カツオ立候補

カツオ立候補
カツオ、生徒会長に立候補。
体育館で、他の候補に続き、カツオの演説。
カツオ
僕の妹、ワカメがダウン症であることを告知された時、僕たちは、意外
と素直に受け入れることが出来ました。でも、実際の生活で、不安が増
し、ワカメは、怖がりました。僕は何とかしようと、色々と手を打ちま
した。それまでの常識では考えられないような活動をしています。リミ
ッターが外れたんです。今では、この活動が僕たちの常識になりました。
勉強もできない僕が生徒会長に立候補だなんて笑いごとかもしれませ
ん。しかも、まだ 5 年生だ。でも、何かしなくちゃ、何か変えなくちゃ、
と思うんです。ワカメだけでなく、支援学級の生徒、さらには、障がい
を持つすべての人たちのために、みんなで何かできないだろうか。障が
いに目を向けると、リミッターが外れる瞬間があるんです。それを体感
してほしい。上手く説明できないけど、それまでの概念がひっくり返る
瞬間が訪れるんです。・・・実は、僕も以前は障がいに関しての理解があ
りませんでした。お母さんが障がい児の親御さんが経営するそば屋さん
の出前をとったことがあったんです。僕は食べませんでした。障がいに
対する偏見からです。あの時のことは、今でも鮮明に覚えています。恥
じる行為でした。それがゆえに、みなさんが障がいに偏見を持ったり、
避けようとする気持ちはよく分かります。でも、それでも、変えなくち
ゃいけない。僕はそう思います。リミッター外しちゃいなよ。
生徒たちの拍手。
続いて、推薦人の敬五のスピーチ。
敬五
カツオ君は、トランプの大会を開いてくれました。僕はトロフィーを貰
い、お母さんとお姉ちゃんはとても喜んでくれました。だから、カツオ
君が生徒会長になれば、みんなも喜ぶと思います。僕はお父さんと一緒
に暮らしていません。寂しいけど、お母さんとお姉ちゃんが一緒に遊ん
でくれます。誰かが必ず助けてくれます。そういうことができるのがカ
ツオ君です。困ったときに助けてくれます。今、学校に来るのがとても
楽しいです。カツオ君のおかげです。リミッター外しちゃいなよ。
全校生徒、ませた台詞に、笑う。
後日、選挙が行われ、カツオは落選。
敬五泣く。
敬五の家にて。
敬五の母
私は、最初から反対でしたよ。
イカコ
でも、敬五、ものすごく立派だったじゃない。私は敬五の勇姿を見れて
本当によかった。母さんだって、嬉し泣きしてたじゃない。
敬五の母
確かに、立派だったけど、あまり大ごとにしてほしくはないわ。
イカコ
カツオ君が言ってたじゃない。
「何かを変えなくちゃ」って。今がその
時よ。
敬五
リミッター外しちゃいなよ。
イカコ
敬五、それ好きね(笑)。
敬五
うん、カツオ君が好きだから。
イカコ
敬五、ちゃんとお話しできたね。
敬五
僕、悔しいよ。カツオ君がどうして生徒会長になれないのか分からない。
あんなに優しくしてくれるのに。
イカコ
敬五は、また一つ成長したね。母さん、敬五の変化がすべてだと思う
の。・・・母さん、実はね、サザエちゃんに、演説のスピーチのビデオを
撮ってもらってたの。これを、父さんに贈ろうと思うの。
敬五の母
ダメよそれは!
イカコ
母さん、父さんだってきっと分かってくれるわ。
敬五の母
いいえ、イカコは甘いわ。
イカコ
母さんが何と言おうと、贈る。私のリミッターが外れそうなの。
イカコが敬五の父にビデオテープを贈る。
敬五の父からイカコに電話が来る。
敬五の父
あそこまで立派にスピーチできるとは思わなかった。私は間違っていた
のかもしれない。カツオ君と話がしたい。
イカコが、カツオと敬五の父が話す場を作る。
カツオ
小学 5 年の僕が当選するのは最初から難しいって分かってたんです。そ
れでも、今、訴えたかったんです。福祉のこと。それを実行できたのは、
敬五君のおかげです。敬五君があそこまでやってくれたこと自体が僕た
ちの学校の生徒のみんなに伝わったと思うんです。そして、みんな敬五
君を受け入れてくれた。敬五君じゃなかったらできないことです。そう
いうことってあると思うんです。敬五君をもう一度見直してみてくださ
い。リミッターを外せば、必ず、見えてくるものがあると思います。
後日、カツオが、敬五の母の元を訪れる。
敬五の母
カツオ君、色々ありがとう。でもね、障がい児の母親の気持ち分かる?
