西日本旅客鉄道 株式会社 金沢支社 電気課 御中 スクラム工法による コンクリート柱耐震補強工曲げ破壊試験 報 告 書 平成10年3月 トーメンコンストラクション株式会社 株 式 会 社 共 栄 商 会 目 次 1.はじめに 1 2.試験概要 2 2-1 試験場所 2-2 試験日時 2-3 試験方法及び試験項目 (1) 試験方法 (2) 測定項目 2-4 供試体の作成 (1) 供試体の形状寸法 (2) 供試体の作成手順 (3) 使用材料 2-5 試験装置及び使用機械 3.試験結果 13 3-1 試験結果 (1) 破壊荷重 (2) たわみ (3) ひずみ (4) 破壊状況 3-2 考察 3-3 試験状況写真 4.維持・補修方法の提案 4-1 コン柱の維持・補修方法の考え方について 4-2 コン柱の劣化状況と維持・補修方法について 4-3 標準施工単価 38 1.はじめに 阪神大震災以来、土木建築構造物の保護・補強対策が大きな社会問題としてクロー ズアップされている。 現在、西日本旅客鉄道株式会社金沢支社管内においては、設置後長年月を経過した コンクリート電柱の保護・補強対策として、劣化・損傷を受けた電柱に対して補強材 としてカーボン繊維シートを1層及び保護防水用としてガラス繊維シートを1層、樹 脂により貼付ける方法を採用し、順次行っている。しかしながら、 ① 既設コンクリート電柱の損傷状態の具体的評価方法 ② 損傷程度に応じた補強方法とその効果との関連性及び妥当性 が不明確であることや、 ③ 非常に高価かつ導電性であるカーボン繊維シートを使用していること による経済性、安全性の確認が明確でないこと が課題として残っている。 本試験は、設置後苛酷な供用条件の中で長年月を経過したコンクリート電柱(電 車線柱)に関し、曲げ荷重による破壊試験を行い、破壊荷重やその破壊性状を測定 観察することによりその健全性を推測するとともに、ガラス繊維やアラミド繊維等 新しいタイプの補修/補強材料に関して、その適用性の検討を行うことを目的とし て行ったものである。 1 2.試験概要 2-2 試験場所 福井市宝永一丁目34 西日本旅客鉄道株式会社 敷地内 2-2 試験日時 自: 平成10年2月18日 至: 平成10年2月23日 図-1 現場位置図 2 2-3 試験方法及び試験項目 (1)試験方法 曲げ破壊試験の手順を以下に示す。 供試体設置 供試体固定 :支点、固定点及び荷重点 油圧ジャッキ設定 荷重載荷 図-2 :荷重、ひずみ、たわみ測定 コン柱曲げ破壊試験の施工手順 試験方法としては、まず、供試体コンクリート電柱を試験装置内部の所定位置に設置 した後、支点及び固定点(図中に示す供試体コンクリート電柱の下部固定位置)を鋼材 及びキリンジャッキにより強固に固定する。 次に、油圧ジャッキ(容量20t)を供試体コンクリート電柱の荷重点位置にセット する。 荷重載荷は、実際のコンクリート電柱の設置状況(地中に埋設されたキャンチレバー)を 想定するとともに各供試体の試験条件を統一するため、図中に示すように支点から5m 位置に集中荷重として載荷する状態となるように行うものとする。 試験装置に供試体コンクリート電柱を設置・固定し、油圧ジャッキにて荷重を加え、コ ンクリート電柱の破壊に至るまでの表面状況(ひびわれの発生、進展状況)および破壊 荷重)を測定する。供試体表面所定位置には歪みゲージを設置し、破壊に至るまでのコ ンクリート電柱の歪みを経時的に観測する。また、補強を行った場合は補強材表面にも歪 みゲージを設置し、表面応力も測定する。歪み測定は、データロガーを用いて経時的 に測定し、パソコン処理を行うものとする。 3 ・歪みゲージとその取り付け (1) ひずみゲージ:東京測器研究所製 30 mm、3線タイプ( FLA-30-11-3LT )を使用 (2) 取り付け位置: コンクリート柱支点より10cm表面位置(ch001) コンクリート柱支点より250cm表面位置(ch002) コンクリート柱支点より10cm繊維補強材料表面位置(ch003) コンクリート柱支点より250cm繊維補強材料表面位置(ch004) パソコン 静ひずみ測定器 (データロガー) ひずみゲージ 100 2,500 曲げスパン 5,000 図-3 ひずみ測定方法 4 (2)測定項目 測定項目及び評価項目は、下表の通りである。 表-1 測定項目及び評価項目一覧表 試験項目 1.