PS-9 CFD を用いた空気圧縮を考慮した水面衝撃問題

PS-9
CFD を用いた空気圧縮を考慮した水面衝撃問題
構造安全評価系
1.緒 言
*高見
自由表面
物理モデル(Water 部)
物理モデル(Air 部)
乱流モデル
メッシュ
設計において重要な課題となっている。現行の構造規則では
船体形状を2次元の楔形状に近似して設計荷重を与えている
が、衝撃角が小さくなった時に発生する空気巻込みの影響は
考慮されておらず、空気巻込みを考慮した 3 次元シミュレー
ションによる直接評価が求められている。
ード相似則が成立しないことを明らかにし、実船スケールで
CFD
0.2
P1
0.15
EXP.(Miyamoto
et al. 1986)
0.1
Pressure (MPa)
証した。さらに、空気巻込みが顕著である場合に従来のフル
Pressure (MPa)
及び船首形状物体に作用する衝撃水圧を算出し、理論解 1)及
び過去に実施された実験 2),3),4)と比較して、その予測精度を検
VOF 法
密度一定(非圧縮性)
理想気体(圧縮性)
SST K-ωモデル
トリムメッシュ
(衝撃付近は 1 辺 1mm)
約 52 万セル
陰解法非定常解析
セル数
解法
本発表では、汎用 CFD ソフト STAR-CCM+を用いて楔形状
0.05
のシミュレーションの必要性を示した。
0
-0.01
-0.005
P2
す。図-1中斜線部に示すように直方体に楔状に切り欠きを
入れた形状を解析領域とし、落下速度 V の速度一定の条件の
下で解析領域を落下させる。静水面は Z=0 の位置とし、壁面
境界条件とした楔表面での衝撃水圧を抽出した。CFD 解析条
件を表-1に示す。
0
0.005
0.1
0
-0.01
0.01
-0.005
CFD
0.2
P3
0.15
EXP.(Miyamoto
et al. 1986)
0.1
0.05
300mm
0.005
0.01
0.2
0.15
CFD
P4
EXP.(Miyamoto
et al. 1986)
0.1
0.05
0
-0.01
-0.005
0
0.005
0.01
-0.05
0
-0.01
-0.005
0
0.005
0.01
-0.05
Time (s)
Time (s)
図-2 平板(β=0deg)に作用する衝撃水圧の時刻歴の実験値との
比較(V=1.56m/s)
Z
Inlet
0
Time (s)
Pressure (MPa)
Pressure (MPa)
図-1に本研究で使用した STAR-CCM+解析モデルを示
EXP.(Miyamoto
et al. 1986)
-0.05
2.2次元楔形状物体に作用する衝撃水圧について
Wall (Wedge)
0.15
Time (s)
2.1 CFD モデル
V (const.)
CFD
0.2
0.05
-0.05
800mm
正義
表-1 2次元楔形状物体の CFD 解析条件
スラミングによる水面衝撃圧及び構造応答の推定は船首部
Z
朋希、岡
における衝撃水圧をほぼ再現しているといえる。次に、βを
β
100mm
400mm
0deg,2deg とした時の図-1中 P1 及び P3 における衝撃水圧
X
のピーク値と落下速度の 2 乗 V2 との関係を Wagner 理論 1)及
still-water level(Z=0)
Y
び Chuang の実験式 2)と比較して図-3に示す。従来、衝撃水
500mm
Symmetry
Inlet
Outlet
圧のピーク値は落下速度の 2 乗に比例するとされているが、
Symmetry
図-3(a)より、平板(β=0deg)の場合には Chuang の実験式
50mm
と比べてピーク値が高く、また落下速度の 2 乗に対して非線
形性が現れている。これは図-2に示すような持続時間の長
い空気巻込み型の衝撃圧が発生する場合、従来のフルード相
P2
P4
75mm 75mm 75mm
図-1 2次元楔形状物体の CFD 解析モデル
2.2 微小水撃角における解析結果
Deadrise angleβ が 0deg(平板)の場合の衝撃水圧を、落下
速度(V=1.56m/s)の条件下で実験を行った宮本ら 3)の実験結果
と比較を行った。図-1中の P1~P4 における衝撃水圧の時
似則が成立していないことを示している。一方、β=2deg の
場合には図-3(b)より、P1 及び P3 における衝撃水圧のピー
ク値は、多少のばらつきがあるものの落下速度の 2 乗にほぼ
1.6
Pmax [MPa]
P1
P3
P1_max
P3_max
1.2
Chuang(1970)
0.8
0.4
刻歴の比較結果を図-2に示す。図-2より,平板中央部付
近の CFD 計算結果の衝撃水圧は実験結果より若干高いピー
ク値を示すが、P4 における衝撃水圧のピーク値及び P1~P4
の第 1 波周期は実験結果と同等であり、CFD 計算は落下実験
0
0
3
6
9
V 2 [m / s]
(a) β=0deg
Pmax [MPa]
3次元形状を用いて船速・波面影響を考慮した評価を行い、
P1_max
6
P3_max
5
実現象を把握することが必要と考察される。
Chuang(1970)
Wagner
4
800mm
z
3
2
1
P-2
558mm W.L.
