外来化学療法室の環境調査による 課題の明確化と改善に向け

特集3
外来化学療法室の環境整備
安全・安心・安楽な治療環境に! 外来化学療法室の環境調査による
課題の明確化と改善に向けた取り組み
物理的環境を可能な範囲で少しでも改善していく。
課題からの学びを現場から委員会の取り組みへつなげる。
●がん患者の治療環境が少しでも良くなるように,
各科と連携して取り組む。
●
●
元・独立行政法人
地域医療機能推進機構
京都鞍馬口医療センター
外来看護師長
上山さゆみ
1999年看護教員養成コース修了,2006年佛教大学社会学部応用社会学科卒業,
2010年滋賀医科大学看護学専攻修士課程修了。2008年私学大学看護学部の助
手となるが,現任教育と看護管理に携わりたいと思い,2009年に看護科長,教育担
当者として復職する。2010年学術担当者兼務,自部署だけでなく看護部の研究活
動の支援を行う。2011年教育責任者兼務。外来看護室の中間管理者として,実践に
管理に日々奔走する。2015年3月退職。4月から公益社団法人滋賀県看護協会教
育部長心得。2012年認定看護管理者。2007年に『患者参画型看護計画』
(社会保
険京都病院看護局編,日総研出版),2010年第2版。2012年10月に導入教育強化
版が出版され,監修・執筆を務めている。
独立行政法人 地域医療機能推進機構 京都鞍馬口医療センター
外来副看護師長 田岡直子
外来治療室看護師 (化学療法委員会委員) 増田祥子
外来治療室看護師 荒木咲子
看護部長 尾
外来治療室看護師 山内佳世
外来治療室看護師 山本光子
環境調査に取り組んだ経緯
美智惠
外来治療室看護師 山本理香
が,きちんと患者に確認したことはありませ
んでした。患者の中には,治療時間が3時間
当院は,2012年にがん診療推進病院とな
以上掛かる人もいます。そこで,「外来看護
り,新たに外来で化学療法の治療を受ける患
室発信! 治療中の患者さんが快適に過ごせ
者が増加しており,年間延べ2,092人(月平
るように」という思いで,スタッフと共に化
均174人)
(2012年度実績)の患者の治療を
学療法室の環境整備に取り組もうと考えまし
担っています。外来看護室を管理する者とし
た。この結果は化学療法委員会(以下,委員
て,問題点の把握と改善に向けて取り組むこ
会)に報告し,その後の調査は委員会を通し
とが必要でした。当院では,化学療法室を開
て病院で実施してもらうようにしました。こ
設してから環境を見直すことはしておらず,
のように,外来という一部門から委員会を通
そこで勤務する看護師が気づく範囲で「良か
して全職員,患者・家族へ結果をフィード
れと思って」修正している状況でした。私
バックできることとなりました。
(上山)が外来看護師長になったころ,化学
療法室が地下1階に位置していることもあ
り,換気や空調が一番の問題と感じました
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施設概要
京都鞍馬口医療センター
化学療法室
2014年4月より運営母体が「独立行政法人地域医療機能推進機構」
に変更され,全国の社会保険病院のほか,厚生年金病院,船員保険病
院が同じ機構で運営されるようになりました。
病院理念:患者さんを中心とした安全で質の高い医療を通して社会に
貢献する。
看護部理念:
“人間愛に基づく看護の提供”を理念とし,患者様が安全
で安心できる医療が受けられるように,人との出会いを大切に,心
の通いあう,温もりのある看護を目指しています。
化学療法室の見取り図
病床数:322床 看護単位:7単位 リクライニング
看護方式:固定チームプライマリ制
チェア
看護体制:7対1 勤務体制:病棟3交代制勤務,外来2交代制勤務
●各所に無料の
【外来概要】
(2015年3月現在)
テレビあり。
診療科:29診療科 1日外来患者数:約600人
●それぞれカー
外来看護室スタッフ数:33人(看護師30人,准看護師1人,事務職1
テンで仕切ら
れている。
人,視能訓練士1人)
【化学療法室概要】
ベッド