破壊荷重 試 験 方 法 ・油圧ジャッキ背面に設置した載荷荷重測定用の ロードセル(容量10t)により、各供試体コ ンクリート電柱の破壊荷重を確認する。 ・荷重は、ロードセルに接続したデーターロガー 評価項目 ・破壊荷重 ・設計荷重に対する 破壊荷重の割合 (劣化度の推定) (静ひずみ測定機)により変換し、確認する。 2.たわみ量 (荷重点位置) ・荷重点位置に取り付けたコンベックスメジャー、 ・コンクリート電柱 及び供試体コンクリート電柱より吊り下げた赤 の強靭性 色水糸を用いて、各荷重載荷段階(100㎏毎) の変位量を測定する。 3.ひずみ ・供試体コンクリート電柱に取り付けたひずみゲ ・各荷重段階での -ジにより、各荷重載荷段階でのひずみの測定 ひずみ量と破壊 を行う。 状況の評価 ・ひずみゲージはプライマー施工後の供試体コン クリート表面に設置するとともに、補強を行う 場合は施工後の補強材表面にも設置する。 ・ひずみゲージの設置位置は、別図に示すように 支点より10cm位置(現場においては、地表面 より10cm位置)及びスパン中央(同 2.5m位 置)とする。 4.目視観察 ・目視により、各荷重段階における供試体コンク リート表面および補強材表面の異常を確認する。 ・表面異常の目視 観察 ・コンクリート表面に異常が発生した場合は、写 真撮影を行うとともに、載荷荷重を記録する。 ・コンクリート表面の異常としては、コンクリー トのひびわれや破壊、補強材のひびわれや剥離 等をしめす。 5 2-4 供試体の作成 (1)供試体の形状寸法 本試験に用いるコンクリート柱供試体の形状寸法及び補強仕様を下図に示す。 №5(Ar90) 支点 500 図-4 曲げ試験標準図 (2)供試体の作成手順 供試体作成手順を以下に示す。 準備工 ① 下地処理工 ①' 欠損部断面修復工 ② プライマ-塗布工 ③ 補強シート貼付工 ④ 表面仕上げ工 ⑤ 養生工 図-5 供試体作成フロー図 6,000 500 スパン L=5,000 アラミド90T(1層)補強 アラミド60T(1層)補強 CF(1層)+GF(1層)補強 無補強 GF(2層)補強 荷重点 1,400 無補強 №4(Ar60) 無補強 №3(CF) 無補強 №2(GF) 無補強 №1(無) 6 (3) 使用材料 本試験に用いた材料を以下に示す。 表-2 使用供試体及び材料 名 称 商品名 品質・規 格 製造元 - - 日本コンクリート工業㈱ プライマー スクラムプライマー MMA樹脂系 トーメンコンストラクション㈱ 接着剤 スクラムレジン 〃 〃 断面修復材 スクラムパテ 〃 〃 GF(ガラス繊維)シート テキストグラス 300g目付 鐘紡株式会社 CF(カーボン繊維)シート スクラムシート 300g目付 トーメンコンストラクション㈱ 60t 鐘紡株式会社 AK-60 90t 〃 AK-90 コンクリート柱 AR(アラミド繊維)シート 〃 備 考 既設撤去柱 KS2670 ①コンクリート柱 表-3 供試体コンクリート電柱一覧表 供試体 № 略号 種別 製造年 №1 無 P12-19-500 1961 無補強 №2 GF P12-19-500 1961 ガラス繊維2層巻き №3 CF P14-19-500 1957 カーボン+ガラス繊維 №4 Ar60 P12-19-500 1961 アラミド(60t)1層 №5 Ar90 P14-19-500 1957 アラミド(90t)1層 №6 参1 C-4500 1961 無補強 №7 参2 A-4500 1960 無補強 補強材 7 ②プライマー、接着剤及び断面修復材 表-4 プライマー樹脂(スクラムプライマー)物性表 項 目 試験方法 単位 規格値 樹 比 重 比重カップ法 - 1.02±0.02 脂 粘 度 B型粘度計 cps 30~90 分 20~30 備考 液 硬化時間 最大発熱量 硬 接着強度 建研式 Mpa 20 以上 コンクリート下地 化 〃 〃 Mpa 100 以上 鉄面下地 物 表-5 接着剤樹脂(スクラムレジン)物性表 項 目 試験方法 単位 規格値 樹 比 重 比重カップ法 - 1.03±0.02 脂 粘 度 B型粘度計 cps 40~100 分 20~30 液 硬化時間 最大発熱量 硬 引張強度 JISK7113 Mpa 30 以上 化 曲げ強度 JISK7203 Mpa 40 以上 備考 物 表-6 断面修復材(スクラムパテ)物性表 項 目 比 重 圧 縮 強 度 圧縮弾性係数 試験方法 単位 規格値 - - 1.8±0.1 JISK7208 Mpa 35 以上 〃 1000 以上 10 以上 〃 せん断強度 JISK5400 〃 接 着 強 度 建研式 〃 下地破壊 10 以上 硬 化 時 間 20℃,BPO3% 分 備考 コンクリート下地 鉄面下地 60 以内 8 ③補強用繊維材料 表-7 スクラムシート(カーボン繊維)の規格 項目 試験方法 単位 試験値 規格値 繊維目付け - g/㎡ 300 150以上 繊維比重 - g/㎝ 3 1.8 - 設計厚さ - ㎜ 0.167 - 引張強度 JIS-K-7073 kgf/㎝2 35,000 25,000以上 引張弾性率 JIS-K-7073 kgf/㎝2 2.24*106 2.35*106 破断時伸度 JIS-K-7073 % 1.5 - 表-8 スクラムシート(アラミド繊維)の規格 項目 試験方法 単位 規格値 AT-60 引張強度 JIS-L-1096 (㎏f) 備考 1,740 (69.6t/1m幅) 2,488 (99.5t/1m幅) ㎏f/25㎜幅 AT-90 表-9 スクラムシート(ガラス繊維)の規格 項目 試験方法 規格値 質量 - 201±6 (㌘/㎡) 厚さ - 0.24±0.04 (㎜) 幅 - 1,040±15 (㎜) 引張強度 JIS-R-3420 ㎏f/25㎜幅 備考 縦 37以上 (1.48t/1m幅) 横 35以上 (1.40t/1m幅) 9 2-5.試験装置及び使用機械 (1)試験装置 図-6に曲げ破壊試験装置を示す。 本試験装置は、コンクリート電柱の曲げ破壊試験に対するねじれやたわみに対して十分 な剛性を持つように、土木用のH型山留め鋼材(H-300)と高張力ボルトにより頑丈 に組立てを行ったものである。 (2)使用機械 本試験に使用した試験機および試験装置の一覧表を以下に示す。 表-10 名称・形式 性能・規格 曲げ試験装置 使用機械器具一覧表 台数 製造元 備 考 H型鋼材組立て 1 油圧ジャッキ 容量20t ストローク200㎜ 1 大阪ジャッキ 荷重載荷 ロードセル 容量10t 1 東京測機研究所 荷重測定 データーロガー 10チャンネル 1 東京測機研究所 荷重/ひずみ測定 トラッククレーン 20t 1 装置組立て 供試体吊込み ユニック付きトラック 2t 1 装置組立て ユニットハウス 1k×2k 1 試験室 仮設テント 2k×4k 2 JRより借用 供試体養生 10 1 21 図-6-1 コン柱曲げ破壊試験 試験装置組立図(その1) 1 2 3 1 - 1 断面図 20,000 2,000 ⑦ ④ 1,500 ③ 1,850 2 - 2 断面図 ① ⑧ ② 1,500 2,000 2,000 4,150 1 ③ 4 2 3 4 5 5 6 6 ⑤,⑥ コンクリート柱 2,000 3 - 3 断面図 ⑧ ④ ⑧ ⑦ ⑤,⑥ 1,500 ④ ④ ① ⑤,⑥ 6,000 ② ⑧ 4,000 11 図-6-2 コン柱曲げ破壊試験 試験装置組立図(その2) 20,000 4 - 4 平面図 1,850 4,150 4,000 ③ ① ⑦ ② ④ ⑥ 2,000 ⑥ ④ 5 - 5 平面図 ⑦ ⑤ ⑤ ⑦ ③ ③ 2,000 ④ ④ ⑦ 2,000 2,000 4,150 1,850 ⑦ 6 - 6 平面図 ③ ④ ⑥ ⑤ ⑥ ⑤ ③ ① 12 6,000 ⑦ ② 4,000 ③ 番号 規格 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ 30H 〃 〃 〃 〃 30D400 30JP 30CN 30KJ BN-65 30D100 30D200 数量集計表 単重 数量 6,000 4 600 4,000 4 400 1,500 9 150 2,000 9 200 1,000 4 100 400 4 60 8 17 8 45 2 100 0.4 600 30 2 40 4 合 計 長さ 重量 2,400 1,600 1,350 1,800 400 240 136 360 200 240 60 160 8,946 備考 3.