P-1
481mm W.L.
V(const.)
φ
800mm
0
0
3
6
V 2 [m / s]
9
x
100mm
(b) β=2deg
P-3
P-4
図-3 微小水撃角(β=0deg, 2deg)における衝撃水圧のピーク値
の落下速度依存性
115mm W.L.
38mm W.L.
Base Line
図-5 船首形状物体の CFD 解析モデル
2.5
P1
P3
0.6
0.12
1.5
P-1
φ=22.5deg
0.1
0.08
Peak pressure [MPa]
Peak pressure [MPa]
Pressure [MPa]
2
P-2
0.06
P-1
φ=45deg
0.5
0.4
P-2
0.3
0.2
0.04
0.02
0.1
1
0
0
0
5
10
15
20
2
2
0
5
10
15
2
(a) P-1 及び P-2
0.5
Time (s)
0.004
0.006
図-4 衝撃水圧の時刻歴の比較(β=2deg、楔先端着水時刻を 0sec)
0.18
P-4
φ=22.5deg
0.1
Peak pressure [MPa]
0.002
Peak pressure [MPa]
0.12
0
0.000
20
V 2 [m 2 / s 2 ]
V [m / s ]
0.08
0.06
P-3
0.04
P-3
0.12
0.09
0.06
0.02
比例しているといえる。また、楔先端付近の P1 においては
P-4
φ=45deg
0.15
0.03
0
0
0
5
10
15
20
0
5
V 2 [m 2 / s 2 ]
10
15
20
V 2 [m 2 / s 2 ]
Chuang の実験式とほぼ同等のピーク値となるが、楔中央の
(b) P-3 及び P-4
P3 においてはばらつきが高い中で Chuang の実験式より高
図-6 船首部形状の各位置における衝撃水圧のピーク値
く、Wagner 理論より低い値を示している。これは図-4に示
の落下速度依存性
す衝撃水圧の時刻歴から伺えるように、楔の中央部の P3 で
は局所的な空気圧縮が発生することにより、衝撃水圧に作用
時間の短いピークが発生していることによる。
4.まとめ
本研究では汎用 CFD ソフト STAR-CCM+を用いて空気影
響を考慮した衝撃圧を求めるためのモデル化を行い、2次元
3.船首形状物体に作用する衝撃水圧について
楔物体及び船首形状物体の水面衝撃解析を実施した。結果、
実コンテナ船の船首に発生する衝撃水圧の傾向を調査する
2次元楔形状の場合は Deadrise angle が 2deg 未満で空気巻込
ため、図-5に示すような 2 次元船首形状物体の CFD 水面衝
みのため衝撃水圧がフルード相似則の基で非線形性を示すこ
撃解析を実施した。船首形状は荒井ら 4)の行った水面落下実
とが確認された。また、今回の船首形状物体の検討では衝撃
験で用いた形状とし、落下角度φを変化させて一定速度で落
水圧の高い箇所においても衝撃水圧がフルード相似則の基に
下させ、図-5に示す P-1~P-4 の 4 点における衝撃水圧を計
従う傾向が伺われたが、上述のように空気巻込みが顕著であ
算した。CFD モデルは表-1に示した解析条件とし,衝撃付
る場合に非線形性が現れることが確認されたため、実船の3
近のメッシュサイズは 5mm(全セル数 46 万セル)とした。
次元形状及び船速・波面影響を考慮した調査が必要であるこ
図-5より、P-1 及び P-2 では水面に対する打込み角が小さ
とが示された。
く、P-3 及び P-4 では打込み角が大きくなる。φを 22.5deg、
45deg としたときの P-1~P-4 における衝撃水圧のピーク値と
落下速度 V2 の関係を図-6に示す。図-6より、φが 22.5deg
参考文献
1)Wagner,V.H.: Über Stoß und Gleitvorgänge an der Oberfläche
の場合は、衝撃水圧のピーク値は P-1 及び P-2 と P-3 及び P-4
von Flüssigkeiten,Zeitschrift für Angewandte Mathematik und
共に 0.12MPa 未満で分布しているが、φ=45deg の場合は P-1
Mechanik, Band 12, Heft 4, 1932, pp.193-215.
及び P-2 の衝撃水圧のピーク値は P-3 及び P-4 と比較して高
2)Chuang, S.L. : Investigation of Impact of Rigid and Elastic
い値で分布していることが分かる。一方、図-6より、各位
Bodies in the Water, NSRDC Rep.3248, 1970.
置における衝撃水圧のピーク値は落下速度の 2 乗に対してほ
3)宮本武、谷澤克治:船首部に作用する衝撃荷重について
ぼ線形となっていることが確認できる。船首形状においては
(第 2 報)、日本造船学会論文集、第 158 号、1985、pp.270-279.
打込み角が小さい箇所でも図-3(a)に示したような顕著な
4)荒井誠、松永康二:船首衝撃現象に関する研究、日本造
空気巻込み型衝撃は発生していないと考えられるが、実船の
船学会論文集、第 166 号、1989、pp.343-353.