輝度エネルギの保存を考慮した画像補間法の開発と その光学的非接触

平成 26 年度
修 士 論 文 要 旨
機械プロセス・エネルギー工学領域
6625040
原 卓土
輝度エネルギの保存を考慮した画像補間法の開発と
その光学的非接触計測への応用
近年,デジタル画像相関法(以下 DIC 法)を用い
た光学的非接触計測が盛んに利用されており,そ
の計測精度向上のため,画像補間法がしばしば用
いられている[1].しかし,bi-cubic 補間[2](以下 BC
補間)や Lanczos-3 補間[3](以下 LC3 補間)をはじめ
とする従来の画像補間法は,処理前後に各画素領
域内の輝度平均値が保存されていない.そこで,
本研究では輝度エネルギの保存を考慮した画像補
間法を新たに開発した.また,急激に輝度分布が
変化する領域は高周波成分を含み,補間画像にオ
ーバ/アンダシュートが発生する.画像補間法を
変位計測に応用する際,高周波成分の低減が必要
であると考え,適切な計測条件を実験的に調査し
た.さらに,実際に光学的非接触計測を実施し精
度評価を行った.
2 理論
画像補間法には,輝度値を面積積分し,輝度積
分空間にて補間を行った後,補間値の微分を行う
ことにより輝度値を再構成する手法を用いた.本
手法では,輝度積分値を通過するように補間処理
を行うため,補間法の種類に関わらず輝度エネル
ギの保存が可能である.画像の各画素値にはノイ
ズや量子化誤差が含まれるため,補間法には滑ら
かな曲面補間が可能な B-Spline 補間を利用した.
ここで,一般に B-Spline 曲面は補間曲面が制御点
を通過しない場合があるため,制御点を補正し収
束計算を行い,補間曲面が輝度積分値を通過する
ように調整した.なお,B-Spline の次数は 2 次ま
たは 3 次が適切であることが確認されている (図
略).これらを IBS2 補間,IBS3 補間と表記した.
特徴点追跡は,DIC 法に基づき移動前後の画像に
対しサブセットマッチングを行い,位置決定を行
った.輝度分布の相関値は正規化相互相関に基づ
いた関数から算出した.なお,画像補間法を利用
した変位計測を(補間法略記)-DIC 法と表記した.
高周波成分の低減にはガウシアンフィルタ(以下
GF)を利用し,適切な窓サイズは実験にて検討した.
布を持たせた画像を生成した(以下,正弦波画像).
さらに,同周期でかつ,位相の異なる 2 枚の正弦
波画像を生成した.これらの位相差を変位とみな
し変位計測を行うことにより,正弦波の周波数と
計測精度との関係を調査した.
次に,提案手法の計測精度を評価するために,
撮影画像の簡易モデルに対する変位計測を行った.
Mg 合金平板の画像を撮影し,これを 1/3 倍に縮小
した画像と画像内で 1 pixel 平行移動させた後 1/3
倍に縮小した画像をモデル画像とした.これらに
対して変位計測を行い,計測精度を評価した.な
お,本実験から適切なサブセットサイズは 41 pixel
であることを確認した(図略).したがって,変位計
測の全実験はこの条件にて行った.
最後に,引張試験時のひずみ計測を行った.供
試材はマグネシウム合金を使用し,試験片形状は
JIS に準拠とした.なお,画像計測を安定して行う
ため,試験片表面にはあらかじめ黒色インクを吹
き付けランダムな斑点模様を塗布した.また,精
度比較対象としてゲージ長 5 mm のひずみゲージ
を設置した.試験時の引張速度は 2 mm/min とし,
試験片平行部をデジタルカメラ(BH-53L BITRAN
製)にて 1 s 間隔で撮影を行った.露光時間は 10 ms
とし,カメラの撮影タイミングはデータ収録装置
と同期させた.なお,取得した画像は 14 bit グレ
ースケールの TIFF 画像である.
なお,いずれの実験でも,類似度補間を用いた
Sub-DIC 法および従来の画像補間法を使用した
BC-DIC 法,LC3-DIC 法を比較対象とし,IBS-DIC
法の精度評価を行った.
4 実験結果および考察
図 1 に輝度分解能 14 bit の画像における正弦波
の周波数と補間誤差との関係を示す.いずれの補
間手法も周波数の増加に伴い補間誤差が増大した.
ここで,いずれの手法も両対数グラフ上で線形的
10
Average error
1 緒言
0
10
-2
10
-4
10
-6
BC
LC3
IBS2
IBS3
QE14
3 検証実験
画像補間法の精度評価のため,補間曲面の挙動
を確認した.対象画像として,正弦波状の輝度分
10
-3
10
-2
10
-1
10
0
-1
Spacial frequency [ pixel ]
Fig. 1
Accuracy of interpolation method.
10
10
10
Sub-DIC
BC-DIC
LC3-DIC
0
10
-2
-4
-6
10
-3
10
Sub-DIC
BC-DIC
LC3-DIC
IBS2-DIC
IBS3-DIC
Standard deviation [ pixel ]
10
Average error [ pixel ]
-2
10
-1
10
0
10
-4
10
-8
10
-12
10
-16
0
10
-3
10
Average
error.
LC3-DIC
LC3-DIC
BC-DIC NF
(b)
BC-DIC GF7
NF
10
-1
10
0
Spacial frequency [ pixel ]
Spacial Sub-DIC
frequency
[ pixel Sub-DIC
]
NF
GF7
(a)
-2
IBS2-DIC
IBS3-DIC
-1
-1
GF7
Deviation.