試験結果 3-1 試験結果 (1)破壊荷重 表-11 破壊荷重 供試体 № 略号 破壊荷重 (tf) 設計荷重 (tf) 備考 №1 無 1.500 1.430 健全度= 105 % №2 GF 1.500 1.430 〃 = 105 % №3 CF 2.300 1.430 〃 = 161 % №4 Ar60 1.930 1.430 〃 = 135 % №5 Ar90 2.130 1.430 〃 = 149 % №6 参1 1.400 1.365 〃 = 103 % №7 参2 1.690 1.343 〃 = 125 % ここに、健 全 度:設計破壊荷重に対する既設コン柱の破壊荷重で 表中の破壊荷重を設計荷重で除した値(%) 設計荷重:日本コンクリート工業㈱資料による 破壊荷重 (tf) 設計荷重 (tf) 2.500 破壊荷重(tf) 2.000 1.500 1.000 0.500 0.000 無 GF CF Ar60 Ar90 参1 参2 補強材の種別 図-7 コン柱曲げ試験結果 13 (2)たわみと破壊状況 曲げ試験時における破壊状況、破壊位置等を下表に示す。 表-12 荷重条件(m) № 略号 コン柱種別 A B C たわみ及び破壊状況 荷重1t 最大荷重 時のたわ (kgf) み(mm) 最大 たわみ (mm) 破壊個所 1 無 P12-19-500 1.9 5.0 2.0 1,500 167 386 頭頂から 5.300mm位置の既存損傷 (ひびわれ)個所で座屈破壊 2 GF P12-19-500 〃 〃 〃 1,500 131 197 最大荷重 1,500㎏fで、支点部では 破壊せず、固定点部分破壊。 曲げ破壊荷重は測定できず。 3 CF P14-19-500 〃 〃 〃 2,300 120 480 頭頂から 6,900mmの支点位置で座屈 破壊 4 Ar60 P12-19-500 〃 〃 〃 1,930 115 393 頭頂から 6,900mmの支点位置で座屈 破壊 5 Ar90 P14-19-500 〃 〃 〃 2,130 96 346 頭頂から 6,900mmの支点位置で座屈 破壊 6 参1 C-4500 1.4 4.8 〃 1,400 240 380 固定点及び頭頂から 6,700mmの支点 位置で座屈破壊 7 参2 A-4500 1.9 5.0 〃 1,690 135 360 頭頂から 6,900mmの支点位置で座屈 破壊 支点 荷重 固定点 B C 図-8 荷重条件 位置図 A 14 図-9 荷重とたわみ関係図 2.5 2 荷 重 (tf) 1.5 1 0.5 0 0 100 200 300 400 500 たわみ №1 (無) №2(GF) №3(CF) №4(Ar60) №5(Ar90) 参2 15 (4)ひずみ 曲げ破壊試験時において、破壊にいたる過程でのコンクリート表面及び補強材表面の ひずみの測定を行った。 ひずみゲージは、下図に示すようにコン柱供試体の支点近傍(支点より10cmの位置) および曲げスパン中央(支点位置より、2.5m位置)の位置で、供試体作成時に 専用の瞬間接着剤を用いて取付けを行った。取り付け位置は、コンクリート表面とし、 補強材を施工する供試体(№2,3,4,5)においては、補強材表面にも取り付けを 行った。 ひずみの測定は、下図に示すように静ひずみ測定器を用いて行い、結果はパソコン にて集計分析を行った。各供試体は、ひずみゲージの位置が引張り側側面になるよう 試験装置に取り付けた。 パソコン 静ひずみ測定器 (データロガー) ひずみゲージ 100 2,500 曲げスパン 5,000 図-10 ひずみゲージ取付け位置図 測定結果を、表ー11 ~表-15 に示す。 16 図-11 無補強(№1 無) 1.4 1.2 重 (tf) 0.8 荷 1 0.6 0.4 0.2 0 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 ひずみ ch001 17 図-12 ひずみ変化図(№2 GF) 1.6 1.4 1.2 0.8 荷 重 (tf) 1 0.6 0.4 0.2 0 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 ひずみ ch002 ch003 ch004 18 図-13 ひずみ変化図(№3 CF) 2.5 2 荷 重 (tf) 1.5 1 0.5 0 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 ひずみ ch002 ch003 ch004 19 図-14 ひずみ変化図(№4 Ar60) 2 1.8 1.6 1.4 1 荷 重 (tf) 1.2 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 ひずみ ch001 ch002 ch003 ch004 20 図-15 ひずみ変化図(№5 Ar90) 2.5 2 荷 重 (tf) 1.5 1 0.5 0 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 ひずみ ch001 ch002 ch003 ch004 21 3-2 考察 (1)コン柱供試体の劣化・損傷状態と耐力との関係について 試験に先立ち行った各コン柱供試体の劣化・損傷状況調査結果を、それぞれ図-16 ~図-22 に示す。 