カツオ
・・・分かりません。
敬五の母
そうね、ワカメちゃんもこれからいろんな障壁にぶつかるわ。その時、
一緒に傷ついていくの。私はもうボロボロよ。
カツオ
お母さん、ごめんなさい。僕は確かにお母さんの気持ちは分かりません
し、まだまだ障壁に対する経験が少ないと思います。それでも、僕は、
決して屈しない。障がいに対する偏見がある限り前に進みます。申し訳
ございません。僕は、興味本位で活動しているわけじゃないんです。本
気でワカメや敬五君を救いたいんです。
敬五の母
救う?
カツオ
はい、救うんです。今よりもっと良くなる。僕には確信があるんです。
お母さんのリミッターを外してください。できるはずです。
敬五の母
私のリミッター?
カツオ
はい、一歩踏み出す勇気です。
敬五の母
よく分からないわ。
後日、イカコの計らいで、敬五の父が、敬五の家に来る。
敬五の父
敬五、お父さんだよ。覚えているかい?
敬五
お父さんなの?
敬五の父
そうだよ、もう覚えてないだろうね。物心つく前に別々に暮らしちゃっ
たからね。ごめんね、敬五。
敬五
いいよ、お父さん。お母さんとお姉ちゃんが頑張ってくれたから。僕、
幸せだよ。お父さん、これから一緒に暮らせるの?
敬五の父
・・・それなんだけどね、迷ってるんだ。
敬五
リミッター外しちゃいなよ。
みんな笑う。
敬五は、父に抱きつき、よしよししてもらう。
イカコ
父さん、同居して後悔することはないと思うわ。
敬五の父
そうだな・・・。
敬五の母
また一緒に暮らしてください!
イカコ
母さん?
敬五の母
お願いします!
イカコ
・・・母さんの勇気に免じて同居してよ。
敬五の父
・・・そうだな、私が越して来よう。カツオ君やワカメちゃんと一緒の学
校の方がいいだろう。あの子たちが居てこその敬五だ。これからも鍛え
てもらわねば。うん、いい気分だよ。本当に素晴らしいことをしてくれ
た。・・・今まで済まなかった。カツオ君には不思議な魅力があるね。敬
五にも相通ずるものがある。常識にとらわれず、何とかしようという気
概かな。リミッターを外せか。良い言葉だ。私のリミッターも外したく
なってきた。今さら、どこまでできるか分からないが、敬五のためにこ
の人生捧げたい。
父、泣く。敬五の母、泣きじゃくる。
後日、敬五の家族が磯野家を訪ねてくる。
敬五の父
カツオ君の活動に敬服いたします。
波平
ワシもカツオがここまでやるとは思いませんでした。
フネ
カツオがよそ様のお役に立つだなんて。
敬五の父
カツオ君は本当に立派なお兄さんです。私は、間違っていました。これ
からは、家族団結して敬五の将来を豊かなものにするため精進します。
敬五の母
(泣きながら)ごめんなさい。本当に嬉しいんです。カツオ君やワカメ
ちゃんのおかげです。
イカコ
母さん、敬五のためにも笑ってあげて。
敬五
お母さん、リミッター外せたね。
一同、笑顔に包まれる。敬五が活き活きしてる。
その夜、磯野家の子供部屋にて。
ワカメ
お兄ちゃん、どうして立候補なんてしたの?
カツオ
ずっと訴えてきたことさ。みんなのリミッターを外すためさ。日本の福
祉はまだまだ発展途上だ。僕は未来を変えるんだ。
ワカメ
本当は敬五君をお父さんに認めさせるのが目的だったんじゃない?
カツオ
・・・ワカメに嘘は通用しないね。そうさ。生徒会長なんて器じゃないか
らね。全校生徒の前であれだけの事ができたんだから成功さ。ワカメ、
僕が間違った方向に行ってたら、教えてくれ。
ワカメ
うん、分かった。
カツオ
今は?
ワカメ
神。
カツオ
頼りになるぜ。
了
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