ダクタルを用いた I 型断面桁腹板のせん断耐荷力回復技術に関する FEM

ダクタルを用いた I 型断面桁腹板のせん断耐荷力回復技術に関する FEM 解析
株式会社 TTES
正会員
琉球大学
正会員
○勝山 真規
下里 哲弘,島袋 秀也
太平洋セメント 株式会社
1. はじめに
児玉 明彦,小野 剛士
下フランジの減肉を補修するために当該箇所を挟み
飛来塩分による鋼橋の腐食損傷は,主桁フランジ,
こむように両側から厚さ 10mm のダクタルを設置するこ
ウェブや補剛材等各部材の変形,断面欠損および破
ととした.
断等を引き起こし,橋梁の耐荷力を低下させる非常に
3. FEM モデル
危険な損傷である.腐食による損傷を放置し,落橋に
上記試験体をモデル化し FEM 解析を行った.解
繋がった事例も報告されており,補修・補強等の回復
析は材料弾塑性とした.鋼材はシェル要素でモデル
技術の確立が望まれている.
化し,ダクタルはソリッド要素でモデル化を行った.メッ
そこで,超高強度繊維補強コンクリート(以下ダクタ
シュサイズは,着目パネル部で 20mm 程度とした.鋼
ル)および接着剤を利用し,腐食劣化した鋼橋を健全
材とダクタルとの結合は接着剤をモデル化せず剛結
状態まで回復させる機能回復工法を開発した.なお,
合とした.支持・荷重条件は 2 点載荷 2 点支持とし,
着目部は,腐食損傷が多発している支点部近傍の主
支点上はピンおよびピンローラーである.2 つの載荷
桁下フランジとウェブの首溶接部近傍や水平補剛材
表 1 UFC パネルの物性値
近傍を考えている.
項目
密度
圧縮強度
曲げ強度
ひび割れ発生強度
ヤング係数
工法は,ダクタルを接着剤により鋼橋に接着合成す
るという方法である.ダクタルは,「通常のコンクリ
ートと比較し高強度」(表 1),「耐腐食性・耐塩害
性に優れている」という利点以外にも「鋼材より
物性値
2.55
210
43
10.8
54
単位
g/cm3
N/mm2
N/mm2
N/mm2
N/mm2
軽量」,「プレキャスト製品であるため形状の自由
〈側面図〉
度が高く施工しやすい」等の施工時における利点も有
単位:mm
している.これまでの研究で綱とダクタルの引張・疲
労・曲げ試験等により本工法の有効性を確認してきた
1),2)
.
本論では,工法のせん断耐荷力回復性能を確認
未溶接部
する目的で FEM 解析を行った.結果を以下に示す.
〈平面図〉
着目パネル
2. 試験体および補強方法
解析に使用した試験体は図 1 に示すように I 型断面
試験体
3)
とした.試験体中央の着目パネルには
図 1 試験体概要図
500mm の間隔で垂直補剛材を配置した.着目パネル
〈側面図〉
のウェブ厚は 4.5mm とし鋼種は SM400 である.下フラ
単位:mm
ンジとウェブを健全に溶接したものと腐食による損傷
を模擬し下フランジとウェブ間を溶接しない試験体を
準備した.補強に用いるダクタル側面を図 2 に示す.
腐食による下フランジ-ウェブ首溶接部の孔食および
キーワード
連絡先
図 2 ダクタルパネル図
腐食,ダクタル,補修,機能回復
〒152-0034 東京都目黒区緑が丘 1-23-15 (株)TTES
143
TEL:03-5731-9117
点に同値の強制変位を与えることにより着目パネルに
大荷重は 480kN 程度となり,健全時と比較して 20%増
せん断力を導入した (図 4).解析ケースは,まず鋼材
加した.
のみで作製した.「健全モデル」,および腐食による孔
5. まとめ
食を模擬し下フランジとウェブ間の要素を削除した「腐
以上より,腐食による孔食が生じていてもダクタル
食モデル」の 2 種類の解析を行った.次に上記 2 ケー
による補強を行い,鋼材との剛性効果が保持されれ
スにそれぞれダクタル補強した場合の解析を行い,合
ば,耐力の増加が期待できることがわかった.今後
計 4 ケースの解析を行った(表 2).
は,解析したモデルと同サイズの試験体により実
4. FEM 解析結果
験を行い,本工法の有効性および本解析手法の妥
当性検証を行う予定である.
FEM 解析から得られた荷重-変位曲線を図 5 に示
し,座屈後の変形モードを図 6 に示す.面外方向変位
:鋼のみ,健全
:鋼のみ,腐食あり
については,着目パネルにおいて最大値を示した節
600
鋼のみのモデルでは,健全・腐食ケースとも 400kN 程
500
度で大きな差は確認されなかったが,腐食ケースでは
400
荷重(kN)
点の正負それぞれの変位を抽出した.最大荷重は,
荷重 200kN 程度で着目パネルの垂直補剛材下端が
:鋼+ダクタル,健全
:鋼+ダクタル,腐食あり
300
降伏することが確認された.また,ウェブ面外方向変
200
位は,健全ケースでは,正方向の変位が卓越したが,
100
腐食ケースでは,正負とも同程度の変位が発生した.
0
図 6 からも変形モードが異なることが確認できる.
0
ダクタル補強を行うと,腐食のありなしに関わらず最
5
10
鉛直方向変位(mm)
:鋼のみ,健全
:鋼のみ,腐食あり
強制変位
強制変位
*直線は正方向の変位
破線は負方向の変位
荷重(kN)
500
ピン
図 4 FEM モデル
1
2
3
4
腐食
(未溶接部)
なし
あり
なし
あり
〈鋼のみ,健全〉
参 考 文 献
400
300
200
表 2 解析ケース
ケース
20
:鋼+ダクタル,健全
:鋼+ダクタル,腐食あり
600
ピンローラー
15
100
ダクタル補強
0
なし
なし
あり
あり
‐15
‐10
‐5
0
5
10
15
20
ウェブ面外方向変位(mm)
図 5 荷重-変位曲線
〈鋼のみ,腐食〉
〈鋼+ダクタル,腐食〉
図 6 座屈後の変形モード(変形倍率 3 倍)
1) 勝山ら:"鋼とダクタル接着合成時における引張試験と FEM 解析の比較検証", 土木学会西部支部沖縄会,第 1 回研究発表会,2011.9
2) 岩山ら:"鋼とダクタルコンクリートの接着合成に関する静的挙動",土木学会西部支部沖縄会,第 1 回研究発表会,2011.9
3) 松下ら:"ステンレス鋼を用いた I 型断面桁腹板のせん断耐荷力に関する実験的研究", 構造工学論文集,Vol.50A, 2004.3
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