表-13 供試体 № 略号 №1 無 劣化・損傷の種類 ひびわれ及び鉄筋 腐食による爆裂 №2 GF 表面洗出し №3 CF №4 Ar60 〃 №5 Ar90 №6 №7 供試体の損傷状況と健全度 表面洗出し及び ひびわれ 表面洗出し及び ひびわれ 表面洗出し及び 参1 ひびわれ 参2 表面洗出し 損傷程度 破壊荷重 (ヒビワレ延長,剥離等) (tf) 健全度 (%) ヒビワレ延長 約7.9m 及び爆裂1個所 1.500 105 - 1.500 105 ヒビワレ延長 約1.2m 1.930 135 ヒビワレ延長 約2.5m 2.300 161 - 2.130 149 ヒビワレ延長 約1.6m 1.400 103 - 1.690 125 上表に示すように、コン柱供試体にはひびわれ損傷が多く見られる。これらの ひびわれは、いずれもコンクリート打ち継ぎ部近傍に発生しておりそのほとんど がひびわれ幅2~3mm程度とかなり大きく、延長も大きいもので3mに及ぶもの が見受けられた。しかしながら№1の供試体を除き内部の鉄筋の腐食は発生して おらず、大きな耐力低下の原因にはならなかったものと思われる。 №1に見られたコンクリート表面の爆裂部分も、コンクリート打ち継ぎ部近傍 に発生しており、破壊試験においてはやはりこの爆裂位置で破壊したことから、 実際の補修工事においては、このような大きな損傷部分は何らかの補強対策が必 要と思われる。 (2)破壊荷重とコン柱の耐力について a.無補強供試体(№1,6及び7) 供試体№1、6及び7の3体については、既設コンクリート柱の現在の劣化状況を 確認するため、表面補強を行わず、現地より撤去したままの状態で曲げ試験を行った。 表-12に示すように無補強供試体№1,№6及びナンバー7の原状での曲げ耐力は、 製造時の設計破壊荷重以上(103~125%)を有している結果となった。このこと から、既設コンクリート柱は設置後約40年を経過しているにもかかわらず、現在も十 分健全であるものと考えられる。 22 図-16 №1(無)損傷展開図 (P12-19-500(1961)) 左 3,700 下 荷重点 3,500 天 3,500 右 3,000 400 600 700 1,100 400 破壊位置 2,800 2,100 5,000 ひびわれ幅 爆裂 支点 ひびわれ幅 ひびわれ幅 固定点 図-17 №2(GF)損傷展開図 (P12-19-500(1961)) 天 左 5,000 1,900 右 破壊位置 下 荷重点 コンクリート表面の洗出し以外に、 特に顕著な劣化・損傷は見受けられなかった。 支点 23 図-18 №3(CF)損傷展開図 (P14-19-500(1957)) 天 左 下 1,600 1,900 右 荷重点 300 300 900 ひびわれ幅 3,800 5,000 ひびわれ幅 破壊位置 支点 図-19 №4(Ar60)損傷展開図 (P12-19-500(1961)) 左 下 600 300 荷重点 破壊位置 3,300 1,400 400 400 ひびわれ幅 3mm 900 1,400 5,000 ひびわれ幅 3,200 天 1,900 1,900 右 ひびわれ幅 3mm 支点 24 図-20 №5(Ar90)損傷展開図 (P14-19-500(1957)) 天 左 下 1,900 右 荷重点 5,000 コンクリート表面の洗出し以外に、 特に顕著な劣化・損傷は見受けられなかった。 破壊位置 支点 図-21 №6(参1)損傷展開図 (C-4500(1961)) 天 左 下 荷重点 3,200 1,400 右 800 破壊位置 1,000 800 600 5,000 ひびわれ幅 3mm ひびわれ幅 3~5mm 支点 25 図-22 №7(参2)損傷展開図 (A-4500(1960)) 天 左 5,000 1,900 右 下 荷重点 コンクリート表面の洗出し以外に、 特に顕著な劣化・損傷は見受けられなかった。 