見てもっともだと感じた。ターミナルや医療依存 度の高い人も入居され、看護師のマンパワーが足りないのではと問うと、デン マークでは日本でいう介護福祉士に相当する社会保健ヘルパーのさらにキャリ アアップした資格教育である社会保健アシスタント教育を受ける事で、看護行 為(医療行為)を行える仕組みがある。在宅や施設においては彼らが臨床で大 きな役割を果たす。 次に認知症対策だが、認知症になってももちろん自己決定が尊厳されるし寄 り添ったケアがゆったりとした空間の中で提供される。ケアセンターには回想 室(昔の住宅の空間)を初め、安心できるような空間の演出がされている。例 えばマッサージチェアに音楽、光の演出にアロマテラピー等、最も驚いたのは スマートフロアという床である。この床は床全体が ipad のようになっており 床を歩けば、その行動がモニタ上で現れる。歩いていると点で表示され、転倒 したり座り込めば面で表示される。これは認知症の行動習慣をチェックし早期 の転倒予防であったり、徘徊予防につながる。 アクティビティセンター(市が場所を提供。活動内容は利用している高齢者 市民が組織的に動き、自主的に決めている)は日本でいう老人憩いの家を10 0倍化したような組織。高齢者が様々な活動を行う。壱岐でも舞踊・囲碁・釣 り・詩吟・俳句・ゲートボール等々が個別に行われているが、デンマークでは それを拠点化することで交流人口が拡大し、認知症対策にもつながっているこ とを感じた。 3日目 急性期病院の神経内科を見学した。現在デンマーク国内の平均在院日数が驚き の3,6日でどのような治療が行われて、どのようなリハビリがされ、どのよ うな連携がされているのか一番関心があった。細部に至るまでは知る事が出来 なかったが、脳梗塞を例にしてみると。日本では2週間の点滴治療がスタンダ ードだが、デンマークでは3~5日しかマニュアル的に行えない。リハビリは 発症後3時間以内に起立保持を実施するということだった。集中してリハをし ているのかと思ったが患者が自立してリハビリができるようサポートするとい う印象であった。 年間に1100人の脳血管障害(疑いも含め)の患者が搬送されるそうだが、 900人は自宅退院、100人は在宅医療フォロー、100人がリハセンター へ転院という流れであった。注目したのは900人のフォローだが、退院後2 4時間以内に市の看護師が訪問しメディカルチェックを行う、異常があれば家 庭医へ連絡するというフォローが徹底されていることだった。日本でも退院後 の再入院が多いのは言うまでもないが、課題と介入策を感じた一瞬だった。 4日目 ボランティア組織「エルドラセイエン」1906年に独居・貧しい老人の慈善 組織としてスタートした。その後国の政策により医療費の無料化・安定した年 金生活が保障されたこと等から、1984年、全国組織の新生エルドラセイエ ンが誕生する。会員はほぼ65歳以上の高齢者で様々なボランティア活動を行 う。日本で行っている病院の受診付添い等はボランティアで行われる。また、 ターミナル時の家族への支援等、認知症の家族支援、独居老人宅への訪問等、 ヘルパーの行う職域以外の援助がボランティアによって行われる。もちろんボ ランティアを行うためには研修があり研修受講者でなければ様々なボランティ アは実施できない仕組みになっている。また、様々なアクティビティも実施さ れている。スポーツ・ゲーム・芸術・IT・旅行・文化的な行事が実施されてい るとのことだった。その中で転倒予防教室に参加させていただいたが、1時間 30分のトレーニングが40代の自分でも汗をかき息がはずむ程度の運動を平 均年齢80代の方々が運動をしておられた。運動は認知症の予防にも大きく関 与することから、積極的な運動内容に正直びっくりした。 *写真は1時間30分のトレーニングに懸命についていく院長と武原理事 訪問看護・訪問介護について まず、日本のような介護保険システムはデンマークにはない。在宅医療が必 要かどうかは市の職員(判定委員:ベテラン看護師・PT・OT などが多い)が 判断をする。しかもサービス内容も市の職員(判定委員)によって決定され、 利用者はサービス提供事業者を決定する仕組みになっている。