ベッド数:8床(リクライニングチェア4床,ベッド4床)
メンバー:2〜3人 治療実績:年間延べ2,092人(月平均174人)
前室
記録,点滴セットなどの準備
利用患者:血液疾患と肝がん,大腸がんなどをはじめとする消化器系
のがん患者が多くを占める。
化学療法室の環境改善のための
取り組み
実施した環境調査の方法
2012年12月13日〜2013年2月21日に化
学療法室で治療を受けた患者51人(男性29
表 質問項目
・プライバシーの保護 ・室温
・照明 ・不快に感じた周囲の音
・不快に感じたにおい
・ベッド・リクライニングチェアの状態
・ベッド周囲の環境 ・トイレ
・入室から治療開始までの待ち時間
人,女性22人)を対象としました。質問紙
によるアンケート調査とし,質問項目は属性
も不快感を抱いていることが分かりました。
のほか,プライバシーの保護,室温,照明,
「ベッド周囲の環境」については,治療時間
音,におい,ベッドの状態,ベッド周囲,トイ
に関係なく不満内容に挙がっていました(図
レ,治療開始までの待ち時間としました(表)
。
2)。
調査は自由参加とし,不参加の場合も不利
益が生じないようにしました。データはプラ
調査結果を受けて改善した点
イバシー保護のため匿名とし,全項目の記述
前述したように,すべての項目で75%前
統計分析を行いました。
後の人が快適に過ごせているとの回答でした
環境調査の結果
が,治療時間の長い患者では多くの項目に対
環境調査の結果を図1に示します。
して不満がありました。特に「トイレ」
「ベッ
すべての項目で75%前後の人が快適に過
ド周囲の環境」に不満があることが明確とな
ごせているとの回答でしたが,治療時間の長
り,これらの内容について化学療法室のス
い人ほど「トイレ」に不満があり,「音」に
タッフと話し合いました。
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図1 環境調査の結果
【性別】
【年齢】
80代
16%
女
43%
男
57%
【滞在時間】
30代 2%
40代 5%
70代
21%
4時間∼
12%
50代
17%
3∼4時間
25%
60代
39%
∼1時間
37%
1∼2時間
16%
2∼3時間
10%
【プライバシーの保護】
寒い 2%
【室温】
暑い 3%
守られて
いない
3%
守られている
97%
あり
8%
音楽 2%
器械音
2%
【不快に感じたにおい】
下水
化粧
塗料
0%
薬 2%
あり
4%
【ベッド周囲の環境】
カーテンの
隙間がある
4%
窓がない
不満あり
4%
23%
鏡がない
2%
不満なし
ベッド間隔
77%
が狭い
2%
暗い 0%
アルコール
2%
【ベッド・リクライニングチェアの状態】
汚れ
湿り
硬い
0%
不快
6%
なし
96%
なし
92%
ごみ箱がない11%
ごみが
落ちている
0%
明るい 2%
ちょうど良い
98%
ちょうど良い
95%
【不快に感じた周囲の音】
患者の声 4%
看護師の声
医師の声
足音
カーテン
0%
【照明】
狭い 2%
髪・ごみ 2%
しわ 2%
快適
94%
【トイレ】
出入りしにくい
12%
不満あり
21%
【入室から治療開始までの待ち時間】
長く待った
4%
少し待った
16%
狭い
9%
不満なし
79%
待たない
80%
ベッド周囲の環境
トイレ
「ベッド周囲の環境」については,治療時
「トイレ」については,現在1つしか設置
間の長短にかかわらず不満の声が上がってい
されていないことと段差があることが不満の
ました。これについては,同じベッドを何人
原因でしたが,すぐには改善できないので,
もの人が使用しているため,1週間のシーツ
段差に小さな階段を付ける工夫をしました
交換の回数を増やす,ベッド上のごみやほこ
(図3)。
りの清掃を使用ごとに実施するなどの改善を
不快に感じた周囲の音
行いました。
「不快に感じた周囲の音」では,他の患者
の声以外に器械音が挙がっていました。これ
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