破壊位置 支点 26 供試体の破壊状況としては、№6及び7においては曲げモーメントが最大となる支点 位置において圧縮サイドで座屈により破壊していた。このことから、コン柱内には補強 鉄筋が効果的に配置されていることや、中空断面であるため断面積が小さいことから圧 縮側のコンクリートが破壊したことが推測される。図-11に示すひずみ変化図におい て、№1供試体は載荷重が約1.2tを超えるあたりから急激にひずみが増加し、鉄筋の 伸びにより一気に破壊に進んで行ったことが推測される。 一方、№1の供試体は支点位置より 約1.5m離れた位置で破壊した。 この位置は、試験に先立ち行った供試 体コン柱の損傷状況調査において、幅 30mm長さ400mm程度の鉄筋腐食によるコ ンクリートの爆裂を生じていた部分で あり、この部分が弱点となったものと 考えられる。 №1の供試体は上記爆裂個所のほか に、製造時の目違いに起因すると思わ 写真-A №1供試体 破壊状況 れる幅1~5mm程度のひび割れが、 総延長で約8mにも及んで発生していた。№6及び7の供試体には、特に損傷は 見受けられなかった。 b.ガラス繊維補強(№2) №2の供試体は、200g目付けのガラス繊維シートを2層貼り付けたものである。 表ー12に示すように、曲げ試験結果においてもガラス繊維補強供試体の曲げ破壊 荷重は無補強供試体(№1)と全く同じであり、補強効果は見られない結果となった。 これは、ガラス繊維が他のカーボンやアラミド繊維に比べ、引張り強度及び弾性係 数ともにかなり小さいことによるもの と思われる。 試験時、供試体側面の引張り側に蛇 腹状の縞模様が発生していた。これは 大きなたわみにより生じたコン柱表面 のひずみを、MMA樹脂により接着さ れたガラス繊維が吸収ていることを示 すものと考えられる。しかしながら、 ガラス繊維表面にはひびわれや剥離等 写真-B №3供試体 試験状況 の異常は見受けられなかった。 27 ガラス繊維は補強材としてよりむしろ、表面の防水性の確保や炭酸ガスや塩害・凍結 融解に対する耐久性向上を目的とし、コン柱全体に1~2層程度貼りつけを行うことが 効果的と思われる。 この供試体に関しては、表面のセメント分の洗い出し以外に顕著な損傷は見受けられ なかった。 c.カーボン繊維補強(№3) 今回の試験において、カーボン繊維により補強を行った供試体(№3)は破壊荷重が 2.3tと最も大きく、かなりの補強効果(設計破壊荷重に対して161%の補強効果)が得 られる結果となった。カーボン繊維は鉄の約10倍の引張り強度を持つ材料で、コン柱の ような小断面のコンクリート部材に対しては、カーボン繊維を1層貼りつけた程度の補 強でもかなりの耐力向上が期待できることが判明した。 後述のアラミド繊維による補強も同様である が、カーボン繊維のような高強度の補強を行っ た場合、破壊の性状としてはかなり大きなたわ み(コン柱のしなり)を伴った後、一気に座屈 破壊することが判明した。 破壊部分の状況は、コンクリートが部分的に飛 散し鉄筋が提灯上に膨れた状況であった。この ような破壊性状から考え、円周方向に補強材を 配置するなどして曲げ座屈に対して抵抗させる 方策を行うことも、コン柱補強の方法としてか なり有効である事が想定される。 写真-C №3供試体 試験状況 d.アラミド繊維補強(№4及び5) アラミド繊維により補強を行った供試体(№4及び№5)は、破壊荷重がそれぞれ 1.93t及び2.13tであり、いずれも大きな補強効果が期待できる結果が得られた。 補強材のアラミド繊維は、表-3に示す通り、№4が60tタイプ(単位幅1m当り 引張り耐力が60t)、№5が90tタイプ(同90t)の2種であり、表-12の試験結果 からもわかるようにアラミド繊維の種別(耐力)により補強効果に差が見られた。設計 破壊荷重に対する破壊荷重の割合は、№3において135%、№4において149%であった。 今回用いたアラミド繊維は概算として、60tタイプがカーボン繊維で300gの目 付けに相当し、90tタイプが450gの目付けに相当する。図-9のたわみ関係図に おいてもその関係は現れており、60tタイプのアラミド繊維で補強した№4供試体は カーボン繊維で補強した№3供試体とほぼ同等のたわみ性状を示し、一方90tタイプ 28 (№5)のそれは、カーボン繊維の場合以上のたわみ性状を示している。 