IT 化も進んでお り、様々な患者情報や訪問記録がモバイル端末で確認でき、緊急訪問や臨時職 員(臨時職員:デンマークでは正規職員で日本のパートとは違う)の介護士・ 看護師にも対応が行いやすいようになっている。また、その端末は市から支給 されているとの事だった。看取りに関しては、医師の指示により安心ボックス の設置が実施されている。安心ボックスとは看取りの時期に必要な麻薬・持続 注射一式・鎮静剤などが入ったケースを患者の家に設置、訪問看護師は即対応 ができるようになっている。(この安心ボックスを設置するに当たっては、非 常に厳しい規制が掛けられているので、そのルールに従って、どうしても必要 な場合に設置されるので、在宅ターミナルの患者すべての家に設置されるもの ではありません。) 5日目 認知症への取り組み デンマークでは市役所内に認知症コーディネーターが配 置されている。コーディネーターは高齢者ケアセンターなどで勤務歴のあるエ キスパートのみが資格取得できる。デンマークは人口570万人でそのうち9 万人が認知症の診断を受けているとの事で、今後は日本と同様、大きな課題と なっている。家庭医が診断をすると、認知症専門病院で4回の外来通院を患 者・家族を別々にコンサルテーションする。患者・家族は別々にグルーピング し当初より共有・集団で支えるという認識を身に着ける。その後は軽度・中 度・重度に分類され軽度は火・木のデイセンター、中度は月・水・金のデイセ ンター、重度はホームへ入所とシステム化されている。認知症の予防・悪化防 止には運動療法が効果的で、体操教室も積極的に行っている。また、ボランテ ィアへの教育・予防訪問なども同時に取り組まれている。また、後見人制度に ついても金銭管理と個人管理と分けられ、医師・弁護士・認知症コーディネー ターが協力しサポートを行っている。(これは、あくまでも今回訪問した市の 取り組みで、詳細は市によって異なります。) *写真は市の認知症コーディネーターより説明を受けているところ。 リハビリセンター 平均在院日数3,6日を可能にするための柱の一つであ る。今回訪問したリハビリセンターは日本の回復期病棟の印象だが、日本では 60日~90日の入院に対し、21日の在院日数である。83床に対し6人の 医師及び70人のセラピストが配属されている。入院の受け入れは95%が病 院からの転院5%が在宅からの入院ということであった。また病院から退院し た時と同様に在宅復帰の場合は市の看護師による訪問と施設内の訪問看護師が 訪問する仕組みになっている。また、在宅緊急ナースと個別契約をし、地域に 緊急で対応できる看護師を配属し24時間365日の体制が整備されている。 またリハビリセンターでも予防には力を入れ、看護師・PT・OT などが研修を し運動コンサルタントとして予防教室に介入が行われている。 考察 今回の研修は玄州会が今後地域でどのような活動をしていくか、地域医療構想 をどのように描くかという視点から、玄州会単体でなく、地域とどのように連 携をするか等のテーマで臨んだ。文化や価値観、また、政治主導の違いがあり すべてを導入することは困難と感じた。これに関しては壱岐市等に情報提供を 行い一緒に考えていく必要を感じた。また、運動については外来で医師がその の必要性を説明しているが、その後のフォローまではできておらず、玄州会の 転倒・認知症予防体操教室のようなものを立ち上げ、活動の場所の提供ができ ると感じた。抱えない介護については天井走行リフトがすでに光の苑で導入さ れているが、すべてにとなればかなりの高額になるので、先ずはスライディン グシートの活用の勉強会などから始めていきたい。認知症については院長が認 知症サポート医としての登録がされているので院長を中心に壱岐での認知症ケ アの向上を図る必要がある。医療や福祉の質については特に大きな差は感じな かったが、大切なのは地域との連携ではないかと考えた。壱岐の中では個々に 様々な活動が行われているが、個々を繋ぐことが地域を繋ぎ医療福祉の推進に なると改めて感じた。今後も玄州会が地域包括システムの構築についても貢献 できるよう精進したいと感じた。 文責 松尾武史
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