Fig. 2IBS3-DIC
EffectIBS3-DIC
of window size of filter.
10
10
IBS2-DIC NF
IBS2-DIC GF7
NF
GF7
-1
-2
10
10
-3
10
-3
10
-2
10
-1
Average error [ pixel ]
Fig. 3
Sub-DICNF
Sub-DICGF7
BC-DIC NF
BC-DIC GF7
LC3-DIC NF
LC3-DIC GF7
IBS2-DIC NF
IBS2-DIC GF7
IBS3-DIC NF
IBS3-DIC GF7
-1
10
0
10
Measurement
accuracy.
2
Difference between
–3
measured and calculated ×10 ε
Standard deviation [ pixel ]
Standard deviation [ pixel ]
に推移するが,補間手法によってその傾きに違い
が見られた.IBS 補間は従来の補間手法に比べこ
の傾きが大きく,低周波領域における誤差が著し
く減少した.なお,量子化誤差以上の精度は出ず,
低周波領域において誤差が一定となる領域が存在
し,この領域は輝度分解能の増加に伴い減少する
ことを確認した.なお,輝度分解能に関わらず IBS
補間は他の補間法に比べ誤差が小さかった(図略).
正弦波画像に対する変位計測結果を図 2 に示す.
図 2(a)から,BC-DIC 法,LC3-DIC 法では,高周
波領域において多少の減少があるものの,全領域
にわたって大きな誤差が確認された.対して,
IBS-DIC 法では低周波領域において計測誤差が減
少した.図 2(b)から,いずれの手法でも,周波数
の増加に伴い計測値の偏差は小さくなり,補間手
法の違いによる大きな変化は見られなかった.以
上の結果から,計測誤差および偏差の小さい計測
を行うには,1/8 pixel-1 以上の高周波成分を低減す
る必要がり,前処理として窓サイズ 7 pixel の
GF(以下 GF7)の適用が適切であると考えられる.
モデル画像に対して,GF 処理を行ったものとそ
うでないもの(NF)に対して変位計測を行った.図 3
にフィルタ処理前後の計測精度の変化を示す.図 3
から,IBS-DIC 法ではフィルタ処理を行うことに
より,計測誤差および偏差の減少を確認した.こ
れに対して BC-DIC 法,LC3-DIC 法では偏差は減
少するものの計測誤差は増大した.これは,図 2
の結果にて,周波数と計測精度との関係が各補間
法によって異なったことと矛盾しない.
引張試験時に得られた画像を用いて,画像 In と
画像 In+1 の間で順次ひずみ計測を行うことにより,
ひ ず み ε[n/n+1] を 求 め た . LC3-DIC 法 お よ び
IBS2-DIC 法,IBS3-DIC 法にて得られた SS 線図
は,ひずみゲージから得られたそれとおおむね一
致した(図略).これをより詳細に評価するために,
図 4 に試験開始時からゲージ限界点までの,各計
測法に生じたひずみゲージとの誤差と応力との関
係を示す.図 4 から,ひずみゲージから得られた
SS 線図と近しい結果が得られた 3 手法は試験が進
んでもひずみゲージとの差は増大しなかった.特
に IBS-DIC 法の誤差は小さかった.表 1 から,
IBS3-DIC 法から得られたヤング率はゲージから
得られたそれと誤差が 2%程度であり,他の手法に
比べて誤差が最も小さかった.したがって,
IBS3-DIC は他の手法に比べ,微小変形の正確な計
測が可能であるといえる.次に,画像計測の累積
誤差を評価するために破断ひずみに注目した.試
験開始直前画像 I0 および破断直前画像 IF の 2 画像
間の解析を行うことにより得られた 破断ひずみ
εF[0/F]と εF[n/n+1](= ε[F-1/F])を比較した.表 1 から,い
ずれの手法を用いた場合でも εF[0/F]はほぼ一致した
ことから,εF[0/F]を真値であると考え,εF[n/n+1]の誤
Sub–DIC
BC–DIC
LC3–DIC
-2
IBS2–DIC
IBS3–DIC
10
-3
10
-3
10
0
–2
-2
10
-1
10
0
Average error [ pixel ]
0
100
200
Stress [ MPa ]
Fig. 4 Difference between
measured and calculated.
Table 1
Mechanical properties.
E [ GPa ]
( Error [ % ] )
εF[0/F]
εF[n/n+1]
Strain gauge
39.53
-
-
-
( Error [ % ] )
-
Sub-DIC
42.51
( 7.54 )
0.0424
0.0433
( 2.09 )
BC-DIC
53.56
( 35.50 )
0.0423
0.0372
( 11.95)
LC3-DIC
34.92
( 11.65 )
0.0424
0.0433
( 2.14 )
IBS2-DIC
38.49
( 2.63 )
0.0424
0.0426
( 0.38 )
IBS3-DIC
38.71
( 2.07 )
0.0424
0.0425
( 0.20 )
差を評価した.その結果,IBS3-DIC 法を用いた場
合 εF[n/n+1]と εF[0/F]との誤差が他の手法に比べて小
さく,累積誤差の小さい計測が可能であった.
5 結言
画像補間法として,輝度エネルギの保存を考慮
して輝度積分空間にて補間を行う手法が有効であ
ることを確認した.しかし,高周波成分に対して
は補間精度が低下するため,変位計測に応用する
際には,ガウシアンフィルタを用いて高周波成分
を低減させることにより,計測精度が向上した.
本手法を用いてひずみ計測を行った結果,ひずみ
ゲージとの誤差が 2%程度であり,他の手法に比べ
高精度な計測が可能であった.
(参考文献省略)