しかしながらアラミド繊維はカーボン繊維に比べ、引張り強度はそれほど遜色は無い ものの、弾性係数が約1/2~1/4とかなり小さいことから、図-9に現れるように 破壊に至る直前での補強効果という点では、やはいカーボン繊維が効果的かと思われる。 通常状態での補強効果に関しては、今回の試験結果からはアラミド繊維とカーボン繊維 の違いは見られなかった。 29 3-3 試験状況写真 (1)試験状況 写真-1 施工ヤード全景 (2)試験用コンクリート柱 写真-2 供試体コンクリート電柱 写真-4 供試体作成ヤード 写真-3 供試体吊込み 写真-5 コンクリート電柱内部の 遊離石灰析出状況 30 (3)試験装置組立 写真-6 試験装置組立状況 写真-7 試験装置組立状況 写真-8 試験装置組立状況 (4)試験器具 写真-9 静ひずみ測定器 (データロガー TDS-302) 写真-10 油圧ジャッキ) (容量 10t) 31 (5)供試体の作成 a.下地処理 写真-11 下地処理状況 写真-12 下地処理状況 b.プライマー塗布 写真-13 プライマー塗布 (スクラムプライマー) 写真-14 プライマー塗布 (スクラムプライマー) c.断面欠損部修復 写真-15 スクラムパテ 施工状況 写真-16 スクラムパテ 施工状況 32 d.ひずみゲージ貼付け 写真-17 貼付け状況 写真-18 貼付け完了 写真-19 貼付け状況 写真-20 貼付け完了 e.ガラス繊維シート貼付け 写真-21 ガラス繊維シート (スクラムシート) 写真-22 ガラス繊維シート (スクラムシート) 33 f.カーボン繊維シート貼付け 写真-23 カーボン繊維シート (スクラムシート) 写真-24 カーボン繊維シート (スクラムシート) g.アラミド繊維シート貼付け 写真-25 アラミド繊維シート (スクラムシート) 写真-26 アラミド繊維シート (スクラムシート) 34 (6)曲げ破壊試験 a.試験準備 写真-27 供試体吊り込み (20tクレーン) 写真-28 供試体吊り込み (20tクレーン) 写真-29 荷重点油圧ジャッキ設置 写真-30 支点(キリンジャッキ) 写真-31 固定点(キリンジャッキ) 35 b.曲げ破壊試験 ① 無補強(無:P12-19-500) 写真-33 破壊状況 写真-32 無補強供試体 ② ガラス繊維シート補強(GF:P12-19-500) 写真-35 破壊状況 写真-34 ガラス繊維補強供試体 36 ③ カーボン繊維シート補強(CF:P12-19-500) 写真-37 破壊状況 写真-36 カーボン繊維補強供試体 ④ アラミド繊維シート補強(Ar-60:P12-19-500) 写真-38 アラミド(60t)繊維補強供試体 写真-39 試験状況 ⑤ アラミド繊維シート補強(Ar-90:P12-19-500) 写真-40 アラミド(90t)繊維補強供試体 破壊初期状況 写真-41 破壊後期状況 37 4.維持・補修方法の提案 本試験は、現在供用中のコンクリート電柱(電車線柱)の劣化・損傷度を把握する ことを目的に、現場採取のコンクリート柱の曲げ破壊耐力の確認を行った。 今回行った試験の結果からは、設置後約40年を経過したコンクリート柱において も、表面のセメントモルタル分の流出による骨材の露出(洗い出し)はあるものの、 所定の設計破壊荷重に対して同等若しくは5割増し以上の耐力を残していることが判明 した。 しかしながら、製造時の型枠の目違いが原因と思われるコンクリート柱延長方向の ひびわれ(ほとんどの場合が幅2~4mm程度の、かなり大き目のひびわれ)や、この ひびわれから浸透した雨水により内部の鉄筋が腐食し膨張した結果と思われる表面の 被りコンクリートの爆裂(幅40mm~60mm、深さ20~30mm程度)等の劣化・損 傷が、今回試験を行った6本のコンクリート柱のうち、4本に存在していた。特に №1供試体(P12-19-500 1961年製造)は、損傷がもっとも顕著であり、上記爆裂個所 とともに幅2~5mm程度のひびわれが総延長で8mも発生していた。 また同時に、コンクリート柱内部の中空空洞には、頭頂部やひびわれから浸透した雨水 が滞留したことによると思われる、遊離石灰が析出していた。 以上の事柄より、今回の試験結果をまとめると以下の通り結論付けられるものと思わ れる。 ① 供用後40年程度経過した現時点においても、コンクリート柱は当初の設計 荷重と同等若しくはそれ以上の耐荷力を持ち、かなりの耐久性を残している ものと思われる。 ② 型枠の目違いに起因すると思われる延長方向のひびわれが顕著で、鉄筋の腐 食による被りコンクリートの爆裂もみうけられた。このことから、積雪寒冷 地であり、また煙害も懸念される地域であることから、早期の劣化・損傷へ の進行も懸念される。 ③ いずれの供試体もコンクリートの曲げ圧縮応力により座屈破壊を起こしてい ることから、補強材をコンクリート柱延長方向に補強材を配置する従来の方 法よりも、最大応力の発生するコンクリート柱根元部分(1m程度)に円周 方向に補強材を配置し座屈荷重に抵抗させることが有効と思われる。 ④ コンクリート柱内部の遊離石灰の状況から考え、コンクリート柱表面や頭頂 部に防水処理を施すことが重要と思われる。 以下に、コンクリート柱の損傷程度に応じた補強方法及び使用材料の提案を行うものとする。 38 ものとする。 以下にコンクリート柱の損傷程度に応じ、補強方法及び使用材料の検討を行うものと する。なおここに、 ①損傷度 小:コンクリート表面のモルタル分の洗い出しや極微細なひびわれが少量 発生している程度の、損傷としてはもっとも軽度のもの。 ②損傷度 中:幅3㎜程度以下のひびわれが部分的に発生し、緊急性はないものの放 置により今後損傷の進行が懸念されるような、損傷程度としては中程 度のもの。 ひびわれの延長としては、2~3m程度のもの。 ③損傷度 大:幅3mmを超えるようなひびわれが、ほぼコンクリート柱全長に亘って 発生し、また部分的に鉄筋の膨張による深さ数㎝の被りコンクリート の爆裂が発生しているような、緊急に補強対策が必要と思われるよう なもの。 39 ①損傷程度 小 コンクリート柱根元部分1mをアラミド繊維シート(40tタイプ)で円周方向に補 強したのち、コンクリート全長にわたって防水及び塩害/凍結・融解防止を目的として、 ガラス繊維シート(200g目付け)1層を施工する。 あわせて、頭頂部の防水処理のため、樹脂製頭頂部カバー「ポールネーチャー」を取り 付けるとともに、柱下端位置(線路直角方向外側)に水抜き穴(φ13mm)を穿孔する。 水抜き穴周囲は、アラミド繊維シートにて補強を行う。 200 コン柱防水キャッ プ ( コ ン 柱 全 高 ) ト 1 層 ー 1,000 ー ( ト 1 層 ) 水抜き穴 (Φ13mm) ア ラ ミ ド シ ガ ラ ス シ 40 ②損傷程度 中 ひびわれ及び断面欠損部をパテ材(MMA樹脂系)で処理を行った後、コンクリート 柱根元部分1m及びひびわれ個所(ひびわれ端部より、上下各50cmの安全を持った長 さ)をアラミド繊維シート(40tタイプ)で円周方向に補強したのち、コンクリート 全長にわたって防水及び塩害/凍結・融解防止を目的として、ガラス繊維シート(200g 目付け)1層を施工する。 あわせて、頭頂部の防水処理のため、樹脂製頭頂部カバー「ポールネーチャー」を取り 付けるとともに、柱下端位置(線路直角方向外側)に水抜き穴(φ13mm)を穿孔する。 水抜き穴周囲は、アラミド繊維シートにて補強を行う。 200 コン柱防水キャッ プ 500 ( ア ラ ミ ド シ ー ク ラ ッ ク 長 さ ( ) ト 1 層 コ ン 柱 全 高 500 ガ ラ ス シ ー 欠損部復 旧 1,000 ) ト 1 層 水抜き穴 (Φ13mm) 41 ③損傷程度 大 ひびわれ及び断面欠損部をパテ材(MMA樹脂系)で処理を行った後、コンクリート 柱根元部分からびひびわれ個所(ひびわれ上部より50cm安全を持った長さ)までをア ラミド繊維シート(40tタイプ)で円周方向に補強したのち、コンクリート全長にわ たって防水及び塩害/凍結・融解防止を目的として、ガラス繊維シート(200g目付け) 1層を施工する。 あわせて、頭頂部の防水処理のため、樹脂製頭頂部カバー「ポールネーチャー」を取り 付けるとともに、柱下端位置(線路直角方向外側)に水抜き穴(φ13mm)を穿孔する。 500 コン柱防水キャップ 200 水抜き穴周囲は、アラミド繊維シートにて補強を行う。 ( ー ア ラ ミ ド シ ガ ラ ス シ ー ) 欠損部復 旧 ト 1 層 コ ン 柱 全 高 ( ク ラ ッ ク 長 さ ) ト 1 層 水抜き穴 (Φ13mm) 42
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